玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第9章 帝国の魔女

第9章第025話 王子の決断

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第9章第025話 王子の決断

Side:ツキシマ・レイコ

 『つまり。私は再び、女神様と会えるのです。…そう思ってもいいでしょう?』

 スキャンされたデータは、当人と同じように思考が出来る存在です。ただ。"元"の方とは別の存在です。死を回避できるわけではありません。

 『そんな顔をなされなくても、わかっていますよ巫女様。私自身はその時には死んでいることを。…それでも。それでも何か残ると思いたいじゃないですか』

 それでも。魂か、想いか。何かしら残ると信じているのでしょう。
 これの表情は…離別の悲哀では無く、憧憬だったんですね。

 ロトリー国のレイコはどれだけの知識をパンダ王に話していたのかという疑問と共に。パンタ・ロトリー・エイティーンス、それらを吸収する知能の高さ。ここまでの知性は、ネイルコードでもそうそういないのではないでしょうか?
 八百年前に、初めて会ったのがこのパンダ王だったら。…この惑星はとっくにラクーンの惑星になっていたかもしれません。

 一時間半ほどでしょうか。星間プラズマが減ったのか、単に遠くなったのか。マナ・シップの光は、元々明るい星が多いこの夜空に紛れて分からなくなってしまい。パンダ王は、見送りの宴の終了を宣言しました。

 『小竜神様。御寝所の方へご案内いたします』

 「クーっ」

 私達に手を振ったあと、案内のラクーンに着いて行くロトリー国のレッドさん。
 あの日まで黒い女神の家にいましたけど。こちらのレイコがいなくなった後は、王宮の方に移っています。夜は、子供達にせがまれて、一緒にベッドに入っていることが多いそうです。
 まぁ、ロトリー国でも寂しいことは無いでしょう。



 さて、次の日。
 南の大陸からサンプルとして運ばれてきていて、今まで城の一角に埋められていたボーキサイトの移送作業です。
 南の大陸から持って来は良いのですが。酸でアルミナを分離をするのも、化学が未発達な状態では難儀な上。精錬できるのが電気を発生させられる女神しかおらず。風化に強いとは言え、粉末は塵肺の原因となるため、未使用分は土がかぶせられた状態で放置されていました。草ボウボウでした。
 作業する皆には、マスクで防塵はしっかりして貰いますよ。医療面で使われていたのでしょうか、ラクーンの口に合うようなマスクがすでにありました。
 樽に入れて蓋をして… 鉱物を小分けにして大量に運ぶとなると、樽がベストなのです。ちょっと傾ければ転がせますし。このへんが一人で扱える限界の重さってことですね。それが四十個ほどになりました。十トンも無いですが。精錬の実験には十分でしょう。
 パンダ王は、早速これが取れた鉱山…露出していたところを削った程度でしたが、そこの再調査を命じてました。採掘、輸送、港での荷積み。または現地にアルミ精錬工場を作るか。この辺は精錬技術の開発を待って、国同士で話し合って貰いましょう。

 樹液の状態のゴムのサンプルももえらました。ちょうど王子の一行が南の大陸から持って帰ってきていたものを分けてくれるそうです。こちらは三樽程度ですが。
 絶縁体やらタイヤやら衝撃吸収やら、用途は多いので、研究対象ですね。こちらについても、ゴムの木の農場を検討してくれるそうです。合成ゴムができるかは、石油の発見にかかっていますね。

 トウモロコシとかサツマイモとか、こちらで見かけた作物の種やら苗木に種芋も手配します。サルハラの農業試験場に渡して、ネイルコードでも栽培できるかを調べて貰いましょう。いくらかは、カヤンさんあたりに渡して、新メニュー開発して欲しいですね。
 逆に。船に乗せてきた鶏のうち、半分をロトリーに渡します。鶏肉もいいですが、まずは鶏卵を得る為に増やして欲しいところです。食生活が広がりますよ。



 主立った議題は終わっている国交会議ですが。

 「我か息子をネイルコーとへ連れて行って貰えませんか?」

 パンダ王がまたとんでもないことを言い出しました。

 「キュルックル…アライ殿をロトリー国の大使としてネイルコードに派遣するには、位か低いのてす。かと言って、大使になれるような爵位の文官は… 恥すかしなから皆が海を渡ることを躊躇しておりまして」

 ネールソビン島から一緒に来てくれているカララクルさんも、有能な方だと思っていましたが。位は騎士爵で、もともと軍属だそうです。
 ネイルコードでは、大使は伯爵格となります。国元で子爵くらいの爵位なら、他国に派遣するときに伯爵格として送ることはいけるのですが。アライさんは一応、血統としては王家につながりはしますが、身分上は平民です。

 「…黒い女神様は旅立たれました。それと同等の存在か人の国ネイルコーとにおられる。ならは、我々としても派遣する者が低位では示しがつきません。それだけ今回の国交樹立について真剣…深刻に考えているのてす。いっそ私か行きたいくらいなのてすか」

 「いや、誰を連れて帰るかの決定権はわたしにはないのですが。そもそも私も大使扱いですし。…ネタリア外相?」

 はい。私は地球大使であって、ネイルコードに役職があるわけではありません。ということで、ここにいるネイルコードの最高位者であるネタリア外相に振ります。

 「王族の方をいきなり派遣ですか… 陛下も思いきった決断をされますな。 …ネイト殿下、本当によろしいのですかな?」

 「これても、南の大陸をかなり回ってきましたからな。旅と荒事には慣れております。それに"人"の国の実力と実情を正確に把握しておかないと、侮るロトリーとはとこからても湧くものてす」

 「私の関わる王子は、みな突拍子も無い」とぼやくネタリア外相。

 「それは。殿下自らネイルコードを探りたいと?」

 オレク司令が直球を投げます。

 「ははは。あなた達も、我かロトリー国を存分に見聞されたてしょう? とのみちすてに、互いに互いを無知てはいられないのてす。皆て毛を剃りましょう」

 皆で毛を剃る。ロトリーの言葉で、隠し事をしないで話す。"腹を割る"って意味ですね。

 「パンタ陛下…なにか焦っていませんか?」

 性急な展開に、パンダ王に質問してみます。

 「焦るてすか… 確かにそうかもしれません。東の大陸の"人"に我々の国が知られてしまった。火筒という武器を持っていることも。有用な資源かあることも。…もし、女神様や巫女様かいなかったら…とうなっていたと思いますか?」

 「…まぁ、侵略目的にこの大陸に攻めてきたでしょうね。」

 もともと帝国があった場所であり、"人"にとっても発祥地です。取り戻そうとする動きはむしろ自然でしょう。

 「はい。オラサクに来た蒸気船についても、報告を聞いています。今まては海か壁となっていましたか。それはもう無くなったといってよいてしょう」

 …大型船はそのまま戦略兵器でもありますからね。それらについてもロトリー側は正確に驚異と感じてくれてもいます。
 いろいろ利を見せて、ロトリー側の利も確保しながら、それらを平和維持の材料として利用させ続ける必要が出来たわけです。
 …まぁ実際に侵略なんて起こさせませんが。この危機感は有用です。

 「そしていま、その押さえとなっているのは巫女様たけて。その方かホームとしているのかネイルコーとなのてす。詳しく知りたい、なかよくしておきたい。為政者としてあたりまえの考えてす」

 「速度優先で最初から王太子を派遣…ですか。いいのですか? 海の旅は絶対安全とは言えませんよ」

 「南の大陸の巡察に比へれば、遙かに安全てすよ。それに弟妹達や親族もいます。今この状態で権力争いをしようとする馬鹿はいないはすてす。もし私に何かがあったとしても協力して当たってくれるでしょう」

 うーん。船の難破だけではなく。"人"の大陸で死ぬ…殺されるかもしれないことまで覚悟しているようです。

 「こんなこと、簡単に決めるわけには…と言っても。ネイルコード本国に確認取ったとしても、戻ってくられるのは早くて半年後… たしかにタイムラグを考えたら、ここでそこそこの裁量権を持つ人間…ロトリー人ですが、直接出向いていただいた方が早いと言えば早いのですが…」

 「今、その決定権を持っているのは、ネタリア外相でしょ?…って、そんな顔でこちらを見ないでください、私に決定権なんて無いですよ。私がここにいるのは、あくまでネイルコード海軍の厚意なんですから」

 ねぇ、という感じで、オレク司令を見ると、苦笑しながら頷いてくれます。

 「…最初は面白い冒険が出来るのかと思っていたんですけどね。なんかこの世界の歴史の分岐点を任されている気分です。…分かりました、ネイルコード国外相として、ロトリー国の親善使節を受け入れます。ネイルコード国国王クライスファー・バルト・ネイルコード陛下の名前をお借りして、使節を国賓として迎え、滞在中および往復の航路での安全を最大級計ることをお約束いたします …これで何かあったら、私の首が飛びますよ、レイコ殿」

 すっと立ち上がって宣誓したネタリア外相に対して、親指を立てておきます。私に権力とかないですけど。私も最善を尽くします。
 そもそも、外相自らの渡海なのですから。けっこうな権限は委任されているんでしょ? ラクーンの国との国交くらい想定していそうです。

 「ネイルコード国使外相ネタリア殿。使節の受け入れ感謝いたします。ロトリーとネイルコーとに末永い平和をいのります」

 パンダ王の礼に、残りのネイルコード側も慌てて起立し、礼を返します。


 「あの…その辺、セイホウ王国も噛ませていただけますよね?」

 展開について行けなかったカラサーム大使でした。

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