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第9章 帝国の魔女
第9章第023話 夜空を滑るように
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第9章第023話 夜空を滑るように
Side:ツキシマ・レイコ
ロトリー国のレイコの旅立ちを邪魔する雲を蹴散らして。衛兵さんの先導で皆のところに戻ります。
私の背と同じくらい…ラクーンにしては大柄な兵士さん達ですが。なんか視線に熱を感じますね。
「レイコ! すごいすごい! 雲を払えるなんて!」
マーリアちゃんが駆け寄ってきます。パンダ王には知らせておいたのですが。切り裂かれた夕焼けを見て、皆が驚いています。子供のロトリー達もぴょんぴょん跳ねていますね。
『街で騒ぎになりそうなので。念のために兵に知らせを出させました』
ああ…パンダ王陛下、手間をかけさせてごめんなさいね。ただ、時間はもう無いですよ。
今日、黒い女神が旅立つことは、知らせられる範囲の街にも伝えられています。晴天の地域で手空きのロトリー国民は、皆が空を見ていることでしょう。まぁ雲の件は、なんか凄いことが起きているで収まりそうではありますが。
マナ・シップ出発まであと三十秒。ロトリー国のレッドさんがカウントダウンを始めました。私にしか聞こえませんが。
「こちらのレッドさん曰く、カウントゼロから地平線の上に見えるまで、三分ほどかかるそうです」
太陽リングから飛び出したマナ・シップが、地平線から登り始めるまで三分ってことですね。光速の二十パーセントなら、三分で…一千万キロメートルちょっとくらいですか。
「二十八、二十七、二十六…レッドさんが時間を教えてくれています」
私も、レッドさんのカウントを読み上げます。それに皆がそれに合わせてきます。
「二十四、二十三、二十二…」
マーリアちゃんもカウントに参加します。
「「五、四、三、ニ、一、ゼロ」」
今。マナ・シップは、太陽リングから射出されたはずです。ここからじゃ、まだなにも分かりませんが。
太陽からここまでの光の届く時間は計算に入っている?とレッドさんに聞いたところ。"見えている時間"だそうです。ということは八分くらい前にもう出発していますね。ここから察知する手段は無いわけですが。
『五、六、七、八…』
逆カウントが始まりました。パンダ王も、カウントをつぶやいています。
V字形に切れていた雲も、大分形が崩れてきましたが。ロトリー国のレッドさん曰く、まだ見えるはずの場所の視界は確保されているそうです。
『九十八、九十九、百っ!』
子供達も楽しそうに声を揃えます。大勢で揃ってカウントしているのが楽しいらしいですね。
計算ではあと一分ちょい。
「百七十五、百七十六…そろそろ…あっ!」
「あれだっ!」「おおおっ!!」『ひゃーっ!!』『見えたよっ!あれだよねっ?』
皆が気がつきました。
お城から西の果てに見えるは、地平線の森らしきシルエット。その上の太陽1つ分くらいの高さでしょうか…。
見た目は、地球の一番星がぴったりでしょうか。逆光にもかかわらず見える白い光が、茜色の空を登ってきました。
『『ひゃーひゃーっ!!』』
続けて城のあちこちから同じような声が聞こえてきます。おそらく街でも騒ぎになっているのでしょう。
雲の谷間を登るように移動する光点。
私が思い出したのは、子供の頃にお父さんとみたISS、国際宇宙ステーションです。もうすぐ大気圏突入するため、日没後に楽に見られる最後の日本上空通過だと、ニュースにもなっていました。あれがちょうど金星と同じくらいの明るさだったと思います。
ただ。今は地平線近くですので動いているのは分かりますが、移動速度はあれより大分遅く見えますね。
光速の二十パーセントの速度。毎秒六万キロの速度です。多分、星間物質…太陽風のプラズマがマナ・シップの前面で圧縮されて発光しているのでしょう。
船がどのくらいの大きさなのかは聞きませんでしたが。おそらくまだ一億キロメートルは離れているはず。それでもその光が地上から見えるのですから、光速の五分の一とはいえ侮れませんし、船自体も大きいのではないでしょうか。
通過する空間の太陽風密度にムラがあるのか、たまに明るさの増減を繰り返し、光が登っていきます。
よくよく見ると、彗星のような尾?… ああこれは、ショックコーンですか。発光した星間物質が、光を先頭に三角錐を引いているように見えます。彗星とはまた違った趣きの尾です。
このルートだと…神の御座と月の間位を通過しますかね。
もう十分ほど、皆で空を見上げています。
そろそろ神の御座に最接近か…というころ。…色が変わりましたね? 白い光だったのが赤っぽく。
気のせいでは無かったようで。広がるそれが、コーンに楕円形の輪を残していきます。
「ああっ!!」「これは美しい…」『ひゃー…』
おおっと、今度はオレンジ これが輪として見える頃。ああ、次の輪は黄色。
一分ごとに違う色が放出されます。虹色の尾を残す光点。
「レイコ…綺麗ね」
「うん…すごいね…」『陛下。絶対、私達に見せる為にやってますよ、あれ』
『はい…はい… 女神様…』
多分、リチウム、ナトリウムあたりから始まって。銅、カルシウム、カリウム… いろんな金属を先端で蒸発させて飛ばしていると思います。それが光りながらショックコーンに載って輪として広がっていきます。
わざわざいろんな金属を積んでいったんですかね? さすがレイコ、粋な計らいです。
夜の帳が架かりつつある空に。この世界にはまだ無い花火のように。
『…赤く染まる空。紫に染み入る山。穏やかな風に明日の幸せを祈る。』
いつのまにか、手を合わせたラクーン達が上を見上げてます。最初に歌い出したのはパンダ王でした。
『あなたへの感謝、私達の願いとともに。どうか輝かしい明日を』
妃殿下、王太子、子供達、侍従や衛兵達と、歌が広がっていきます。
『丘の向こうへの期待。芽吹きを待っている種。例え厳しい日々だとしても、希望を示す光を我らに』
城の他の所からも歌声が聞こえてきます。
国家というよりは童謡でしょうか。苦難を越えて渡ってきた人々の歌のように思えます。
『また会いましょう。また会いましょう。明日も笑顔で過ごせますよう』
マナ・シップの光は、数十分は見えていると思います。パンダ王はしばらくそれを眺めてました。
『また会いましょう。また会いましょう。進む先に幸せが待ち構えている事を祈って』
Side:ツキシマ・レイコ
ロトリー国のレイコの旅立ちを邪魔する雲を蹴散らして。衛兵さんの先導で皆のところに戻ります。
私の背と同じくらい…ラクーンにしては大柄な兵士さん達ですが。なんか視線に熱を感じますね。
「レイコ! すごいすごい! 雲を払えるなんて!」
マーリアちゃんが駆け寄ってきます。パンダ王には知らせておいたのですが。切り裂かれた夕焼けを見て、皆が驚いています。子供のロトリー達もぴょんぴょん跳ねていますね。
『街で騒ぎになりそうなので。念のために兵に知らせを出させました』
ああ…パンダ王陛下、手間をかけさせてごめんなさいね。ただ、時間はもう無いですよ。
今日、黒い女神が旅立つことは、知らせられる範囲の街にも伝えられています。晴天の地域で手空きのロトリー国民は、皆が空を見ていることでしょう。まぁ雲の件は、なんか凄いことが起きているで収まりそうではありますが。
マナ・シップ出発まであと三十秒。ロトリー国のレッドさんがカウントダウンを始めました。私にしか聞こえませんが。
「こちらのレッドさん曰く、カウントゼロから地平線の上に見えるまで、三分ほどかかるそうです」
太陽リングから飛び出したマナ・シップが、地平線から登り始めるまで三分ってことですね。光速の二十パーセントなら、三分で…一千万キロメートルちょっとくらいですか。
「二十八、二十七、二十六…レッドさんが時間を教えてくれています」
私も、レッドさんのカウントを読み上げます。それに皆がそれに合わせてきます。
「二十四、二十三、二十二…」
マーリアちゃんもカウントに参加します。
「「五、四、三、ニ、一、ゼロ」」
今。マナ・シップは、太陽リングから射出されたはずです。ここからじゃ、まだなにも分かりませんが。
太陽からここまでの光の届く時間は計算に入っている?とレッドさんに聞いたところ。"見えている時間"だそうです。ということは八分くらい前にもう出発していますね。ここから察知する手段は無いわけですが。
『五、六、七、八…』
逆カウントが始まりました。パンダ王も、カウントをつぶやいています。
V字形に切れていた雲も、大分形が崩れてきましたが。ロトリー国のレッドさん曰く、まだ見えるはずの場所の視界は確保されているそうです。
『九十八、九十九、百っ!』
子供達も楽しそうに声を揃えます。大勢で揃ってカウントしているのが楽しいらしいですね。
計算ではあと一分ちょい。
「百七十五、百七十六…そろそろ…あっ!」
「あれだっ!」「おおおっ!!」『ひゃーっ!!』『見えたよっ!あれだよねっ?』
皆が気がつきました。
お城から西の果てに見えるは、地平線の森らしきシルエット。その上の太陽1つ分くらいの高さでしょうか…。
見た目は、地球の一番星がぴったりでしょうか。逆光にもかかわらず見える白い光が、茜色の空を登ってきました。
『『ひゃーひゃーっ!!』』
続けて城のあちこちから同じような声が聞こえてきます。おそらく街でも騒ぎになっているのでしょう。
雲の谷間を登るように移動する光点。
私が思い出したのは、子供の頃にお父さんとみたISS、国際宇宙ステーションです。もうすぐ大気圏突入するため、日没後に楽に見られる最後の日本上空通過だと、ニュースにもなっていました。あれがちょうど金星と同じくらいの明るさだったと思います。
ただ。今は地平線近くですので動いているのは分かりますが、移動速度はあれより大分遅く見えますね。
光速の二十パーセントの速度。毎秒六万キロの速度です。多分、星間物質…太陽風のプラズマがマナ・シップの前面で圧縮されて発光しているのでしょう。
船がどのくらいの大きさなのかは聞きませんでしたが。おそらくまだ一億キロメートルは離れているはず。それでもその光が地上から見えるのですから、光速の五分の一とはいえ侮れませんし、船自体も大きいのではないでしょうか。
通過する空間の太陽風密度にムラがあるのか、たまに明るさの増減を繰り返し、光が登っていきます。
よくよく見ると、彗星のような尾?… ああこれは、ショックコーンですか。発光した星間物質が、光を先頭に三角錐を引いているように見えます。彗星とはまた違った趣きの尾です。
このルートだと…神の御座と月の間位を通過しますかね。
もう十分ほど、皆で空を見上げています。
そろそろ神の御座に最接近か…というころ。…色が変わりましたね? 白い光だったのが赤っぽく。
気のせいでは無かったようで。広がるそれが、コーンに楕円形の輪を残していきます。
「ああっ!!」「これは美しい…」『ひゃー…』
おおっと、今度はオレンジ これが輪として見える頃。ああ、次の輪は黄色。
一分ごとに違う色が放出されます。虹色の尾を残す光点。
「レイコ…綺麗ね」
「うん…すごいね…」『陛下。絶対、私達に見せる為にやってますよ、あれ』
『はい…はい… 女神様…』
多分、リチウム、ナトリウムあたりから始まって。銅、カルシウム、カリウム… いろんな金属を先端で蒸発させて飛ばしていると思います。それが光りながらショックコーンに載って輪として広がっていきます。
わざわざいろんな金属を積んでいったんですかね? さすがレイコ、粋な計らいです。
夜の帳が架かりつつある空に。この世界にはまだ無い花火のように。
『…赤く染まる空。紫に染み入る山。穏やかな風に明日の幸せを祈る。』
いつのまにか、手を合わせたラクーン達が上を見上げてます。最初に歌い出したのはパンダ王でした。
『あなたへの感謝、私達の願いとともに。どうか輝かしい明日を』
妃殿下、王太子、子供達、侍従や衛兵達と、歌が広がっていきます。
『丘の向こうへの期待。芽吹きを待っている種。例え厳しい日々だとしても、希望を示す光を我らに』
城の他の所からも歌声が聞こえてきます。
国家というよりは童謡でしょうか。苦難を越えて渡ってきた人々の歌のように思えます。
『また会いましょう。また会いましょう。明日も笑顔で過ごせますよう』
マナ・シップの光は、数十分は見えていると思います。パンダ王はしばらくそれを眺めてました。
『また会いましょう。また会いましょう。進む先に幸せが待ち構えている事を祈って』
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