玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第9章 帝国の魔女

第9章第022話 雲を晴らす

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第9章第022話 雲を晴らす

Side:ツキシマ・レイコ

 赤井さんの告知していた日となりました。
 ロトリーの学者さんが、朝から太陽を観察しています。と言っても、直接見るのではなく、簡単なレンズを使って白い板に投影するって方法です。地球でもこうやって黒点観測をやっていましたね。

 薄暗くした建物の中で、この板だけを観測できるようになっています。建物の屋根自体が太陽に合わせて回るような工夫もありますね。
 太陽天文台といっていいこの建物。この装置はネイルコードでは見なかった物です。なんとロトリー国の学者さん、天文学者ではなく暦と天気の学者さんだそうですが、自分たちでアイデアを出したそうです。

 私も、像を見せてもらいましたが。ここの太陽はけっこう黒点が多いですね。彼らは、その黒点を観測して記録を付けているそうです。

 昔の記録も見せてもらいましたが。普段から地球の太陽よりかなり黒点が多い…っと、なんか凄い大きさの黒点の記録もありますね。むしろ今が大人しいくらいです。活動周期は二十年くらいですか。

 「太陽って、もっとつるっとしていると思っていたわ」

 一緒に見ていたマーリアちゃんの感想です。私も、黒点を初めて見たときは驚いたもんですが。
 この黒点観測の記録は、ここの太陽の活動の履歴として、未来の天文科学者が喜びそうです。

 あと、太陽の像の真ん中に引かれた黒い一直線。赤井さん…赤竜神が作ったマナ生産施設、太陽リングです。
 単なる線にしか見えませんが。地上からこうして観測できるのですから、幅は相当な物のはず。直径も数千キロメートルはあるでしょう、超巨大構造物です。
 恒星のエネルギーを使ってマナを製造し、何らかの方法でこの惑星に運んで。環境や生物の調節を行います。また、そのリングで磁場を発生させて、巨大フレアがこの惑星に過度の影響を与えないように反らす役目もあるそうです。ロトリー国のレイコが言ってました。

 そして、このリングのもう一つの機能が、他の恒星系への播種です。
 今。ロトリー国のレイコの乗るマナ・シップが、このリングで建造され、周回しつつ加速しているはずで。もうすぐこのリングから光速の二十パーセントという速度で星間旅行に旅立つのです。
 船には生き物が乗っているわけではなく、遺伝データだけが満載されているのでしょう。
 目的地に到着してからの減速方法については聞いていませんが。たぶん、恒星の外層部に突入し減速。一度に減速するのではなく、まずは長楕円軌道に乗って、何回も減速を繰り返す…というパターンだと思います。目的地の内軌道に入れるまでかなりの時間が必要だと思います。
 軌道が落ち着いたら。まずは太陽リングの建造にかかり、得られたマナを使ってテラフォーミングを行い。微生物、植物、動物と生態系を整え。最終的には"人"をそこに住まわせることになると思います。

 赤井さんはこの星で、ロトリー国のレイコを再生しました。レイコのデータを持っていたのか、後から恒星間通信でダウンロードしたのか。私レイコのデータも、あちこちの星で再生されているのでしょう。何人のレイコがいるんでしょう?
 ロトリー国のレイコはたどり着いた他の星で、赤井さんを再生させるなんてこともあるのでしょうか? それとも他にもスキャンされたメンター候補がいるのでしょうか。
 この辺はまた何千万年か先の話になるだろうとは思いますが…気の長くなる話ですね。



 夕方となる頃。
 ロトリー国からは王様、妃と王太子と妹弟達。会議に参加した文官さんたち。
 "人"からは、王都に来た全員。私にマーリアちゃん、ネタリア外相。オレク司令。カラサーム大使。護衛や侍従のみなさん。
 ロトリー国のレイコ、帝国の魔女、黒い女神。彼女が住んでいた家の庭で見送りパーティーが開かれています。綿飴機も動かしていますよ。

 まだけっこう寒いですからね。焼き物を焼くコンロを兼ねた暖房具が設置されています。お酒もけっこうできていますので、大人はそれらで暖まっている感じですか。もうBBQパーティーですね。
 パンダ陛下の子供達は、セレブロさんに構ってもらっています。この子達もすっかりセレブロさんに懐きましたね。厚着をしたうえでモフモフのセレブロさんに絡まっているですから、こちらも寒くは無さそうです。

 文官さん外交官さんたちは、ずっと会議をしてきましたからね。今日の所はみな雑談を楽しんでいます。
 互いに半分通訳、半分は自分で話してと。外交のプロだけありますね、言語の習得が早いです。


 天頂には神の御座。そこから少し離れたところに月もいます。半月とはいえ、月の明るさにも負けていない神の御座の星々。地球でのオリオン座大星雲よりうんと近くにある散開星雲。
 この世界には、一番星がありません。大抵最初に見えるのは神の御座の星ですし。それも日によっては、昼間でも見えるのです。
 所々にあるピンクの泡みたいなのは、超新星の残骸です。今、金星より明るく輝いているたくさんの青い星も、将来全部が超新星化すると思います。
 この中のどれかが、千年前に帝国を滅ぼした超新星の痕でしょうか。今日この日に見えているのは、ちょっと皮肉のように気もします。

 ところが…
 そろそろ日が沈むというころ。西の空に薄く雲がかかってしまいました。うろこ雲ってやつでしょうか。天頂は晴れていて雲は西に流れていますので、西から登ってくるマナ・シップが全く見えないことはないでしょうが。ちょっともったいないですね。

 『陛下、霊廟の向こう側にちょっと行きたいのですか』

 思いついたことがあるので、パンダ王陛下に許可を求めます。

 『どうなされたのですか?レイコ様』

 『あの雲が邪魔なので、ちょっと吹き飛ばしに』

 ラクーンの驚いた顔は、人そっくりです。
 直後、面白そうに許可を出してくれました。

 「レッドさん、船の正確な見える位置とか分かる?」

 彼の方が詳しいというイメージ。もう一人のレッドさんですね。

 「マナ・シップの見えるラインを知りたいんだけど。あなたのレイコを皆で見送る為に協力してくれる?」

 快諾してくれました。


 レッドさんたちと共に、衛兵の案内を受けて、霊廟に向かいます。
 その裏は山…というより丘ですかね。王宮の敷地内にあって。山道でぐるっと回り込めます。そこには石造りの小さな四阿がありまして。これはちょうど良いですね。

 ここからレイコ・ガンを大出力であの雲に当ててみたいと思います。雲とは、要は水や氷の粒ですからね。マイクロ波で蒸発するはずです。
 どれくらいの間、雲を晴らせるのかが問題ですが。幸い雲は西へ流れています。多少削れば、あとは晴れ間が見えるでしょう…という期待。

 『衛兵さんは、そこの木の向こう側で待っていてください。近くだと危ないかもしれませんので』

 『! 承知いたしました、女神様』

 私は女神じゃないよ…は野暮なので指摘は止めました。
 空に向かって撃つので、周囲の生物に影響はないと思いますが。電波なだけに周囲への漏れがどの程度か計算しきれないところがあります。皆から離れたここまで来たのもそのためですが、衛兵さん達にも念のために離れていてもらいましょう。

 マイクロ波ですので、別に発射時の反動があるわけではありませんが。なんとなく身体を固定したかったので、四阿の椅子に座ります。
 陽は地平線の向こうへ。空の色は赤から紫に移りつつありますが。陽の光がまだ当たっている雲があかね色になびいていて、コントラストが美しいです。今日でなければ、このまま見ていたい夕焼けの情景ですが。
 沈んだ太陽の方向は、地平線の向こうから広がる光芒で大体分かります。かかっている雲も薄いのですが、視界を遮るだけではなく、陽に照らされていて、マナ・シップを見るにはそれも邪魔です。
 私の左右にそれぞれのレッドさんが座ります。右にロトリー国のレッドさん。

 邪魔な雲の方に手をかざします。
 いつもの指先からではなく、腕の中で発信して導波し、手のひらから放射するイメージで準備します。

 「一度に晴らすより、薙いだ方が確実かな?」

 でかく丸い穴を開けるのでは無く、上から下へ薙いだ方が確実ですかね?
 ロトリー国のレッドさんから、肯定のイメージ。

 薙ぐ角度は、仰角二十度くらいから少し右にずらしつつ五度まで。正確な方向はロトリー国のレッドさんがイメージを送ってきてくれます。発射するマイクロ波の指向性の幅は五度くらいになりそうです。
 マナ・シップ射出まであと三分ほど。…行けるかな? 行きますか。 発射!!

 フオンッ

 レイコ・バスターの時のパンッという音とは違い、微妙な音ですね。空気が破裂的に膨張することはないようですが。おお、射線の先の雲に穴が空きました。
 そのままレイコ・ガンを倒していきます。空を切り裂くという言葉がぴったりですか。雲が斜めV字に割れました。

 ぴったりうまくいった、というイメージがレッドさんから送られてきます。
 あ…払ったと思ってたら、その上空に新しい雲が… 蒸発した雲の水蒸気が上昇して、上空で再凝結したのでしょうか? ただ、上空は風の流れが違うのか、空いたV字を埋めることは無く流されてくれそうです。

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