玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
320 / 339
第9章 帝国の魔女

第9章第011話 黒い女神

しおりを挟む
第9章第011話 黒い女神

Side:ツキシマ・レイコ

 「黒い女神様は、今年のお目覚めはすてにされています。私もここに来る前に寄ってきたのですか、これからてもお会いになれるそうてす。いかかなさいますか?巫女様」

 「え?今からですか?」

 謁見したパンダ王が、黒い女神、帝国の魔女、その人に会っても良いと言ってくれています。
 それは確かに、今回の渡航の第二目的では有りますが。
 マーリアちゃんやネタリア外相の顔を伺いますが。どちらも即決しかねているようです。ちょっといきなりですからね。

 「レイコが決めて良いと思うわよ。そもそもレイコの目的だし」

 「…陛下。同行している私たち"人"も共に女神様に謁見しても構わないでしょうか?」

 ネタリア外相、情報収集モードになっていますね。…まぁ、あの帝国の魔女に直接会える機会です。外相という立場を抜きにしても、好奇心旺盛な彼にはたまらない機会でしょう。

 「女神様は、隠者でも秘密主義でも有りません。巫女様かよろしけれは、こ存分に」

 結果。私、レッドさん、マーリアちゃん、ネタリア外相、オレク指令も同席することになりました。


 連れて行かれたのは、宮殿の敷地のもう一つ奥。
 壁…というより、地球での一軒家を囲ってあるような一軒家の塀ですか。外敵を防ぐと言うより、敷地の区分けのためのそれですね。
 塀に中には、広めの庭…これは芝生ですかね。建物は、煉瓦積みと木造のハイブリット、二階建てです。私のネイルコードの家に似た意匠を感じますね。

 家に入ってすぐにある、一階の日が差し込む明るい部屋…客間というより居間という感じです。
 中からは、子供…ラクーンの子供の声が聞こえますね。先客がすでにいるようです。

 部屋に入ると。
 ガラス窓? 一枚ガラスではないですが、ロトリー国では珍しいガラス張りで、庭の芝生がうかがえます。
 窓を背にした位置のソファーに座っている黒髪の女性らしきシルエット。外の明るさに目が慣れず、成人女性らしいという容姿以外はよくわかりません。この方が女神ですかね?。

 左のソファーには、ラクーンの女性と…アライさんに背格好が似てますかね。あと、子供のラクーンが二人ほど。一人が女神に構ってもらっているようです。
 あと、びっくりすることに、レッドさんがもう一人いました。こちらももう一人の子供にいじられているようです。 …遊んでいるというより、一番小さい子に絡みつかれていますね。

 「よく来たわね。まぁそちらに座ってちょうだい」

 もう一人のレッドさんについて聞こうと思ったら、黒い女神に右側のソファーを勧めれられました。

 『妻と子供達がお世話になってますので、僕がお茶でも入れましょう。台所の方、借りますね』

 『手間をかけるわね。エイティーンス』

 『いえいえ。巫女様も座ってお待ちください』

 片手をあげて挨拶して奥に向かう王様。
 王様にお茶入れさせるんですか?と思ったのですが。この建物には、護衛も次女も付いてきていません。いいんですかね?

 「さて。初めましてと言って良いのかしら。それとも五年ぶり…三千万年ぶりなのかしらね? …レイコ」

 そこに座っていたのは… "私"でした。



 この子供の体になって、ネイルコードに降り立ち五年ほど。今ではもうこの体にも慣れましたが。
 目の前で座っているのは、二十五歳の時の私です。
 もっともこの体。顔はシンメトリーが生前より完璧に感じますし。体の方が…なんというかその歳の肉体としては理想的な感じで作り直されています。まぁ当時の私の脳内データは残っていても、私の体のデータは、残っていたとしてもCT等の断像データくらいしか無いでしょう。有るはずのホクロが無くなっていたのは、びっくりしたことの一つです。

 目の前の大人のレイコ。ゆったりした若葉色のワンピースを着ていますが。…生前の私より良いプロポーションしているのはわかります。ちょっとモヤりますね

 「あなたは…同じデータがから作られた材料の多いバーションの"私"ってことでいいのかしら?」

 「ふふふ。正解よ。さすが私ね。」

 「え? どういうこと? 黒い聖女って…レイコそっくり? 大人のレイコ? え?」

 「レイコ殿が、マナで複製されたというのは伺っていますが。複製ならいくらでも作れる…こちらの方もそういう方…ということなのでしょうか?」

 「皆さん、察しが良いですね。私は、千二百年前にこの大陸にやってきた"レイコ"です。まぁその期間以外、人として生きていた分についてはそちらのレイコと同じ存在ですね」

 帝国の魔女、黒い女神、これがメンターであること、日本出身であること。まぁ想定していました。
 …正直言うと、日本出身の黒髪のメンターということで、別の"私"という可能性は考えていました。今の私の根本は単なるデータですからね。元の本人は医学的に明確に死んでいますし、この体に魂が憑依や転生なんてしている訳でもありません。言ってしまえば、量産もできるのです。
 実際、赤井さん自信もこの宇宙に何人もいるみたいなことは匂わせていましたしね。

 ただ。まさか自分と対面することになるとは…

 「話したいこと聞きたいことはたくさんあると思うけど。先にあなたの記憶をくれないかしら?」

 「記憶…ですか?」

 「話を聞くより記憶をもらった方が、私があなたの状況を知るのには手っ取り早いしね」

 「…それはいいけど…私にあなたの記憶はくれるんですか?」

 「それはお薦めしないわ。最近は寝ている時間の方が長いとは言え、千二百年分よ。いきなりそれは、あなたにはキャパオーバーになるし。正直、楽しい記憶だけじゃ無いからね」

 「なんかずるいような…」

 「あなたと共有しているのはあの病院での記憶まで。その後の楽しかったことも苦しかったことも、それはあなたとは別の"私"の記憶よ。いきなりそれだけもらっても良いこと無いわ。いろいろ引きずられるわよ? それにどのみち、メンターはいつかは記憶の同期を行うわ。同じくらいの人生を自分で経験するまで待った方がいいわよ」

 私は、生きていたころを含めて三十年。大人のレイコは千二百年。…たしかに今の私にはちょっと想像できないですね。

 「私のここでの五年の記憶も、そう捨てたもんじゃ無いと思うんだけどね」

 「私のここでの人生も、けっこう濃い物よ。まぁ、あなたも知りたいことがあると思うし。話でなら後でしてあげるわよ。それくらいなら構わないわ」

 …千年前、大人のレイコのいた東の帝国は滅んでいます。メンターの力を持って滅ぼしたにしろ、他に原因があるにしろ、楽しい話では無いのは確実でしょう。
 ただ、同じメンターとして聞いておかなければなりません。

 「わかったわ。持ってって良いわよ」

 「では。レッドさんに協力してもらいましょう。そちらのレッドさん、貸してちょうだい」

 さっきから、うちのレッドさんがこちらのレッドさんと目線合わせているんですよね。なにか通信しているみたいですが。

 「そういえば、ここにもレッドさんが居るのね」

 「こちらに来たときに赤井さんからもらったんでしょ? ほんと、この子にはいろいろ助けてもらったわよ。にしても、ふふふ。やっぱり付ける名前は同じなのね」



 私の方のレッドさんを膝に乗せて、大人のレイコは瞑想します。
 こちらのレッドさんは、ラクーンの子供にがんじがらめのままです。こちらのレッドさんとは意思疎通出来ませんね。ここは区別されているようです。

 「はしめまして巫女様。ロトリー国王妃シュアン・ロトリーてす」

 「挨拶が遅れて失礼しました。ご丁寧にありがとうございます。レイコ・ツキシマです。そして…」

 大人のレイコが瞑想しているあいだ、同席していたラクーンと自己紹介を交わします。
 こちらもネイルコードの使節の人たちを紹介します。
 ロトリー国の王族と大人のレイコとは、普段から親密な付き合いがあるようですね。やはりそれなりの扱いをされているようです。



 五分くらいでしょうか。ちょっと暇だなと思い出した頃、大人のレイコが目を開けました。

 「ふう。…なるほど、自重していないわねあなたも」

 「そんなに大したこと、したかな?」

 「大陸半分の国家群の緊張を解消したり。何?その工業の発展。もう産業革命じゃないの。鉄道まで敷いているし、グライダーまで。電信がパンチカード式なんて。電気も飛び越えて情報革命までまっしぐらよ」

 そう言われると。なかなかすごい進歩かな

 「…出会った人にも恵まれたわね。アイズン伯爵、ファルリード亭、ネイルコード国。」

 「そこはほんと、感謝しか無いわ。おかげで穏やかに過ごせているわよ」

 初めて会った貴族であるアイズン伯爵が、私を取り込もうと固執しなかった。これがその後の"居心地の良さ"に直結しているように思います。もともと権力欲とかがある人ではないですからね。


 「粗茶ですが。あと、団子のセットでございます」

 キッチンの方から戻ってきたのは、パンダ王だけではありませんでした。三十代くらいの"人"の男性、ウェイターというより執事さんという雰囲気の方ですが。

 おおっ!、これは緑茶? あと、団子が三種類。みたらしに、あんこに、三色団子。

 「あ…ありがとうございます!。緑茶にこのお菓子って、やっぱこちらのレイコが…って。あれっ?」

 給仕してくれた男性? ロトリー国にいる"人"? しかもメガネかけていて。
 おもわず二度見してしまいました。

 「赤井さん????」

 「クック…」

 お顔は、私が死んだときよりちょっと老けていますが。無精ひげ生やして付かれた顔していたあの時と違って、ダンディー感が出てきていますね。
 そして、あの目。こっちに来て初めて見た時の赤竜の「してやったり」の目だ。間違いないです。

 「レイコ、こちら知っている人? …そういえば赤井さんって…」

 「レイコ殿、ご存じなのですか? ロトリー国に他の"人"がおられるとは…」

 「…あああ… ああ。紹介しますね…アカイ・タケシさん。…赤竜神その人です」

 「「「「!!!!っ」」」」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。 もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。  ◆ 十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。 彼女が向かったのは神社。 その鳥居をくぐると――?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...