玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
315 / 339
第9章 帝国の魔女

第9章第005話 上陸、ロトリー国

しおりを挟む
第9章第005話 上陸、ロトリー国

・Side:ツキシマ・レイコ

 セイホウ王国の租借地オーラン島を出航。そのまま北上して三時間くらい。北西の遠くに山脈は見えていますが…やっと正面に陸地が見えてきました。
 ロトリーの港町オラサクです。

 港の桟橋には、帆船が何隻か並んでいるのが見えています。
 今乗っているセイホウ王国の船がクリッパーとガレオンの中間くらいなら。セイホウ王国とロトリー国の船はキャラックかな。大きめの三本マスト船、中くらいの二本マスト船。一本マストは漁業用に見受けられます。
 働いているラクーン達も見えます。こちらに気がついて指さしている方もいます。まぁでかい船ですので、目立つでしょうね。

 船団は、カララクルさんの指示で、港町から見えていて港の邪魔にならないところに停泊。錨を降ろします。
 船首マストには、セイホウ王国とネイルコードの旗を並べて掲げます。

 「これて待っていれは、港湾管理のものかやってくるはすてす」

 あとはネールソビン島の時と同じでした。
 数人のラクーンが乗ったボートがやってきて。カララクルさんが対応してくれて。私たちの乗る船が一番深い桟橋へ誘導されます。他の桟橋で水深が足りるか分からないので、船団の他の船は一旦沖に停泊。上陸はカッターで、荷物の積み下ろしは、この桟橋を交代で使用ということになるそうです。


 『"人"だ!』 『"人"だぞっ!』 『なんだあのでかい船はっ?』

 さて。桟橋から上陸ですが。ここの役人との話は付いているはずですが。なんか衛兵らしい格好の人に囲まれてしまいましたね。"人"のでかい船ということで、警戒されているようです。
 こちらは、遭難したアライさんを送り届けに来たんですけど。そこまで警戒しなくてもとは思いますが。
 不穏な雰囲気…とまでは行きませんが。あまり良い感じでもないですね。
 カララクルさんが、ここの責任者といろいろ話しています。危険は無いから解散させろ…みたいなことを言っていますね。

 念のため。今回は、初っぱなからセレブロさんも一緒に降りて貰います。圧には圧で。

 『ハーティーか?』 『ハーティーだっ!』 『"人"はハーティーを従えているのか?』

 はい、ラクーンの衛兵さん達がビビっております。さすがに武器を抜くまではいきませんが、さっと輪を作るように退きましたね。

 『皆さん、この子はハーティーではなく、西の大陸の銀狼です。ほらっ!"人"も銀狼も大丈夫ですよっ!』

 アライさんが呼びかけますが。反応はイマイチですか。
 マーリアちゃんがアライさんを抱き上げて、セレブロさんの背中に乗せてあげます。セレブロさんもちょっと背を低くして、乗りやすくしてあげています。
 マーリアちゃんもアライさんの後ろに乗って、セレブロさんが立ち上がり。高いところでアライさんとマーリアちゃんが大喜びして手を振る…という演技ですね。
 アライさんがマーリアちゃんやセレブロさんと平気で接触していることで、とりあえずこちらに危険は無いと理解してくれたようですし。セレブロさんを従えているこちらに手を出そうとするラクーンは居ないでしょう。

 レッドさんはいつもの私の後ろから覗いています。赤いですからね、結構目立つと思いますが。むしろ私の方にびっくりされました。

 『黒の女神様? …いやそのお子様? それに赤竜?』

 港の役人さんかな?。黒髪の女性ということで、関係者だと思われたようです。まぁ多分正解なのですが。
 一般の衛兵さんも、黒の女神を直に見たことあるのかな? この辺の情報収集もやっときたいところですが。


 『キュルックル殿。無事のご帰還お喜び申し上げます。つきましては、別室で経緯などをお伺いしたいのですが…』

 庁舎の一室に案内されましたが。そこで、ここの役人だという人が、アライさんに用があるそうです。
 ちょっと丁寧なのは、アライさんや付いているカララクルさんがが王族の親戚筋ってのもありますかね?
 アライさんが"人"に保護されていたというのもありますが。遭難で生き残ったのがアライさんだけということで。船がどこでどうなかったのか、アライさんが西の大陸でどのように過ごしていたのか。その辺の事情聴取は必要なのでしょう。

 『キュルックルは、現在もまだこちらの"人"の使節の保護下であり、共に王都に向かわなければなりません。何日も拘留されるのは困るのですが…』

 カララクルさんが意見します。

 『保護…強制的ではなく?』

 いぶかしげな役人さん…って、ラクーンの表情は私たちにわかりにくいですが。

 『奴隷とか心配されてるのなら杞憂です。こちらの小さき黒い女神…むこうでは赤竜神の巫女と呼ばれているそうですが、こちらの方の庇護下にあります。こちらの小さき女神がキュルックルの去就を大変気にかけておりまして。そこがはっきりするまで別れがたいとのことです。なんとそのために海を渡ってここまで来たのですよ』

 『…なるほど。"人"の国で粗略に扱われていたわけではないのですね。ただ、あの船には二十名以上乗っていたのです。彼らの巣のためにも、詳細は把握しておきたいのですが…』

 アライさんが遭難前に乗っていた船。消息が分かったのは、アライさんだけのようです。

 『はい。私もその辺の説明をすることは問題ありません』

 『では、私も立ち会ってもよろしいかしら。一応親族ですので』

 アライさんとカララクルさんが別室で経緯の説明の間。まぁ待つだけなのも何ですから、私は交易品の荷下ろしの方を手伝います。
 蒸気帆船に興味を持つラクーンも多いようですが。落ち着いたら親交のために見学会くらいはしてもいいんじゃないですかね? 私たちが王都に行っている間はここで停泊するわけですし。
 オーラン島の方に一旦戻っても良いと思ったのですが。「いざというときのため」だそうです。


 まぁ外交に関わる事務的なことは、外交官と司令に任せるとして…

 庁舎に来た"人"の分の夕食は、こちらで出されました。
 メニューはラクーン達のものでしたが。魚と野菜のタコス?ブリトーかな? 小麦や米がないとのことでしたが、何かしら穀物はあるようです。それの粉の薄焼きパンに、肉と香味野菜たっぷりといった感じですね。あと、ここで取れたのでしょう海鮮スープ、同じくサラダと果物ですか。
 配膳も丁寧で、もてなしてもらっているのは分かります。新鮮な素材で、大変美味しく頂きました。

 夕食のあとの時間、日も暮れた頃。アライさんの友人だというラクーン二人がアライさんを訪ねてきました。
 親族ではなく、同じ巣…幼少の頃一緒の育てられた方達だそうです。
 二人に抱きしめられるアライさん。

 『無事で良かったわ』『私たちには何も出来ないし。もう諦めていたのよ…』

 庁舎に事情を知っている知り合いがいて、知らせてくれたそうです。
 船で出て行方不明、そのまま二年間音信不通。まぁ普通は諦められます。

 『ご両親やご兄弟は健在よ。…ただ去年、あなたのお葬式がね… 船に乗っていた二十五名の方々と一緒に行われているわ』

 アライさんは、その辺は覚悟していたようです。カララクルさん曰く。

 『もちろん、死亡届は撤回されるよう手続きは取ります』

 しばらく三人にしておきます。いなかった間のことも聞きたいでしょうしね。



 『小さき黒の女神様。小さき赤竜神様。あなたがキュルックルを助けてくれたということは聞きました。ほんとうにありがとうございます』

 落ち着いたのか、三人が部屋から出てきました。
 アライさんがアライグマなら。黒の部分が少し多いアライグマ+レッサーの方と、さらに多いアライグマ+タヌキといった方。背丈は同じくらい。両方とも女性のようですが。顔の模様でしっかりと個人が区別できますね。
 しかし。巫女様の次は女神様ですか? マーリアちゃんとかネタリア外相に人の言葉で聞かれていなくて良かったですけど。ちょっとプルプルしてしまいます。

 『いえいえ。喋れると分かった以上、捨て置けませんでしたから。それにキュルックルさんには、"人"の国でもいろいろ手伝って貰っています。お店では大人気なんですよ』

 『食堂でお手伝いしてたの。ものすごくおいしいお店よ』

 「クークルルッ!」

 人と話したのは初めてのようで緊張していた二人ですが。アライさんがファルリード亭の話をすると、人の国の食堂にもちょっと興味を持ったようです。

 『甘い物は私たちも好きですが。やはり結構なお値段が』
 『蜂蜜か、セイホウ王国からの輸入しかないですからね。あとはせいぜい熟した果実とか』

 甘味はラクーンの女性でも話題になるようです。
 『またね』と挨拶を交わし二人は帰りますが。他の巣…幼少期に一緒に育てられた他のラクーンにも連絡を取るそうですが。電話とかないですからね、けっこう時間がかかるそうです。
 庁舎の衛兵さんが一人ついて送っていきました。この辺は人と変わりませんね。


 この日は庁舎で一泊。庁舎で一番でかいベットが部屋に運び込まれました。トクスラーさんサイズの別途なら、この中で一番背の高いネタリア外相もギリOKのようです。

 次の日は、前日に引き続き外交の打ち合わせが続きます。ネタリア外相とカラサーム大使、お仕事です。

 私自身の目的は、まずはアライさんの去就の確保。次に王都へ行って黒い女神に会いたいこと。問題ないだろうとは言われていますが。この辺は王都に行ってからとなります。

 砂糖やセイホウ王国の産物を交易品として降ろしていきます。
 それにネイルコードからの鉄やらいくつかの製品、冷蔵庫に扇風機とかのマナ動力の電化製品、これらを贈り物として渡したい旨を伝えます。
 メンテが必要だから、買いっぱなしでいつまでも使える物ではないけど。ネイルコードとの交易が有用と思わせるには十分かな。
 王都までの足と一緒に、馬車を用立てて貰えることになりました。

 船団としては、帰りには対価としてはロトリー国の産物を積んでいきたいとのこと。金が最高貨幣として成立しているのは、ロトリー国でも同じそうで。件の帝国金貨がベースになっているそうです。ただ、金の含有量などを精査する設備がないので、価値が担保されません。よって今回はなるだけ物々交換となります。

 あとは未来の話ですが。国交がなった暁には、あのネイルコードの蒸気帆船やその技術も販売する意思があることも伝えます。実はこれは、寄港中の船団の安全を図る意味もあります。合法的に入手出来るとなれば、襲ってでも手に入れる必要はなくなりますからね。欲を出すこともないでしょう。
 もちろん、ここで即決するような話ではありませんが。検討案件としてどんどん溜まっていきますね。
 正直、私やマーリアちゃん、聴取の終わったアライさんは暇しています。

 「レイコ、街見に行きたくない? わたし、ここの市場とか興味あるんだけど」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。 もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。  ◆ 十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。 彼女が向かったのは神社。 その鳥居をくぐると――?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...