玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
314 / 339
第9章 帝国の魔女

第9章第005話 "人"の租借地 オーラン島

しおりを挟む
第9章第005話 "人"の租借地 オーラン島

・Side:ツキシマ・レイコ

 「島…いや陸地が見えたぞ~っ!!」

 予定より一週間ほど早くの到着です。
 セイホウ王国の役人さん、今は臨時でカラサーム大使の部下扱いですが。ミヤンカ船長と海図と睨めっこです。いや、この場合は地図ですね。望遠鏡で特徴的な山を探していろいろ確かめた後。

 「間違いなく東の大陸だ。少し北にずれたが、海峡まで半日程度の距離だ。このまま海岸線から十ベールの距離を取って南下する! 僚船に信号を出せ!」

 目測で海岸までの距離を測りつつ、だいたい十キロ程度で船団は南に向きを変えます。
 海図にはこの辺の暗礁などの詳しい記述は無いですからね。陸地が見える程度の距離を取って航行します。この距離だから絶対安全というわけでもありませんが。今までのセイホウ王国とロトリー国の航海では、これで問題なかったそうです。
 まぁ待ちに待った陸地が見えた途端に慎重になる必要があるというのも皮肉な物ですね。

 海図によると。ロトリー国の港町オラサクは、この海峡の先の湾に面しているそうです。
 おおざっぱに、東西に延びる瀬戸内海のような内海に、関門海峡から入る感じですか。半島が南北から延びてきていて、遠方から観察した程度だと、海峡への入り口が分かりにくいそうです。

 ここから南は大きめの島が点々としていて、その先に南北に長い南の大陸、ロトリー達の発祥の大陸に繋がるそうです。港街へは南の方から回り込む航路もあるそうですが。大陸に着いた位置がここなら、この海峡が入るのが一番近いそうです。
 …大雑把に言えば、東西逆になった北米大陸の、メキシコ湾にキューバの北から入るか南から入るかの違いですかね? 形やスケールはかなり違いますが。

 あとまぁこの湾は、地図の形やサイズからして、隕石クレータータイプではないようです。クレーターだとしても、この惑星に生物が発生する以前の物でしょうね、こんなのが隕石だったら、惑星の表面全部が焼けています。


 夕方頃に海峡の入り口近くに着きました。
 地球の感覚だと衛星からの画像や地図に慣れてしまっていますが。こうやって海面から見ると、ほんと地形の把握という物は難しいですね。あの山地と山地の間に海峡があるようには見えません。私だったら地図があったとしても、ここが大陸岸のどこなのかも判別できないのではと思います。
 これがネイルコードなら、半島の先に灯台でも作るところですが。カラサーム大使さん曰く、八百年くらい前までは、帝国時代の石造りの灯台があったそうですが。今はまぁ森の中に朽ちているようですね。

 「砂浜の左右にある岩ですね。あの岩と丁度三角を描く位置です。そこが丁度良い深さになっているので、そこに錨を降ろしてください」

 セイホウ王国の人が、船長さんに指示していきます。
 海峡の先は日が暮れてからの航行は危険だとのことで。今夜は指定の投錨場に停泊です。


 次の日。日の出と同時に準備開始。みんなご飯もしっかり食べますよ。
 そして船は動き始めます。海峡越えるまでは蒸気機関で進みます。狭い場所の帆走は難しいとのことと、この時代の人は良くやるもんです。
 海峡を越えたら、湾というか内海というか… 地図上では湾ですけど、対岸は見えず、大海原となにも変わらない風景です。やはりかなりでかい湾のようです。

 海峡を越えたので、左側遠くに陸地を捉えつつ帆も張って東進。指示通り二日ほど進んでから北進すると…陸地…いえ島が見えてきました。
 まずは最初の目標。セイホウ王国の租借地であるオーラン島です。



 オーラン島に到着です。まぁ船から見て全貌が分かるわけではありませんが。島の広さ的には、セイホウ王国側のネールソビン島と大差ない大きさだそうです。
 大型船が付けるほどの桟橋はないので。ちょっと沖に停泊して、カッターでの上陸となりますが。あ、島からボードが出てきましたね。
 私たちの船は。セイホウ王国ではなくネイルコード籍なので、無許可で上陸も出来ません。

 「こちらセイホウ王国ロトリー親善駐屯地、港湾管理官のエルケン・サークルである! 旗がセイホウ王国の物ではないが。はるばる東の大陸まで、どこの国の船であるかっ~?」

 「私は、セイホウ王国大使カラサーム・ハルク・ビシャーラン五位であるっ! 故あって西の大陸ネイルコード国の船団に同乗させていただいた! この船団が平和目的であることは私が保証する! まずは六名ほどの上陸許可を頂きたい!」

 「うむ。まずは私を乗船させていだきたい! そこでまず簡単に話を聞かせていただけないだろうか!」

 ボードが着いて、互いに名乗りを上げてから、乗船してきた港湾管理官という方と、カラサームさんがとセイホウ王国の役人さんがまず手続きします。これもすぐに終わって、カッターで上陸です。
 アライさん達とセレブロさん、あとマーリアちゃんは、島での手続きが終わるまで一旦お留守番。カラサームさん達に、私とネタリア外相とオレク司令がまず上陸します。

 入国審査ならぬ入島審査も終わったようです。カラサームさんが、ウェルタパリア陛下直々の命令書を出してくれていたそうで。スムーズに済みました。
 ネイルコードでのアライさんの保護とロトリー国への送還。そして赤竜神の巫女の訪ロトリー国。これらがセイホウ王国ウェルタパリア陛下の勅許で行われていることが、書類と共に説明され。ちょっと驚いていましてね。
 結果。無事他の船員らの上陸も許可されました。やはり上陸して休ませたいところですからね。

 桟橋がないため、租借地へのセイホウ王国分の荷物は艀で運ぶ必要があるので、どうしても時間がかかります。三日ほどここで停泊することになりました。

 ロトリーの港町オラサクへはここから半日というところだそうです。
 …湾のこの位置にセイホウ王国の租借地があるということは、まぁロトリーへの監視も兼ねているんでしょうね。海軍が常駐出来るほどの規模では無いですが。

 島には、水源が期待できるほどの緑の山が見えていまして。山間にため池があり、畑は野菜などを中心に栽培しているそうです。多少の田んぼもあるそうですが、それだけではここの需要を満たすのは厳しいそうで。セイホウ王国からの定期船で、主食や嗜好品などの輸送と人員入れ替えをしているそうです。
 鶏は? ここにはほとんどいないそうです。十分育てる餌が無いそうで。育ててみます?

 とりあえず。船のみんなは交代で半舷上陸です。
 セレブロさんが降りてきたのにビックリしている人がけっこういますが。アライさん達が一緒に降りてきたのには、特に驚いていないようです。見慣れていますかね?


 ここの指揮官と言う方と話すことが出来ました。

 「ここにいる方で、ロトリーの王都まで行った人はいるのですか?」

 黒の女神の情報があるのなら、欲しいですからね。

 「王都まで行けたのは、私と補佐官と護衛の十人くらいですか。この島の指揮官が交代したときには、一応向こうに挨拶に行くことになっていますが。ロトリー国内にセイホウ王国側の施設は皆無なので、長いこと滞在はしません。向こうではロトリーの国王にお会いできましたが。そのときには魔女…女神は寝ておられたとか春先に伺ったのですが、時期が悪いと言われました」

 馬車での道中、見物に出てくるロトリーがいっぱいで、見世物になった気分でしたよと苦笑する指揮官さん。本国から離れて大変なお任務です。大使の資格も貰っているそうですが。
 この島への派遣の一回の任期は三年ほど。ここで務めを終えると、一階級上がるか、退役時の一時金が増えるとかで。そのうち故郷で商売でも…という兵士にはそこそこ人気だそうですし。将官クラスにとっては三年で一階級上がるのは大きいでしょうね。

 「気になさっているのは、やはり帝国の魔女…黒の女神ですかな?」

 私の髪を見ながら聞いてきます。黒髪同士興味があるのか、または何かしら関係者だと思われたようです。

 「ここでは、ネイルコードの事情まで詳しい者はほとんどおらんのですよ」

 とカラサームさんが説明してくれます。本国からの指令書に赤竜神の巫女についいても書かれていましたが。ピンとこなかったようですね。

 「…そうですね。知っている人かどうかは分からないですが。同郷の人の可能性は高いです」

 「同郷…ですか?」

 帝国の魔女と同郷とはどういうことだ?って顔をしています。

 「ロトリーの言い方で黒の女神ですな。かなり昔、王都に行った者が、何かの式典で遠くから姿を見かけたという話を聞いています。髪が黒いだけの普通の女性だったそうです。まぁ女神が目を覚ますのは冬前後だそうですが、その時期は寒い上に海もそこそこ荒れますからな、余りその時期には向こうには寄らないのです。会って会話までしたというのは、今ここに居る者の中にはいません。記録として残っているのは、八百年前に捕虜になった者くらいとか」

 八百年前。港町オラサクに上陸した"人"がラクーン狩りをしようとして返り討ちになった事件ですね。

 「魔女ではなく女神と呼ぶくらいですからな。ロトリー達とはかなり親交はあるようです。女神は人の姿ですからね。それで我らに対する敵愾心も薄まっている感じですが。まぁはるか昔とは言え、やらかしの悪評はなかなか消えませんが」

 「…あなたはロトリーは危険だと思いますか? 支配すべきとか思います?」

 もともと相互監視のための互いの租借地でしょう。今でもその役目は変わらないと思いますが。

 「…ロトリーの漁師がたまにね、採った魚とかオラサクで仕入れた野菜に果物とか売りに来るんですよ。まぁ両方で使える通貨となると金貨くらいしかないので、酒とか米とか麦とかの物々交換込みですがね。片言ですが互いに会話も出来るようになりましたし、気の良い奴らです。彼らが"人"と大して変わらないくらいのことは分かりますからね、彼らと戦争したいなんて事は思わないですよ。ただ向こうに上陸すると分かるのですが、八百年前の事で今いる我らまで警戒されると、ちょっとやるせないですな」

 交流を持てばわかり合えるけど、知らない間は警戒する…まぁ当たり前でもあるのでしょう。
 帝国の魔女。黒の女神。彼女はこの断絶をとくに解消しようとしているようには見えないですね。それどころか火筒の知識をロトリーに与えている可能性もあります。

 …なにを考えているのでしょうかね?

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。 もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。  ◆ 十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。 彼女が向かったのは神社。 その鳥居をくぐると――?

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜

筋肉重太郎
ファンタジー
俺は……最底辺だ。 2040年、世界に突如として、スキル、と呼ばれる能力が発現する。 どんどん良くなっていく生活。 いくつもの世界問題の改善。 世界は更により良くなっていく………はずだった。 主人公 田中伸太はスキルを"一応"持っている一般人……いや、底辺男であった。 運動も勉学も平均以下、スキルすら弱過ぎるものであった。平均以上にできると言ったらゲームぐらいのものである。 だが、周りは違った。 周りから尊敬の眼差しを受け続ける幼馴染、その周りにいる"勝ち組"と言える奴ら。 なんで俺だけ強くなれない………… なんで俺だけ頭が良くなれない………… 周りからは、無能力者なんて言う不名誉なあだ名もつけられ、昔から目立ちたがりだった伸太はどんどん卑屈になっていく。 友達も増えて、さらに強くなっていく幼馴染に強い劣等感も覚え、いじめまで出始めたその時、伸太の心に1つの感情が芽生える。 それは…… 復讐心。

処理中です...