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第9章 帝国の魔女
第9章第003話 Go East
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第9章第003話 Go East
・Side:ツキシマ・レイコ
ネールソビン島にて、一旦アライさんを降ろしてカララクルさんに預けた後。船団は一旦セイホウ王国の首都テルローグに戻り。ウェルタパリア陛下とノゲラス宰相に詳細の報告の後。船団の人たちにも経緯を説明しました。
ノゲラス宰相の目論見としては、ラクーン側の敵意をたき付けることによって、ネイルコード国とロトリー国…いえ、人とラクーン達の対立…までは行かなくても。ネイルコード側には危機感を共有して欲しい…というところだったようです。
友好的に出来ればそれに越したことはないですが。ロトリー国をそこまで信用していないというか。やはり人とは違う種族となると、なれ合うのも恐いというか。危機感は拭えないと言ったところですか。私たちは、アライさんしか知らなかったですからね。
まぁ危機感を感じるのは良いのですが。あそこでラクーン達と全面対立とかなっていたらどうするつもりだったんでしょうね?
私たちが抵抗できたか?といえば可能だとは思いますが。その後はセイホウ王国だって無関係ではいられないでしょうに。
「…巻き込んだのですから。最悪くらいは想定しておいてくださいね」
…とは言いましたが。
今までの経緯からして、大陸にいる帝国の魔女は、ロトリー側に付いているように見えます。
帝国の魔女と一戦構える…なんて想定してこなかったな。今まで、メンター同時の戦闘なんてあったのかしら?
そもそもメンターの本質はデータだから、肉体での殴り合いなんて意味が無いし。…肉体言語でないとわかり合えないことなんて漫画の世界だけよね。本気でやるのなら、それこそ宇宙戦争とかになりそう…惑星破壊するレベルで。私には無理だけど。
ノゲラス宰相に釘刺しはしましたけど。実際はそこまでエスカレートすることはない…とは思うけど。やっぱ一番の懸念は、帝国が滅んだ理由ですか。
それが魔女の仕業…というのが一番に考えられるのですが。しかし私たちの大陸では、聖女として魔獣退治に活躍していたようです。人の敵という立場でもなさそう。
…理由は知りませんが、地球も遙か昔に滅んだって聞いたし。メンター絡みだと何かそうならざるを得ない事象とかあるのかな? このへんも、今回の渡航で、是非知っておきたいことです。
…そもそもとして。私に渡るメンター絡みの情報ってのは、赤井さんやレッドさんがある程度管理していると思うので。無理矢理帝国の魔女に会いに行こうとしても、それが赤井さんの意にそぐわぬ事なら、なにかしら妨害がはいるかと思っていたりしますが。
…まぁ心に留めておきましょう。
セイホウ王国からは、向こうの港町の近くの"人"の住む租借地、オーラン島というそうですが。そちらへの補給物資輸送と、セイホウ王国の外交官…引き続きカラサーム大使と侍従のナザレさんも、船団に同行します。ご苦労様です。
ロトリーへの交易品としては、まず砂糖と、こちらでしか取れないフルーツを干したり砂糖漬けにしたりしたもの。米や麦は向こうでは余り取れないそうですが、向こうの主食というわけでもないので、租借地への補給物資に追加する程度を持っていきます。こちらも向こうでは嗜好品扱いですね。
ネイルコード製の時計とか扇風機に冷蔵庫もいくつか持っていきます。ネイルコードがどの程度の文明の国かを理解してもらうには丁度良いですからね。
あと、アライさんの提言で、今回は鶏も持っていくことにしました。船ではもともと飼っていましたが。セイホウ王国で追加で購入しての搭載です。
目的は、肉より卵ですね。アライさん曰く、ロトリー国では卵を食べることはなかったそうです。まぁ卵を取るのに適した動物がいなかったのもあるでしょうが。安定して卵を産む鶏は…地球のそれより二回りでかいですが、重用されそうです。
今までセイホウ王国との会談のときの食事にも出ていたのでは?と思いますが。向こうは"人"の食べ物だからと特別なものとは感じていなかったようですね。
アライさん曰く、ネイルコードで卵を日常的に食べることになって、非常に気に入っているそうで。親善の贈り物としては丁度良いのでは?とのことです。
セイホウ王国にいる鶏は、元は東の大陸から来た物だそうですが。…帝国にいた鶏は一緒に全滅した? 街並そのものは残っていたそうですから、爆発とか焼き払ったという訳ではないようですが。全部食べられちゃったかな? お肉も美味しいし。
X線やガンマ線ならある範囲の生物を一掃出来そうですが。大陸全土に照射するなんてことを私がやろうとしたら、私毎爆心地どころの話ではなくなりそうです。うーん。
五日ほど準備に当てて、再度セイホウ王国の首都テルローグから出航です。
ロトリーの租借地であるネールソビン島に寄って、アライさんの回収。大陸での説明と案内の要員としてカララクルさんが同行します。あと今回、カララクルさんの護衛として、あの熊みたいなコクウェンさんも同行します。
あれはあのときのコクウェンさんの子供と、あとは奥さんかな? 出航前のお別れしています。…なんかこの家族の光景、覇王様を思い出します。今は駅の警備長さん、頑張っているだろうな。
出航した船団は、セイホウ諸島を離れ。蒸気機関と帆走を併用して、東に向かって速度を増します。
「こんな快適とはおもいませんてした」
カララクルさんらロトール組が感心しています。
天候は比較的安定しています。というか、再びレッドさんの偵察で、天候が荒れているところは避けるように進んでいますし。この船自体が、ロトリーのものより大きいそうで、乗り心地は悪くないようです。
今回の東の大陸への渡航では、往復と滞在で確実に四ヶ月、下手すると半年以上、さらにネイルコードへの帰還が遅れることになりますが。
私たちの大陸からは、初めての東の大陸への渡航となります。ネイルコード王国史には残るのは確実と言うことと。蒸気船への信頼感は船員さんたちにも浸透しており、不安より未知の大陸への期待の方が勝っているようです。
なによりオレク司令が、「帰国後、船団参加者全員に"東方渡航勲章"を授与するよう陛下に上申する!」なんていうものですから。むしろ士気は上がっています。名誉のある勲章の場合、ランクに寄りますが、退役後は年金が付くそうです。
「海に出てしまえば、どこも同じね。ネイルコードからセイホウ王国を経て、さらに東に来ているなんて信じられないわ」
海原をセレブロさんとともに眺めるマーリアちゃん。風に銀髪が靡いて絵になりますな。ちょっと日に焼けています。写メりたい。
・Side:船団の船員
「おーい!昼メシはチャーハンだってよ!」
「やったね! 大好物だ!」
「お米、好きてす」
セイホウ王国では、麦より米の方が安いそうだ。船内での小麦の備蓄はまだ十分だが、せっかくだからと米も食事として良く出るようになった。
「テルローグにいたときに食った白いご飯な、巫女様がよく食べてられる。味の付いていない米なんてうまいのかな?と思ったんだけどな。あれの食べ方はおかずと一緒に頬張るものなんだな。慣れるとあれもうまいぞ」
「ああ、俺も試したよ。煮物や焼き魚、なんでも合うけど。揚げ物とご飯は最強だな。"メシがススむ"の意味がよく分かったよ」
お前、ほんと揚げ物好きだな。野菜も食べなさいと叱られてたろ。
「この蒸気船でも真水は貴重だからな。せいぜいおにぎりってやつで我慢しておけ」
蒸気機関には真水が必須だそうだ。乗組員に配られるのは、飲用と体拭く用だな。女性には多めに支給されるが、それにケチつけるような野暮は、ネイルコード海軍にはいないぜ。
あと以外と洗濯用も多い。石けんが海水だと泡立たないとか。まぁこれで洗うのは、下着だけだがな。
米も、"炊く"ときはともかく、水を捨ててしまう"研ぎ"は海水で行うことが多いため、米には自然と塩味が付いてしまうので。塩味無しでの炊いたままの米…レイコ殿はこれを"ご飯"と呼んでいるが。船上では贅沢品だ。
「おにぎり。アレもうまいよな。魚を入れたやつ、好きだぜ。あと唐揚げも付けて欲しい」
お前、ほんと揚げ物好きだな。
「俺は酢の効いたピクルス入りだな。汗かいて疲れた後は滋味にうまい」
「ませこ飯のおにきり、好きてす」
「お、クマさん分かってるな」
会話に混じっているでかいラクーン一人。アライさんではなく、ネールソビン島から乗り込んだラクーンのお偉いさんの護衛だ。
アライさんを見慣れていると、まるで子供と大人だな。
「しかし、この護衛のラクーンさん、トクスラーさんだっけ? クマさんって呼んで良いのかね?」
アライさんの本名"キュルックル"よりは呼びやすいけどな。
「クマ、教えてもらった。てかくて黒くて強い。気に入った」
ラクーンでは結構な戦士だそうだが、まぁ本人が気にしないなのなら構わないか。船上では、呼びかけはスムーズな方が良いからな。
最初にクマ呼ばわりしたのは、レイコ殿だけど。まぁ他のラクーンに比べて黒いところが多く身長もでかく、裸で出てきたとしたら、確かにクマにしか見えないだろうな。
ネイルコードでは、クマはユルガルム地方で森に住んでいる。シカとか狩ってるそうだが、相当でかいのもいるらしい。
「東の大陸には、クマみたいなのはいないんだってよ。まぁクマさん見たいのがいるような大陸じゃ狩られちまったのかもな」
アライさんの要求で、ロトリー国に贈るために鶏を多めに積んでいる。向こうで養鶏をさせたいとのことだ。特に卵が欲しいらしい。…船内の離れたところにまとめて収容しているとはいえ、刻を告げる声で朝がうるさいが、まぁ元々皆早起きだ。
それに悪いことばかりではない。卵目的の鶏なだけに、船内で採れる卵の数も増えた。おかげで、ほぼ毎日卵が出るようになった。チャーハンもそういったメニューの一つだ。
「そういや。あじフライも付くそうだぞ」
「ああ…口の中がもうチャーハンとフライの味になってきた」
お前、ほんと揚げ物好きだな。
「はははは。まだ二時間ある。我慢して仕事しようぜ」
「クマ、てつたう」
なりはでかいけど、なんかかわいいんだよな、こいつ。あの島には奥さんに子供もいるそうだけど。
怪力の上に体重があるからな。荷物を運んだり、滑車でマストの上に部品持ち上げたりと手伝ってもらっている。この船内では、護衛は手持ち無沙汰だそうだ。
訓練の時間にも参加していたりする。初めて見るラクーンの武術だ、突きと横薙ぎが主体のなかなか面白い型が多くて見学者も多いが。…まぁこいつらと戦闘するようなことにはならないで欲しいな。
・Side:ツキシマ・レイコ
ネールソビン島にて、一旦アライさんを降ろしてカララクルさんに預けた後。船団は一旦セイホウ王国の首都テルローグに戻り。ウェルタパリア陛下とノゲラス宰相に詳細の報告の後。船団の人たちにも経緯を説明しました。
ノゲラス宰相の目論見としては、ラクーン側の敵意をたき付けることによって、ネイルコード国とロトリー国…いえ、人とラクーン達の対立…までは行かなくても。ネイルコード側には危機感を共有して欲しい…というところだったようです。
友好的に出来ればそれに越したことはないですが。ロトリー国をそこまで信用していないというか。やはり人とは違う種族となると、なれ合うのも恐いというか。危機感は拭えないと言ったところですか。私たちは、アライさんしか知らなかったですからね。
まぁ危機感を感じるのは良いのですが。あそこでラクーン達と全面対立とかなっていたらどうするつもりだったんでしょうね?
私たちが抵抗できたか?といえば可能だとは思いますが。その後はセイホウ王国だって無関係ではいられないでしょうに。
「…巻き込んだのですから。最悪くらいは想定しておいてくださいね」
…とは言いましたが。
今までの経緯からして、大陸にいる帝国の魔女は、ロトリー側に付いているように見えます。
帝国の魔女と一戦構える…なんて想定してこなかったな。今まで、メンター同時の戦闘なんてあったのかしら?
そもそもメンターの本質はデータだから、肉体での殴り合いなんて意味が無いし。…肉体言語でないとわかり合えないことなんて漫画の世界だけよね。本気でやるのなら、それこそ宇宙戦争とかになりそう…惑星破壊するレベルで。私には無理だけど。
ノゲラス宰相に釘刺しはしましたけど。実際はそこまでエスカレートすることはない…とは思うけど。やっぱ一番の懸念は、帝国が滅んだ理由ですか。
それが魔女の仕業…というのが一番に考えられるのですが。しかし私たちの大陸では、聖女として魔獣退治に活躍していたようです。人の敵という立場でもなさそう。
…理由は知りませんが、地球も遙か昔に滅んだって聞いたし。メンター絡みだと何かそうならざるを得ない事象とかあるのかな? このへんも、今回の渡航で、是非知っておきたいことです。
…そもそもとして。私に渡るメンター絡みの情報ってのは、赤井さんやレッドさんがある程度管理していると思うので。無理矢理帝国の魔女に会いに行こうとしても、それが赤井さんの意にそぐわぬ事なら、なにかしら妨害がはいるかと思っていたりしますが。
…まぁ心に留めておきましょう。
セイホウ王国からは、向こうの港町の近くの"人"の住む租借地、オーラン島というそうですが。そちらへの補給物資輸送と、セイホウ王国の外交官…引き続きカラサーム大使と侍従のナザレさんも、船団に同行します。ご苦労様です。
ロトリーへの交易品としては、まず砂糖と、こちらでしか取れないフルーツを干したり砂糖漬けにしたりしたもの。米や麦は向こうでは余り取れないそうですが、向こうの主食というわけでもないので、租借地への補給物資に追加する程度を持っていきます。こちらも向こうでは嗜好品扱いですね。
ネイルコード製の時計とか扇風機に冷蔵庫もいくつか持っていきます。ネイルコードがどの程度の文明の国かを理解してもらうには丁度良いですからね。
あと、アライさんの提言で、今回は鶏も持っていくことにしました。船ではもともと飼っていましたが。セイホウ王国で追加で購入しての搭載です。
目的は、肉より卵ですね。アライさん曰く、ロトリー国では卵を食べることはなかったそうです。まぁ卵を取るのに適した動物がいなかったのもあるでしょうが。安定して卵を産む鶏は…地球のそれより二回りでかいですが、重用されそうです。
今までセイホウ王国との会談のときの食事にも出ていたのでは?と思いますが。向こうは"人"の食べ物だからと特別なものとは感じていなかったようですね。
アライさん曰く、ネイルコードで卵を日常的に食べることになって、非常に気に入っているそうで。親善の贈り物としては丁度良いのでは?とのことです。
セイホウ王国にいる鶏は、元は東の大陸から来た物だそうですが。…帝国にいた鶏は一緒に全滅した? 街並そのものは残っていたそうですから、爆発とか焼き払ったという訳ではないようですが。全部食べられちゃったかな? お肉も美味しいし。
X線やガンマ線ならある範囲の生物を一掃出来そうですが。大陸全土に照射するなんてことを私がやろうとしたら、私毎爆心地どころの話ではなくなりそうです。うーん。
五日ほど準備に当てて、再度セイホウ王国の首都テルローグから出航です。
ロトリーの租借地であるネールソビン島に寄って、アライさんの回収。大陸での説明と案内の要員としてカララクルさんが同行します。あと今回、カララクルさんの護衛として、あの熊みたいなコクウェンさんも同行します。
あれはあのときのコクウェンさんの子供と、あとは奥さんかな? 出航前のお別れしています。…なんかこの家族の光景、覇王様を思い出します。今は駅の警備長さん、頑張っているだろうな。
出航した船団は、セイホウ諸島を離れ。蒸気機関と帆走を併用して、東に向かって速度を増します。
「こんな快適とはおもいませんてした」
カララクルさんらロトール組が感心しています。
天候は比較的安定しています。というか、再びレッドさんの偵察で、天候が荒れているところは避けるように進んでいますし。この船自体が、ロトリーのものより大きいそうで、乗り心地は悪くないようです。
今回の東の大陸への渡航では、往復と滞在で確実に四ヶ月、下手すると半年以上、さらにネイルコードへの帰還が遅れることになりますが。
私たちの大陸からは、初めての東の大陸への渡航となります。ネイルコード王国史には残るのは確実と言うことと。蒸気船への信頼感は船員さんたちにも浸透しており、不安より未知の大陸への期待の方が勝っているようです。
なによりオレク司令が、「帰国後、船団参加者全員に"東方渡航勲章"を授与するよう陛下に上申する!」なんていうものですから。むしろ士気は上がっています。名誉のある勲章の場合、ランクに寄りますが、退役後は年金が付くそうです。
「海に出てしまえば、どこも同じね。ネイルコードからセイホウ王国を経て、さらに東に来ているなんて信じられないわ」
海原をセレブロさんとともに眺めるマーリアちゃん。風に銀髪が靡いて絵になりますな。ちょっと日に焼けています。写メりたい。
・Side:船団の船員
「おーい!昼メシはチャーハンだってよ!」
「やったね! 大好物だ!」
「お米、好きてす」
セイホウ王国では、麦より米の方が安いそうだ。船内での小麦の備蓄はまだ十分だが、せっかくだからと米も食事として良く出るようになった。
「テルローグにいたときに食った白いご飯な、巫女様がよく食べてられる。味の付いていない米なんてうまいのかな?と思ったんだけどな。あれの食べ方はおかずと一緒に頬張るものなんだな。慣れるとあれもうまいぞ」
「ああ、俺も試したよ。煮物や焼き魚、なんでも合うけど。揚げ物とご飯は最強だな。"メシがススむ"の意味がよく分かったよ」
お前、ほんと揚げ物好きだな。野菜も食べなさいと叱られてたろ。
「この蒸気船でも真水は貴重だからな。せいぜいおにぎりってやつで我慢しておけ」
蒸気機関には真水が必須だそうだ。乗組員に配られるのは、飲用と体拭く用だな。女性には多めに支給されるが、それにケチつけるような野暮は、ネイルコード海軍にはいないぜ。
あと以外と洗濯用も多い。石けんが海水だと泡立たないとか。まぁこれで洗うのは、下着だけだがな。
米も、"炊く"ときはともかく、水を捨ててしまう"研ぎ"は海水で行うことが多いため、米には自然と塩味が付いてしまうので。塩味無しでの炊いたままの米…レイコ殿はこれを"ご飯"と呼んでいるが。船上では贅沢品だ。
「おにぎり。アレもうまいよな。魚を入れたやつ、好きだぜ。あと唐揚げも付けて欲しい」
お前、ほんと揚げ物好きだな。
「俺は酢の効いたピクルス入りだな。汗かいて疲れた後は滋味にうまい」
「ませこ飯のおにきり、好きてす」
「お、クマさん分かってるな」
会話に混じっているでかいラクーン一人。アライさんではなく、ネールソビン島から乗り込んだラクーンのお偉いさんの護衛だ。
アライさんを見慣れていると、まるで子供と大人だな。
「しかし、この護衛のラクーンさん、トクスラーさんだっけ? クマさんって呼んで良いのかね?」
アライさんの本名"キュルックル"よりは呼びやすいけどな。
「クマ、教えてもらった。てかくて黒くて強い。気に入った」
ラクーンでは結構な戦士だそうだが、まぁ本人が気にしないなのなら構わないか。船上では、呼びかけはスムーズな方が良いからな。
最初にクマ呼ばわりしたのは、レイコ殿だけど。まぁ他のラクーンに比べて黒いところが多く身長もでかく、裸で出てきたとしたら、確かにクマにしか見えないだろうな。
ネイルコードでは、クマはユルガルム地方で森に住んでいる。シカとか狩ってるそうだが、相当でかいのもいるらしい。
「東の大陸には、クマみたいなのはいないんだってよ。まぁクマさん見たいのがいるような大陸じゃ狩られちまったのかもな」
アライさんの要求で、ロトリー国に贈るために鶏を多めに積んでいる。向こうで養鶏をさせたいとのことだ。特に卵が欲しいらしい。…船内の離れたところにまとめて収容しているとはいえ、刻を告げる声で朝がうるさいが、まぁ元々皆早起きだ。
それに悪いことばかりではない。卵目的の鶏なだけに、船内で採れる卵の数も増えた。おかげで、ほぼ毎日卵が出るようになった。チャーハンもそういったメニューの一つだ。
「そういや。あじフライも付くそうだぞ」
「ああ…口の中がもうチャーハンとフライの味になってきた」
お前、ほんと揚げ物好きだな。
「はははは。まだ二時間ある。我慢して仕事しようぜ」
「クマ、てつたう」
なりはでかいけど、なんかかわいいんだよな、こいつ。あの島には奥さんに子供もいるそうだけど。
怪力の上に体重があるからな。荷物を運んだり、滑車でマストの上に部品持ち上げたりと手伝ってもらっている。この船内では、護衛は手持ち無沙汰だそうだ。
訓練の時間にも参加していたりする。初めて見るラクーンの武術だ、突きと横薙ぎが主体のなかなか面白い型が多くて見学者も多いが。…まぁこいつらと戦闘するようなことにはならないで欲しいな。
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