玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第8章 東方諸島セイホウ王国

第8章第028話 勧誘

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第8章第028話 勧誘

・Side:ツキシマ・レイコ

 「レイコ様、この国の食べ物が気に入られたのでしたら、いかがですかな? この国に住んでみるというのは」

 お。ノゲラス宰相、露骨に勧誘してきましたね。

 「お誘い魅力的ではありますが。ネイルコードにはすでに五年暮らしていますからね。なかなか離れがたいです」

 「ネイルコード国は、レイコ様がご降臨されてから大きく発展していると伺っております。是非ともセイホウ王国でもその手腕をお貸し戴きたいのですが…」

 同席しているカラサーム大使をチラ見してしまいます。ちょっと報告が不正確ですね。
 あ、ネタリア外相が苦い顔しています。それを見たノゲラス宰相、

 「ネタリア殿、レイコ殿は正式にネイルコード国に属しているというわけでは無いですよね。あくまで外国から来た大使格の扱いだけで、ネイルコードの貴族には列席していないと聞いております」

 「…おっしゃるとおりでございます。ノゲラス宰相」

 「ならば、レイコ殿を我が国に迎えても問題ないでしょう。他ならぬ赤竜神の巫女様です。セイホウ王国の貴族の一位…ネイルコードでの公爵や辺境候に相当する地位をご用意致しますよ」

 …あ、ネタリア外相が今度は苦笑しています。
 実は航海の間、この辺のシミュレーションはネタリア外相と散々してきました。それこそ、私を王位に就けるなんて想定も出て来てましたけど。ネタリア外相も、私がそういうのお断りというのを分かってますからね。

 「ノゲラス宰相。今のネイルコードの経済的発展は、エイゼル市領主にしてネイルコード国顧問のアイズン伯爵の功績です。私が来る前から伯爵とクライスファー陛下が推し進めていた政策は、私から見ても素晴らしい物でした。学ぶとしたら、私なんかよりはアイズン伯爵に学んだ方がこの国のためになると思いますよ」

 「…ネイルコード国の発展は、レイコ殿の功績ではないと? ご謙遜では?」

 「ネイルコードは、私が来る前から発展していましたよ。私がもたらした物は、それをこれからさらに推進するための便利な道具程度のものです」

 鉄道にしろ土木工事にしろ。私がしたのは今後の発展のためのせいぜい時短です。
 私が来るまで、正教国に居たカラサーム大使から見れば、ネイルコードはダーコラ国を間に挟んで、国境はバッセンベル領でそのさらに東、正教国の左遷先だった田舎の国でしたからね。セイホウ王国には正確な情報はあまり届いていなかったのでは?と思います。

 「それに、ネイルコードは居心地が良いんですよね。アイズン伯爵は、最初から私と適度に距離を置いてくれてましたし。今も街で普通に暮らせるように、国からも配慮して戴いています。…私には、貴族なんて無理ですよ」

 影さんたちの護衛さんとか。私の普通のために、少なくない労力を強いてしまっています。この辺はほんと感謝しています。

 「私が、ネイルコードの爵位を正式に持っておらず大使格なのも、その辺のお気遣いによるものです。私はそれらに非常に感謝しておりますし。この心配りにできるだけ応えたいと思って、いろいろ働かせてもらってます。もし、最初に訪れたのが隣国のダーコラとか昔の正教国だったりしたら、多分、私に色々強要しようとした貴族なら王族やらを片っ端に再起不能にしていたでしょうね。それこそ、国を滅ぼすまで戦っていたかも…」

 「レイコは、ダーコラでは活躍だったものね」

 「正教国も…まぁ大きな変革を求められ事になりました」

 ダーコラや正教国でネイルコードと同じようなことをしようとしてたら…国体ぶっ壊して再構築して人材発掘と育成して…十年では足りないでしょう。それだけの下地がネイルコードにはすでにありました。

 「それ以前に。誰かを従わせるとか命令するのって苦手なんです。まして傅かれるなんて苦痛です。そうなってたら、国を作り直すなんてことを始めるより、どっかの山の中で隠遁生活する可能性の方が高かったかも…」

 「ネイルコードでは、レイコ殿を国体に招いたり従わせることは早々に諦めました。赤竜神の巫女様に土下座させたとなれば、醜聞は免れませんからな。ともかく、自然体で過ごして戴くことに注力することになりました」

 「…もしかして、レイコ殿はネイルコード王の前でも?」

 そういえば、私がネイルコードのお城でクライスファー陛下に土下座したとき、ネタリア外相もいましたよね。

 「くふふっ。一国の王とは言え、赤竜神の巫女様に土下座させたとなれば、他国からの非難は免れないところですが。少なくとも今後、セイホウ王国からは避難されることはないでしょう。普通、下手に出ることは外交にはマイナスとされますが。レイコ殿に限ってはその限りでは無いと言うことですな」

 「…なるほど…巫女様をこの国にお招きするのは難しそうですな。いかがですかな?レイコ殿。納豆も食べ放題ですよ?」
 「ノゲラス…さすがに納豆で勧誘は無理があります」

 ウェルタパリア陛下が窘めます。いくらなんでも、ネイルコードの生活を捨てるほど、納豆好きでも無いですよ。
 私を勧誘できれば、小竜神ことレッドさんももれなく付いてくる…ではありますが。まぁ宰相の様子だと、本気で勧誘できるとは思っていなかったようですが。

 「レイコ殿の去就はレイコ殿自身が決めることではありますが。レイド殿のもたらされた英知については、今年から正教国経由で誰でも入手することが出来るようになりましたし。それらによる製品も自由に購入することも出来ます」

 「それでも。レイコ様がおられれば、国防も楽になるでしょうな」

 「そりゃ、私も生活の場が大切ですから、守りもします。それだけですよ。まして侵略には絶対に加担しませんよ」

 専守防衛です。ちょっかい出されなければ、わざわざ出向きませんよ。

 「…ノゲラス宰相、現在のセイホウ王国になにか国防上の懸念が?」

 ネタリア外相が質問します。…仮に知られていない脅威があるとしても、それこそ機密だと思いますが。
 回答を控えるノゲラス宰相。何か存念はありそうですね。…ネイルコードを仮想敵とでもしているのかな?

 「まぁ社会で暮らしていく以上、他者や国とまったく関わりを持たずにという訳には行かないですが。アイズン伯爵の所は、それが丁度良いんですよ。他の所だと、あそこまで居心地が良くならなかったと思います」

 「そこまで開放的ですか?ネイルコード王国は」

 平民から搾取して当たり前…という貴族も居ましたからね。バッセンベルとか。そんな現場見たら、たぶん暴れてました。

 「押さえつけるか解放するか。今後、狭窄的に押さえつけることを選んだ勢力は、解放した勢力に飲み込まれるだけでしょう」

 「…やはり、大して選択肢は無いか」

 「アイズン伯爵が望む望まないに関わらず、ネイルコードは経済的に大陸を侵略しているとも言えます。正教国はそのへんきちんと理解していますから、負けじと頑張っていますけどね」

 リシャーフさん、頑張ってます。

 「近隣の国は大混乱しそうだが。レイコ殿は、それを是としているのかね?」

 「競争は進歩を促します。ただ、国防が国益に適うからと言って、過剰な軍拡は非生産的ですからね。人死無しで競争できるのなら、それが最良だと思っていますし。まぁ赤井さん…赤竜神から触り程度しか聞いていませんが、それによる文化文明の進歩こそ赤竜神の期待するところじゃないかと思っています。私が送られた理由の一部ではないかと」

 「レイコ殿。いいのですか? そのような赤竜神様に関わる話を私共にしても…」

 「すでに私の昔の話とかいろいろばらまいていますしね、今更です。それに、私の知識と言っても私の居た世界では先人の知識に過ぎない物ばかりです。遅かれ早かれ、この世界でも誰かがたどり着くでしょう。貴族だ面子だなんてものも、どのみち形骸化します」

 「…レイコ殿は、報酬で動くようなこともなさそうですな」

 「今でもけっこう貰っちゃってますからね。使い道が無いので、生活費分残して医療や教育と国土開発に投資しまくってます。人口が増えるのなら、物を外国に売るだけでは無く、内需を高くしないと見通し暗くなりますからね」

 「我が国も、人口の増加に伴う問題がいくらか出てきているのだが。ここも島国ですからね。内需を高くか…貿易で稼ぐのではまずいのですかな?」

 「外需は、他国の景気や情勢に左右されるので、依存しすぎるのはお薦めしません。国の利益の二割以下が理想で、三割超えたら危険…と言われていましたね」

 「セイホウ王国は島国ですからな。必然的に交易の拡大は考えていたのだが」

 「内需のために資源を入手するのに海運は必須ですので、船は揃えて良いと思います。ただ、外側と商売よりは、国内での商売を優先したいところです」

 内需外需という話をきちんと理解できるあたり、ノゲラス宰相は優秀かと思います。ただまぁいろいろ話をするに、貴族を優遇したいとは考えていないとしても。平民庶民を優遇…とは行かなくても、市場や労働力として育てるという考えまではまだ行っていない感じですね。せいぜい商会を育てるというところ止りという感じです。

 「…惜しいですな。わしの孫が九つになったところなのだが。…レイコ殿はやはり見た目通りのお歳ではないようですな」
 私が今のままの姿で歳を取らないって情報はきちんと伝わっているようです。ネイルコードに来たときから成長していたら、今頃は中学生くらいの背格好にはなっているはず。

 「女性に歳を聞くのは野暮ですよ。ノゲラス」

 ウェルタパリア陛下の指摘に、大笑いする宰相さんでした。

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