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第8章 東方諸島セイホウ王国
第8章第009話 エイゼル駅にて
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第8章第009話 エイゼル駅にて
・Side:ツキシマ・レイコ
「レイコまま~っ! 馬車来たよ~っ!」
「はーい。みんな準備はいい?」
「「「いいよ~っ!」」」
領庁の方で手配してくれた馬車が迎えに来たようです。
今日は、この世界での初の鉄道の開通式です。
エイゼル市と王都の間を結ぶ三十キロほどの路線。
まだ単線なので、中間地点の駅で一時停車してすれ違うことになります。この辺の仕組みは、日本での昔の単線路線を真似させてもらい、タブレットと言われるものを交換することで、単線の両方から列車が来て衝突…という事故を防ぐようになっています。
ということで、この路線には常時二編成の列車が同時に運行することになりますので。開業式典は両端の王都とエイゼル市の両方で行われます。
私とマーリアちゃんは貴賓扱いでエイゼル市側の式典に出席します。アイズン伯爵は王都の方に呼ばれてしまいました。入れ替わりに、エイゼル市の式典には、カステラード殿下が国王名代として出席します。
式典の後は初の商業運行となります。本日の客車は全席招待制。私の枠で四人分の招待枠を取れましたが。今日は、私とレッドさん、タロウさんにハルカちゃん、あとウマニ君とベールちゃんの分をねじ込みました。さらにアライさんも一緒に行くことになってます。
最初は、式典にも参加するマーリアちゃんを同乗に誘ったのですが。
「他国からの賓客も大勢来る場所でしょ。セレブロさんが居ない所となるとね…。私はセレブロさんと一緒に馬車で行くわ」
「あ~なるほど了解」
マーリアちゃんへの声かけ案件が頻発ですね。セレブロさんが居るところなら問題になることは少ないのですが。客車の中や目的地の王都ではそうはいかなくなります。
超絶美少女のマーリアちゃん、エイゼル市にはマーリアちゃんがどういう娘か知らない人はいませんが。貴族街を歩いていると、他の地域から来た貴族が声をかけてくることがたまにあります。まして今日の式典、外国からの招待客も多いですから、他国の貴族とかが絡んでくると、いろいろ面倒そうです。…とくに暴力沙汰になった後とか。
未だに西の国々には、ネイルコードのことを東の端の田舎と侮っている人が多いそうで。そんな国でなら好き勝手にやらかしても…というのは、以前もカーラさんの眼鏡の件でありましたしね。町並み見れば侮れないことくらい分かりそうな物ですが。
エルセニム王国の王女にして大使、ネイルコード王国では伯爵格で。バックにはアイズン伯爵にネイルコード王室も付いている娘です。さらにマナ術の達人で、そこらの騎士が束になっても敵いません。…なんでこんな娘が食堂で給仕もやってるんでしょうね?
まぁこれくらいの肩書きがあれば、他国の王族相手でもはね除けられますが。実際に事が起こったりしたら始末が面倒なことこの上ない。
アライさんも目立ちますけど、さすがに彼女を口説く人は出ないでしょう。知っている人からは愛玩的に大人気なアライさん。服もちょっとおめかしさん。レッドさんを抱っこしてもらいますので、この辺も「見れば分かるアンタッチャブル有名人」となります。
…マーリアちゃんには、レッドさんバリアーはあまり効かないんですよね。寄ってくる男は視野が狭くなると言うか、レッドさんに気がつかないことがまま…
アイリさんは、ターダ君がまだ乳児ですので、今日はパス。ファルリード亭の面々は、店が盛況で手が離せないそうです。後日空いてから、乗車には招待する予定です。一度は乗っておかないとね。
タロウさんは今日、ランドゥーク商会の代表としての招待です。アイリさんの尻に敷かれている感はありますが、こう見えても大商会の跡取りですからね。
「汽車!汽車だ!」
「しゅぽーって言うんだよ!しゅぽーって!」
馬車で駅に近づくと、停車している列車が見えてきます。子供達は大興奮ですね。
先頭の機関車。基本的構成は地球の蒸気機関車に似ていますが。石炭を焚く釜は無くマナ塊を使ったボイラーですので、煙突がありません。石炭車は無く、運転席の前に真水タンクが付いています。これらの分、地球の蒸気機関車よりスマートでコンパクトです。
先端には三角の特徴的なバンパー…カウキャッチャーというそうですが、それが付いています。王都までには必要ない装備ですが、用心として採用されました。シルエットだけなら最初の新幹線に見えるかも?
…私がこの国に来て五年でここまでくるとは。すごいです職人さん達。
続いて今日は、貨車が四両に客車が四両。もしもの衝突時を考えて貨車が前です。ただ、それぞれの長さは日本の列車の半分くらい。馬車ではこれ以上長い車体フレームのパーツをユルガルムから輸送できなかったからです。ユルガルムまで開通したら、鉄道で列車のパーツを運べるようになるので。今のこの路線の機材は、機材のテストや運行問題点掘り出しなどの公試でもあります。
貨車のいくつかは、冷凍コンテナを馬車からスライドさせて直接乗せられるようになっています。エイゼル市からは新鮮な魚を王都に運ぶことが出来るようになるわけです。このコンテナもサイズを規格化して、貨物船にもそのまま乗せられるように準備が進んでいます。今日は新鮮な魚を冷蔵で運んで、今夜の王宮でのパーティーに供される予定です。
客車は順に、二等、一等、特等という感じです。本日は特等車の代わりに王族や貴賓用の特別仕様のパノラマカーが接続されています。前方も見られるように、一部二階席としてガラス張りの展望席まで作っちゃってますよ。内装も豪華です。
二等と一等の客車の席は、通路を挟んで横に合計四席。二席が向かい合って、間に窓があるという、地球の昔の列車の配置です。
私たちは二席が向かい合った四席分を戴いたのですが。私と子供達一人とアライさんで二席分。タロウさんと子供二人で二席分。レッドさんは抱っこで。ちょっと窮屈ではありますが、今日は歴史的なイベントですからね。子供達三人そろって、仲間はずれはよろしくありません。
最初は私とマーリアちゃんだけでパノラマカーの方に招待されていたのですが。…まぁ同乗する客層を考えるとご遠慮したい。それにこんなイベント、一人じゃ寂しいです。
ちなみに。しばらくは、チケットは全席予約制になるそうです。まぁキャラバンに旅客として同行するときにも、事前に予約は必要ですから。旅の手間としては従来と大差ない感じとのことですが。
駅舎の場所は、ファルリード亭前の通りを東へ、カラスウ河を渡ってちょい南に建てられています。
貴族街や商業区画にはもう土地が無いですからね。そちらから駅へ直行できるように、カラスウ河に新しい橋が据えられました。
駅の周りには新しい建物が建築ラッシュです。目ざとい商人は、街の中心地がこちらに移ることを見越して、土地の確保に躍起です。貴族街とを結ぶ街道脇は、もうほとんど抑えられてしまっています。
ランドゥーク商会とファルリード亭も、こちらに土地を確保してありまして。ランドゥーク商会の方はファッション系のお店を。ファルリード亭は本家と同じく宿泊施設に食堂に銭湯。新しく人も雇って事業拡大ということだそうで。モーラちゃんもいきなり幹部候補ですよ。
「レイコ殿、よくぞいらっしゃいました」
「あっ! ご苦労様です、覇王様! 制服、お似合いですね」
「うむ、ありがとうございます。子供達にも好評ですよ、これ」
真新しい制服を着て敬礼しているのは、なんと覇王様です。いつもとちょっと口調が違いますね。
鉄道事業を始めるに当たって。組織の構築や従業員の調達は大変だったそうです。
運行計画から駅の運営、列車の運転は当然として、メンテナンス、補給。施設や装備の警備や定期的検査等々。やるべきことは多岐にわたります。
内容を見たカステラード殿下のお言葉。
「この組織と、求められる規律。もう軍隊と大差ないな…」
これが切っ掛けになったかは不明ですが。鉄道の組織も軍隊のそれをそのままコピー、人員も西の国境配備が縮小した分をスライドさせて確保することになりました。軍民問わずというか、軍人護衛業問わず、広く募集されました。
覇王様は、実はバッセンベル領の貴族の出で、意にそぐわない結婚をさせられそうな奥さんと出奔してきました。その後、なんとか実家の方とは折り合いを付けたのですが。他の貴族に仕えない、軍に入らないというのを条件とされたそうです。道理で、風格とか技量が秀でていたはずです。
バッセンベル領はああなりましたけど、律儀に約束は守っていたところ。鉄道なら軍隊でも貴族でも無いだろう…ということで。日本で言うのなら鉄道警備隊ですか、そちらのエイゼル区間の責任者にスカウトされました。
この辺、鉄道によって需要に変化があるキャラバン要員の配置事業の一環でもあります。馬車による輸送がすぐに無くなることは無いですが、護衛の仕事は確実に目減りしますからね。鉄道という組織の発足は、荒事にも慣れている護衛職には適していると判断されました。
今日は非常に混雑している上に要人も多いですし。駅内の警備は大変なようです。
ちなみに。モヒカンズ達はもともと覇王様の従者だったそうですが。なんと今は運転手として訓練を受けているそうです。SLの運転手、時代が時代なら子供達の憧れの職業ですよ。
馬車には駅前で下ろしてもらい、いろいろ見ながら式典会場に向かいます。ほとんどお祭りですからね。
駅舎にはいろいろお店が入っていて、乗車前に周われるようになっています。お土産屋とか食べ物の屋台とか、あとは目玉の駅弁の売店!。いい匂いが漂ってきます。
列車の旅と言っても、王都まで途中停車含めて一時間半くらいなのですが。流れる景色を見ながら食べるお弁当は文化として定着してほしいですね。
お店で、港サンドと竹筒水筒に入ったお茶を人数分買って、タロウさんが持ってくれます。カヤンさんが弁当作ろうか?と言ってくれたのですが。駅で買うというのも旅の醍醐味ですよ、はい。
式典の時間まで他のお店も覗こうかな?と思っていると。
「レイコ殿っ! おひさしぶりですね。小竜神様もご壮健のようで何よりです」
「リシャーフさんっ お久しぶりです。こちらに来られていたんですね」
「クーッククッ!」
正教国のリシャーフさんです。赤竜教の祭司総長でもある超VIPなのですが。
「タルーサさん、トゥーラさんもお久しぶりです。にしても護衛の人が少ないですけど、大丈夫ですか?」
いつもの護衛騎士であるタルーサさんとトゥーラさんにも挨拶します。
「お久しぶりです、レイコ様、小竜神様。…まぁネイルコードが治安がいいですからね」
と、タルーサさんが視線をキョロキョロ。ああ、周囲に伏せている護衛の方々がいるんですね。
「大勢でぞろぞろだと悪目立ちしますからね。リシャーフ様はエイゼル市に来たからにはいろいろ楽しみたいでしょうし。この駅ってのもすごいですね、ほっといたらリシャーフ様、全部のお店を見て回っていますよ」
とトゥーラさん。なにげにフットワークが軽いのは相変わらずですね。
「鉄道開通式典には、最初は名代が出席の予定だったんだけど。まぁいろいろ些事のついででこちらにね。ネイルコードの高速帆船が定期便になってくれたから、旅も楽よね」
クイーンローザリンテ号の量産型が結構建造されていまして。貨客船としてダーコラや正教国、さらにその西への航路を築いています。香辛料や砂糖なんかも、けっこう安くなって来ましたし。エイゼルの港はもう国際港湾都市って感じです。
「あら、"えきべん"買ったのね。私も食べたかったんだけど、お付きに止められてね…残念だわ」
「リシャーフ様は赤竜教のトップなのです。そこらの食べ物をむやみにお口に入れられては…」
「そうですよ。市井の物は私たちが食べてからです」
「ずるいわよ、トゥーラ…」
このへん相変わらずな感じです。あ、トゥーラさんがアライさんをかまいに…
「今日は、伯爵邸の料理長が軽食を持たせてくださいました。あとで汽車の中で戴きましょう」
「気が利くわね! タルーサ。道理であなたの荷物からいい匂いがすると思ったわ」
お三方の後ろに、同行者がいるのに気がつきました。目が合った私を見て会釈をしています。
壮年の男性、着ている物は貴族並に上等ですが。正教国の祭司とはちょっと違う宗教色を感じる装いですね。かぶり物が、祭司と言うより仏教の僧正って感じです。
「あっとレイコ殿。こちらは、セイホウ王国から来られたカラサーム・ハルク・ビシャーラン大使です」
セイホウ王国というのは、東方諸島にある国名です。東方なのに西方ってことで面白い名前ですね。…東にあるのに西武、池袋か?
「このようなところでの拝謁、失礼いたします、赤竜神の巫女レイコ様、遙か西の果てでの御邂逅、赤竜神様のお導きと…」
「やめてください!やめてください! こんなところで膝付かないでっ!」
ここはお弁当屋の前ですよっ!
・Side:ツキシマ・レイコ
「レイコまま~っ! 馬車来たよ~っ!」
「はーい。みんな準備はいい?」
「「「いいよ~っ!」」」
領庁の方で手配してくれた馬車が迎えに来たようです。
今日は、この世界での初の鉄道の開通式です。
エイゼル市と王都の間を結ぶ三十キロほどの路線。
まだ単線なので、中間地点の駅で一時停車してすれ違うことになります。この辺の仕組みは、日本での昔の単線路線を真似させてもらい、タブレットと言われるものを交換することで、単線の両方から列車が来て衝突…という事故を防ぐようになっています。
ということで、この路線には常時二編成の列車が同時に運行することになりますので。開業式典は両端の王都とエイゼル市の両方で行われます。
私とマーリアちゃんは貴賓扱いでエイゼル市側の式典に出席します。アイズン伯爵は王都の方に呼ばれてしまいました。入れ替わりに、エイゼル市の式典には、カステラード殿下が国王名代として出席します。
式典の後は初の商業運行となります。本日の客車は全席招待制。私の枠で四人分の招待枠を取れましたが。今日は、私とレッドさん、タロウさんにハルカちゃん、あとウマニ君とベールちゃんの分をねじ込みました。さらにアライさんも一緒に行くことになってます。
最初は、式典にも参加するマーリアちゃんを同乗に誘ったのですが。
「他国からの賓客も大勢来る場所でしょ。セレブロさんが居ない所となるとね…。私はセレブロさんと一緒に馬車で行くわ」
「あ~なるほど了解」
マーリアちゃんへの声かけ案件が頻発ですね。セレブロさんが居るところなら問題になることは少ないのですが。客車の中や目的地の王都ではそうはいかなくなります。
超絶美少女のマーリアちゃん、エイゼル市にはマーリアちゃんがどういう娘か知らない人はいませんが。貴族街を歩いていると、他の地域から来た貴族が声をかけてくることがたまにあります。まして今日の式典、外国からの招待客も多いですから、他国の貴族とかが絡んでくると、いろいろ面倒そうです。…とくに暴力沙汰になった後とか。
未だに西の国々には、ネイルコードのことを東の端の田舎と侮っている人が多いそうで。そんな国でなら好き勝手にやらかしても…というのは、以前もカーラさんの眼鏡の件でありましたしね。町並み見れば侮れないことくらい分かりそうな物ですが。
エルセニム王国の王女にして大使、ネイルコード王国では伯爵格で。バックにはアイズン伯爵にネイルコード王室も付いている娘です。さらにマナ術の達人で、そこらの騎士が束になっても敵いません。…なんでこんな娘が食堂で給仕もやってるんでしょうね?
まぁこれくらいの肩書きがあれば、他国の王族相手でもはね除けられますが。実際に事が起こったりしたら始末が面倒なことこの上ない。
アライさんも目立ちますけど、さすがに彼女を口説く人は出ないでしょう。知っている人からは愛玩的に大人気なアライさん。服もちょっとおめかしさん。レッドさんを抱っこしてもらいますので、この辺も「見れば分かるアンタッチャブル有名人」となります。
…マーリアちゃんには、レッドさんバリアーはあまり効かないんですよね。寄ってくる男は視野が狭くなると言うか、レッドさんに気がつかないことがまま…
アイリさんは、ターダ君がまだ乳児ですので、今日はパス。ファルリード亭の面々は、店が盛況で手が離せないそうです。後日空いてから、乗車には招待する予定です。一度は乗っておかないとね。
タロウさんは今日、ランドゥーク商会の代表としての招待です。アイリさんの尻に敷かれている感はありますが、こう見えても大商会の跡取りですからね。
「汽車!汽車だ!」
「しゅぽーって言うんだよ!しゅぽーって!」
馬車で駅に近づくと、停車している列車が見えてきます。子供達は大興奮ですね。
先頭の機関車。基本的構成は地球の蒸気機関車に似ていますが。石炭を焚く釜は無くマナ塊を使ったボイラーですので、煙突がありません。石炭車は無く、運転席の前に真水タンクが付いています。これらの分、地球の蒸気機関車よりスマートでコンパクトです。
先端には三角の特徴的なバンパー…カウキャッチャーというそうですが、それが付いています。王都までには必要ない装備ですが、用心として採用されました。シルエットだけなら最初の新幹線に見えるかも?
…私がこの国に来て五年でここまでくるとは。すごいです職人さん達。
続いて今日は、貨車が四両に客車が四両。もしもの衝突時を考えて貨車が前です。ただ、それぞれの長さは日本の列車の半分くらい。馬車ではこれ以上長い車体フレームのパーツをユルガルムから輸送できなかったからです。ユルガルムまで開通したら、鉄道で列車のパーツを運べるようになるので。今のこの路線の機材は、機材のテストや運行問題点掘り出しなどの公試でもあります。
貨車のいくつかは、冷凍コンテナを馬車からスライドさせて直接乗せられるようになっています。エイゼル市からは新鮮な魚を王都に運ぶことが出来るようになるわけです。このコンテナもサイズを規格化して、貨物船にもそのまま乗せられるように準備が進んでいます。今日は新鮮な魚を冷蔵で運んで、今夜の王宮でのパーティーに供される予定です。
客車は順に、二等、一等、特等という感じです。本日は特等車の代わりに王族や貴賓用の特別仕様のパノラマカーが接続されています。前方も見られるように、一部二階席としてガラス張りの展望席まで作っちゃってますよ。内装も豪華です。
二等と一等の客車の席は、通路を挟んで横に合計四席。二席が向かい合って、間に窓があるという、地球の昔の列車の配置です。
私たちは二席が向かい合った四席分を戴いたのですが。私と子供達一人とアライさんで二席分。タロウさんと子供二人で二席分。レッドさんは抱っこで。ちょっと窮屈ではありますが、今日は歴史的なイベントですからね。子供達三人そろって、仲間はずれはよろしくありません。
最初は私とマーリアちゃんだけでパノラマカーの方に招待されていたのですが。…まぁ同乗する客層を考えるとご遠慮したい。それにこんなイベント、一人じゃ寂しいです。
ちなみに。しばらくは、チケットは全席予約制になるそうです。まぁキャラバンに旅客として同行するときにも、事前に予約は必要ですから。旅の手間としては従来と大差ない感じとのことですが。
駅舎の場所は、ファルリード亭前の通りを東へ、カラスウ河を渡ってちょい南に建てられています。
貴族街や商業区画にはもう土地が無いですからね。そちらから駅へ直行できるように、カラスウ河に新しい橋が据えられました。
駅の周りには新しい建物が建築ラッシュです。目ざとい商人は、街の中心地がこちらに移ることを見越して、土地の確保に躍起です。貴族街とを結ぶ街道脇は、もうほとんど抑えられてしまっています。
ランドゥーク商会とファルリード亭も、こちらに土地を確保してありまして。ランドゥーク商会の方はファッション系のお店を。ファルリード亭は本家と同じく宿泊施設に食堂に銭湯。新しく人も雇って事業拡大ということだそうで。モーラちゃんもいきなり幹部候補ですよ。
「レイコ殿、よくぞいらっしゃいました」
「あっ! ご苦労様です、覇王様! 制服、お似合いですね」
「うむ、ありがとうございます。子供達にも好評ですよ、これ」
真新しい制服を着て敬礼しているのは、なんと覇王様です。いつもとちょっと口調が違いますね。
鉄道事業を始めるに当たって。組織の構築や従業員の調達は大変だったそうです。
運行計画から駅の運営、列車の運転は当然として、メンテナンス、補給。施設や装備の警備や定期的検査等々。やるべきことは多岐にわたります。
内容を見たカステラード殿下のお言葉。
「この組織と、求められる規律。もう軍隊と大差ないな…」
これが切っ掛けになったかは不明ですが。鉄道の組織も軍隊のそれをそのままコピー、人員も西の国境配備が縮小した分をスライドさせて確保することになりました。軍民問わずというか、軍人護衛業問わず、広く募集されました。
覇王様は、実はバッセンベル領の貴族の出で、意にそぐわない結婚をさせられそうな奥さんと出奔してきました。その後、なんとか実家の方とは折り合いを付けたのですが。他の貴族に仕えない、軍に入らないというのを条件とされたそうです。道理で、風格とか技量が秀でていたはずです。
バッセンベル領はああなりましたけど、律儀に約束は守っていたところ。鉄道なら軍隊でも貴族でも無いだろう…ということで。日本で言うのなら鉄道警備隊ですか、そちらのエイゼル区間の責任者にスカウトされました。
この辺、鉄道によって需要に変化があるキャラバン要員の配置事業の一環でもあります。馬車による輸送がすぐに無くなることは無いですが、護衛の仕事は確実に目減りしますからね。鉄道という組織の発足は、荒事にも慣れている護衛職には適していると判断されました。
今日は非常に混雑している上に要人も多いですし。駅内の警備は大変なようです。
ちなみに。モヒカンズ達はもともと覇王様の従者だったそうですが。なんと今は運転手として訓練を受けているそうです。SLの運転手、時代が時代なら子供達の憧れの職業ですよ。
馬車には駅前で下ろしてもらい、いろいろ見ながら式典会場に向かいます。ほとんどお祭りですからね。
駅舎にはいろいろお店が入っていて、乗車前に周われるようになっています。お土産屋とか食べ物の屋台とか、あとは目玉の駅弁の売店!。いい匂いが漂ってきます。
列車の旅と言っても、王都まで途中停車含めて一時間半くらいなのですが。流れる景色を見ながら食べるお弁当は文化として定着してほしいですね。
お店で、港サンドと竹筒水筒に入ったお茶を人数分買って、タロウさんが持ってくれます。カヤンさんが弁当作ろうか?と言ってくれたのですが。駅で買うというのも旅の醍醐味ですよ、はい。
式典の時間まで他のお店も覗こうかな?と思っていると。
「レイコ殿っ! おひさしぶりですね。小竜神様もご壮健のようで何よりです」
「リシャーフさんっ お久しぶりです。こちらに来られていたんですね」
「クーッククッ!」
正教国のリシャーフさんです。赤竜教の祭司総長でもある超VIPなのですが。
「タルーサさん、トゥーラさんもお久しぶりです。にしても護衛の人が少ないですけど、大丈夫ですか?」
いつもの護衛騎士であるタルーサさんとトゥーラさんにも挨拶します。
「お久しぶりです、レイコ様、小竜神様。…まぁネイルコードが治安がいいですからね」
と、タルーサさんが視線をキョロキョロ。ああ、周囲に伏せている護衛の方々がいるんですね。
「大勢でぞろぞろだと悪目立ちしますからね。リシャーフ様はエイゼル市に来たからにはいろいろ楽しみたいでしょうし。この駅ってのもすごいですね、ほっといたらリシャーフ様、全部のお店を見て回っていますよ」
とトゥーラさん。なにげにフットワークが軽いのは相変わらずですね。
「鉄道開通式典には、最初は名代が出席の予定だったんだけど。まぁいろいろ些事のついででこちらにね。ネイルコードの高速帆船が定期便になってくれたから、旅も楽よね」
クイーンローザリンテ号の量産型が結構建造されていまして。貨客船としてダーコラや正教国、さらにその西への航路を築いています。香辛料や砂糖なんかも、けっこう安くなって来ましたし。エイゼルの港はもう国際港湾都市って感じです。
「あら、"えきべん"買ったのね。私も食べたかったんだけど、お付きに止められてね…残念だわ」
「リシャーフ様は赤竜教のトップなのです。そこらの食べ物をむやみにお口に入れられては…」
「そうですよ。市井の物は私たちが食べてからです」
「ずるいわよ、トゥーラ…」
このへん相変わらずな感じです。あ、トゥーラさんがアライさんをかまいに…
「今日は、伯爵邸の料理長が軽食を持たせてくださいました。あとで汽車の中で戴きましょう」
「気が利くわね! タルーサ。道理であなたの荷物からいい匂いがすると思ったわ」
お三方の後ろに、同行者がいるのに気がつきました。目が合った私を見て会釈をしています。
壮年の男性、着ている物は貴族並に上等ですが。正教国の祭司とはちょっと違う宗教色を感じる装いですね。かぶり物が、祭司と言うより仏教の僧正って感じです。
「あっとレイコ殿。こちらは、セイホウ王国から来られたカラサーム・ハルク・ビシャーラン大使です」
セイホウ王国というのは、東方諸島にある国名です。東方なのに西方ってことで面白い名前ですね。…東にあるのに西武、池袋か?
「このようなところでの拝謁、失礼いたします、赤竜神の巫女レイコ様、遙か西の果てでの御邂逅、赤竜神様のお導きと…」
「やめてください!やめてください! こんなところで膝付かないでっ!」
ここはお弁当屋の前ですよっ!
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