玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第7章 Welcome to the world

第7章第039話 セレブロさんの仔供達

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第7章第039話 セレブロさんの仔供達

・Side:ツキシマ・レイコ

 「レイコ!レイコっ! セレブロがっ! 生まれるって!」

 もうそろそろ春も終わりという時節、夜も更けた頃にセレブロさんが産気づきました。
 人間ほど目立つわけでは無いですが、もう見る人が見ればわかるお腹のセレブロさん。レッドさん診断では、出産間近ということでしたが。

 マーリアちゃんの部屋ではいささか手狭なので。馬小屋の一部に壁を追加して閉め切れるようにして、産屋として準備はしてあります。季節柄、気温も問題なしですが、一応マナの暖房器は用意してありますよ。
 あと。お医者さんや産婆さん…もちろん銀狼を見てくれるような獣医なんてものはいないわけですが。マーリアちゃんが頭を下げて、騎馬ギルドで馬の出産を扱える人と、産院の方から手空きの産婆さんにも見て貰えるように手配済みです。念のため。

 「わし、馬専門だから。狼の出産は見たことも無いから。どこまでお役に立てるか分からないよ? 猫の出産には立ち会ったことあるけど、ほんと立ち会っただけだよ?」

 「まぁ子供を産むのは動物でも大変だろ。万全は約束できないが、出来ることはさせて貰うよ」

 と、了承していただけました。
 あ。セレブロさんはたぶん猫の仲間なのでと騎馬ギルドの方に言ったところ、先の反応です。…まぁ経験と見当が全くないよりはね。
 もちろん、レッドさんのモニタリング付きです。

 周囲の準備が整うまで、アイリさんとミオンさん妊婦コンビが、セレブロさんをかいがいしく世話しています。なんか同じ妊婦同士でシンパシーを感じているようです。
 マーリアちゃんが促して、準備のできた馬小屋の方に連れて行きます。馬小屋まで自分で歩いて移動できるだけ、やっは野生動物はすごいなと思いました。
 騎馬ギルトの人、産院の人、それにマーリアちゃんが立ち会います。それ以上人が群がっていてもしょうがないので、他の面々は居間の方で待ちます。


 産屋に入って二時間くらいで最初の仔が産まれたようです。マーリアちゃんが報告に来ました。あとは三十分おきにさらに二匹。
 皆で馬小屋の方を伺いに行くと、「キューキュー」という鳴き声がします。

 皆でそっと覗き込むと…ああ、結構大きいですね。ゴールデンレトリバーの生まれて数日の仔犬を見せてもらったことがありますが。コロコロした感じはそっくりですが、大きさは人間の赤ちゃんくらい。まだ目は開いていません。
 うーん。ライオンやトラの赤ちゃんは一キログラムくらいだと聞いたことがありますが。これが牛や馬だと数十キロだったと思います。セレブロさんの仔供が正常な体重なのか、ちょっとわからないですけど。
 草食動物の赤ちゃんは、産まれたときから自分で歩けないといけないので、大きくなってから産まれる…と聞いたことがあります。セレブロさんの大きさからして、赤ちゃんはこれくらいでいいのかな?

 産婆さんは、銀狼も産湯に付けていいものかと考えたそうですが。セレブロさんが起き出してペロペロしますので、なるだけ休ませてあげたいと洗ってあげることにしたそうです。
 マーリアちゃんと産婆さんが仔狼を人肌のお湯に入れて簡単に流してあげて、拭いてあげて。横になっているセレブロさんのお腹の側に置いてあげると、お腹に吸いつきました。
 乳を吸う三匹の仔犬…仔猫? 仔狼? まだ湿っている子達をセレブロさんが優しく嘗めてあげています。体温が下がらないように、毛布を掛けてあげますか。

 「…お疲れ様、セレブロ」

 そんなセレブロさんを、マーリアちゃんが優しくなでています。

 「かわいいわね。セレブロさんが先輩になっちゃった」

 アイリさんも、仔供たちを優しく眺めています。
 見守っていた皆もお疲れ。もう深夜です。セレブロさんとマーリアちゃん、それに仔供達だけにして、家の方で休みましょう。

 騎馬ギルトの人と産院の人は、とりあえず朝までは様子見したいと言っていただいたので。お風呂に軽食を取って貰って、朝まで客室で休んで貰うことにしました。ほんと分野外のことにありがとうございます。


 次の日の朝。起きてからレッドさんと一緒に馬小屋の方に様子見に行くと…アイリさんとモーラちゃんが先に来ていました。

 キューキュー鳴いている仔をアイリさんが抱っこしています。それをモーラちゃんが優しくなでてます。いいないいなっ!
 レッドさんもかわいいけど…産まれたばかりの上に、銀狼特有のもふもふ、これもたまりません。

 「かぁいいーねぇ…」

 「目はまだ開かないのね。はいはい分かったわ、お母さんの方がいいのね」

 もぞもぞする仔をアイリさんがセレブロさんのお乳のところに戻してあげます。匂いで場所を見つけて吸い付く仔狼。

 「仔供触って、セレブロさん怒らない?」

 仔供生んだばかりだと、神経質になったり赤ちゃんに人の匂いが付くことを嫌がる動物も居ると聞きます。

 「んっと。私が警戒していないのなら気にしないっだって。あと、ごはん食べたらまた眠たくなったから、一眠りするだって。しばらく朝の散歩はお預けね」

 どっしりしていますね、セレブロさん。まぁ、私たちのことも信じてくれていると思うと感じ入るところがあります。
 スースー寝はじめたセレブロさん。仔供達はお乳を頑張って吸ってます。

 マーリアちゃん、徹夜でしょ? あなたも、お風呂と食事と睡眠取りましょうね。
 …私が見といてあげるから。じっくりと。…ほんとかわいいなぁ…

 レッドさんが仔供達に混ざるようにしてチェックを始めました。今はまだレッドさんの方がまだ大きいですが、すぐに追い越されそうですねこれは。
 はい、すでに遠隔でチェックはしていたそうですが。接触しての詳細な検査も問題なしとのことです。すくすく育ってくださいね。



 「仔供たちに名前、つけないとっ! なんかいい名前無いっ?」

 と、お昼過ぎに起きて来て、さっそくセレブロさんの様子を見にきたマーリアちゃんに相談されました。
 うーん。これが一匹なら、シロとか付けてしまいそうです。あまりひねりが無いですが、見た目と名前は直結した方がいいというのが持論なのです。ねぇレッドさん?。

 三匹だから、いち、にー、さん? さすがに怒られそうです。
 ひねってドイツ語でアインス、ツヴァイ、ドライとか、フランス語でアン、ドゥ、トロワ? 悪くは無いけど。うーん…

 「…フェンリル、オルトロス、ケルベロス…とかどう?」

 「ん?不思議な響きの言葉ね? どういう意味?」

 「地球の神話に出てくるんだけどね…」

 語源についてマーリアちゃんに簡単に説明します。っても、私もそこまで詳細に知っているわけではないんですけどね。
 
 フェンリル、有名ですね。北欧神話に出てくる神を飲み込んだ狼です。ファンタジー小説系では神獣として引っ張りだこでした。

 オルトロス、ギリシア神話に出てくる双頭の犬です。ヘラクレスに倒された牧場犬。…タコのイメージがあるのは何ででしょう?
 獅子座の獅子とスフィンクスの父親。

 ケルベロス、ギリシア神話に出てくる三頭の地獄の番犬。こちらも有名でしたね。甘い物好きなんて設定もあったりします。

 いちにーさんを頭の数で表現してみました。いいんじゃない、これ?

 「頭が一つ二つ三つって…そんな神話があるのねレイコの世界って。まぁ語感はいい感じだけど…」

 というわけで。セレブロさんの仔供達は、フェンリル、オルトロス、ケルベロスに決定。普段呼びは、フェン、オルト、ケルとなりました。
 ちなみに、フェンとケルが女の仔、オルトが男の仔です。
 さっそく名前を刻んだゴルゲットを準備…と思いましたが、すぐ大きくなる仔犬?には無理ですか。
 わかりやすいように、赤、青、黄のリボンを買ってきて付けてあげましょう。赤が1、青が2、黄色が3…何のイメージでしょうね?


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