玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第7章 Welcome to the world

第7章第036話 タケノコ掘ります。

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第7章第036話 タケノコ掘ります。

・Side:ツキシマ・レイコ

 日本で言うのなら五月くらいの陽気。春眠暁を覚えずとも言いますが。ぐっすり眠れるので、私としては目覚めも爽快な季節です。
 ただ、今日はさらに早起き。外はまだ暗いですが、この時間から出かけますよ。
 今日は、竹藪にタケノコを掘りに行くのです。

 この世界、竹は普通に生えていまして。太さやら厚さやらで種類も豊富、素材建材としていろんなところで使われています。
 タケノコの目撃情報ももらっています。聞いた感じだと日本のタケノコと同じ感じですので、同じように食べられるんじゃないかな?と期待しています。
 今頃がちょうど竹が生える時期とのことで。ちょっと掘りに出かけることにしました。

 本当に食べられるのかは未確認ですので、大事にはせずに私とレッドさんで堀りに行きます。おいしかったらまた奉納案件として周知して、皆にたくさん掘ってもらいましょう。
 竹は放置しておくと勝手に広がっていきます。堅い根が地面の下にはびこって、処理も大変。竹害と言われていて、植えたからには管理が必要です。余計な竹は生えてくる前に全部食べてしまえばいいのです、はい。

 タケノコは私の好物です。青椒肉絲とかの炒め物にも良いですが。出汁醤油で煮ても良いですし。炊き込みご飯の具とか。あと茶碗蒸しも行けますね。鰹ダシが無いのが残念ですが、魚のダシのならこちらでも豊富です。
 味の染みたタケノコをコリコリホクホクと… たまりませんね。


 「クーククッ!」

 レッドさんをフードに入れて、出発です。
 …のつもりでしたが、料理騎士でおなじみのブール・エビルソン騎士伯もご一緒となりました。
 昨日は私の家で、護衛として夜勤していましたが。朝起きたところに

 「レイコ殿、こんな朝早くにどちらへ?」

 と捕まってしまいまして。タケノコのことを話すと興味を持たれたようで、欠伸をしつつも夜勤明けのまま一緒にお出かけです。
 さらに、マーリアちゃんとセレブロさんも朝の散歩がてら同行です。マーリアちゃんは、セレブロさんの散歩とおトイレのために毎日早起きなのです。
 セレブロさん、むやみに出歩いて赤ちゃん大丈夫? とか思ったのですが。

 「野生の動物がお腹に赤ちゃんいるからと走ったり出来なくなったら、飢え死にしちゃうわよ」

 ごもっともです。

 「生える前の竹が柔らかいのは聞き知ってましたが。それを食べるとは考えたことがありませんでしたな」

 料理騎士さんもタケノコは知ってしました。それでもまぁ、あの堅い竹から食べ物になるとは想像しなかったようです。

 「エルセニムにも竹は沢山生えているけど。食べている人は見たことないわね」

 べつに成長した竹を食べるわけじゃないですけどね。やはりタケノコは、こちらの世界では食材として見いだされていないようです。
 キノコやイカ海老もでしたけど。こちらの人は結構食べものについては保守的です。


 ファルリード亭からちょっと北の方に行ったところ、丘の斜面に竹藪があります。この辺の地主さんは護衛ギルドでしたので、タケノコを取る許可は早かったです。…まぁ誰もタケノコ取らないですけどね。そんな物で何すんだ?って顔されましたよ。

 竹藪に入ってちょっと歩くと、生えたばかりとおぼしき竹があちこちにありました。頭出すまで伸びたらもう食べるのには向きませんが。生えたばかりとおぼしき竹がこれだけあるということは、まだ頭を出していないタケノコもたくさんあると言うことです。

 サンダル履きでペタペタとしつつ歩き回っていると、土の下にタケノコの存在を感じます。
 ちょっと掘り返すと、ありましたありましたタケノコさん。周囲をシャベルで丁寧に掘って、根本のところで鍬を使って抜き取ります。

 「こんな感じで、まだ土の中の竹の芽を取るわけです」

 あっと料理騎士さん、それはもう頭が出過ぎです。

 「地面に頭出したのはもう遅いくらいですので。できるだけ埋もれているやつを探しましょう。土が盛り上がってきているところを重点的に」

 「了解~」

 少し歩いたら、またありましたありました。こう気をつけて見てみると、結構あちこちで盛り上がっていますね。
 うんうん。良い感じのタケノコが採れます。

 レッドさんのタケノコ索敵も絶好調ですが。とりあえず十本ほど掘りました。いきなり大量に掘ってもしょうがないですね、今日はこの辺で。まだこのタケノコが美味しいかどうかが不明なので、今日はお試しなのです。



 家に戻ってきました。
 料理騎士さんは徹夜ですので。シャワー浴びて軽く食べてから、控え室に充てている客間で仮眠です。お付き合いありがとうございました。
 マーリアちゃんとアライさんも、カヤンさんの用意しておいてくれた朝食を取った後、ファルリード亭の方で給仕です。

 さて私はタケノコの下拵えしますか。引っこ抜いたとはいえ、まだタケノコは生きています。抜いた状態でも伸びようとするので、早めに煮るのが柔らかくいただくコツです。
 でかい鍋で軽く皮を剥いたタケノコを煮ます。あく抜きに灰を使うと記憶していますので、明り取りの松明の灰をもらってきて水に着けてありましたので、それも入れます。米ぬかとかも使えたはず、今度キープしておきましょう。
 落とし蓋をして三時間くらいグツグツですか。マナコンロなので燃料代とか考えないで良いのは楽ですね。


 朝は早かったので、まだ昼前ですが。煮えたかどうだか確認です。
 タケノコに串を刺してみます。すっと通りますね。コンロから外して湯に浸けたまま冷まします。

 さて。この後は食べられない部分の皮むきですが。うーん、結構目減りしますね。半分くらいになってしまいましたが、とりあえず"タケノコの水煮"と言えるところまで出来ました。湯冷ましに浸けておきますか。
 お昼ちょい前、カヤンさんが私と料理騎士さんのお昼ご飯を持ってきてくれるついでに、タケノコの様子を覗きに来ました。

 「それが竹の芽を煮たやつかい? そんなものまで食べられるんだな」

 「私のいた国では、よく食べてましたよ。味が染みやすいですし、食感が面白いんです。私の好物です」

 小さくスライスしてカヤンさんとレッドさんで試食です。とりあえず醤油でいいですかね?
 そういえば、刺身で食べられるなんて話もありましたね。その場にいないと食べられないくらい新鮮じゃないと駄目だそうですが。

 「うむ。もっとガリッとした食感を想像していたが、思った以上に柔らかいな。コリッとしているのに簡単に噛み切れる。面白いなこれ」

 「クー。クククッ」

 レッドさんもポリポリ食べています。おいしいですか?

 「味も染みこみやすいですからね。基本煮物向きですが、千切りにして炒め物にいれるのもいいですよ」

 「こりゃガロウ商会に話したら、また取り尽くされるな。まぁ竹なんていくらでも生えてくるからいいのか」

 醤油の実の時にはお世話になりました、食品をメインに扱っているガロウ商会のカルマさん。
 タケノコの旬は長くないですからね。とはいえ、たくさん取っても保存方法とかも考えないといけないですが。
 日本では、タケノコ畑みたいなのもあったはずです。土を軟らかくして藁を敷いたりとか。品質を維持して量産するのならそれなりに整備が必要かも?



 タケノコの水煮も出来ました。さて、どうやって食べましょうと考えつつ。とりあえず、ファルリード亭の方でタケノコ料理の試食会を開催です。
 カヤンさんが人をやってガロウ商会のカルマさんを呼びにやったそうです。…大商会の会頭さん、そうそう出張ってこれる物なのか?…と思ったら。呼びに行った人と一緒に馬車で戻ってきましたよ。フットワーク軽いですね。

 「そこらに生えている竹が食べられるようになるだってっ? すごいなっおいっ!」

 「いや、さすがに竹は食べられませんよっ」

 なんかすごい食料改革!とか思ったようです。…もちっと詳細に伝えれば良かったですね。

 「なるほどなるほど。いやかまわんよ、カヤンがわしを呼んだってことは、流行りそうなんだろ?これも。うんうん食べていくよ当然だろ?」

 新食材に興味津々なカルマさんです。

 簡単なところを一通り作ってみましょう。炒め物に煮物に茶碗蒸しあたりですか。カヤンさんが、初めての食材ですがちゃちゃっと用意します。さすがです。
 昼の混雑する時間過ぎたところで、皆でで試食です。料理騎士さんも起きて、ファルリード亭の方にやってきました、一緒にいただきましょう。

 炒め物は、千切りにしたタケノコを港サンドの具に混ぜました。
 魚で青椒肉絲はちょっと難しいですね。タケノコのシャキシャキに魚の身が負けています。やはりお肉が欲しいところですが、イカとかならいけるかな? でも、お味は文句ありません。

 煮物と言っても、こちらもスープに入れて一緒にクツクツと。肉抜き肉じゃがにタケノコ追加した感じですね。魚だしに醤油と塩で味付けです。塩気を醤油だけで出そうとすると醤油臭くなるので、塩気の半分は塩で…とお母さんが言ってました。
 正教国からの輸入品ですが、乾燥キノコも使いますよ。完全に椎茸とは行きませんが、私好みの風味がつきます。…筑前煮っぽくなりましたね。

 茶碗蒸し。ダシスープを醤油で味付けして、溶いた卵を入れて。具は、鳥肉、根菜、タケノコ、キノコです。
 以前、アイズン伯爵にお出ししたものを、ファルリード亭でも出しています。甘くないプリン扱いですが、冬には大人気でしたよ。

 「なるほどなるほど。確かに面白い食感ですな。煮崩れないのも面白いですね」

 料理騎士ブールさん。一口々々確かめるように食べています。

 「簡単にかみ切れるのにシャクシャクと。この歯ごたえは癖になるわね」

 「煮物、味が染みていて美味しいですね」

 ミオンさんとモーラちゃん。

 「…お菓子じゃ無いプリン…でも、これはこれで面白いかも」

 アイリさん、茶碗蒸し初めてでしたか? なんかタケノコの算段をしていますね。
 でも、奉納するっても、どこかに権利主張されないためですからね。

 「タケノコが生えるのは、確か今時分だけか… すぐに量産は無理だが。どれくらいとれるのか、どれくらい保存できるのか、今年の分は研究で終わりそうだな…」

 考え込みながら、料理を食べているカルマさん。
 収穫後、すぐに茹でて成長を止めるのがコツですが。この状態で冷蔵で1週間、冷凍でも一ヶ月くらいしか持たなかったはず。瓶詰や缶詰の開発が必要ですが?
 そこらにあったのに誰も見向きもしなかった新食材。爆発的に美味いぞぅっ!…ってほどの物ではないけど。ガロウ商会の尽力で食材として定着したらいろんな料理に派生しそうということで、商品開発に期待します。
 料理騎士さんには、カメに入れた二本分のタケノコ水煮を渡しました。伯爵邸の方で料理長と研究してください。

 さて。私は、こんなこともあろうかと一合ほど残しておいたお米で作った炊き込みご飯をいただきましょう。楽しみだったんですよこれ。
 輸入のお米は、次の船便までお預けです。三角州の方で試験栽培を始めますが、収穫は秋ですからね。
 …見た目地味な料理だから人気無さそうと思っていたのですが、みんなが土鍋からお茶碗によそわれたご飯を見ています。私、何口食べられるのかしら?

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