247 / 339
第7章 Welcome to the world
第7章第020話 天文談義
しおりを挟む
第7章第020話 天文談義
・Side:ツキシマ・レイコ
ムラード砦の上で、満点の星の下、火の粉が登る篝火の近く、神の御座見ながら。
たまたまやって来たマナ術師らしい青年といろいろお話をしています。
星々とは空に昇った亡くなった人の魂…というのはポピュラーな宗教観ですが。本当の星というものについて知りたいという青年。
「夜空の星は全部太陽と同じようなものなの。大きさにはかなりばらつきがあるけどね」
本来太陽とは地球の太陽のみの固有名詞ですが。まぁここでは単にお日様という意味です。
「え…でも星ってあんなに小さくて暗いですよね?」
ですよね、普通はそう思うでしょう。
まずはその辺の説明のために、砦の外に索敵のために設置してある篝火を指さします。
「ほら、あそこの篝火ってここにあるのと同じくらいよね。でもずっと暗く小さく見えるでしょ?」
「距離があるから小さく見えるってことですか? でも太陽があそこまで暗くなるほどの距離って…」
青年が星空を仰ぎます。
太陽より暗いと言っても、神の御座の星々は地球から見た金星より遙かに明るいのですが…
オリオン座のベテルギウスで五百光年とかだったかな。二番目に明るいリゲルで八百光年とか。神の御座の青い星がリゲルくらいの大きさだとして…百光年離れているかどうかって感じかしら。
「たぶんだけど、光の速さで百年単位の時間がかかるくらいの距離よ。ちなみに太陽までは一刻の八分の一くらいね」
オリオン座の大星雲が地球からは千光年以上離れていたような。それに比べれば、あの神の御座って相当に近く見えます。
「光に速さって…いや、音にも速度があるのなら光にも…」
「音の速さはわかるんだ」
「爆発の音とか、爆発その物より遅れて聞こえますからね」
閃光や爆炎なんかに遅れて音が聞こえるというのは、普通に経験できるようです。って、火薬を扱った経験が? 爆発するほどのマナ術を使える人ってほとんどいないと聞いたけど。ほとんどということは全くいないわけじゃないのか。
「もしかして貴方がそこまでのマナ術が使えるの?」
「いえ私にはとても。昔正教国にいたころに実験の爆発を目撃したことがありまして。実験の詳細は私も詳しくはないのですが」
聞くにこの青年、正教国にマナ術師として所属していたそうです。例の政変の後に流れ流れてユルガルムへ…いろいろ事情がありそうですね。
「まぁそんなわけで、星は凄く遠くにあるんだけど。神の御座の目立つ星なんかは、多分太陽の何十倍もでかい星だと思う」
大きさではなく重さの話で。サイズなさらに大きくなります。
「太陽の何十倍も明るいのに、あんなに小さいのですか?」
「星って、重さの四乗に比例して明るくなるから。太陽より十倍重たかったら、明るさは1万倍よ」
「四乗? 面積が二乗、体積が三乗でしたっけ?」
おっ? 乗数は知っていますか。
「重たいほど効率よく燃えるようになるから。燃焼効率が三乗で、光る表面積が広くなる分でもう一乗ね。正確には燃えるってのとは違うんだけど」
「一万倍の明るさ…想像出来ないですね」
青年は夜空を見上げます。
「太陽はやはりマナで出来ているのですか? 昔、そう教わったのですが」
赤竜教ではそういう教義らしいです。普通に物を燃やしてもああはならないですからね。
「いえ。太陽はまた別の理で光ってます。むしろ太陽の光を使ってマナを作ってます。太陽の黒い線は知ってるでしょ?そこでマナを生産しています」
「あれが…あそこでマナを?」
太陽に薄らと黒い線がかかっているのは、こちらの人には常識です。
太陽がマナで出来ているは間違いですが。太陽の方からマナが来ているのは正しいですね。まぁ何かしら根拠があっての話ではないでしょうが。
「あれは線じゃなく、本当は輪ね。細く見えるけど、ここからも見えるってことは実際には凄くでかいわよ?」
地上から線として見えるだけでも、相当な幅があると思われます。幅百キロじゃ効かないんじゃ無いかな? 数千キロ?
「マナを作る太陽の輪… いつか人があそこに行ける日は来るのでしょうか?」
「うーんどうだろ? 太陽に近すぎて物が燃えるくらいの温度だし。マナで出来た赤竜神みたいな存在でないと活動できないと思うよ」
「例えばレイコ殿のような?」
「うーん、どうでしょう?」
あそこまで"下りる"軌道自体はさほど難しくないけど。太陽の重力に引かれて地球の高度から落下して…考えると、最終的にどれくらいの速度になるんだろう? 秒速数百キロとか? 私に耐えられるのかな?
あそこに軟着陸しようとしたら、時間はかなりかかりそう。
重力の井戸に速度を抑えつつ下りていくのは、けっこう大変なのです。実際の探査機も、水星や金星にフライバイをして減速しつつ何年もかけて降りていきます。
それにやはり温度も問題です。
「私の皮膚や髪の毛はそこまで熱に強くないから。いろいろ面倒ね」
火に手を突っ込むくらいなら平気ですが。水星の昼面でも五百度近いのですから、リングの内側だと千度では済まないかな。いつぞやのレイコ・バスターよろしく、さすがに燃え尽きると思います。
…でも、私自身は酸素も要らないわけだから、比較的簡単な防護服でもあれば耐えられるかな?
「ともあれ。あそこに行くまでがまず大変よ。ロケット…乗り物を開発するだけでどれだけかかるのやら」
「太陽に行くための乗り物ですか… これもちょっと想像出来ないですね」
「今の大陸全国家の予算を全部使っても賄えないくらい費用がかかると思うし。できるとしてもずっと未来の話ね。それにあそこに行ってなにをするのやら」
「マナを作っているところに行って、それらを自由に出来るようになるのなら、それは凄いことでは?」
あそこで作られているマナ。それを実現しているテクノロジー。全部手に入れられれば確かに凄いことではありますが。
そもそも行ったところで輪を自由には出来ないでしょう。たぶん完全に赤竜神…赤井さんの制御下だと思いますし。行く意味はないでしょうね。
「マナを自由にして何をしたいの? 世界征服?」
「…そんな大それたことは考えていませんが」
・Side:ツキシマ・レイコ
ムラード砦の上で、満点の星の下、火の粉が登る篝火の近く、神の御座見ながら。
たまたまやって来たマナ術師らしい青年といろいろお話をしています。
星々とは空に昇った亡くなった人の魂…というのはポピュラーな宗教観ですが。本当の星というものについて知りたいという青年。
「夜空の星は全部太陽と同じようなものなの。大きさにはかなりばらつきがあるけどね」
本来太陽とは地球の太陽のみの固有名詞ですが。まぁここでは単にお日様という意味です。
「え…でも星ってあんなに小さくて暗いですよね?」
ですよね、普通はそう思うでしょう。
まずはその辺の説明のために、砦の外に索敵のために設置してある篝火を指さします。
「ほら、あそこの篝火ってここにあるのと同じくらいよね。でもずっと暗く小さく見えるでしょ?」
「距離があるから小さく見えるってことですか? でも太陽があそこまで暗くなるほどの距離って…」
青年が星空を仰ぎます。
太陽より暗いと言っても、神の御座の星々は地球から見た金星より遙かに明るいのですが…
オリオン座のベテルギウスで五百光年とかだったかな。二番目に明るいリゲルで八百光年とか。神の御座の青い星がリゲルくらいの大きさだとして…百光年離れているかどうかって感じかしら。
「たぶんだけど、光の速さで百年単位の時間がかかるくらいの距離よ。ちなみに太陽までは一刻の八分の一くらいね」
オリオン座の大星雲が地球からは千光年以上離れていたような。それに比べれば、あの神の御座って相当に近く見えます。
「光に速さって…いや、音にも速度があるのなら光にも…」
「音の速さはわかるんだ」
「爆発の音とか、爆発その物より遅れて聞こえますからね」
閃光や爆炎なんかに遅れて音が聞こえるというのは、普通に経験できるようです。って、火薬を扱った経験が? 爆発するほどのマナ術を使える人ってほとんどいないと聞いたけど。ほとんどということは全くいないわけじゃないのか。
「もしかして貴方がそこまでのマナ術が使えるの?」
「いえ私にはとても。昔正教国にいたころに実験の爆発を目撃したことがありまして。実験の詳細は私も詳しくはないのですが」
聞くにこの青年、正教国にマナ術師として所属していたそうです。例の政変の後に流れ流れてユルガルムへ…いろいろ事情がありそうですね。
「まぁそんなわけで、星は凄く遠くにあるんだけど。神の御座の目立つ星なんかは、多分太陽の何十倍もでかい星だと思う」
大きさではなく重さの話で。サイズなさらに大きくなります。
「太陽の何十倍も明るいのに、あんなに小さいのですか?」
「星って、重さの四乗に比例して明るくなるから。太陽より十倍重たかったら、明るさは1万倍よ」
「四乗? 面積が二乗、体積が三乗でしたっけ?」
おっ? 乗数は知っていますか。
「重たいほど効率よく燃えるようになるから。燃焼効率が三乗で、光る表面積が広くなる分でもう一乗ね。正確には燃えるってのとは違うんだけど」
「一万倍の明るさ…想像出来ないですね」
青年は夜空を見上げます。
「太陽はやはりマナで出来ているのですか? 昔、そう教わったのですが」
赤竜教ではそういう教義らしいです。普通に物を燃やしてもああはならないですからね。
「いえ。太陽はまた別の理で光ってます。むしろ太陽の光を使ってマナを作ってます。太陽の黒い線は知ってるでしょ?そこでマナを生産しています」
「あれが…あそこでマナを?」
太陽に薄らと黒い線がかかっているのは、こちらの人には常識です。
太陽がマナで出来ているは間違いですが。太陽の方からマナが来ているのは正しいですね。まぁ何かしら根拠があっての話ではないでしょうが。
「あれは線じゃなく、本当は輪ね。細く見えるけど、ここからも見えるってことは実際には凄くでかいわよ?」
地上から線として見えるだけでも、相当な幅があると思われます。幅百キロじゃ効かないんじゃ無いかな? 数千キロ?
「マナを作る太陽の輪… いつか人があそこに行ける日は来るのでしょうか?」
「うーんどうだろ? 太陽に近すぎて物が燃えるくらいの温度だし。マナで出来た赤竜神みたいな存在でないと活動できないと思うよ」
「例えばレイコ殿のような?」
「うーん、どうでしょう?」
あそこまで"下りる"軌道自体はさほど難しくないけど。太陽の重力に引かれて地球の高度から落下して…考えると、最終的にどれくらいの速度になるんだろう? 秒速数百キロとか? 私に耐えられるのかな?
あそこに軟着陸しようとしたら、時間はかなりかかりそう。
重力の井戸に速度を抑えつつ下りていくのは、けっこう大変なのです。実際の探査機も、水星や金星にフライバイをして減速しつつ何年もかけて降りていきます。
それにやはり温度も問題です。
「私の皮膚や髪の毛はそこまで熱に強くないから。いろいろ面倒ね」
火に手を突っ込むくらいなら平気ですが。水星の昼面でも五百度近いのですから、リングの内側だと千度では済まないかな。いつぞやのレイコ・バスターよろしく、さすがに燃え尽きると思います。
…でも、私自身は酸素も要らないわけだから、比較的簡単な防護服でもあれば耐えられるかな?
「ともあれ。あそこに行くまでがまず大変よ。ロケット…乗り物を開発するだけでどれだけかかるのやら」
「太陽に行くための乗り物ですか… これもちょっと想像出来ないですね」
「今の大陸全国家の予算を全部使っても賄えないくらい費用がかかると思うし。できるとしてもずっと未来の話ね。それにあそこに行ってなにをするのやら」
「マナを作っているところに行って、それらを自由に出来るようになるのなら、それは凄いことでは?」
あそこで作られているマナ。それを実現しているテクノロジー。全部手に入れられれば確かに凄いことではありますが。
そもそも行ったところで輪を自由には出来ないでしょう。たぶん完全に赤竜神…赤井さんの制御下だと思いますし。行く意味はないでしょうね。
「マナを自由にして何をしたいの? 世界征服?」
「…そんな大それたことは考えていませんが」
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?
四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。
もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。
◆
十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。
彼女が向かったのは神社。
その鳥居をくぐると――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最後に言い残した事は
白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
どうして、こんな事になったんだろう……
断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。
本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。
「最後に、言い残した事はあるか?」
かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。
※ファンタジーです。ややグロ表現注意。
※「小説家になろう」にも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる