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第7章 Welcome to the world
第7章第012話 速達レッドさん、再び
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第7章第012話 速達レッドさん、再び
・Side:ターナンシュ・ユルガムル・マッケンハイバー
小竜神様がお帰りになった翌日。義父様と主人は、領政のために庁舎へ赴いています。
私は、侍従長と共に家内の事務処理にあたり、それらを終えて居間で休んでおります。懐妊中ということで周りからは安静にしていろとばかり心配されるのですが、病人ではありませんので。じっとしているのも落ち着きませんから、軽度の仕事はいつも通りこなすようにしています。
暖かい部屋で飲み物をいただきながら、息子のバールが絨毯の上で遊んでいるのを見守ります。
去年、エイゼル市の御父様から、積み木なるものが送られてきました。
いろんな形に切り出された木片が箱に丁寧に収められていて、遊び方と言っても本当にただ積むだけのおもちゃですが。バールはこれが大変気に入ったようで、積んでは積み直すことを繰り返しています。
別のおもちゃとして、表面には文字、裏面にその文字を象徴する絵の描かれた真四角の木片。これは文字を覚えるのに使うそうです。ただ、まだ二歳なるところのバールには文字はちょっと早いようで。積み木の建築の資材として混ざってしまっています。
これらおもちゃはレイコ様名義で奉納登録されたそうですが。使用料は無料で、申請して許可が得られればどこの工房でも作って良いとされているそうです。"知育玩具"というそうで、むしろ子供に与える玩具として広く推奨しているとか。
ただ。木の材質、危なくないように面取りや表面仕上げの義務、口に入れても毒性の無い染料の使用など、この辺を守らせるための奉納と許可制とのことです。
建築や家具製造などの現場で出る端材の有効利用や、老人にも作れる簡易な木工品として内職向けにも有用ですが。今いる子供の数以上に作りすぎてもしょうがない物ですからね。ユルガルムでも卸の商会が生産数を管理しています。
バールが生まれたときには、懇意にしている貴族から贈り物として精緻なユルガルム城の模型なんかも送られてきました。錫あたりでできた小さな兵隊を並べたりといった遊び方も出来るものですが。バールはそれよりも、このシンプルな積み木の方に夢中なようです。
「だー。まーまー。うーやー」
座り込んだバールの頭の高さくらいまで積み木を積んで、どうだとばかり私にアピールしています。
絨毯の上だと積んでも安定しないですからね。そこは積み木の入っていた箱を裏返し、その上に積んでいくという工夫までするようになりました。
「素敵な建物ね。このお城かしら?」
「あうーっ! あいあいっ!」
それでは、文字の方の小板で『おしろ』と並べてあげます。
「バール。これで『おしろ』よ」
「ユーヤーオー。やーっ!」
そのうち文字も覚えてくれると良いですね。
誉められて満足したのか。シュバールはとなりに置いたひっくり返した箱の方に別の建物を積み始めました。さらに高い建物を目指すようです。
その時です。
トタンッ!
「ターナンシュ様っ!」
この部屋は二階で、窓の外にはテラスがあります。今は真冬ですので当然窓は閉じていますが、そちらから物音がしました。
気がついた侍女にも緊張が走ります。
雪は積もっていませんが、ガラスは露がついて真っ白です。そこに透けて赤い…なにか動物いてが動いているのが分かります。
トントンッ!
「魔獣っ!?」
北からやってくる魔獣には鳥もいくらか確認されています。今の室内には、私とバールの他には侍女が二名だけ。城内の屋敷、しかも二階と言うことで護衛騎士は廊下の方に控えています。
最悪を予想してバールを抱きしめます。バールが積んでいたお城が崩れてしまいましたが、致し方ありません。
しかし…
「クーッ!ククックッ!」
この声は…
侍女の一人が、恐る恐る窓に近づきエプロンで窓の露をぬぐうと。なんとそこには、昨日帰ったはずの小竜神様がたたずんでいました。
「まさか一晩道に迷って戻って来られたとかじゃないだろうな? 空には道標もなかろう」
義父様と主人がすぐに呼ばれて居間にやって来ました。
小竜神様は、今は私の膝の上です。相変わらず、あの寒空の下を飛んできたにもかかわらず暖かいですね。
バールが侍女に抱かれながら隣にに座っていますが、またもや小竜神様に興味津々のようです。
「クックー。クーッ」
小竜神様がハーネスのバックから書簡を取り出します。
「御父様からの書簡と…これはカステラード殿下からの書簡ですね。義父様宛です」
「うーむ、小竜神様はエイゼル市の方には既に帰られていて。今日再度来られたと言うことか。凄まじい連絡速度だな。何だ、アイズンのやつがわしの孫娘に嫉妬でもしたか? ともあれ拝見しよう」
まだ生まれていませんよ、義父様。
…書簡を読んでいる義父様の表情が険しくなってきます。
「アラバウ団長を呼んでくれ。至急だ」
アラバウ護衛騎士団長は、ユルガルムの領兵のトップである古参の騎士です。
「義父様、何か問題でも?」
「小竜神様がユルガルムの北で"波"の兆候を見つけたそうだ」
"波"。魔獣が大挙して北から責めてくることを言います。波の間隔期間は一定と言えるほどではなく、五年から十年の間が空きます。前回の波が八年ほど前のことだと教えられています。私が嫁ぐ前ですね。その時にネイルコードから支援を受けたことが現在の関係に繋がった…と聞いております。
「レイコ殿曰く、おそらくはいつぞやの蟻だそうだ。ただし、規模は以前小ユルガルムに現れた時の十倍以上とか」
「十倍…義父様、ユルガルムは大丈夫なのですか?」
「ふむ。数が多いとは言え所詮は蟻。固めたムラード砦ならなんとか押さえられるじゃろう。小ユルガルムの関とは、規模も堅牢さも違うからな。それにまだ蟻どもはかなり離れているらしく、こちらに届くのは一ヶ月くらい先だそうだ。準備期間に余裕もある。ネイルコードの国軍も動いてくださるそうだし、さらにレイコ殿が応援に来て下さるそうだ。あと、アイズン伯爵やマーディア殿も予定を早めてユルガルムに来られるそうだ」
御父様に御母様もわざわざ来られるのですか。
「向こうではお前達を避難させる積もりだったそうだが。レイコ殿がこちらに来られるのなら話は別だ。ムラード砦で食い止めるのに問題は無かろう」
小ユルガルムに出現した蟻の巣を一撃で粉砕したレイコ様。ただ、あのときは女王蟻の至近でレイコ・バスターという危険な技を撃つ必要があったとかで。撃った余波でご本人も大変なことになっていたそうです。
ただ、次の御訪問時に工事で技を使われたときには、危なげなかったそうです。どちらの時も雷鳴のような音をこの城で聞いていたのを覚えています。
「…当時は悩んだもんだが。ネイルコードと組むことにしたのは我ながら慧眼だったな。おかげでユルガルムの民はネイルコードと同じ値段でパンが食べられるし。いざとなればこうして援助も増援も貰える」
北端のこの地では、かつては小麦の値段がエイゼル市の三倍はしていたそうです。
今では、ネイルコードで流通している小麦の八割は国の専売扱いですから。ネイルコードではどの領でもほぼ同じ値段で小麦が販売されています。ユルガルムでも、儲けは輸送費でほぼ消えますが他の領と同じ値段で小麦が買えるようになっています。街道が整備され、キャラバンや護衛業も管理されているというのも大きいですね。
「ユルガルムの資源が豊富だからこそでもありますわ。特にここで製造される硬貨はネイルコード国の経済の要でもありますし。御父様はさらに西まで流通させることを考えているようですよ」
「アイズン伯爵の"依存"で従える話か。互いに互いが必要な物を持っているから離れがたくなると。まぁ理窟は単純だが、国やら貴族の面子が関わると難しい話でもある」
小麦の値段を各地で安定させるのは、麦畑に向かないところの領民を麦栽培から引き剥がし、もっと向いた作物や産業に移管させるのが目的…と御父様は言ってました。
結果として、小麦を買わなくてはいけない領は、小麦を作る領と半場強制的に仲良くしないといけなくなるわけですね。多くの領主たる貴族が、実利と面子を天秤にかけることになりました。
「その鎹(かすがい)たらんと私は参りました。…うふふ、もちろん旦那様を見初めたからでもありますけどね」
「まぁ、あのアイズン伯爵の娘たるターナに鎹として認められたのなら、光栄だ」
アラバウ団長が来られました。
戦時ではないのでフル装備ではありませんが、革製の胸当てと手甲、あと護衛騎士の特権として短刀を脇に掃いています。
主人より一回り年上の方ですね。髪も髭にも白いものが混じっていますが、矍鑠たるものです。
すぐに書簡によってもたらされた"波"についての会議となりました。なぜか私は、小竜神様と一緒に隅の席でお茶をいただいたいます。
小竜神様には今日中に帰らせて欲しいと書簡には書かれていましたので。この会議の結果を持って行っていただく予定です。
まずは、義父様が書簡に書かれた詳細について、集まった者達に説明しています。
「以上。レイコ殿に来ていただけるおかげで当面の不安はかなり少ないと言えるが。カステラード殿下からの書簡には、レイコ殿ありきの防衛体制は戒めるようにとも書かれておる。…まぁこれも当然じゃの」
仮にユルガルムが危機となれば、レイコ様は助力を惜しまないでくれるでしょうが。これからも毎回来ていただけるかは確実ではありませんし、単純に間に合わないということも考えられます。また、いつもそれに頼り切ってはレイコ様をネイルコード国に縛れ付ける事にもなりかねません。王室の方では、レイコ様のそういう束縛方法は考えていないと言うことですね。
それはともかくとしても。レイコ様が来てくだされるのであれば防衛の負担は遙かに楽になるでしょう。兵や領地への被害も減るということですし、もちろんそれに越したことはありません。
「レイコ殿の…レイコ・バスターですか。まずはできるだけあれを使わずに治める訓練だと思えばよろしいかと。ムラード砦は前回の"波"よりも強固になっております。見極める良い試験にもなりますな」
アラバウ団長は、前回の"波"を経験しているそうで、なんどかお話を聞きました。
ムラード砦自体は、ユルガルムが建国したと同時に建設が始まり、今でも改良されつつあります。
去年の小ユルガルムでの蟻の騒動は正教国がしかけたらしい…ということは、向こうに残された記録で分かっているそうです。
ダーコラ国の侵攻、バッセンベルの裏切り、正教国の暗躍。もしレイコ様が降臨されていなければ、ネイルコード国がどのような苦境に陥っていたかは想像しきれないところがあります。
赤竜神様のご采配に感謝せねばなりません。
・Side:ターナンシュ・ユルガムル・マッケンハイバー
小竜神様がお帰りになった翌日。義父様と主人は、領政のために庁舎へ赴いています。
私は、侍従長と共に家内の事務処理にあたり、それらを終えて居間で休んでおります。懐妊中ということで周りからは安静にしていろとばかり心配されるのですが、病人ではありませんので。じっとしているのも落ち着きませんから、軽度の仕事はいつも通りこなすようにしています。
暖かい部屋で飲み物をいただきながら、息子のバールが絨毯の上で遊んでいるのを見守ります。
去年、エイゼル市の御父様から、積み木なるものが送られてきました。
いろんな形に切り出された木片が箱に丁寧に収められていて、遊び方と言っても本当にただ積むだけのおもちゃですが。バールはこれが大変気に入ったようで、積んでは積み直すことを繰り返しています。
別のおもちゃとして、表面には文字、裏面にその文字を象徴する絵の描かれた真四角の木片。これは文字を覚えるのに使うそうです。ただ、まだ二歳なるところのバールには文字はちょっと早いようで。積み木の建築の資材として混ざってしまっています。
これらおもちゃはレイコ様名義で奉納登録されたそうですが。使用料は無料で、申請して許可が得られればどこの工房でも作って良いとされているそうです。"知育玩具"というそうで、むしろ子供に与える玩具として広く推奨しているとか。
ただ。木の材質、危なくないように面取りや表面仕上げの義務、口に入れても毒性の無い染料の使用など、この辺を守らせるための奉納と許可制とのことです。
建築や家具製造などの現場で出る端材の有効利用や、老人にも作れる簡易な木工品として内職向けにも有用ですが。今いる子供の数以上に作りすぎてもしょうがない物ですからね。ユルガルムでも卸の商会が生産数を管理しています。
バールが生まれたときには、懇意にしている貴族から贈り物として精緻なユルガルム城の模型なんかも送られてきました。錫あたりでできた小さな兵隊を並べたりといった遊び方も出来るものですが。バールはそれよりも、このシンプルな積み木の方に夢中なようです。
「だー。まーまー。うーやー」
座り込んだバールの頭の高さくらいまで積み木を積んで、どうだとばかり私にアピールしています。
絨毯の上だと積んでも安定しないですからね。そこは積み木の入っていた箱を裏返し、その上に積んでいくという工夫までするようになりました。
「素敵な建物ね。このお城かしら?」
「あうーっ! あいあいっ!」
それでは、文字の方の小板で『おしろ』と並べてあげます。
「バール。これで『おしろ』よ」
「ユーヤーオー。やーっ!」
そのうち文字も覚えてくれると良いですね。
誉められて満足したのか。シュバールはとなりに置いたひっくり返した箱の方に別の建物を積み始めました。さらに高い建物を目指すようです。
その時です。
トタンッ!
「ターナンシュ様っ!」
この部屋は二階で、窓の外にはテラスがあります。今は真冬ですので当然窓は閉じていますが、そちらから物音がしました。
気がついた侍女にも緊張が走ります。
雪は積もっていませんが、ガラスは露がついて真っ白です。そこに透けて赤い…なにか動物いてが動いているのが分かります。
トントンッ!
「魔獣っ!?」
北からやってくる魔獣には鳥もいくらか確認されています。今の室内には、私とバールの他には侍女が二名だけ。城内の屋敷、しかも二階と言うことで護衛騎士は廊下の方に控えています。
最悪を予想してバールを抱きしめます。バールが積んでいたお城が崩れてしまいましたが、致し方ありません。
しかし…
「クーッ!ククックッ!」
この声は…
侍女の一人が、恐る恐る窓に近づきエプロンで窓の露をぬぐうと。なんとそこには、昨日帰ったはずの小竜神様がたたずんでいました。
「まさか一晩道に迷って戻って来られたとかじゃないだろうな? 空には道標もなかろう」
義父様と主人がすぐに呼ばれて居間にやって来ました。
小竜神様は、今は私の膝の上です。相変わらず、あの寒空の下を飛んできたにもかかわらず暖かいですね。
バールが侍女に抱かれながら隣にに座っていますが、またもや小竜神様に興味津々のようです。
「クックー。クーッ」
小竜神様がハーネスのバックから書簡を取り出します。
「御父様からの書簡と…これはカステラード殿下からの書簡ですね。義父様宛です」
「うーむ、小竜神様はエイゼル市の方には既に帰られていて。今日再度来られたと言うことか。凄まじい連絡速度だな。何だ、アイズンのやつがわしの孫娘に嫉妬でもしたか? ともあれ拝見しよう」
まだ生まれていませんよ、義父様。
…書簡を読んでいる義父様の表情が険しくなってきます。
「アラバウ団長を呼んでくれ。至急だ」
アラバウ護衛騎士団長は、ユルガルムの領兵のトップである古参の騎士です。
「義父様、何か問題でも?」
「小竜神様がユルガルムの北で"波"の兆候を見つけたそうだ」
"波"。魔獣が大挙して北から責めてくることを言います。波の間隔期間は一定と言えるほどではなく、五年から十年の間が空きます。前回の波が八年ほど前のことだと教えられています。私が嫁ぐ前ですね。その時にネイルコードから支援を受けたことが現在の関係に繋がった…と聞いております。
「レイコ殿曰く、おそらくはいつぞやの蟻だそうだ。ただし、規模は以前小ユルガルムに現れた時の十倍以上とか」
「十倍…義父様、ユルガルムは大丈夫なのですか?」
「ふむ。数が多いとは言え所詮は蟻。固めたムラード砦ならなんとか押さえられるじゃろう。小ユルガルムの関とは、規模も堅牢さも違うからな。それにまだ蟻どもはかなり離れているらしく、こちらに届くのは一ヶ月くらい先だそうだ。準備期間に余裕もある。ネイルコードの国軍も動いてくださるそうだし、さらにレイコ殿が応援に来て下さるそうだ。あと、アイズン伯爵やマーディア殿も予定を早めてユルガルムに来られるそうだ」
御父様に御母様もわざわざ来られるのですか。
「向こうではお前達を避難させる積もりだったそうだが。レイコ殿がこちらに来られるのなら話は別だ。ムラード砦で食い止めるのに問題は無かろう」
小ユルガルムに出現した蟻の巣を一撃で粉砕したレイコ様。ただ、あのときは女王蟻の至近でレイコ・バスターという危険な技を撃つ必要があったとかで。撃った余波でご本人も大変なことになっていたそうです。
ただ、次の御訪問時に工事で技を使われたときには、危なげなかったそうです。どちらの時も雷鳴のような音をこの城で聞いていたのを覚えています。
「…当時は悩んだもんだが。ネイルコードと組むことにしたのは我ながら慧眼だったな。おかげでユルガルムの民はネイルコードと同じ値段でパンが食べられるし。いざとなればこうして援助も増援も貰える」
北端のこの地では、かつては小麦の値段がエイゼル市の三倍はしていたそうです。
今では、ネイルコードで流通している小麦の八割は国の専売扱いですから。ネイルコードではどの領でもほぼ同じ値段で小麦が販売されています。ユルガルムでも、儲けは輸送費でほぼ消えますが他の領と同じ値段で小麦が買えるようになっています。街道が整備され、キャラバンや護衛業も管理されているというのも大きいですね。
「ユルガルムの資源が豊富だからこそでもありますわ。特にここで製造される硬貨はネイルコード国の経済の要でもありますし。御父様はさらに西まで流通させることを考えているようですよ」
「アイズン伯爵の"依存"で従える話か。互いに互いが必要な物を持っているから離れがたくなると。まぁ理窟は単純だが、国やら貴族の面子が関わると難しい話でもある」
小麦の値段を各地で安定させるのは、麦畑に向かないところの領民を麦栽培から引き剥がし、もっと向いた作物や産業に移管させるのが目的…と御父様は言ってました。
結果として、小麦を買わなくてはいけない領は、小麦を作る領と半場強制的に仲良くしないといけなくなるわけですね。多くの領主たる貴族が、実利と面子を天秤にかけることになりました。
「その鎹(かすがい)たらんと私は参りました。…うふふ、もちろん旦那様を見初めたからでもありますけどね」
「まぁ、あのアイズン伯爵の娘たるターナに鎹として認められたのなら、光栄だ」
アラバウ団長が来られました。
戦時ではないのでフル装備ではありませんが、革製の胸当てと手甲、あと護衛騎士の特権として短刀を脇に掃いています。
主人より一回り年上の方ですね。髪も髭にも白いものが混じっていますが、矍鑠たるものです。
すぐに書簡によってもたらされた"波"についての会議となりました。なぜか私は、小竜神様と一緒に隅の席でお茶をいただいたいます。
小竜神様には今日中に帰らせて欲しいと書簡には書かれていましたので。この会議の結果を持って行っていただく予定です。
まずは、義父様が書簡に書かれた詳細について、集まった者達に説明しています。
「以上。レイコ殿に来ていただけるおかげで当面の不安はかなり少ないと言えるが。カステラード殿下からの書簡には、レイコ殿ありきの防衛体制は戒めるようにとも書かれておる。…まぁこれも当然じゃの」
仮にユルガルムが危機となれば、レイコ様は助力を惜しまないでくれるでしょうが。これからも毎回来ていただけるかは確実ではありませんし、単純に間に合わないということも考えられます。また、いつもそれに頼り切ってはレイコ様をネイルコード国に縛れ付ける事にもなりかねません。王室の方では、レイコ様のそういう束縛方法は考えていないと言うことですね。
それはともかくとしても。レイコ様が来てくだされるのであれば防衛の負担は遙かに楽になるでしょう。兵や領地への被害も減るということですし、もちろんそれに越したことはありません。
「レイコ殿の…レイコ・バスターですか。まずはできるだけあれを使わずに治める訓練だと思えばよろしいかと。ムラード砦は前回の"波"よりも強固になっております。見極める良い試験にもなりますな」
アラバウ団長は、前回の"波"を経験しているそうで、なんどかお話を聞きました。
ムラード砦自体は、ユルガルムが建国したと同時に建設が始まり、今でも改良されつつあります。
去年の小ユルガルムでの蟻の騒動は正教国がしかけたらしい…ということは、向こうに残された記録で分かっているそうです。
ダーコラ国の侵攻、バッセンベルの裏切り、正教国の暗躍。もしレイコ様が降臨されていなければ、ネイルコード国がどのような苦境に陥っていたかは想像しきれないところがあります。
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