玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第7章 Welcome to the world

第7章第003話 アーメリア様の赤ちゃん

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第7章第003話 アーメリア様の赤ちゃん

 第二王子にして軍相であるカステラード殿下の奥様アーメリア様のご懐妊ということで。
 ご出産後の職人達のブラックスケジュールを回避すべく。お腹の中の赤ちゃんの性別鑑定に王宮のカステラード殿下のお住まいに来ております。

 「それではそろそろ調べましょうか」

 なんかクリステーナ様らも交えて和やかに款談の時間となってしまいましたが。お仕事ですよここに来たのは。

 「では、こちらの部屋で…」

 ん? アーメリア様が立ち上がって隣の部屋に誘いますが。

 「あ、アーメリア様。特にお医者さんみたいな診察は必要ないです。レッドさんを膝上にでも抱っこしていただければすぐ済みます」

 「え? それだけでいいんですか?」

 もしかして診察で脱ぐためにシンプルなドレスだったのですか? …どうもそうみたいですね。
 診断は出来るけど。どう診断するかについては連絡行っていなかったみたいです。エカテリンさんもそのへん詳しく見ていたわけでもないですしね。

 「はいっ」「クーッ」

 と、ハーネスを外したレッドさんを渡します。
 ちょっと緊張した面持ちでレッドさんを受け取るアーメリア様。
 皆さん、レッドさんを抱っこするときには、自然に赤ん坊抱きになりますね。居心地悪いのかレッドさんもぞもぞしています。

 「小竜神様、よろしくお願いしますね。」

 「ククック」

 ソファーに戻ったアーメリア様が、膝の上に座らせるようにレッドさんを抱きます。尻尾は横に垂らしてアーメリア様のお腹に背中からもたれる感じですね。まぁレッドさんセンサーは角周りにあるので。これでよい様です。

 レッドさんが、耳を澄ますように目を瞑ります。
 十秒程で結果が出たという念話が届きます。

 「…結果が出たそうです」

 「もうですか? 何も感じなかったのですが」

 超音波でスキャンするだけですからね。ちょっと拍子抜けという感じのアーメリア様です。

 「アーメリア様、カステラード殿下、よろしいですね?」

 「うむ。たのむ、レイコ殿」
 「はい。お願いします、レイコ殿」

 「…赤ちゃんは女の子です。問題なく成長していて、あと170日ほどでお生まれになります」

 「うむ、姫かっ!」

 皆に喜色が浮かびます。

 「女の子なのね! もう私の妹みたいなものよね? 楽しみですおばさまっ!」

 「ふぅ、ほっとした。アーメリアよかったな。元気な子を産んでくれ」

 クリステーナ様にカステラード殿下、まだ生まれていないのにお祝いモードですね。

 「アインコール殿下とファーレル様にさっそくお知らせしてきますね」

 侍従らしき人が部屋を出て行きます。なんで王太子のアインコール殿下が来られていないんだろう?と思ったら。王位継承権がある人間が一度に会する場合は、警備をさらに厳重にしている場合に限る…だそうです。指定生存者ってやつですね。
 ご家族が勢揃いできるのは陛下のお住まいだけだそうですが、それでも警備がフルコンプで配備されたときだけ。王族もいろいろ難儀ですね。

 「アーメリア様の健康や赤ちゃんの状態にも問題ないそうです。順調だそうですよ」

 「よかった… ありがとうございます小竜神様」

 抱っこしているレッドさんをぎゅっと抱きしめるアーメリア様、やはり初めての妊娠と言うことで不安があったようですね。
 そんなアーメリア様の肩を愛おしそうに抱くカステラード殿下。いつもの武人って雰囲気は無く、王族でもやっぱり夫婦です。
 え?レッドさん、雰囲気が甘ったるい? もうちょっとじっとしてあげて下さい。


 アーメリア様は、元伯爵令嬢だそうで。15歳の時に宴の場でカステラード殿下に一目惚れ、幾度もの猛烈アタックの後、押し掛け女房したそうです。見た目は可憐なご令嬢って感じですが、なかなかに積極的な女の子だったようで。
 カステラード殿下が当時24歳。さすがにすでに数多の貴族家から結婚の話は来ていたそうですが。第二王子しかも軍相ということでアインコール殿下を退けて王位を…と腹の底でたくらんでいる武断派貴族がすり寄ってきていたため、そういう野望は無いことを示すために積極的に嫁探しはしなかった…という経緯らしいですが。
 アーメリア様の実家が完全な文官系貴族の上に、宴席でのアーメリア嬢の猛烈アタックは貴族の間でも有名。結局は根負けしたカステラード殿下ですが、これらを見ていた当時の貴族の間では、さすがにこの婚姻に政略的意図は無いだろう…というのが周知されているそうです。誰も極端に得をしないけど損もしない、政治的立場からすれば"無難"な結婚…と相成りましたとさ。


 レッドさんはしばらく見捨てておいて。ローザリンテ殿下とちょっとお話します。

 「あのローザリンテ殿下、今回の報酬の件なのですが。やはり授かり物でお金をもらうのはちょっと憚れるというか…」

 「でもレイコちゃん。そうしておかないと鑑定依頼が殺到するわよ?」

 レッドさんが鑑定できるということはおおっぴらに宣伝はしないですが、そのうちバレるでしょうね。
 依頼が殺到するのも時間の問題ですが。

 「はい。ですからいただいた報酬は、診療所とかそういうところに寄付とか考えているのですが。不公平にならない寄付とかないもんでしょうか?」

 「うーん。そうね…」

 エイゼル市で見るに、この国の医療体制はさほど低くはありません。もちろんこの世界並の水準ではありますし、流石に無料というわけではないでかし、高価な薬を湯水のようにとは行きませんが。どんな庶民でも、とりあえずの診察と治療は受けられるようになってます。
 それに、エイゼル市や王都の診療所だけ施設や機材が豪華になっても不公平ですしね。どこへ寄付したもんかと考えていたのですが。

 「レイコちゃん、マルタリクの消毒薬を作っている酒蔵とかに投資しているでしょ?」

 酒蔵には投資と言うより奉納案件ということで、アルコールの蒸留に関する奉納料金がガロウ協会とランドゥーク商会経由でそのまま施設投資に回っています。
 酒造部門についてはテオーガル領へ技術移管されており。マルタリクの醸造所は消毒用と工業用のアルコールの生産に移りつつありますが。

 「そんな感じで賢者院から医学に携わる部分を研究開発部署として独立させるのに投資ってのはどうかしら?」

 「新しい医療の研究と開発に投資というわけですね。いいですねそれ」

 「今からだとその辺を任せられる人材の育成からしないといけないけど。学校の増設とか頭のいい人のスカウトとか。まだまだ研究と開発する人が絶対的に少ないから」

 わたしが出張ったせいで、マルタリクとユルガルムでも技術者や学者が底を着いています。子弟制度の推奨政策もあって、これでもまだ技術職の就職先としての門戸は大きく開かれていますが。研究開発出来る人材は、職人衆の中でもまだ一部の人達だけです。

 「そういうことなら、奨学金制度とかもいいかも?」

 「奨学金?」

 「学びたい人達への資金援助ですね。学費とその間の生活費を補助するという。返済のかわりに卒業後は何年か指定したところで働くとかいう制限が付くことになると思いますけど」

 「なるほど。学ぶ気はあるけど経済的に上位の学校に入れない子とかをそれで掬い上げるってことね」

 国の金で勉強したのなら、しばらくは国のために働いてもらうことになりますが。もともとこの時代だと、研究開発分野で国に関わらないってことの方が難しいでしょう。

 とまぁ。こんな感じで賢者院と人事院へ、研究部門の独立と人材育成について検討依頼を出すことになりました。
 今回の報酬だけでなく、いろんな工事でもらった報酬も貯まっています。うん、有益な使い道が見つかりました。

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