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第6章 エイゼル市に響くウェディングベル
第6章第009話 騎士の教練場とアイリさんのダイエット
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第6章第009話 騎士の教練場とアイリさんのダイエット
・Side:ツキシマ・レイコ
さて。アイリさんとタロウさんの結婚も決まり、挙式のスケジュールは固まりましたので。始まりましたアイリさんのダイエット作戦。
まぁ見た目そんなに肉が付いたようには見えませんが…胸以外。その辺はデリケートな乙女心、素敵なウェディングドレスも作ることですし、やはりベストを目指したいのでしょう。
美しいプロポーションには適度な筋肉も必要。このへんはエカテリンさんがよい見本になりますね。
この時代、ヘソが見えるようなファッションは無いです。せいぜい半袖短パンていどで。それでもわかる引き締まった…というより、腹筋が割れているのは確定でしょう。
「食べる量はエカテリンの方が多いくらいだと思うのにズルい…」
「ははは。食った分は動いているからな」
ということで。エカテリンさんの普段の運動を見るために、アイリさんの休日を利用して、貴族街アイズン伯爵邸にて護衛騎士達の訓練に体験参加です。
騎士の人達は、ほとんどがマナ術である身体強化が使えますが、訓練中は意識して切っているそうです。でないとトレーニングにならないですからね。こういうオンオフのコントロールが出来るのも騎士の条件だとか。
マーリアちゃんの場合、体内のマナ密度が高すぎて完全に切るのは逆に難しいそうです。せいぜいアイドリングさせておく感じですか。…それでもあの子は太りませんね。結構食べているはずなのに。体質ですか?
アイリさんはマナ術は全く使えませんので。運動は全部カロリー燃焼に使われます。良かったね。
「単純にマナ術が使えれば戦場で有利だから、昔にそういう人達がどんどん騎士や貴族になったのよね。その子孫もまたマナ術が得意というわけ」
なるほど。…覇王様とかもマナ術が使えるって事は、あの人も貴族の血筋かも? 雰囲気に妙に威厳もあるし。
あれ? ミオンさんとかモーラちゃんも使えるよね? エルセニム国の人達なんか皆がマナ術の適正があるみたいでしたけど。
「環境が厳しいところに住む民族とかにも、マナ術が得意な人が多いな」
エカテリンさんが補足してくれます。山の民とか、魔獣の南下を防いでいたエルセニム人とか。なるほどです。
…環境が厳しいからマナ術を習得したというよりは、マナ術を使える人が生き延びてきたって事なんでしょうけど。
さて。ここに来た目的を忘れてはいけません。
まずは軽くと、貴族街を取り囲む城壁の内側に沿って一周ランニングです。
護衛騎士の人達は、軽装鎧に実剣と同じ重さの木刀を刺して。私はいつもの護衛の格好に、頭の上にはレッドさんが掴まってます。
アイリさんは、こちらでは普通の運動服です…が。思った通り最初にへばったのがアイリさん。私が付き添いつつ、途中ショートカットして護衛騎士さん達の半分距離だったのにも関わらず、ドベでした。
「…ぜーは、ぜーは、ぜーは…」
「まぁいきなり騎士の訓練メニューは無理だとしても、今日走ったくらいは毎日な」
「ぜーは、ぜーは…そんな…殺生な…」
アイリさん、たっぷり三十分へばってました。
先に訓練場に戻った騎士さん達は、もうストレッチ始めてますよ。
そういえば。
お父さんが子供のころ、アメリカ海兵隊の新兵訓練で使っていることを謳い文句にした体操ビデオが流行っていたそうで。動画サイトでも公開されていたので、お母さんが見ながらやっていたのを私も付き合ったことがありまして。この動画、一時間近くあるのですが。その半分だけで大抵へばっていましたね。あれを一時間はキツイでしょ。
エカテリンさんに話したら、思しそうだから皆でやってみようと言うことになりました。
…レッドさんが体操の記憶を送ってくれます。便利ですね。
ゴムチューブを使う部分はオミットしましたが。それでも半時間ほどみっしりとその場で体を動かします。殆ど場所を取らないのがこの体操のメリットですね。ガタイの良い騎士さんの前で運動するのは、ちょっと恥ずかしいですが。
…ギリギリ成し遂げましたアイリさん。毎日頑張って下さいねと言ったら、泣きそうな顔になっていました。
「アイリの運動量は、まぁ一日分としてはこんなもんかな?」
「私も体操の方は付き合ってあげるから」
「ぜーは、ぜーは…そんな…レイコちゃんの…エカテリンの…鬼…」
この"鬼"って言葉。こちらでは昔の教会騎士だった人で、非常に厳しい教練をしたことで有名な偉人の異名です。ヤグルって名前だったそうですが、鬼って翻訳されましたね。おもしろいです。
訓練場に来たついでと言ってはなんですが。私は対人戦闘の訓練にも参加させて貰いました。
実は、伯爵邸におじゃましたときにたまに参加させてもらっています。
まぁ私の体に剣は効きませんが、普通に服は切れますし。専守防衛からの報復というのを心がけるにしても、最初の一撃を捌けるに越したことはありません。その辺の勉強が主目的ですね。
基本的に騎士が使うのは片手剣ではあるのですが。相手の得物を想定して、いろんな武器で訓練するようで。得意な得物によって、相手についてもいろいろ分かってくるものです。
両手剣。右手で柄の根本を持って、左手で残りの柄を支えます。
右手が支点で左手が力点。両手で持つことで剣で、押し切るように体重をかけることが出来ます。体重をかけられるってことは、体の持つ運動量を丸ごと剣にかけられると言うことで、威力は絶大。体重の軽い私が相手するのには一番相性が悪いですね。
右手が支点と言うことで、重心も柄に近いところになるような末広がりの刃の形の剣が多いです。将棋の駒をそのまま長く伸ばした形ですね。このへんは強度のメリットもあるのでしょう。
当然盾はありませんが、手元を狙われても良いように頑丈な小手はあります。
相手が武器を持っていない魔獣の相手が前提の護衛業の人は、両手剣の人が多いですね。威力一番。
片手剣。片手ですので鍔迫り合いは難しいですし、よほどの手首の筋力がないと体重はかけられません。むしろ、混紡のように速度をつけて叩きつけるという取り回しとなります。腕をスワイプさせて速度を乗せて殴り切る、こんな感じです。
剣の速度は上がりますが、剣に乗せられる重さは両手剣に比べれば遙かに少なく。これなら私の体重でもなんとか裁けます。
刃の形も、笹の葉のように前三分の一あたりが一番太いような、重心が前の方に付いているものが多いです。これも棍棒の理屈ですね。
片手剣の時には、大抵は左手に盾を持ちますが。でかい盾ではせっかくの機動性が損なわれますので、中華鍋程度の丸い盾が多いですね。でかい盾は弓矢を防ぐための物で、動き回るような所では使わないそうです。
あと、騎乗して戦うのなら片手剣しか使えませんので。騎士の人はもっぱら片手剣を専修します。
槍。集団の時なら前に刺せれば良いだけの形ですが。騎士が使う場合、ハルバートの様に薙いでも使える形の物が多いです。
両手持ちが基本ですが。柄が長いだけに、体重をかけるよりは片手剣のような切っ先の速度を生かしたような振り回しか、上からたたきつけるか、真っ直ぐ突いてくるという使い方になります。
相性が悪いのが盾を持った片手剣。盾で裁かれて懐に入り込まれたら終わりですので。大勢で並んで使う…ってのは、地球でのそれと同じですね。マーリアちゃんはその辺、体術を混ぜ込むことでクリアーしています。盾で防げても、反対側から脚が飛んできますよ。
コストパフォーマンスが良い武器でもありますので、一般兵はまず集団で槍を使う訓練をするそうです。
棍や棍棒。メイスとかもこの分類ですね。
剣の場合、刃を立てるように相手に当てないと効果激減です。剣の修練のほとんどが、正しい向きで相手に刃を当てる剣の振り方の精度習得が目的です。
ただ、棒ならその辺はあまり気にする必要がありませんし。相手が鎧を着ていてもその中に衝撃を伝えられますので、混戦前提でこれを使う騎士は結構多いそうです。
手加減をし易いという利点もありますので、対人戦闘向きですね。殺さないほうが良い場合もありますので。
逆に、魔獣を相手にすることを前提としている護衛業の人は、まず使いません。鉄の棒で殺すつもりで殴るのなら、両手剣でも同じですから。
「よろしくお願いします。ダンテ隊長!」
「うむ。よろしく頼みます、レイコ殿」
私の対人戦闘の鍛錬の相手は、ダンテ隊長です。隊長も、スタンダートに片手持ちの木剣と盾を装備しています。私は、両手にレイコ・ナックルナイフの木製版。
私に課せられた制限は、得物が壊れない程度の力しか出さず、地面に引いた丸から出ないこと。
ナイフを逆手に構えるのはかっこつけすぎでしょうかね? この持ち方、思ったより刃の動かせる範囲が狭いので振りかぶる動きは一切出来ず。そもそも短いので、もっぱら受けた相手の剣を跳ね上げるスタイルです。まぁ背が低い私には丁度良いのかもしれません。
隙を見てナイフを突き立てようとしますが、剣と盾でいなされてしまいます。
としている内に、逆袈裟斬りとでも言いましょうか、死角の左下から掬い上げるような剣戟! とっさにナイフで受けましたが、いくら私が力が強くても宙に浮かされてはどうにもなりません。ひっくり返ったところで剣を肩に当てられて勝負あり。
まぁマナの体ということでナイフに頼らないがむしゃらモードなら勝てるでしょうが。剣技の範疇だと、なかなか達人には適わないですね。
ダンテ隊長が、転けた私に手を差し出してくれます。
立ち上がって互いに礼をします。
「なかなかナイフ捌きも様になってきましたな、レイコ殿。そろそろ私も、お相手するのにヒヤヒヤしますな」
「ありがとうございますダンテ隊長。うーん、やっぱ体重が軽いのはなんともならないですかね?」
「達人ならば、数合もすれば体重が軽いのは弱点だとすぐにバレるでしょうからね。やっぱ離れたところから一撃離脱が理想でしょうな 剣が効かない体なら、とりついてしまえば何とでもなるのでしょうが。レイコ殿は体重が乗らないですからな。確かに早いに越したことはないのですが」
体重に頼らず速度だけ…あっそうだ。あの剣術。
近くに合った竹の棒を手に取って、前に真っ直ぐに伸ばして構えます。
いわゆるフェンシングですね。
「実際、これくらい細い剣を使うんですけどね」
剣を体の前に構えて、左手は後ろに。できるだけ投影面積を小さくして…タンッと突くっ!
「こうやってひたすら急所狙いする剣術です」
見学していた二人の騎士さんが、同じく竹の棒を拾って対峙してみてます。
「なるほどなぁ…鎧の隙間を狙うだけの剣術か。これは意外と避けにくいかもな。カウンター狙いならいけるか?」
「剣先が点にしか見えないのが恐いな。眉間が痛いぞ。でも、こんなの集団戦では使えないだろ? 一対一専用じゃ無いか?」
「貴族や騎士の決闘用って感じでしたね」
「なるほどたしかにね」
練習用標的として、棒に廃棄品の鎧を被せた物がありますので。試しに突いてみます。まぁ当たり前ですが竹は砕けました。
「本当に決闘で重武装するのなら、隙間を隠したタイプの重装鎧を使うだろうしな。細い剣じゃ心許ないな」
地球の昔のプレートアーマーとかは脇の下とかあたりも隙間が出来ないようにいろいろパーツがついてましたね。でも、内股当たりはけっこう弱点に見えました。
うーん。
ちょっと試しに、標的の鎧を人差し指で思いっきり突いて見ます。
スコンっ!
あ、なんかいい音がして鎧に穴が空きました。
「…レイコ殿には、武器は要らないんじゃ無いか?」
見物していた騎士さんが唸っています。
そう言えば、いつも履いているレイコ・ナックルソードも今まで出番ありませんね。せっかく作ってもらったのに、ちょっと可哀そうかな?
っと。今日の目的は私の対人戦闘訓練ではなく、アイリさんのダイエットでしたね。
アイリさんは、物は試しとショートソードの木剣とラウンドシールドサイズの木盾を持ってヒーヒー言いながら左右に反復飛びをしつつ素振りしています。両手に得物を持っているので、上半身も鍛えられますね、あれは。たしかにダイエットに効果はありそうですね。…続けられるのならですが。
「アイリさん、逆に考えるんです。エカテリンさんと同じくらい毎日運動すれば、エカテリンさんと同じくらい食べても平気ってことですよ」
「…その考えは無かった。でも、エカテリンは体鍛えるのも仕事の内だろうけど。私が同じくらい体動かしてたら商会の仕事の方が滞るわよ…」
頭脳労働もそれなりにカロリー使うはずなんですけどね。うまくいかないもんです。
今日のアイリさんはお仕事はお休みでしたが。たしかにここに来ての調練を毎日というのは難しそうですね。
騎士の兵士の人やエカテリンさんは、例の海兵隊体操が気に入ったようです。全身の筋肉を無理せずまんべんなく鍛えられると高評価。…この体操を皆が覚えるまで、アイリさんに付き合って通うことになりそうです。
…私が運動しても筋肉付かないんだけどな。
・Side:ツキシマ・レイコ
さて。アイリさんとタロウさんの結婚も決まり、挙式のスケジュールは固まりましたので。始まりましたアイリさんのダイエット作戦。
まぁ見た目そんなに肉が付いたようには見えませんが…胸以外。その辺はデリケートな乙女心、素敵なウェディングドレスも作ることですし、やはりベストを目指したいのでしょう。
美しいプロポーションには適度な筋肉も必要。このへんはエカテリンさんがよい見本になりますね。
この時代、ヘソが見えるようなファッションは無いです。せいぜい半袖短パンていどで。それでもわかる引き締まった…というより、腹筋が割れているのは確定でしょう。
「食べる量はエカテリンの方が多いくらいだと思うのにズルい…」
「ははは。食った分は動いているからな」
ということで。エカテリンさんの普段の運動を見るために、アイリさんの休日を利用して、貴族街アイズン伯爵邸にて護衛騎士達の訓練に体験参加です。
騎士の人達は、ほとんどがマナ術である身体強化が使えますが、訓練中は意識して切っているそうです。でないとトレーニングにならないですからね。こういうオンオフのコントロールが出来るのも騎士の条件だとか。
マーリアちゃんの場合、体内のマナ密度が高すぎて完全に切るのは逆に難しいそうです。せいぜいアイドリングさせておく感じですか。…それでもあの子は太りませんね。結構食べているはずなのに。体質ですか?
アイリさんはマナ術は全く使えませんので。運動は全部カロリー燃焼に使われます。良かったね。
「単純にマナ術が使えれば戦場で有利だから、昔にそういう人達がどんどん騎士や貴族になったのよね。その子孫もまたマナ術が得意というわけ」
なるほど。…覇王様とかもマナ術が使えるって事は、あの人も貴族の血筋かも? 雰囲気に妙に威厳もあるし。
あれ? ミオンさんとかモーラちゃんも使えるよね? エルセニム国の人達なんか皆がマナ術の適正があるみたいでしたけど。
「環境が厳しいところに住む民族とかにも、マナ術が得意な人が多いな」
エカテリンさんが補足してくれます。山の民とか、魔獣の南下を防いでいたエルセニム人とか。なるほどです。
…環境が厳しいからマナ術を習得したというよりは、マナ術を使える人が生き延びてきたって事なんでしょうけど。
さて。ここに来た目的を忘れてはいけません。
まずは軽くと、貴族街を取り囲む城壁の内側に沿って一周ランニングです。
護衛騎士の人達は、軽装鎧に実剣と同じ重さの木刀を刺して。私はいつもの護衛の格好に、頭の上にはレッドさんが掴まってます。
アイリさんは、こちらでは普通の運動服です…が。思った通り最初にへばったのがアイリさん。私が付き添いつつ、途中ショートカットして護衛騎士さん達の半分距離だったのにも関わらず、ドベでした。
「…ぜーは、ぜーは、ぜーは…」
「まぁいきなり騎士の訓練メニューは無理だとしても、今日走ったくらいは毎日な」
「ぜーは、ぜーは…そんな…殺生な…」
アイリさん、たっぷり三十分へばってました。
先に訓練場に戻った騎士さん達は、もうストレッチ始めてますよ。
そういえば。
お父さんが子供のころ、アメリカ海兵隊の新兵訓練で使っていることを謳い文句にした体操ビデオが流行っていたそうで。動画サイトでも公開されていたので、お母さんが見ながらやっていたのを私も付き合ったことがありまして。この動画、一時間近くあるのですが。その半分だけで大抵へばっていましたね。あれを一時間はキツイでしょ。
エカテリンさんに話したら、思しそうだから皆でやってみようと言うことになりました。
…レッドさんが体操の記憶を送ってくれます。便利ですね。
ゴムチューブを使う部分はオミットしましたが。それでも半時間ほどみっしりとその場で体を動かします。殆ど場所を取らないのがこの体操のメリットですね。ガタイの良い騎士さんの前で運動するのは、ちょっと恥ずかしいですが。
…ギリギリ成し遂げましたアイリさん。毎日頑張って下さいねと言ったら、泣きそうな顔になっていました。
「アイリの運動量は、まぁ一日分としてはこんなもんかな?」
「私も体操の方は付き合ってあげるから」
「ぜーは、ぜーは…そんな…レイコちゃんの…エカテリンの…鬼…」
この"鬼"って言葉。こちらでは昔の教会騎士だった人で、非常に厳しい教練をしたことで有名な偉人の異名です。ヤグルって名前だったそうですが、鬼って翻訳されましたね。おもしろいです。
訓練場に来たついでと言ってはなんですが。私は対人戦闘の訓練にも参加させて貰いました。
実は、伯爵邸におじゃましたときにたまに参加させてもらっています。
まぁ私の体に剣は効きませんが、普通に服は切れますし。専守防衛からの報復というのを心がけるにしても、最初の一撃を捌けるに越したことはありません。その辺の勉強が主目的ですね。
基本的に騎士が使うのは片手剣ではあるのですが。相手の得物を想定して、いろんな武器で訓練するようで。得意な得物によって、相手についてもいろいろ分かってくるものです。
両手剣。右手で柄の根本を持って、左手で残りの柄を支えます。
右手が支点で左手が力点。両手で持つことで剣で、押し切るように体重をかけることが出来ます。体重をかけられるってことは、体の持つ運動量を丸ごと剣にかけられると言うことで、威力は絶大。体重の軽い私が相手するのには一番相性が悪いですね。
右手が支点と言うことで、重心も柄に近いところになるような末広がりの刃の形の剣が多いです。将棋の駒をそのまま長く伸ばした形ですね。このへんは強度のメリットもあるのでしょう。
当然盾はありませんが、手元を狙われても良いように頑丈な小手はあります。
相手が武器を持っていない魔獣の相手が前提の護衛業の人は、両手剣の人が多いですね。威力一番。
片手剣。片手ですので鍔迫り合いは難しいですし、よほどの手首の筋力がないと体重はかけられません。むしろ、混紡のように速度をつけて叩きつけるという取り回しとなります。腕をスワイプさせて速度を乗せて殴り切る、こんな感じです。
剣の速度は上がりますが、剣に乗せられる重さは両手剣に比べれば遙かに少なく。これなら私の体重でもなんとか裁けます。
刃の形も、笹の葉のように前三分の一あたりが一番太いような、重心が前の方に付いているものが多いです。これも棍棒の理屈ですね。
片手剣の時には、大抵は左手に盾を持ちますが。でかい盾ではせっかくの機動性が損なわれますので、中華鍋程度の丸い盾が多いですね。でかい盾は弓矢を防ぐための物で、動き回るような所では使わないそうです。
あと、騎乗して戦うのなら片手剣しか使えませんので。騎士の人はもっぱら片手剣を専修します。
槍。集団の時なら前に刺せれば良いだけの形ですが。騎士が使う場合、ハルバートの様に薙いでも使える形の物が多いです。
両手持ちが基本ですが。柄が長いだけに、体重をかけるよりは片手剣のような切っ先の速度を生かしたような振り回しか、上からたたきつけるか、真っ直ぐ突いてくるという使い方になります。
相性が悪いのが盾を持った片手剣。盾で裁かれて懐に入り込まれたら終わりですので。大勢で並んで使う…ってのは、地球でのそれと同じですね。マーリアちゃんはその辺、体術を混ぜ込むことでクリアーしています。盾で防げても、反対側から脚が飛んできますよ。
コストパフォーマンスが良い武器でもありますので、一般兵はまず集団で槍を使う訓練をするそうです。
棍や棍棒。メイスとかもこの分類ですね。
剣の場合、刃を立てるように相手に当てないと効果激減です。剣の修練のほとんどが、正しい向きで相手に刃を当てる剣の振り方の精度習得が目的です。
ただ、棒ならその辺はあまり気にする必要がありませんし。相手が鎧を着ていてもその中に衝撃を伝えられますので、混戦前提でこれを使う騎士は結構多いそうです。
手加減をし易いという利点もありますので、対人戦闘向きですね。殺さないほうが良い場合もありますので。
逆に、魔獣を相手にすることを前提としている護衛業の人は、まず使いません。鉄の棒で殺すつもりで殴るのなら、両手剣でも同じですから。
「よろしくお願いします。ダンテ隊長!」
「うむ。よろしく頼みます、レイコ殿」
私の対人戦闘の鍛錬の相手は、ダンテ隊長です。隊長も、スタンダートに片手持ちの木剣と盾を装備しています。私は、両手にレイコ・ナックルナイフの木製版。
私に課せられた制限は、得物が壊れない程度の力しか出さず、地面に引いた丸から出ないこと。
ナイフを逆手に構えるのはかっこつけすぎでしょうかね? この持ち方、思ったより刃の動かせる範囲が狭いので振りかぶる動きは一切出来ず。そもそも短いので、もっぱら受けた相手の剣を跳ね上げるスタイルです。まぁ背が低い私には丁度良いのかもしれません。
隙を見てナイフを突き立てようとしますが、剣と盾でいなされてしまいます。
としている内に、逆袈裟斬りとでも言いましょうか、死角の左下から掬い上げるような剣戟! とっさにナイフで受けましたが、いくら私が力が強くても宙に浮かされてはどうにもなりません。ひっくり返ったところで剣を肩に当てられて勝負あり。
まぁマナの体ということでナイフに頼らないがむしゃらモードなら勝てるでしょうが。剣技の範疇だと、なかなか達人には適わないですね。
ダンテ隊長が、転けた私に手を差し出してくれます。
立ち上がって互いに礼をします。
「なかなかナイフ捌きも様になってきましたな、レイコ殿。そろそろ私も、お相手するのにヒヤヒヤしますな」
「ありがとうございますダンテ隊長。うーん、やっぱ体重が軽いのはなんともならないですかね?」
「達人ならば、数合もすれば体重が軽いのは弱点だとすぐにバレるでしょうからね。やっぱ離れたところから一撃離脱が理想でしょうな 剣が効かない体なら、とりついてしまえば何とでもなるのでしょうが。レイコ殿は体重が乗らないですからな。確かに早いに越したことはないのですが」
体重に頼らず速度だけ…あっそうだ。あの剣術。
近くに合った竹の棒を手に取って、前に真っ直ぐに伸ばして構えます。
いわゆるフェンシングですね。
「実際、これくらい細い剣を使うんですけどね」
剣を体の前に構えて、左手は後ろに。できるだけ投影面積を小さくして…タンッと突くっ!
「こうやってひたすら急所狙いする剣術です」
見学していた二人の騎士さんが、同じく竹の棒を拾って対峙してみてます。
「なるほどなぁ…鎧の隙間を狙うだけの剣術か。これは意外と避けにくいかもな。カウンター狙いならいけるか?」
「剣先が点にしか見えないのが恐いな。眉間が痛いぞ。でも、こんなの集団戦では使えないだろ? 一対一専用じゃ無いか?」
「貴族や騎士の決闘用って感じでしたね」
「なるほどたしかにね」
練習用標的として、棒に廃棄品の鎧を被せた物がありますので。試しに突いてみます。まぁ当たり前ですが竹は砕けました。
「本当に決闘で重武装するのなら、隙間を隠したタイプの重装鎧を使うだろうしな。細い剣じゃ心許ないな」
地球の昔のプレートアーマーとかは脇の下とかあたりも隙間が出来ないようにいろいろパーツがついてましたね。でも、内股当たりはけっこう弱点に見えました。
うーん。
ちょっと試しに、標的の鎧を人差し指で思いっきり突いて見ます。
スコンっ!
あ、なんかいい音がして鎧に穴が空きました。
「…レイコ殿には、武器は要らないんじゃ無いか?」
見物していた騎士さんが唸っています。
そう言えば、いつも履いているレイコ・ナックルソードも今まで出番ありませんね。せっかく作ってもらったのに、ちょっと可哀そうかな?
っと。今日の目的は私の対人戦闘訓練ではなく、アイリさんのダイエットでしたね。
アイリさんは、物は試しとショートソードの木剣とラウンドシールドサイズの木盾を持ってヒーヒー言いながら左右に反復飛びをしつつ素振りしています。両手に得物を持っているので、上半身も鍛えられますね、あれは。たしかにダイエットに効果はありそうですね。…続けられるのならですが。
「アイリさん、逆に考えるんです。エカテリンさんと同じくらい毎日運動すれば、エカテリンさんと同じくらい食べても平気ってことですよ」
「…その考えは無かった。でも、エカテリンは体鍛えるのも仕事の内だろうけど。私が同じくらい体動かしてたら商会の仕事の方が滞るわよ…」
頭脳労働もそれなりにカロリー使うはずなんですけどね。うまくいかないもんです。
今日のアイリさんはお仕事はお休みでしたが。たしかにここに来ての調練を毎日というのは難しそうですね。
騎士の兵士の人やエカテリンさんは、例の海兵隊体操が気に入ったようです。全身の筋肉を無理せずまんべんなく鍛えられると高評価。…この体操を皆が覚えるまで、アイリさんに付き合って通うことになりそうです。
…私が運動しても筋肉付かないんだけどな。
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一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
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