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第5章 クラーレスカ正教国の聖女
第5章第037話 改めて会見です
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第5章第037話 改めて会見です
・Side:ツキシマ・レイコ
教都に着いて。絡んでくる赤い鎧の人を排除したら、座敷牢に入れられ。脱獄してからアインコール殿下達と合流してのんびりしていますと。なにやら外が騒がしく、正教国のお偉いさんらしき団体さんのお付きです。
「巫女様がこちらに来られていると…ああリシャーフ様、ご無事で!」
リシャーフさんの様子を見るに、中級祭司くらいってところですか。揉み手でもするんじゃ無いかという相好でやって来ました。
「昨晩は、向こうの座敷牢で一泊してましたよ? まぁまぁのベットでしたね」
「まさかっ! …聖女様と巫女様御一行は、丁重にお迎えするようにと指示が出ていたはずなのですが…」
自分が言わなくても、誰かが丁重にもてなしているはず…ってパターンですか?これ。
「丁重に座敷牢でした。出された食事は何が入っているか分らなかったので、手持ちの携帯食で済ませていますけど」
「…え? いやいやいや何かの間違いでは? サラダーン祭司長やケルマン祭司総長からの、巫女様は丁重にお迎えして、面談は次の日に…という指示が…」
真っ青になる使者の人。牢の衛兵からの報告は、まだどこっかで止っているようですね。
「教都の関の前で、アバババって赤い鎧の人に襲撃されたんですけど。教会のお偉いさんに丁重に連れてこいと言われたとか言って。再度、丁重してみます? もちろん抵抗しますけど」
「赤竜騎士団のアバ・ベイルルですね。確かにサラダーン祭司長に指示されたと言ってました」
ルシャールさんも証言してくれます。
「まっまさかそんなはずはっ! す…すぐに確認させていただきますっ! まずはすぐにでもお食事のご用意を…」
「もういいです。さっさと済ませたいので。 っと、ここでお茶だけ飲んでいきますね」
アインコール殿下の侍従が、お茶とこちらで出された朝食から軽食を見繕ってくれています。レッドさんのお墨付き。
少しくらい待たせるのは構わないよね。せっかくアインコール殿下と合流できたので、打ち合わせもしておきたいし。
使者の祭司さん。どっかに連絡しに行くのか、慌てて出て行ってしまいましたね。
さて。たっぷり一時間ほどアインコール殿下とお話しした後。部屋前で待っていた兵に連絡をお願いしました。すぐに祭司がやって来て、ガラス窓のある天井の高い場所に通されました。上の方はステンドグラス、下の方はガラス窓ですね。
1枚のガラスのサイズに製造上の制限があるのか、ノートくらいの大きさのガラス板を枠で組み合わせてでかい窓に…という感じですが。礼拝堂から椅子を取り払ったら、こんな感じですか。エカテリンさん曰く、ここが謁見室兼礼拝堂だそうです。
一般人参拝やら祭事で使う礼拝堂は、また別にあるそうで。なるほど特別豪華な作りにしてあるってことですね。
ステンドグラスの意匠…赤井さんとそれに導かれた聖者達って感じでしょうか。この大陸の人達は、東の海の向こうの帝国から移住してきたと言うことですので、その辺の建国神話あたりがモチーフなんでしょう。
「この善き日に赤竜神様が現世に遣わされた巫女様をお迎えできること、まさに望外の喜び。初めまして赤竜神の巫女様。クラーレスカ正教国祭司総長ケルマン・クラーレスカ・バーハルと申します」
豪華な祭司服を纏った人達が、謁見室で待ってました。ケルマン祭司総長、リシャーフさんのお父さんですね。
横に居る爬虫類系の雰囲気の人。多分この人がサラダーン祭司長とやらでしょう。
にしても善き日って、窓から見える分には、今日は結構曇っているけどね。今日は雨降るんじゃ無いかな?
「赤竜神の巫女様、昨日は大変失礼いたしました」
ここが教会で最上位の場所でしょうけど。なぜかアインコール殿下を差し置いて私が上座に座らされました。固辞しようかと思ったのですが、アインコール殿下に促されました。…なんか私を利用する気満々ですね。
本来は祭司総長が座るだろう玉座っぽい豪華なところに私が座り、アインコール殿下が横に立っています。
セレブロさんとアライさんはマーリアちゃんの近くにいます。最初は別室で待たされそうになったけど、エルセニム国の王女の護衛ですよ、これは譲れません。マーリアちゃんにはアライさんの護衛もお願いしてます。
…なんか圧迫感がある場所ですね。マナ塊を使った道具が多いのか、私の探知にはどうにも見通しが悪い感じです。
さらに。私を中心に皆が揃った結果、ネイルコード勢が正教国勢を見下ろす体になってます。
リシャーフさんは、正教国側に居ますが、この辺は致し方なし。
サラダーン祭司長が前に出ます。今のところ黒幕候補最上位な人物です。
「あまりに手際よく"丁重"だったもんですから、カリッシュ祭司の件をごまかすための演出かと思ってました。アバババって赤い鎧の人が私を力ずくで捕まえられたらとか、座敷牢で閉じ込められるのならそれに越したことは無かったとか。失敗したら全部連絡の不備でごまかす。そんな感じですか?」
伝言ゲームで間違えたのだから許してね?ポーズの可能性を本気で疑っています。
「…滅相も無い。誠に申し訳なく思います」
「関での捕縛も、座敷牢への収監も、あなたが指示したと直接聞いていますけど。滅相も無いと言うことは、カリッシュ祭司の件も含めて、全面的に正教国の責、すなわちあなた達が指示したことで責任もあると認めるということでいいのですか?」
「いえ…それは…」
「…アインコール殿下との昨日の話し合いについては、私も聞きました。それを含めて、まず正教国側の要求を聞きたいのですが」
なんかこちらから問いかけても、"いえ"とか"そんなことは"など、煮え切らない反応だけで、話が進みそうに無いですからね。そういう人には、自分の口から直接言わせるに限ります。
「まず、私の定宿を焼いたカリッシュ祭司。あなた方はどうしたいと?」
「…できましたら、正教国に一度戻して貰い、こちらで正統な裁きを…」
「正教国では、街中での放火に対する刑罰はどうなっているんですか? リシャーフさん」
「…ネイルコードと同じく、よほどの理由が無ければ処刑ですね」
「では、カリッシュを正教国で処刑すると?」
「そ…それは…正教国の名の下に派遣した祭司を処刑したとあっては、我が国の面子が…」
…まぁ結果的にとはいえファルリード亭ではだれも傷つきませんでしたし。別にカリッシュを積極的に殺したいわけでは無いですけどね。ただ、後で赦免するにしても、まずは正教国が処刑を認めることはネイルコード国としても譲れない…と、アインコール殿下らとの話では着いてます。
「分りました。カリッシュ祭司を処刑することをお約束しましょう。」
サラダーン祭司長がもごもごしていると、ケルマン祭司総長がそれを遮って断言しました。
「…いいのですか総祭司長? 他国の要求のまま罰したとあっては…」
「以前のクエッタ祭司にしてもですが。あなたの配下にはまともな人間がいないようですね。…巫女様、そのような程度の祭司が何故派遣されたのかについても当方で調査をしたく、一度返還していただければと思います。罪状については疑問の余地も無いので、お望みの通りに…」
「私が処刑を望んでいるみたいな言い方、止めてください」
「…違うのですか?」
「放火に対する罰が厳罰なのは当然でしょう。下手をすれば多くの人が巻き添えになるのですから。カリッシュを罰するのは法であって、私の役目ではありませんし。私が何か言ったから罰が変わるなんてザルな法律の国だとしたら、むしろ軽蔑します。言っていること、分かりますか?」
「…仰るとおりでございます。」
「問題は、なぜそのような人物を派遣したのかというあなた達の任命責任。カリッシュ祭司は何故そのような凶行に走ったのかという正教国での教育責任。今後同じようなことが起きないようにするにはどうすれば良いのかという去就責任。私としては、カリッシュよりあなた方を処罰したい気持ちで一杯です。そのためにここに来たのですから」
「…巫女様は連座は望まれないと伺いましたが…」
サラダーン祭司長、そんなところは調べてあるんですね。それとも慌てて報告を読み直した程度なのか。
「罪の無い人のを血縁だけで連座させることは求めませんが。責任を取るべき人がいる場合は、責任を取るべきでしょ?」
「…それにつきましては、こちらでも調査と検討の上、改めて…」
まぁトップの入れ替えは私としては確定していることなので。あとでリシャーフさんも交えて話をしましょうか。
「まぁいいでしょう。つぎに、私とレッドさんを正教国に引き渡せって話ですけど」
「正教国は赤竜教の総本山です。赤竜神様から遣わされた巫女様が正教国に御逗留いただくのは当然のことです」
自分の得意分野キターとでも思ったのか、サラダーン祭司長がなんか元気を取り戻していますけど。
「本当に良いのですか? 私がこの国に来て本当のことを話しても」
「…良いのですかとは?」
「赤竜神、私が赤井さんと呼んでいた"人"ですが。あの人がいつ、自分を神と奉った宗教を認めたと?」
「え?」
「赤竜神がいつ赤竜教を認めて、いつこの国を総本山だと認めたのか?と聞いています」
「そ…それは…昔から伝わっている聖典に…」
「その聖典に書かれていることが本物だという根拠は?」
「そ…それをいうのなら、聖典に書かれている物が間違いだという根拠は? 何百年にもわたり聖典に沿って教会は存続してきたのです。今更本物では無いと言われて、我々にどうしろというのですかっ?!」
…キレられてもちょと困るのですが。
実際に"存在する"赤竜なんでものをご本尊にするから、こういうことになるんですよ。
「まぁ人の心の平穏のために宗教が必要だというのは、私にも分ります。教会が全部無駄とは言いません。ただ、その皺寄せが私に来ることは、正直迷惑です。カリッシュやクエッタみたいなのを寄越されるのは本当に迷惑です。金儲けの売僧に利用されるのは勘弁です。本当の信仰に私なんか必要ありません。理解していただけませんか?」
「売僧とはよくいったもんだ、レイコ殿。…そう言えば母上も言っていたな」
アインコール殿下がなんか感心しています。それを言ったらお終いってやつで言えなかった言葉ですか? 拝金派って言葉も裏で囁かれていたレベルでしたね。
「赤竜神の巫女様、いやレイコ様。赤竜教の象徴として正教国に関わりたくないというのはよく分りました。ただ、そこを押してぜひ正教国に来ていただきたい理由がございます」
神妙に頭を下げているケルマン総祭司長。
「…なんでしょう?」
「伝聞ではございますが。レイコ様は三千万年前に赤竜神の故郷たる別の世界で生きられていて。そのとき魂をマナの体に移し替えられて今ここに生き返られたと伺いました」
「細かいところはいろいろあるけど。三千万年前の地球で死んだけど、そのときに記憶などを保存されて、一昨年赤竜神に再生されたってのは本当です」
ケルマン総祭司長は、思ったのとちょっと違うといった何か戸惑ったような雰囲気になります。
「…私、長年マナ術の研究を指揮してきていまして。赤竜神がマナの体を持っているという伝承を元に、体内マナの密度を上げていけば、不老不死の体や死者の蘇生が可能になるのでは無いかという仮説を立てまして。その実現のための実験に多大な資金や人材を投じてきました」
「…ケルマン総祭司長は、不老不死がお望みですか?」
「私が求めているのは、死者蘇生の方でございます! なにとぞ!その御技をお授けください!」
「父上、まさか…」
リシャーフさんに思い至った事があるようです。そう言えば、リシャーフさんのお母さんは亡くなっていましたね。
「…そんな技はありません。私は生き返ったわけではありません。元の私はしっかり死んでますよ」
「しかし現にあなた様は!」
「赤竜神から聞いた昔話なんですけどね…」
私が死んでだいぶ後ですが。脳スキャナーと、スキャンしたデータをコンピューター内でシミュレーションする技術がある程度成熟して。もちろんスキャンする機材とシミュレーションに使うコンピューターには莫大な予算が必要なので、一般人が簡単に使える物ではなかったそうですが。
ある宗教団体の教祖が老衰でいよいよ駄目という時、このシステムに目を付けた…のは良いんだけど。システムが進歩して死後の脳その物の精査が必要なくなったのが災いしました。
その教祖が臨終する前にスキャンが終了したのは良いのですが。本来は、本人が臨終してからシミュレーションをスタートし、モニターしている信者達の前に現れる永遠の命を手に入れた教祖…と、教団を盛り上げるセレモニーとして終わるところが。スキャンしたデータのテストのつもりが、本人臨終前にシミュレーションをスタートしてしまいました。
臨終間際の老人と、若いころの姿を取り戻したシミュレーション画像の対面…
『…そ…それはっ、それは誰だっ! わしはまだここに居るっ! 助けてくれっ! まだ死にたくないっ!』
『…私がまだそこにいるのなら…私は一体"何"なんだっ?!』
これがモニターしている信者達に一斉に目撃されることとなりました。
後処理のために既に生命維持装置を外されていた教祖はすぐに亡くなりましたが。教団の経営が傾いたことで、シミュレーションをするハードの維持が出来なくなり、ほどなくこちらも停止されたそうです。
この事件が切っ掛けで、再生人格と元の人間との同一性について議論が紛糾し。後の再生人格の権利制限に繋がっていくそうです。
「…そんな…それではあなたは…」
「生き返ったのではなく、複製品ですね。…あなたにはだれか生き返らせたい人が居るのですか?」
「…私の妻、そこにいるルシャールの母親ですが…ルシャールが生まれてすぐに儚くなってしまって…いや、複製の魂でもかまいません!妻の復活をっ! もう少しなのです!」
もう少し? ちょっと気になりましたが。
「あなたは、奥さんのために再生を望むのですか? それとも自分の利己のために再生を望むのですか?」
絶望に崩れ落ちるケルマン祭司総長。
気持ちは分らなくもありません。私だって、お父さんお母さんが再生されるのなら、喜んだでしょう。
…ただ、再生された側としては、残してきた過去にいつ終わるか分らない未来、それなりに苦悩も大きいのです。
「…残念ですが。これで私がこの国に居る理由も無いですね。あとはカリッシュの落とし前を…」
「く…先代聖女が復活するのならと、どれだけの大金を探求院に投じたと思っているんだ! 成果は出ていたんだぞ!」
ケルマン祭司総長ではなく、サラダーン祭司長が叫びました。
・Side:ツキシマ・レイコ
教都に着いて。絡んでくる赤い鎧の人を排除したら、座敷牢に入れられ。脱獄してからアインコール殿下達と合流してのんびりしていますと。なにやら外が騒がしく、正教国のお偉いさんらしき団体さんのお付きです。
「巫女様がこちらに来られていると…ああリシャーフ様、ご無事で!」
リシャーフさんの様子を見るに、中級祭司くらいってところですか。揉み手でもするんじゃ無いかという相好でやって来ました。
「昨晩は、向こうの座敷牢で一泊してましたよ? まぁまぁのベットでしたね」
「まさかっ! …聖女様と巫女様御一行は、丁重にお迎えするようにと指示が出ていたはずなのですが…」
自分が言わなくても、誰かが丁重にもてなしているはず…ってパターンですか?これ。
「丁重に座敷牢でした。出された食事は何が入っているか分らなかったので、手持ちの携帯食で済ませていますけど」
「…え? いやいやいや何かの間違いでは? サラダーン祭司長やケルマン祭司総長からの、巫女様は丁重にお迎えして、面談は次の日に…という指示が…」
真っ青になる使者の人。牢の衛兵からの報告は、まだどこっかで止っているようですね。
「教都の関の前で、アバババって赤い鎧の人に襲撃されたんですけど。教会のお偉いさんに丁重に連れてこいと言われたとか言って。再度、丁重してみます? もちろん抵抗しますけど」
「赤竜騎士団のアバ・ベイルルですね。確かにサラダーン祭司長に指示されたと言ってました」
ルシャールさんも証言してくれます。
「まっまさかそんなはずはっ! す…すぐに確認させていただきますっ! まずはすぐにでもお食事のご用意を…」
「もういいです。さっさと済ませたいので。 っと、ここでお茶だけ飲んでいきますね」
アインコール殿下の侍従が、お茶とこちらで出された朝食から軽食を見繕ってくれています。レッドさんのお墨付き。
少しくらい待たせるのは構わないよね。せっかくアインコール殿下と合流できたので、打ち合わせもしておきたいし。
使者の祭司さん。どっかに連絡しに行くのか、慌てて出て行ってしまいましたね。
さて。たっぷり一時間ほどアインコール殿下とお話しした後。部屋前で待っていた兵に連絡をお願いしました。すぐに祭司がやって来て、ガラス窓のある天井の高い場所に通されました。上の方はステンドグラス、下の方はガラス窓ですね。
1枚のガラスのサイズに製造上の制限があるのか、ノートくらいの大きさのガラス板を枠で組み合わせてでかい窓に…という感じですが。礼拝堂から椅子を取り払ったら、こんな感じですか。エカテリンさん曰く、ここが謁見室兼礼拝堂だそうです。
一般人参拝やら祭事で使う礼拝堂は、また別にあるそうで。なるほど特別豪華な作りにしてあるってことですね。
ステンドグラスの意匠…赤井さんとそれに導かれた聖者達って感じでしょうか。この大陸の人達は、東の海の向こうの帝国から移住してきたと言うことですので、その辺の建国神話あたりがモチーフなんでしょう。
「この善き日に赤竜神様が現世に遣わされた巫女様をお迎えできること、まさに望外の喜び。初めまして赤竜神の巫女様。クラーレスカ正教国祭司総長ケルマン・クラーレスカ・バーハルと申します」
豪華な祭司服を纏った人達が、謁見室で待ってました。ケルマン祭司総長、リシャーフさんのお父さんですね。
横に居る爬虫類系の雰囲気の人。多分この人がサラダーン祭司長とやらでしょう。
にしても善き日って、窓から見える分には、今日は結構曇っているけどね。今日は雨降るんじゃ無いかな?
「赤竜神の巫女様、昨日は大変失礼いたしました」
ここが教会で最上位の場所でしょうけど。なぜかアインコール殿下を差し置いて私が上座に座らされました。固辞しようかと思ったのですが、アインコール殿下に促されました。…なんか私を利用する気満々ですね。
本来は祭司総長が座るだろう玉座っぽい豪華なところに私が座り、アインコール殿下が横に立っています。
セレブロさんとアライさんはマーリアちゃんの近くにいます。最初は別室で待たされそうになったけど、エルセニム国の王女の護衛ですよ、これは譲れません。マーリアちゃんにはアライさんの護衛もお願いしてます。
…なんか圧迫感がある場所ですね。マナ塊を使った道具が多いのか、私の探知にはどうにも見通しが悪い感じです。
さらに。私を中心に皆が揃った結果、ネイルコード勢が正教国勢を見下ろす体になってます。
リシャーフさんは、正教国側に居ますが、この辺は致し方なし。
サラダーン祭司長が前に出ます。今のところ黒幕候補最上位な人物です。
「あまりに手際よく"丁重"だったもんですから、カリッシュ祭司の件をごまかすための演出かと思ってました。アバババって赤い鎧の人が私を力ずくで捕まえられたらとか、座敷牢で閉じ込められるのならそれに越したことは無かったとか。失敗したら全部連絡の不備でごまかす。そんな感じですか?」
伝言ゲームで間違えたのだから許してね?ポーズの可能性を本気で疑っています。
「…滅相も無い。誠に申し訳なく思います」
「関での捕縛も、座敷牢への収監も、あなたが指示したと直接聞いていますけど。滅相も無いと言うことは、カリッシュ祭司の件も含めて、全面的に正教国の責、すなわちあなた達が指示したことで責任もあると認めるということでいいのですか?」
「いえ…それは…」
「…アインコール殿下との昨日の話し合いについては、私も聞きました。それを含めて、まず正教国側の要求を聞きたいのですが」
なんかこちらから問いかけても、"いえ"とか"そんなことは"など、煮え切らない反応だけで、話が進みそうに無いですからね。そういう人には、自分の口から直接言わせるに限ります。
「まず、私の定宿を焼いたカリッシュ祭司。あなた方はどうしたいと?」
「…できましたら、正教国に一度戻して貰い、こちらで正統な裁きを…」
「正教国では、街中での放火に対する刑罰はどうなっているんですか? リシャーフさん」
「…ネイルコードと同じく、よほどの理由が無ければ処刑ですね」
「では、カリッシュを正教国で処刑すると?」
「そ…それは…正教国の名の下に派遣した祭司を処刑したとあっては、我が国の面子が…」
…まぁ結果的にとはいえファルリード亭ではだれも傷つきませんでしたし。別にカリッシュを積極的に殺したいわけでは無いですけどね。ただ、後で赦免するにしても、まずは正教国が処刑を認めることはネイルコード国としても譲れない…と、アインコール殿下らとの話では着いてます。
「分りました。カリッシュ祭司を処刑することをお約束しましょう。」
サラダーン祭司長がもごもごしていると、ケルマン祭司総長がそれを遮って断言しました。
「…いいのですか総祭司長? 他国の要求のまま罰したとあっては…」
「以前のクエッタ祭司にしてもですが。あなたの配下にはまともな人間がいないようですね。…巫女様、そのような程度の祭司が何故派遣されたのかについても当方で調査をしたく、一度返還していただければと思います。罪状については疑問の余地も無いので、お望みの通りに…」
「私が処刑を望んでいるみたいな言い方、止めてください」
「…違うのですか?」
「放火に対する罰が厳罰なのは当然でしょう。下手をすれば多くの人が巻き添えになるのですから。カリッシュを罰するのは法であって、私の役目ではありませんし。私が何か言ったから罰が変わるなんてザルな法律の国だとしたら、むしろ軽蔑します。言っていること、分かりますか?」
「…仰るとおりでございます。」
「問題は、なぜそのような人物を派遣したのかというあなた達の任命責任。カリッシュ祭司は何故そのような凶行に走ったのかという正教国での教育責任。今後同じようなことが起きないようにするにはどうすれば良いのかという去就責任。私としては、カリッシュよりあなた方を処罰したい気持ちで一杯です。そのためにここに来たのですから」
「…巫女様は連座は望まれないと伺いましたが…」
サラダーン祭司長、そんなところは調べてあるんですね。それとも慌てて報告を読み直した程度なのか。
「罪の無い人のを血縁だけで連座させることは求めませんが。責任を取るべき人がいる場合は、責任を取るべきでしょ?」
「…それにつきましては、こちらでも調査と検討の上、改めて…」
まぁトップの入れ替えは私としては確定していることなので。あとでリシャーフさんも交えて話をしましょうか。
「まぁいいでしょう。つぎに、私とレッドさんを正教国に引き渡せって話ですけど」
「正教国は赤竜教の総本山です。赤竜神様から遣わされた巫女様が正教国に御逗留いただくのは当然のことです」
自分の得意分野キターとでも思ったのか、サラダーン祭司長がなんか元気を取り戻していますけど。
「本当に良いのですか? 私がこの国に来て本当のことを話しても」
「…良いのですかとは?」
「赤竜神、私が赤井さんと呼んでいた"人"ですが。あの人がいつ、自分を神と奉った宗教を認めたと?」
「え?」
「赤竜神がいつ赤竜教を認めて、いつこの国を総本山だと認めたのか?と聞いています」
「そ…それは…昔から伝わっている聖典に…」
「その聖典に書かれていることが本物だという根拠は?」
「そ…それをいうのなら、聖典に書かれている物が間違いだという根拠は? 何百年にもわたり聖典に沿って教会は存続してきたのです。今更本物では無いと言われて、我々にどうしろというのですかっ?!」
…キレられてもちょと困るのですが。
実際に"存在する"赤竜なんでものをご本尊にするから、こういうことになるんですよ。
「まぁ人の心の平穏のために宗教が必要だというのは、私にも分ります。教会が全部無駄とは言いません。ただ、その皺寄せが私に来ることは、正直迷惑です。カリッシュやクエッタみたいなのを寄越されるのは本当に迷惑です。金儲けの売僧に利用されるのは勘弁です。本当の信仰に私なんか必要ありません。理解していただけませんか?」
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アインコール殿下がなんか感心しています。それを言ったらお終いってやつで言えなかった言葉ですか? 拝金派って言葉も裏で囁かれていたレベルでしたね。
「赤竜神の巫女様、いやレイコ様。赤竜教の象徴として正教国に関わりたくないというのはよく分りました。ただ、そこを押してぜひ正教国に来ていただきたい理由がございます」
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「…なんでしょう?」
「伝聞ではございますが。レイコ様は三千万年前に赤竜神の故郷たる別の世界で生きられていて。そのとき魂をマナの体に移し替えられて今ここに生き返られたと伺いました」
「細かいところはいろいろあるけど。三千万年前の地球で死んだけど、そのときに記憶などを保存されて、一昨年赤竜神に再生されたってのは本当です」
ケルマン総祭司長は、思ったのとちょっと違うといった何か戸惑ったような雰囲気になります。
「…私、長年マナ術の研究を指揮してきていまして。赤竜神がマナの体を持っているという伝承を元に、体内マナの密度を上げていけば、不老不死の体や死者の蘇生が可能になるのでは無いかという仮説を立てまして。その実現のための実験に多大な資金や人材を投じてきました」
「…ケルマン総祭司長は、不老不死がお望みですか?」
「私が求めているのは、死者蘇生の方でございます! なにとぞ!その御技をお授けください!」
「父上、まさか…」
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「…そんな技はありません。私は生き返ったわけではありません。元の私はしっかり死んでますよ」
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ある宗教団体の教祖が老衰でいよいよ駄目という時、このシステムに目を付けた…のは良いんだけど。システムが進歩して死後の脳その物の精査が必要なくなったのが災いしました。
その教祖が臨終する前にスキャンが終了したのは良いのですが。本来は、本人が臨終してからシミュレーションをスタートし、モニターしている信者達の前に現れる永遠の命を手に入れた教祖…と、教団を盛り上げるセレモニーとして終わるところが。スキャンしたデータのテストのつもりが、本人臨終前にシミュレーションをスタートしてしまいました。
臨終間際の老人と、若いころの姿を取り戻したシミュレーション画像の対面…
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これがモニターしている信者達に一斉に目撃されることとなりました。
後処理のために既に生命維持装置を外されていた教祖はすぐに亡くなりましたが。教団の経営が傾いたことで、シミュレーションをするハードの維持が出来なくなり、ほどなくこちらも停止されたそうです。
この事件が切っ掛けで、再生人格と元の人間との同一性について議論が紛糾し。後の再生人格の権利制限に繋がっていくそうです。
「…そんな…それではあなたは…」
「生き返ったのではなく、複製品ですね。…あなたにはだれか生き返らせたい人が居るのですか?」
「…私の妻、そこにいるルシャールの母親ですが…ルシャールが生まれてすぐに儚くなってしまって…いや、複製の魂でもかまいません!妻の復活をっ! もう少しなのです!」
もう少し? ちょっと気になりましたが。
「あなたは、奥さんのために再生を望むのですか? それとも自分の利己のために再生を望むのですか?」
絶望に崩れ落ちるケルマン祭司総長。
気持ちは分らなくもありません。私だって、お父さんお母さんが再生されるのなら、喜んだでしょう。
…ただ、再生された側としては、残してきた過去にいつ終わるか分らない未来、それなりに苦悩も大きいのです。
「…残念ですが。これで私がこの国に居る理由も無いですね。あとはカリッシュの落とし前を…」
「く…先代聖女が復活するのならと、どれだけの大金を探求院に投じたと思っているんだ! 成果は出ていたんだぞ!」
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【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
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えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
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「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
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聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
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『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
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王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
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ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
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あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
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