玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
154 / 339
第5章 クラーレスカ正教国の聖女

第5章第011話 今後の開発指針

しおりを挟む
第5章第011話 今後の開発指針

・Side:ツキシマ・レイコ

 マナ発電からモーター、冷蔵庫にクーラー、電球に板ガラスに望遠鏡に顕微鏡に老眼鏡。ついでにベビーパウダー。
 …というのが一週間ほど講義した成果となります。一週間としてはなかなかの成果ではないでしょうか?

 ベビーパウダーは、作ったその日にターナンシュ様にお渡ししました。無毒なのはレッドさんのお墨付き、石綿も皆無ですよ。
 アイズン伯爵の奥様マーディア様にも、子供の汗疹やオムツかぶれに困った経験があるようで。まずはご自身の肘裏に試してました。

 「なるほど、これは良さそうですね。ターナの時にも苦労したことがありますから、助かります」

 「…お母様ったら…」

 赤ん坊のころを揶揄できるのは母親の特権です。
 早速、シュバール様のオムツ替えのときに使ってました。パウダーをはたいたお尻をなでなで、さらさらです。シュバール様もご機嫌。
 季節柄、丁度良いタイミングだったようで、大変喜ばれました。

 「「よし、量産だ!」」

 ナインケル辺境候とアイズン伯爵が揃って叫びます。

 「孫馬鹿達は置いといて。同じようなことで困っている母親は多いでしょう。赤子の健康にも良い物です。ぜひ広めてくださいね、あなた」

 マーディア様の一喝です。ナインケル辺境候も、子育てに関しては頭が上がらないようですね。
 さっそく膝を交えて、話し合いしてます、おじいちゃん達。
 タルクの採掘場所の再調査、近くの街にタルクを粉にする水車軍の設置。バフの原料調達と量産。おお、進行が早い々々。まぁそんな複雑な物では無いですからね。文官の人が呼ばれて、矢継ぎ早に指示を出されています。
 この夏中にエイゼル市でも販売する!と息巻くアイズン伯爵でした。


 さて。地球での昔の家電の三種の神器…テレビ、洗濯機、冷蔵庫でしたっけ?
 モーターがあってマナ回路が使えるのなら、洗濯機の反転機構も作れるかな? うん、全部が実用となるのはけっこう先でしょうが。冷蔵庫の目処が立っただけでも、一気に文明度が上がった感じがしますね。
 テレビを作るとなると…光電管、増幅回路、発振回路、電波を扱う諸々…。こちらはまだまだ先が長そうです。…というか、多分この辺を数学的に解決できる天才の出現が必要でしょう。そのためにも、このへんの基礎知識は秘匿しない方が良いのですが。…この辺はまたエイゼル市に帰ってからですか。

 ここに来て、マナ師さんの可能性は無限大です。もうマナ技師と呼んだ方が良いですね。
 エルセニム国に産業を興すというよりは、やはりマナ技師として人材確保の方が重要になります。彼らが将来引っ張りだこになるのは目に見えています。この辺も働きかけておく必要がありそうですね。

 前に来たときに話に出た石炭からコークスを作っての製鉄の方も進んでいます。また、鉄鉱石と石炭は、ユルガルム領南西部からも産出するそうで。将来的にはそちらに製鉄の拠点が移りそうだという話もされました。
 小ユルガルムのクレーターの中は、マナの発掘とネイルコード国の秘密工場…という感じで、技術開発とかそちらに注力していくそうです。
 話を聞くに、剣を打つ鍛冶さんには、コークスを使った鉄の質にいまいち不満があるようですね。従来の木炭を使った鉄にこだわりがあるようです。ただ、その鍛冶さんも森が無くなっていくという現実は理解しているようなので。高級な剣のみ木炭を使った鋼を使う…という事になりそうです。

 マナを利用した製品については、今後ユルガルム領が中心地となりそうですね。エルセニム人のマナ技師さんも、こちらに拠点を構えたいと言っているそうです。 マナが掘れると言っても、地層から抽出するのはかなり大変ということで。こうなってくると魔獣にマナが濃縮される過程についてはもっと調べたいところですね。
 ユルガルム領は、北からくる魔獣対策の最前線でもあります。その辺の研究も進めて欲しいところです。

 ハンマ親方が苦悩しています。
 ユルガルム領が最新技術の最前線になるのは間違いないでしょうが。マルタリクはネイルコード国における一般で使用される道具類生産の重要地でもあります。
 ネイルコード国に無くてはならない街という自負はありますが、こちらでの開発にも関わりたい… とりあえず。マルタリクで蒸気機関の試作を済ませたら、冬以外はマルタリクとユルガルムの往復になりそうだとぼやいております。…道中のテオーガル領で美味しいお酒飲んでください。

 「…時代は電気になるのか… そのテレビってのは、どういう原理なんだ?」

 ハンマ親方、三種の神器に興味が出たようですね。
 撮像管…三角波生成…電波…このへんの原理を簡単に説明しました。

 「…うーん、何やっているかのイメージはおぼろげながら分かったが。何をどうすれば良いのかはさっぱりだ! ははははっ!」

 なんかヤケクソ気味ではありますが、私も同感です。撮像管なんてどうやって作れば良いのやら。蛍光物質どこにある?
 まずはモールス的な電報サービス。まずそこからですね。このへんならまだなんとかなりそうです。電線の敷設さえ出来ればこの時代でも可能でしょう。

 「長距離で連絡が瞬時に出来る? また国の方で騒ぎになりそうな技術だな」

 「いつでもどこでも世界中の誰とでも会話できるポケットに入る機械なら、地球では一人一台、子供でも持ってましたよ」

 「……やっぱり神の世界は違うのですな…」

 ハンマ親方もサナタンジュさん、なんか疲れた顔していますね。
 はい、近代文明を短期間で詰め込みすぎました。出来るところからコツコツと進めましょう。


 「…自分の無能さに、ただ恥じ入るしか無いな…」

 マナ回路や蒸気機関の開発では、コッパーさんが蚊帳の外です。まぁ、ジャンルが全然違いますしね。
 ちょっとかわいそうなので、生物学や医学についてさわりの部分を講義してみました。

 「…つまり、骨のある生物は全てもともとは魚だったと…億万年かけて少しずつ変化してきて今の動物に…もう想像し難い話ですな…」

 各臓器の役割を説明する過程で、それがどのような進化を遂げてきたのか?というあたりの話なのですが。
 うーん、進化論を話したところで、この惑星には過去の生物の痕跡がほとんど無いです。赤井さんがこの惑星に来て三千万年ですからね。三千万年というと、テナガザルから人類が分化するくらいの年月ですが。この世界の人種の差異を見るに、少なくともこの世界に"人"が降ろされたのは、せいぜい数万年前じゃ無いでしょうか? ファルリード亭のカヤンさんとミオンさんの間にモーラちゃんができたくらいに差はないわけですから。

 この地に降りた人類が原始人みたいな生活まで文明が衰退するような状況を赤井さんが黙認したのか?を考えると。"帝国の魔女"以前の文明がどのように成り立ったのか、興味が出てきます。
 こういう話なら、コッパーさんの方が詳しそうです。

 「帝国の成り立ちですか?。東の大陸で小国が興され、それが離合集散して帝国が出来たのが、滅びる二百年ほど前だというくらいの話しか伝わっておりませんな。大陸が滅ぶ前に既に海を渡って広がっていた者達が、我々の先祖となるわけですが。肝心の帝国について、伝承程度なら伝わっておりますが。細部についてはネイルコードにはあまり伝わっておりません。正教国にならあるいは…ですが」

 「となると、この星の人類の発祥の地がその大陸っ可能性は高いってことですね? いつかは行ってみたいです」

 「ああ!そのときにはぜひご一緒したい!」

 まだいつになるかは分りませんよ?

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。 もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。  ◆ 十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。 彼女が向かったのは神社。 その鳥居をくぐると――?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

異世界召喚されたけど必要ないと言われて魔王軍の領地に落とされた私は『魔物使い』の適性持ちですよ?

はむ
ファンタジー
勝手に異世界に召喚しといて必要ないって分かると魔王軍の領地に落とすなんて信じられない! でも『魔物使い』の適正持ってる私なら… 生き残れるんじゃない???

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...