玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
150 / 339
第5章 クラーレスカ正教国の聖女

第5章第007話 孫かわいや爺ども

しおりを挟む
第5章第007話 孫かわいや爺ども

・Side:ツキシマ・レイコ

 カイゼル髭に見送られ、オーガル領を北上すれば、そこがユルガルム領です。
 西の山脈が、去年東迂回のコースで行ったときより大きく見えますね。もう初夏ですが、まだ冠雪しています。

 ユルガルム領の大ユルガルムの外輪山が見えてきましたが。まぁここから見るとあまりクレーターっぽくはないですね。
 外輪山を穿つ谷を越えれば、ユルガルムの領都の街並みが広がります。以前来たときと変わらない通り…まぁ季節柄、街の皆さんがちょっと薄着なくらいの差ですが。中央の通りを進み、領主館たる領城に着きました。

 先触れで、屋敷の前にはユルガルム辺境候の皆様が出てきています。
 アイズン伯爵の奥さんマーディア様と、領主嫡男ウードゥル様とターナンシュ様夫妻。そしてターナンシュ様に抱かれている赤ん坊がシュバール様。

 「おお、この子がシュバールかぁっ! うんうん可愛いのぉ。 ターナもよく頑張ってくれたの。良い子じゃ良い子じゃ、はっはっはっ」

 アイズン伯爵が母子を見て相好を崩しています。

 「…あらあなた。そのお顔…」

 マーディア様が気づかれたようですね。
 アイズン伯爵の顔の表情、前よりは自然になってきましたが。ただ、知らない人が見るとまだ結構怖いままです。このへんは、流石長年連れ添った奥様ですね。

 「そういえばお父様、笑顔がちょっと柔らかくなったような…」

 「ふはは。まぁいろいろあってな。それよりシュバールをわしにも抱かせてくれんか?」

 「お父様ったら… まだナインケル様やウードゥルにも挨拶がまだでしょ?」

 「ははは。あの強面のアイズン伯爵も、娘と孫には形無しか。まぁわしは、毎日バールを抱っこしているけどな。あはははは」

 「…貴様言うに事欠いて。やはりターナはエイゼルに連れて帰るぞぃっ! こんな処に居ては、シュバールにナインの性格が伝染るっ!」

 「ふんっ! おまえのところにはすでにクラウヤート君がいるだろ? 私にはバールが初孫なんだ! それくらいの役得で目くじら立てるなっ!」

 うん。娘馬鹿かつ孫馬鹿同士で、いい年した紳士が低レベルな言い合いをしています。
 エカテリンさんとアイリさん、こんな伯爵見るのは初めてなのか、肩を揺らして笑いを堪えています。

 「あなた、お義父様。他にもお客様がおられるのですから、お待たせしては悪いわよ。屋敷に入っていただきましょう」

 「これは失礼した。レイコ殿、ユルガルム領の恩人として歓迎いたしますぞ。あとそちらのご令嬢は…エルセニム国のマーリア姫でよろしいか?」

 銀髪紅眼の美少女ですからね。むしろこれ以上に特徴を書きやすい娘もいないでしょう。

 「あ、はい。初めまして。エルセニム国王バヤルタ・エルセニム・ハイザートと王妃コリーマ・エルセニム・ハイザートの娘、マーリア・エルセニム・ハイザートと申します。この度はお世話になります」

 「これはご丁寧に。私、ネイルコード国ユルガルム領領主ナインケル・ユルガムル・マッケンハイバーと申します。こちらが嫡男のウードゥル、その妻のターナンシュ、そして"私の孫"のシュバールです」

 「おい、わしの娘と孫じゃぞ」

 孫の取り合いに、さすがにマーリアちゃんも苦笑ですが。シュバール君、愛されているようで何よりです。
 今更ではあるのですが、ナインケル様の奥様は既に亡くなられているそうです。ウードゥル様には弟が二人おりまして、ユルガルム領の別の街を治めてられるとか。
 女性の家族が不在のユルガルム家だからこそ、ターナンシュ様の出産にマーディア様が呼ばれたんですね。

 賢者院のコッパーさんとナガルさんも紹介されます。コッパーさんは賢者院の先生の上に男爵ですので、今回は賓客扱いですね。後日、私が小ユルガルムに行くのにも同行する予定で、いまからワクワクしています。主にコッパーさんが。

 「レイコ様、ぜひバールを抱いてみていただけませんか?」

 ターナンシュ様がシュバール君をアイズン伯爵から奪い返して私の所に来ました。
 もちろんOKですよ。

 「あ、はいっ!よろこんでっ!」

 柔い赤ちゃんを抱っこ、ちょっとヒヤヒヤしますね。
 もう首は座っているようですが、用心して首を支えるように抱っこします。
 目が合って、私がニコっとすると、赤ちゃんもニコッと笑い返してきます。

 「あ~う~ きゃっきゃう」

 ちっちゃい手を伸ばしてきます。あーもう、可愛いですね~。

 「はっはっは。赤竜神の巫女様に抱いていただければ、これ以上の祝福はあるまいて」

 ナインケル様もご満悦です。
 背中で私のフードに収まっていたレッドさんが、肩越しに覗き込んできます。ん?赤ちゃんが手を伸ばしてきますね。レッドさんが反対側からちょんちょんと尻尾で答えます。
 伸ばされた尻尾をちっちゃい手で掴んできた赤ちゃん。

 「あうっ!あうっ!」

 あ、咥えた! 別にレッドさんは汚くは無いですが。いいのかな?
 …レッドさんがシュバール君のバイタルチェックしています。健康問題なしだそうです。

 「…かわいいわね。指ちっちゃい…」

 マーリアちゃんも微笑みながら見ています。

 「マーリア姫も抱いてみます?」

 ターナンシュ様が薦めてきます。

 「はい!ぜひっ!」

 はい。レッドさんの尻尾は離してね。私がそっとシュバール君をマーリアちゃんに渡します。

 「頭を支えるように。そうそう」

 「うわ~ なんかふにゃふにゃで恐いわね」

 うーん。私が抱っこするより御利益ありそうな絵面ですね。聖母マリアの肖像画みたいな。おもわず拝みたくなります。

 「レイコ、また手を合わせている…」

 「いや。何というか絵に残したいくらいだなぁと思ってしまいまして…」

 「ふむ…、確かにな。マーリア殿、バールが成人した暁には、家に嫁にこないかね?」

 へっ?と変な顔になるマーリアちゃん。

 「お義父様、マーリア様がびっくりしているでしょ。何年先になると思っているんですか?」

 「いやまぁ。これだけ美しいお嬢さんだ、今の内に打診しても遅くは無いだろ?」

 遅くはないだろって、バール君まだ半年経ってないですよ?

 「早すぎるじゃろ、いくらなんでも。それに年の差もけっこうあるぞ」

 十二歳の少女と赤ちゃんで年の差ってのもなんですが。
 当のバール君は、マーリアちゃんのツインテールを掴んで、きゃっきゃっとご満悦です。マーリアちゃんも顔が溶けてます。

 …クラウヤート様、なんか焦ってますね。によによ。
 すでにライバルは多そうですが、半年の赤ちゃんをライバル視はしないで下さいね。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。 もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。  ◆ 十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。 彼女が向かったのは神社。 その鳥居をくぐると――?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...