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第4章 エルセニム国のおてんば姫
第4章第024話 降伏勧告
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第4章第024話 降伏勧告
・Side:ツキシマ・レイコ
女性奴隷を連れて正教国へ脱出しようとしていたクズおっさん王子を捕獲しましたので、謁見の間に戻るために城内を移動中です。
両腕両脚に顎と骨盤を砕かれた王子を、石畳だろうが階段だろうがかまわず引きずっていきます。完全に気絶しているのか静かな物です。
謁見の間の門番、今はネイルコード国の騎士さん達ですが、ギョッとして前を開けます。
そのまま謁見の間に入り、ボロボロになったおっさん王子を、ダーコラ国王の前に放り投げまました。
「バンダール!」
「う…ぐううう…」
変わり果てた息子の姿を見て、国王が叫びます。お?意識戻りましたか?
私は、ローザリンテ殿下らに事情を話しました。
「ほう…我が国の民を拉致して奴隷ですか。しかも一国の王太子が。さてアルマート陛下、この落とし前はどう付けてくけるのでしょうか?」
「たかが平民の娘がなんだというのだ! 我が国の王族を、次期国王をこのようにして、どうなると…」
…拉致は知っていたんですね。あの王子にしてこの親ありですか。
「どうなると言うんですか? いきなり斬りかかってきたから反撃しただけですよ。次期国王? なれるわけないでしょ、こんなのが。王太子以前に、どういう教育したら王族がこんなクズになれるんですか? クズの親もクズですね。戦争がという以前に、今ここであなたもこうなりたいですか?」
「ぐぬぬ…」
「こんなクズがローザリンテ殿下の親戚だなんて、信じられないです」
「言わないでくださいレイコちゃん。私も今、自分の血が入れ替えられるのならそうしたい気分なのですから…」
ダーコラ国の騎士がクズおっさん王子を介抱しようと近づいて来てますが、その惨状にどこから手を付けて良いものか戸惑っているようで、今は医者を呼んでます。たまにピクピクとしていますね。自分で連れてきていてなんですが、臭いからとっとと片付けて欲しいんですけど。
「さて、もういいでしょう。ネイルコード国王妃ローザリンテ・バルト・ネイルコードが勧告いたします。ダーコラ国国王アルマート・ダーコラ・セーメイ陛下、降伏してください。従兄弟としての誼です、とりあえず命だけは保証してあげます」
「ふむ、ならば私もだ。エルセニム国王太子アトヤック・エルセニム・ハイザートの名において、ダーコラ国国王アルマート・ダーコラ・セーメイに降伏を勧告する。長年にわたるエルセニムへの不当な扱い、今こそ改めて貰うぞ。本来は貴様と国の上層部の命をもって償って貰いたいところだが、ローザリンテ殿下には大恩がある。貴様の身はそちらにお預けしよう」
「ついでに私も。地球大使ツキシマ・レイコの名において。ダーコラ国にネイルコード国とエルセニム国に対して降伏することを勧告します。いくらなんでもいろいろ酷いですこの国。命は要りません、残りの人生で償ってください。あの王太子と一緒にね」
「くっ…ダーコラ国国王アルマート・ダーコラ・セーメイの名において、…降伏勧告を受託する」
ふう。一段落ですか。
降伏の条件は以下の通り。
まず、ローザリンテ殿下が、次期ダーコラ国国王が決まるまでの臨時国王となります。ローザリンテ殿下はダーコラ国の王族でもありますからね、血縁的に資格は十分です。
あと。オルモック将軍が兵を率いて王都に追いつきましたので。ダーコラ国軍の指揮は彼に一任します。あくまで臨時ですが、後々も彼で問題ないと思います。
次期ダーコラ国王候補であるローザリンテ殿下の甥、名前はテオドール・クワン・ワーコンと仰いまして、ワーコンというのはローザリンテ殿下の母方の家名だそうです。王族であるセーメイを名乗る資格もあったのですが、ここは目立たないようにしていたってことですね。テオドール様とは、王位については結構前から書簡にて打診はしていたそうです。
早速オルモック将軍が信頼できる部下をテオドール様の領地に派遣して、テオドール様にダーコラの王都に入って貰います。ネイルコード国の騎士達も協力します。
エルセニム人に限らず、ダーコラ国での奴隷制は全廃の予定です。
予定というのは。いきなり奴隷全員を解雇にして路頭に放り出した…というような状態にならないように、個別に調査が必要なようです。もちろん、奴隷制の停止と奴隷の解放については、すぐにでも国中に告知されますし。布告期間中の奴隷の虐待や処分、猶予後の奴隷の所有は罪となります。
もちろん、犯罪奴隷は別ですし。借金奴隷も弁済義務を帳消しにするわけには行きませんので、その辺も要調査ですね。
この国がどの程度奴隷に依存した経済なのかは知りませんが、まぁ混乱するでしょうね。でも致し方ないようにも思います。他人の自由を奪って富を得ていたのですから、一時の衰退くらいは受け入れてもらわないとね。
本来は、過去の不当な奴隷扱いや虐待についても、罪に問いたいところですが。後から法律を作って過去の行いを罰するいわゆる遡及法は、文明国のすることではありません。それに、その露見を恐れて密かに処分される奴隷が出るなんてことも防がないと行けません。この事も明文化されます。…ただし、拉致誘拐や詐欺で奴隷に落したような、従来法でも違法となりそうな事例については、のちのち秘密裏に調査するそうです。貴族や警邏に賄賂を渡してくぐり抜けるなんてことも多いそうですし。
布告には、赤竜神の巫女の名において、身分、人種、信仰に関わらず全ての人は赤竜神の元に平等である…という一文が添えられることになりました。奴隷制は正教国にもあるそうなので、そちらからの干渉に対する牽制でもありますね。…そのうち正教国ともケリを付ける必要があるでしょうか。いまのうちにこれに倣ってくれるといいのですが。
貴族についても、整理が行なわれますが、こちらはさらに慎重さが必要だそうです。下手にすると、ダーコラ国から離反して正教国に付く領があっても不思議ではないですからね。場合によっては内戦に発展します。
まぁ。トップがあれだからこういう国になっただけで、貴族が全て悪いというわけでも無いでしょうし。ネイルコード国がバックに付くのなら、経済的にも見通しはずっと明るくなります。…この辺がきちんと理解できる貴族だけ残したいということですかね?。
私は、この時代において完全に貴族制度を否定するわけではありません。資本の集中と運用は、社会の効率化には必要な物ですから、社会にそのシステムは必要です。ただ、偉いから貴族なのであって、貴族だから偉いのではありません。この辺ははっきりさせておきたいところです。
…などと、今回参加した主立ったメンバーが集まっての夕食会にて、いろいろ今後についての話が出てきたところです。
「ローザリンテ殿下、これでエルセニム国は自立した事になるのでしょうか? 今回は、ネイルコード国がほとんどお膳立てしていただいたわけで…」
アトヤック殿下がローザリンテ殿下に質問しています。さすがに両親より年上の女傑ですので、国の上下以前にローザリンテ殿下には頭が上がらなくなっているようです。マーリアちゃんは普通に懐いていますね。
「自力で成し遂げたという意識が薄いですか?」
「はい。レイコ様には国民のプライドが育たないと言われていましたが」
「たしかにお兄様は、誤情報に踊らされてバトゥーのネイルコード陣地の襲撃までしちゃいましたからね」
「ああ! その件の謝罪がまだでした!。その節は誠に申し訳ない!」
テーブルに頭をぶつける勢いで頭を下げるアトヤック殿下です。
「うふふ、謝罪は受け入れましょう。幸い双方とも軽傷だけで済みましたし、あの事件が無ければエルセニム国は蚊帳の外になったかもしれません。結果としては幸いとなったと思いましょう。アトヤック殿下、あなたは王族の地位を捨ててまでもダーコラ国に抵抗していましたし、最後の王宮制圧にも参加しています。あなたの行動はきちんと実を結んでいるのです。卑下する必要は無いと思いますよ」
「ローザリンテ殿下にそう言っていただければ、気が楽になりますが…」
血を流してでも自国の尊厳を取り戻した…という実績が欲しいのかもしれませんが。大勢の死者が出るような戦闘は容認できませんし。エルセニム国はすでに辛酸をなめているのですから。そこはなんとかプロパガンダで凌いでほしいものです。
「お兄様。ダーコラ国との対決は終わりましたが。王としての仕事はまだ始まってもいませんのよ。」
お。マーリアちゃんが良いこと言った。
「そうですね。むしろこれからが本番ですわよ、アトヤック殿下」
「はいっ! 肝に命じます!」
アトヤック殿下、頭下げすぎです。一応、準首脳会議って良い面子なのですけど、いいんですかね。
「これからが本番…たしかにエルセニム国の経済レベルを上げようとしたら、アイズン伯爵でも難しいかも…」
「ん?レイコ殿。それはわしに対する挑戦かの?」
お。伯爵が食いついてきましたね。
「エルセニムの王宮でも話したんですけど。ネイルコード国へ過度な依存をせずにあの国を振興していくのって、かなり大変だと思いますよ」
「木は沢山あるけど、大きすぎで木材とかに使えるような物とは思えないし。あとは北からやってくる魔獣からマナを取るくらいよね?お兄様」
「国のための産業か。農産物は自国消費の分だけでもカツカツだ。北東の山に鉱山があったと聞いたことがあるが、森に籠もるようになってから長いからな我らも。再度調査する必要があるか…」
「ふむ…殖産なり産業を担当している文官や大臣をここに呼べんか? わしは今ここを離れられんからの。エルセニム国の詳細がわかれば、手助けもできよう」
「アイズン伯爵は経済振興の天才ですからね。是非相談に乗って貰いなさい」
「伯爵の治められているエイゼル市はたしかに凄かったわよ、お兄様」
「うむ。早速手配いたします」
なにか良いネタ、見つかると良いですね。
五日後。ローザリンテ殿下の甥であるテオドール様が…いやもう殿下ですね、入城されました。城に見えられたテオドール殿下、ローザリンテ殿下と似た雰囲気の方ですね。少なくとも悪い人には見えません。
オルモック将軍の管理下以外の騎士や兵は、城内から退去させられ、再配属については審査待ちです。赤くなければまとも…とはなりませんからね。
ただ。ダーコラ国王城内は現在、ネイルコード国の騎士とエルセニム国軍の兵が管理している状態です。実は、書類庫に火をかけようとした者がいまして。たぶんもろもろの証拠隠滅ですね。むしろそこに見られたくない物があるという良い根拠ともなりますと、腹に据えかねたのか、ネタリア外相が悪い顔していますよ?
ローザリンテ殿下とテオドール様、お二人は初対面だそうで、長く話し込んでおられたようです。今後のこと以外にも、ローザリンテ殿下がネイルコード国に嫁がれてからのことをいろいろ話されたのでしょうね。
お話し合いが終わった後、テオドール様がダーコラ国国王への即位を決意されたことが発表されました。
アルマート・ダーコラ・セーメイは正式に退位が決まり、壊れたクズおっさん王子と共に王都から南にある離宮に幽閉です。まぁ王様なので、奥さんや他の子供も複数いたようですが。早々に離縁と絶遠を決定して、子供達にもセーメイという名も捨てさせて、引き連れて実家の方に戻ったそうです。
離宮には誰も着いてこないそうです。アルマート元陛下、家族にも見捨てられたわけですが、まぁ自業自得ですね。
国の重鎮からも裁判を求められたことに、ショックを受けているようです。身内への累を恐れられていただけなのを、敬われていたと勘違いしていたみたいです。まぁ、賄賂の見返りを渡すか脅迫するか、他に従わせる方法を知らなかったのでは?とはローザリンテ殿下の言です。
元宰相ザッカル・ヒンゴールは収監されました。まぁ自身の権力のためにいろいろ黒いことばかりやらかしていたみたいで、裁判待ちです。まともな貴族や軍人は、皆がこの人を恨んでいますからね。
人質を取っていただけならまだしも、見せしめのために何度か人質を処分していた事があるそうで。お家取り潰しの上に本人は処刑となりそうとのことです。一族郎党の連座の法律はダーコラにもありますし、その法律で裁く必要がありますが。テオドール様の即位と共に恩赦となる予定です。はい、私がお願いしました。
すでに元国王となったアルマートも共に裁判という声もありましたが。元王太子バンダールも込みで廃位と王族からの除籍が罰となりました。実際に罪となることはザッカル元宰相が主体で行なっていたと言うことと、当時の法律ではなんだかんだで王権の範囲だったということで。王族位も剥奪し生涯幽閉ということで処罰とする…という体裁だそうです。
赤い鎧の人達。"自称"赤竜騎士団というらしいです。元宰相ザッカルの取り巻きとして好き勝手やっていたみたいですが。ほとんどが収監、一部が正教国に脱出ってところだそうです。
ダーコラ国として正教国に引き渡しを要請するのは、新ダーコラ国と正教国との最初の国交になりそうとのことです。面倒なことです。
新宰相には、以前オルモック将軍と一緒に拠点に来ていたハルバニ外相が就任します。
とりあえず、まともじゃなさそうな人は一掃され、まともな人が要職に就けました。この国がより良くなることを祈っています。
・Side:ツキシマ・レイコ
女性奴隷を連れて正教国へ脱出しようとしていたクズおっさん王子を捕獲しましたので、謁見の間に戻るために城内を移動中です。
両腕両脚に顎と骨盤を砕かれた王子を、石畳だろうが階段だろうがかまわず引きずっていきます。完全に気絶しているのか静かな物です。
謁見の間の門番、今はネイルコード国の騎士さん達ですが、ギョッとして前を開けます。
そのまま謁見の間に入り、ボロボロになったおっさん王子を、ダーコラ国王の前に放り投げまました。
「バンダール!」
「う…ぐううう…」
変わり果てた息子の姿を見て、国王が叫びます。お?意識戻りましたか?
私は、ローザリンテ殿下らに事情を話しました。
「ほう…我が国の民を拉致して奴隷ですか。しかも一国の王太子が。さてアルマート陛下、この落とし前はどう付けてくけるのでしょうか?」
「たかが平民の娘がなんだというのだ! 我が国の王族を、次期国王をこのようにして、どうなると…」
…拉致は知っていたんですね。あの王子にしてこの親ありですか。
「どうなると言うんですか? いきなり斬りかかってきたから反撃しただけですよ。次期国王? なれるわけないでしょ、こんなのが。王太子以前に、どういう教育したら王族がこんなクズになれるんですか? クズの親もクズですね。戦争がという以前に、今ここであなたもこうなりたいですか?」
「ぐぬぬ…」
「こんなクズがローザリンテ殿下の親戚だなんて、信じられないです」
「言わないでくださいレイコちゃん。私も今、自分の血が入れ替えられるのならそうしたい気分なのですから…」
ダーコラ国の騎士がクズおっさん王子を介抱しようと近づいて来てますが、その惨状にどこから手を付けて良いものか戸惑っているようで、今は医者を呼んでます。たまにピクピクとしていますね。自分で連れてきていてなんですが、臭いからとっとと片付けて欲しいんですけど。
「さて、もういいでしょう。ネイルコード国王妃ローザリンテ・バルト・ネイルコードが勧告いたします。ダーコラ国国王アルマート・ダーコラ・セーメイ陛下、降伏してください。従兄弟としての誼です、とりあえず命だけは保証してあげます」
「ふむ、ならば私もだ。エルセニム国王太子アトヤック・エルセニム・ハイザートの名において、ダーコラ国国王アルマート・ダーコラ・セーメイに降伏を勧告する。長年にわたるエルセニムへの不当な扱い、今こそ改めて貰うぞ。本来は貴様と国の上層部の命をもって償って貰いたいところだが、ローザリンテ殿下には大恩がある。貴様の身はそちらにお預けしよう」
「ついでに私も。地球大使ツキシマ・レイコの名において。ダーコラ国にネイルコード国とエルセニム国に対して降伏することを勧告します。いくらなんでもいろいろ酷いですこの国。命は要りません、残りの人生で償ってください。あの王太子と一緒にね」
「くっ…ダーコラ国国王アルマート・ダーコラ・セーメイの名において、…降伏勧告を受託する」
ふう。一段落ですか。
降伏の条件は以下の通り。
まず、ローザリンテ殿下が、次期ダーコラ国国王が決まるまでの臨時国王となります。ローザリンテ殿下はダーコラ国の王族でもありますからね、血縁的に資格は十分です。
あと。オルモック将軍が兵を率いて王都に追いつきましたので。ダーコラ国軍の指揮は彼に一任します。あくまで臨時ですが、後々も彼で問題ないと思います。
次期ダーコラ国王候補であるローザリンテ殿下の甥、名前はテオドール・クワン・ワーコンと仰いまして、ワーコンというのはローザリンテ殿下の母方の家名だそうです。王族であるセーメイを名乗る資格もあったのですが、ここは目立たないようにしていたってことですね。テオドール様とは、王位については結構前から書簡にて打診はしていたそうです。
早速オルモック将軍が信頼できる部下をテオドール様の領地に派遣して、テオドール様にダーコラの王都に入って貰います。ネイルコード国の騎士達も協力します。
エルセニム人に限らず、ダーコラ国での奴隷制は全廃の予定です。
予定というのは。いきなり奴隷全員を解雇にして路頭に放り出した…というような状態にならないように、個別に調査が必要なようです。もちろん、奴隷制の停止と奴隷の解放については、すぐにでも国中に告知されますし。布告期間中の奴隷の虐待や処分、猶予後の奴隷の所有は罪となります。
もちろん、犯罪奴隷は別ですし。借金奴隷も弁済義務を帳消しにするわけには行きませんので、その辺も要調査ですね。
この国がどの程度奴隷に依存した経済なのかは知りませんが、まぁ混乱するでしょうね。でも致し方ないようにも思います。他人の自由を奪って富を得ていたのですから、一時の衰退くらいは受け入れてもらわないとね。
本来は、過去の不当な奴隷扱いや虐待についても、罪に問いたいところですが。後から法律を作って過去の行いを罰するいわゆる遡及法は、文明国のすることではありません。それに、その露見を恐れて密かに処分される奴隷が出るなんてことも防がないと行けません。この事も明文化されます。…ただし、拉致誘拐や詐欺で奴隷に落したような、従来法でも違法となりそうな事例については、のちのち秘密裏に調査するそうです。貴族や警邏に賄賂を渡してくぐり抜けるなんてことも多いそうですし。
布告には、赤竜神の巫女の名において、身分、人種、信仰に関わらず全ての人は赤竜神の元に平等である…という一文が添えられることになりました。奴隷制は正教国にもあるそうなので、そちらからの干渉に対する牽制でもありますね。…そのうち正教国ともケリを付ける必要があるでしょうか。いまのうちにこれに倣ってくれるといいのですが。
貴族についても、整理が行なわれますが、こちらはさらに慎重さが必要だそうです。下手にすると、ダーコラ国から離反して正教国に付く領があっても不思議ではないですからね。場合によっては内戦に発展します。
まぁ。トップがあれだからこういう国になっただけで、貴族が全て悪いというわけでも無いでしょうし。ネイルコード国がバックに付くのなら、経済的にも見通しはずっと明るくなります。…この辺がきちんと理解できる貴族だけ残したいということですかね?。
私は、この時代において完全に貴族制度を否定するわけではありません。資本の集中と運用は、社会の効率化には必要な物ですから、社会にそのシステムは必要です。ただ、偉いから貴族なのであって、貴族だから偉いのではありません。この辺ははっきりさせておきたいところです。
…などと、今回参加した主立ったメンバーが集まっての夕食会にて、いろいろ今後についての話が出てきたところです。
「ローザリンテ殿下、これでエルセニム国は自立した事になるのでしょうか? 今回は、ネイルコード国がほとんどお膳立てしていただいたわけで…」
アトヤック殿下がローザリンテ殿下に質問しています。さすがに両親より年上の女傑ですので、国の上下以前にローザリンテ殿下には頭が上がらなくなっているようです。マーリアちゃんは普通に懐いていますね。
「自力で成し遂げたという意識が薄いですか?」
「はい。レイコ様には国民のプライドが育たないと言われていましたが」
「たしかにお兄様は、誤情報に踊らされてバトゥーのネイルコード陣地の襲撃までしちゃいましたからね」
「ああ! その件の謝罪がまだでした!。その節は誠に申し訳ない!」
テーブルに頭をぶつける勢いで頭を下げるアトヤック殿下です。
「うふふ、謝罪は受け入れましょう。幸い双方とも軽傷だけで済みましたし、あの事件が無ければエルセニム国は蚊帳の外になったかもしれません。結果としては幸いとなったと思いましょう。アトヤック殿下、あなたは王族の地位を捨ててまでもダーコラ国に抵抗していましたし、最後の王宮制圧にも参加しています。あなたの行動はきちんと実を結んでいるのです。卑下する必要は無いと思いますよ」
「ローザリンテ殿下にそう言っていただければ、気が楽になりますが…」
血を流してでも自国の尊厳を取り戻した…という実績が欲しいのかもしれませんが。大勢の死者が出るような戦闘は容認できませんし。エルセニム国はすでに辛酸をなめているのですから。そこはなんとかプロパガンダで凌いでほしいものです。
「お兄様。ダーコラ国との対決は終わりましたが。王としての仕事はまだ始まってもいませんのよ。」
お。マーリアちゃんが良いこと言った。
「そうですね。むしろこれからが本番ですわよ、アトヤック殿下」
「はいっ! 肝に命じます!」
アトヤック殿下、頭下げすぎです。一応、準首脳会議って良い面子なのですけど、いいんですかね。
「これからが本番…たしかにエルセニム国の経済レベルを上げようとしたら、アイズン伯爵でも難しいかも…」
「ん?レイコ殿。それはわしに対する挑戦かの?」
お。伯爵が食いついてきましたね。
「エルセニムの王宮でも話したんですけど。ネイルコード国へ過度な依存をせずにあの国を振興していくのって、かなり大変だと思いますよ」
「木は沢山あるけど、大きすぎで木材とかに使えるような物とは思えないし。あとは北からやってくる魔獣からマナを取るくらいよね?お兄様」
「国のための産業か。農産物は自国消費の分だけでもカツカツだ。北東の山に鉱山があったと聞いたことがあるが、森に籠もるようになってから長いからな我らも。再度調査する必要があるか…」
「ふむ…殖産なり産業を担当している文官や大臣をここに呼べんか? わしは今ここを離れられんからの。エルセニム国の詳細がわかれば、手助けもできよう」
「アイズン伯爵は経済振興の天才ですからね。是非相談に乗って貰いなさい」
「伯爵の治められているエイゼル市はたしかに凄かったわよ、お兄様」
「うむ。早速手配いたします」
なにか良いネタ、見つかると良いですね。
五日後。ローザリンテ殿下の甥であるテオドール様が…いやもう殿下ですね、入城されました。城に見えられたテオドール殿下、ローザリンテ殿下と似た雰囲気の方ですね。少なくとも悪い人には見えません。
オルモック将軍の管理下以外の騎士や兵は、城内から退去させられ、再配属については審査待ちです。赤くなければまとも…とはなりませんからね。
ただ。ダーコラ国王城内は現在、ネイルコード国の騎士とエルセニム国軍の兵が管理している状態です。実は、書類庫に火をかけようとした者がいまして。たぶんもろもろの証拠隠滅ですね。むしろそこに見られたくない物があるという良い根拠ともなりますと、腹に据えかねたのか、ネタリア外相が悪い顔していますよ?
ローザリンテ殿下とテオドール様、お二人は初対面だそうで、長く話し込んでおられたようです。今後のこと以外にも、ローザリンテ殿下がネイルコード国に嫁がれてからのことをいろいろ話されたのでしょうね。
お話し合いが終わった後、テオドール様がダーコラ国国王への即位を決意されたことが発表されました。
アルマート・ダーコラ・セーメイは正式に退位が決まり、壊れたクズおっさん王子と共に王都から南にある離宮に幽閉です。まぁ王様なので、奥さんや他の子供も複数いたようですが。早々に離縁と絶遠を決定して、子供達にもセーメイという名も捨てさせて、引き連れて実家の方に戻ったそうです。
離宮には誰も着いてこないそうです。アルマート元陛下、家族にも見捨てられたわけですが、まぁ自業自得ですね。
国の重鎮からも裁判を求められたことに、ショックを受けているようです。身内への累を恐れられていただけなのを、敬われていたと勘違いしていたみたいです。まぁ、賄賂の見返りを渡すか脅迫するか、他に従わせる方法を知らなかったのでは?とはローザリンテ殿下の言です。
元宰相ザッカル・ヒンゴールは収監されました。まぁ自身の権力のためにいろいろ黒いことばかりやらかしていたみたいで、裁判待ちです。まともな貴族や軍人は、皆がこの人を恨んでいますからね。
人質を取っていただけならまだしも、見せしめのために何度か人質を処分していた事があるそうで。お家取り潰しの上に本人は処刑となりそうとのことです。一族郎党の連座の法律はダーコラにもありますし、その法律で裁く必要がありますが。テオドール様の即位と共に恩赦となる予定です。はい、私がお願いしました。
すでに元国王となったアルマートも共に裁判という声もありましたが。元王太子バンダールも込みで廃位と王族からの除籍が罰となりました。実際に罪となることはザッカル元宰相が主体で行なっていたと言うことと、当時の法律ではなんだかんだで王権の範囲だったということで。王族位も剥奪し生涯幽閉ということで処罰とする…という体裁だそうです。
赤い鎧の人達。"自称"赤竜騎士団というらしいです。元宰相ザッカルの取り巻きとして好き勝手やっていたみたいですが。ほとんどが収監、一部が正教国に脱出ってところだそうです。
ダーコラ国として正教国に引き渡しを要請するのは、新ダーコラ国と正教国との最初の国交になりそうとのことです。面倒なことです。
新宰相には、以前オルモック将軍と一緒に拠点に来ていたハルバニ外相が就任します。
とりあえず、まともじゃなさそうな人は一掃され、まともな人が要職に就けました。この国がより良くなることを祈っています。
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そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
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