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第4章 エルセニム国のおてんば姫
第4章第022話 ダーコラ国王城へ
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第4章第022話 ダーコラ国王城へ
・Side:ツキシマ・レイコ
城壁から城までの道はまっすぐなので。門(の残骸)を越えれば、高い棟をいくつか構えた建物が正面に見えます。いやあれは教会の方かな?
さて、王様はどこにいるのかな~?と思って道なりに歩いていますと、脇から駆け寄ってくる人がいます。後ろの人達に緊張が走りますが、その人がすぐ私の側で膝をついたので攻撃まではしませんでした。
「レイコ様。セーバスの部下のケールと申します」
後ろの人達に合図を送って、問題ないことをアピールします。
「任務ご苦労さまです」
「ありがとうございますレイコ様。現在あの城には、ローザリンテ殿下らが交渉に訪れているわけですが…」
話を聞くに、交渉の場でレッドさんに手を出そうとして返り討ちにあって。現在は内容の検討待ちという体で皆さん城の一画に軟禁中だそうです。
「中にいる方々とも連絡は取れる状態であり、安全には問題ありません。今のところは手筈通りでとのことです」
とりあえず全員無事で問題ないとのことですね。了解しました。
さて、王城と教会共同の城門の前まで着きました。
結構立派な門ですね。石造りの柱に、分厚い木の板を鉄で補強した頑丈な扉です。
がっちり閉じられている門の内側から、結構な数の兵士の気配がしますし。門の左右にある詰め所から出てきた門番さんは、私に槍を向けています。城塞の門からはすでに連絡が来ているはずですが。待機している兵力はこれだけですか?
「地球大使のツキシマ・レイコです。アルマート陛下にお取り次ぎを…お願いしたいのですが…」
とりあえず槍を向けられていることは無視して、門番さんにアルマート陛下に会いたい旨を伝えますが。
若い兵隊さんですね。なんかぷるぷるしていて、弱い者イジメしている気分になってきます。お前が行けよ的なノリで、門の外に配置されたってところでしょうか?
「…なんかちょっとかわいそうね」
覇気も何も無く震えているその兵隊さんに、マーリアちゃんも同情気味です。
うーん。とりあえず。
バキンッ!
突き出されている槍の刃の部分を掴んで、握りつぶしてみます。
「ひぃ~っ! お助け~!」
…門番さんは、昔のコントみたいな奇声を発して逃げ出しました。はい、まぁそれでいいですよ。
門番の詰め所から向こうに行けるのかな?と思いましたが。そこからの通り抜けは出来ないようですね。
「この門の向こう側に人がいるのは分っています。門を破壊されたくなかったら、開けてくれませんか?」
大声で声をかけてみますが。
「…出来るわけないだろっ?! 王城を攻めるなんて不敬が許されると思っているのかっ?!」
網の向こうから返答がありましたが。…まぁそうですよね。
さて。頑丈な門を破るのなら、門扉そのものよりは、門が付いている柱を壊せば良し。と言うことで、思いっきり柱部分を殴ってみましょうか。
先に一応、警告はしておきましょう。
「これから門を破壊します! 怪我をしたくなかったら少し離れて下さいね!」
向こう側から、「逃げろっ」とか「やめろっ」とかいろいろ聞こえてきますが。無視します。
さて、行きますよっ。
ガインッ!ガインッ!ガインッ!
一カ所集中で殴っていたら、門扉の片側と一緒に崩れましたね。もう片方の扉は残っていますが…あ、閂と一緒にもう片方も倒れました。蝶番の処、もっと頑丈にしないとだめですよ。
「毎度、信じられないようなことをするな、レイコ殿は」
アトヤック殿下とマーリアちゃんが、なんか呆れたようにしていますが。ほら、お客さんですよ。
門のあったところをくぐると、百人くらいの兵やら騎士やらが待ち構えていました。一様に武器を構えてはいますが。十メートルくらいはなれて私を遠巻きにしています。
…ここに至って、何がしたいんでしょう?
ボボボン
兵達の足元を狙ってレイコ・ガンを連射すると、ボンボンボンと地面が爆ぜます。
ビビって逃げる兵が半分。動けずに固まっている兵が半分ってところでしようか?
ネイルコード国とエルセニム国の人達も続いて城の敷地に入ってきました。
うん。これでもう王宮の警備兵だけでは対処できない戦力になりましたね。
「今日でアルマート陛下の治政は終わります。おこぼれに預かっていた人はご愁傷様。人質取られていた人は解放おめでとう。さて、一戦して我々の排除を試みますか? それとも私を王の下へ案内しますか?」
赤くないお城の騎士らしき人が一人、前に出てきました。
もうまともかどうかは色で区別していますが、赤くない人なら歓迎です。
「りょ…了解した。御前までご案内しよう」
「赤い鎧の人は、ここにはいないんですか?」
「…真っ先に逃げ出したよ」
さいですか。
さて。とりあえずここでアトヤック殿下とネイルコード国の副隊長さんと作戦タイムです。
ネイルコード国護衛騎士団とエルセニム国軍、合わせて二千ほど。練度的にも城内制圧には十分な戦力です。ただ、物理的に兵で城を制圧すると、いろいろ犠牲者が出そうですし。ネイルコード国の護衛騎士さんたちの最優先目標はローザリンテ殿下の安全確保です。
ここは謁見の間を含む建物と、ローザリンテ殿下たちが軟禁されているという建物だけを迅速に制圧して、そこの守りを固めるべき…ということになりました。さきほどのケールさんが、ローザリンテ殿下のいるところへ騎士たちを案内してくれるそうです。私は謁見場所に向かいましょうか。
エルセニム国の人は、アトヤック殿下にマーリアちゃんが最優先護衛対象なので。謁見の間周辺の制圧に協力してくれます。…まぁダーコラ国に対して含むところは多々あると思いますが、乱暴狼藉については我慢してくださいとお願いしました。
「…思うところはあるが。我々はダーコラ国のようにはならんさ。まして巫女様のお願いとあればな」
アトヤック殿下、男前ですね。
エルセニム国勢からはアトヤック殿下にマーリアちゃんとセレブロさんあと護衛として二十人ほどが、謁見の間に同行します。
うーん。城の中は、作りも飾ってあるものも結構豪華ですね。この辺はネイルコード国のお城に負けないくらいです。外にはスラムがあるのにね。
これが観光なら、写メ取りまくりたいところですが。ダーコラ国の内実を知ってしまうと、虚栄の金メッキにしか見えませんけど。
謁見の間には、玉座に座った着飾った男性が一人。宝石をちりばめた豪華なゴルゲットをつけています。あれがダーコラ国国王アルマートですか。
正直、もう城を逃げ出しているか隠れるかするんじゃ無いかと思いましたけど。そこは国王としての最後の意地ですかね。
従兄というから、ローザリンテ殿下に多少は似ているのかな?と思いましたけどそんなこともなく。威厳は…クライスファー殿下にはまったく及びません。残務整理で疲れたおじさん状態です。
「お初にお目にかかりますアルマート・ダーコラ・セーメイ陛下。色々周囲から肩書きが付けられていますが。とりあえず地球大使として、ネイルコード国及びエルセニム国からの仲介の要請で御前に参じております、ツキシマ・レイコと申します。」
わざとらしく仰々しい挨拶をします。
「うむ… ダーコラ国国王アルマート・ダーコラ・セーメイである。…見た目は聞いたとおりの小娘だな。ローザリンテと共に我が国をあちこちで引っかき回してくれているそうだな」
「ダーコラ国軍に会う都度、赤い鎧を着た人が問答無用で襲いかかってくるんですけど。この国のお家芸かなんかですか?」
あ。ここにもまだ赤い鎧の人がいた。顔も真っ赤にしていますね。
「この黒髪のガキが生意気に! 貴様のせいでカプチャ卿も!」
ん? 剣に手をかけますか? またこのパターンですか?
「やめい!。…ったく正教国の肝煎りだということで軍での要職を任せてきたが。とんだ疫病神だったな、ザッカル宰相」
「く…面目次第もございません…」
今のがザッカル宰相か。この人が赤い鎧の人達をダーコラ国軍のあちこちに潜り込ませてきたようですが。
「ところで。ローザリンテ殿下とレッドさん…小竜がここに既に来ていて軟禁されていると聞いていますけど」
「…いま呼びに行かせている」
「軟禁などしてはおりませぬ。貴賓室で丁重にもてなしているだけです!」
ザッカル宰相が叫ぶように言いますが。
「出された茶菓子に毒が入っていたそうです。小竜様が事前に察知されたので、大事には至っておりませんが」
ケールさんが、周囲に聞こえるように教えてくれます。
…ジト目で二人を睨みますが。
「し…知らん! 何かの間違いか、誰かが勝手にやっただけだ!」
思いっきり狼狽していますね、ザッカル宰相。
「一つお聞きしていいですか? この国の法律では、賓客に出す食べ物に毒を"盛らせた"場合の罰はどうなっているんですか?」
「わ…わかった! 毒を盛って出した給仕は処刑とする!」
「私の話をちゃんと聞いていたんですか? "盛らせた"場合と言ったでしょ? あなたのやり方は良く聞いていますので。給仕が自発的にやったなんて思っていません。責任をなすり付けようとしてもごまかされませんよ?」
「わ…私がやったという証拠はあるのか?」
証拠があるのかと言う時点で自分がやったと白状したような物なのですが。
「この国では、証言だけでも有罪の証拠となる事例が多いようですな」
あ。ネタリア外相が入ってきました。
その後ろには、護衛に周囲を固められたローザリンテ殿下に、アイズン伯爵らも。
「ダーコラ国と外交するにおいて、この国の法律や判例などは勉強させていただきましたが。有罪にしたい人間を有罪に有利な証言だけで有罪にするなんてことが、まかり通っているようですな、この国では。どう言う司法がまかり通っているんですかこの国は」
ザッカル宰相を有罪にするき満々ですね。ちょっと吹きそうになってしまいます。
ああ、エカテリンさんに抱えられていたレッドさんが、私に向かって飛んできます。
「レッドさん、ご苦労さま!」
「クーックーックーッ!!」
こんどはちゃんと私に飛び込んできてくれました。数日しか離れていませんでしたが、やっぱ寂しかったです。なでなで。
「レイコ殿。この建物と周囲の制圧は完了したぞ。裏宮と庁舎の方まではまだ手が回らんが。ネイルコードとエルセニム合計二千の精鋭が揃っていれば、この城はもう抑えたも同然だな」
ラコール隊長が、ダーコラ国側にも聞こえるように報告してくれます。愕然としているダーコラ国勢の皆さん。
「菓子を出した給仕とその上司は既に抑えておりまして、その上司に指示を出したのがザッカル宰相というところまで証言は得ております。さて、この城の牢をお借りするとしましょうか。おい、連れていけ!」
ネタリア外相が騎士達に指示をします。
「ま…まてまて! 他国の宰相を勝手に裁けると思っているのか?」
「私の国でも、要人の暗殺は未遂でも極刑です。まぁ脅された騙された等の情状は酌量しますがね。でもあなたは脅して騙した側でしょ? 心配しなくても、きちんと調査して証拠を揃えてから裁判もしてあげますよ、あなたたちと違ってね」
ネイルコード国の騎士達がザッカル宰相を捕らえようとすると、ダーコラ国側の騎士が剣に手を伸ばすが。こちらの騎士は精鋭です、眼力でねじ伏せられて動けませんね。
「さて。ザッカル宰相に指示した者の名前としてアルマート陛下の名前が出てこないことを祈るんですね」
「わ…わしはそんな指示はしておらん」
「あなたたちが今まで冤罪で処分してきた人達も同じようなことを言ってたでしょうね。あと、私のお父様と兄上の死因についても、再度じっくりと調査させていただきますわ。証人になる人がまだ生きていれば良いのですが、まぁ何とでもなるでしょう」
ローザリンテ殿下の父と兄の死因についても、不審な点があるようですね。
冤罪でも構わないとローザリンテ殿下は暗に言っているわけです。アルマート王の顔色が真っ青になりました。
・Side:ツキシマ・レイコ
城壁から城までの道はまっすぐなので。門(の残骸)を越えれば、高い棟をいくつか構えた建物が正面に見えます。いやあれは教会の方かな?
さて、王様はどこにいるのかな~?と思って道なりに歩いていますと、脇から駆け寄ってくる人がいます。後ろの人達に緊張が走りますが、その人がすぐ私の側で膝をついたので攻撃まではしませんでした。
「レイコ様。セーバスの部下のケールと申します」
後ろの人達に合図を送って、問題ないことをアピールします。
「任務ご苦労さまです」
「ありがとうございますレイコ様。現在あの城には、ローザリンテ殿下らが交渉に訪れているわけですが…」
話を聞くに、交渉の場でレッドさんに手を出そうとして返り討ちにあって。現在は内容の検討待ちという体で皆さん城の一画に軟禁中だそうです。
「中にいる方々とも連絡は取れる状態であり、安全には問題ありません。今のところは手筈通りでとのことです」
とりあえず全員無事で問題ないとのことですね。了解しました。
さて、王城と教会共同の城門の前まで着きました。
結構立派な門ですね。石造りの柱に、分厚い木の板を鉄で補強した頑丈な扉です。
がっちり閉じられている門の内側から、結構な数の兵士の気配がしますし。門の左右にある詰め所から出てきた門番さんは、私に槍を向けています。城塞の門からはすでに連絡が来ているはずですが。待機している兵力はこれだけですか?
「地球大使のツキシマ・レイコです。アルマート陛下にお取り次ぎを…お願いしたいのですが…」
とりあえず槍を向けられていることは無視して、門番さんにアルマート陛下に会いたい旨を伝えますが。
若い兵隊さんですね。なんかぷるぷるしていて、弱い者イジメしている気分になってきます。お前が行けよ的なノリで、門の外に配置されたってところでしょうか?
「…なんかちょっとかわいそうね」
覇気も何も無く震えているその兵隊さんに、マーリアちゃんも同情気味です。
うーん。とりあえず。
バキンッ!
突き出されている槍の刃の部分を掴んで、握りつぶしてみます。
「ひぃ~っ! お助け~!」
…門番さんは、昔のコントみたいな奇声を発して逃げ出しました。はい、まぁそれでいいですよ。
門番の詰め所から向こうに行けるのかな?と思いましたが。そこからの通り抜けは出来ないようですね。
「この門の向こう側に人がいるのは分っています。門を破壊されたくなかったら、開けてくれませんか?」
大声で声をかけてみますが。
「…出来るわけないだろっ?! 王城を攻めるなんて不敬が許されると思っているのかっ?!」
網の向こうから返答がありましたが。…まぁそうですよね。
さて。頑丈な門を破るのなら、門扉そのものよりは、門が付いている柱を壊せば良し。と言うことで、思いっきり柱部分を殴ってみましょうか。
先に一応、警告はしておきましょう。
「これから門を破壊します! 怪我をしたくなかったら少し離れて下さいね!」
向こう側から、「逃げろっ」とか「やめろっ」とかいろいろ聞こえてきますが。無視します。
さて、行きますよっ。
ガインッ!ガインッ!ガインッ!
一カ所集中で殴っていたら、門扉の片側と一緒に崩れましたね。もう片方の扉は残っていますが…あ、閂と一緒にもう片方も倒れました。蝶番の処、もっと頑丈にしないとだめですよ。
「毎度、信じられないようなことをするな、レイコ殿は」
アトヤック殿下とマーリアちゃんが、なんか呆れたようにしていますが。ほら、お客さんですよ。
門のあったところをくぐると、百人くらいの兵やら騎士やらが待ち構えていました。一様に武器を構えてはいますが。十メートルくらいはなれて私を遠巻きにしています。
…ここに至って、何がしたいんでしょう?
ボボボン
兵達の足元を狙ってレイコ・ガンを連射すると、ボンボンボンと地面が爆ぜます。
ビビって逃げる兵が半分。動けずに固まっている兵が半分ってところでしようか?
ネイルコード国とエルセニム国の人達も続いて城の敷地に入ってきました。
うん。これでもう王宮の警備兵だけでは対処できない戦力になりましたね。
「今日でアルマート陛下の治政は終わります。おこぼれに預かっていた人はご愁傷様。人質取られていた人は解放おめでとう。さて、一戦して我々の排除を試みますか? それとも私を王の下へ案内しますか?」
赤くないお城の騎士らしき人が一人、前に出てきました。
もうまともかどうかは色で区別していますが、赤くない人なら歓迎です。
「りょ…了解した。御前までご案内しよう」
「赤い鎧の人は、ここにはいないんですか?」
「…真っ先に逃げ出したよ」
さいですか。
さて。とりあえずここでアトヤック殿下とネイルコード国の副隊長さんと作戦タイムです。
ネイルコード国護衛騎士団とエルセニム国軍、合わせて二千ほど。練度的にも城内制圧には十分な戦力です。ただ、物理的に兵で城を制圧すると、いろいろ犠牲者が出そうですし。ネイルコード国の護衛騎士さんたちの最優先目標はローザリンテ殿下の安全確保です。
ここは謁見の間を含む建物と、ローザリンテ殿下たちが軟禁されているという建物だけを迅速に制圧して、そこの守りを固めるべき…ということになりました。さきほどのケールさんが、ローザリンテ殿下のいるところへ騎士たちを案内してくれるそうです。私は謁見場所に向かいましょうか。
エルセニム国の人は、アトヤック殿下にマーリアちゃんが最優先護衛対象なので。謁見の間周辺の制圧に協力してくれます。…まぁダーコラ国に対して含むところは多々あると思いますが、乱暴狼藉については我慢してくださいとお願いしました。
「…思うところはあるが。我々はダーコラ国のようにはならんさ。まして巫女様のお願いとあればな」
アトヤック殿下、男前ですね。
エルセニム国勢からはアトヤック殿下にマーリアちゃんとセレブロさんあと護衛として二十人ほどが、謁見の間に同行します。
うーん。城の中は、作りも飾ってあるものも結構豪華ですね。この辺はネイルコード国のお城に負けないくらいです。外にはスラムがあるのにね。
これが観光なら、写メ取りまくりたいところですが。ダーコラ国の内実を知ってしまうと、虚栄の金メッキにしか見えませんけど。
謁見の間には、玉座に座った着飾った男性が一人。宝石をちりばめた豪華なゴルゲットをつけています。あれがダーコラ国国王アルマートですか。
正直、もう城を逃げ出しているか隠れるかするんじゃ無いかと思いましたけど。そこは国王としての最後の意地ですかね。
従兄というから、ローザリンテ殿下に多少は似ているのかな?と思いましたけどそんなこともなく。威厳は…クライスファー殿下にはまったく及びません。残務整理で疲れたおじさん状態です。
「お初にお目にかかりますアルマート・ダーコラ・セーメイ陛下。色々周囲から肩書きが付けられていますが。とりあえず地球大使として、ネイルコード国及びエルセニム国からの仲介の要請で御前に参じております、ツキシマ・レイコと申します。」
わざとらしく仰々しい挨拶をします。
「うむ… ダーコラ国国王アルマート・ダーコラ・セーメイである。…見た目は聞いたとおりの小娘だな。ローザリンテと共に我が国をあちこちで引っかき回してくれているそうだな」
「ダーコラ国軍に会う都度、赤い鎧を着た人が問答無用で襲いかかってくるんですけど。この国のお家芸かなんかですか?」
あ。ここにもまだ赤い鎧の人がいた。顔も真っ赤にしていますね。
「この黒髪のガキが生意気に! 貴様のせいでカプチャ卿も!」
ん? 剣に手をかけますか? またこのパターンですか?
「やめい!。…ったく正教国の肝煎りだということで軍での要職を任せてきたが。とんだ疫病神だったな、ザッカル宰相」
「く…面目次第もございません…」
今のがザッカル宰相か。この人が赤い鎧の人達をダーコラ国軍のあちこちに潜り込ませてきたようですが。
「ところで。ローザリンテ殿下とレッドさん…小竜がここに既に来ていて軟禁されていると聞いていますけど」
「…いま呼びに行かせている」
「軟禁などしてはおりませぬ。貴賓室で丁重にもてなしているだけです!」
ザッカル宰相が叫ぶように言いますが。
「出された茶菓子に毒が入っていたそうです。小竜様が事前に察知されたので、大事には至っておりませんが」
ケールさんが、周囲に聞こえるように教えてくれます。
…ジト目で二人を睨みますが。
「し…知らん! 何かの間違いか、誰かが勝手にやっただけだ!」
思いっきり狼狽していますね、ザッカル宰相。
「一つお聞きしていいですか? この国の法律では、賓客に出す食べ物に毒を"盛らせた"場合の罰はどうなっているんですか?」
「わ…わかった! 毒を盛って出した給仕は処刑とする!」
「私の話をちゃんと聞いていたんですか? "盛らせた"場合と言ったでしょ? あなたのやり方は良く聞いていますので。給仕が自発的にやったなんて思っていません。責任をなすり付けようとしてもごまかされませんよ?」
「わ…私がやったという証拠はあるのか?」
証拠があるのかと言う時点で自分がやったと白状したような物なのですが。
「この国では、証言だけでも有罪の証拠となる事例が多いようですな」
あ。ネタリア外相が入ってきました。
その後ろには、護衛に周囲を固められたローザリンテ殿下に、アイズン伯爵らも。
「ダーコラ国と外交するにおいて、この国の法律や判例などは勉強させていただきましたが。有罪にしたい人間を有罪に有利な証言だけで有罪にするなんてことが、まかり通っているようですな、この国では。どう言う司法がまかり通っているんですかこの国は」
ザッカル宰相を有罪にするき満々ですね。ちょっと吹きそうになってしまいます。
ああ、エカテリンさんに抱えられていたレッドさんが、私に向かって飛んできます。
「レッドさん、ご苦労さま!」
「クーックーックーッ!!」
こんどはちゃんと私に飛び込んできてくれました。数日しか離れていませんでしたが、やっぱ寂しかったです。なでなで。
「レイコ殿。この建物と周囲の制圧は完了したぞ。裏宮と庁舎の方まではまだ手が回らんが。ネイルコードとエルセニム合計二千の精鋭が揃っていれば、この城はもう抑えたも同然だな」
ラコール隊長が、ダーコラ国側にも聞こえるように報告してくれます。愕然としているダーコラ国勢の皆さん。
「菓子を出した給仕とその上司は既に抑えておりまして、その上司に指示を出したのがザッカル宰相というところまで証言は得ております。さて、この城の牢をお借りするとしましょうか。おい、連れていけ!」
ネタリア外相が騎士達に指示をします。
「ま…まてまて! 他国の宰相を勝手に裁けると思っているのか?」
「私の国でも、要人の暗殺は未遂でも極刑です。まぁ脅された騙された等の情状は酌量しますがね。でもあなたは脅して騙した側でしょ? 心配しなくても、きちんと調査して証拠を揃えてから裁判もしてあげますよ、あなたたちと違ってね」
ネイルコード国の騎士達がザッカル宰相を捕らえようとすると、ダーコラ国側の騎士が剣に手を伸ばすが。こちらの騎士は精鋭です、眼力でねじ伏せられて動けませんね。
「さて。ザッカル宰相に指示した者の名前としてアルマート陛下の名前が出てこないことを祈るんですね」
「わ…わしはそんな指示はしておらん」
「あなたたちが今まで冤罪で処分してきた人達も同じようなことを言ってたでしょうね。あと、私のお父様と兄上の死因についても、再度じっくりと調査させていただきますわ。証人になる人がまだ生きていれば良いのですが、まぁ何とでもなるでしょう」
ローザリンテ殿下の父と兄の死因についても、不審な点があるようですね。
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