玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第4章 エルセニム国のおてんば姫

第4章第021話 人型攻城兵器

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第4章第021話 人型攻城兵器

・Side:ツキシマ・レイコ

 エルセニム国とダーコラ国の国境の砦を出て、一晩走って夜が明けつつあります。
 ダーコラ国軍や領軍を避けた道程の一部は、農道やら獣道もありましたが。夜間の移動と言うこともあるのでしょう、まったく接敵せずにダーコラ国の王都手前までこれました。
 王都が一望できる丘に、休憩を兼ねてとりあえず陣取ります。オルモック将軍のところで貰った携帯食は、木の実の入った塩クラッカーというところですが。こういう素朴な味、私結構好きですよ。

 ダーコラ国の王都が一望できます。城塞自体の規模はエイゼル市と同じくらいですが、城塞の周囲には堀が掘られています。そして城門には、門を兼ねた跳ね橋ですね。今はまだ橋は降りています。

 「コントラストがはっきりした街ね…」

 王都の周囲には、川沿いに畑と農村がいくつもあるのがここからも見えますが。城塞の周囲にあるのは、街というよりはスラムですね。低くて不揃いな建物が、張り付く感じで広がっています。栄えているところ、寂れているところ。ここからはっきり区別が出来ます。

 「あら。わたしたち見つかったようね」

 マーリアちゃん、結構視力が良いですね。
 すでにネイルコード国の動向に関連して警戒はしていたのでしょう。斥候からの連絡が届いたのか、城壁の上からこちらを発見できたのか。跳ね橋が上げられて、城壁の上には弓兵がずらずらと出てきました。まぁこちらも隠れるつもりはありませんでしたので、見つけてもらわないと困ります。兵をこちらに集中させた上での正面突破を狙っていますので。下手に兵に散開されては面倒です。あつまれあつまれ。

 エルセニム国軍は丘を降り、弓が届かない位置で布陣します。街道沿いのスラムからは、人々が逃げ出していますね。…申し訳ないけどこれが終わったら多分もっとマシな国になると思いますので、少しの間ごめんなさい。

 「まずは、城内に侵入して橋を降ろすか。我々なら、あそこを登るくらいはなんとか出来るぞ」

 アルマート殿下達が前進しようとしましたが。それでも弓兵から集中射撃受けるだけでしょうから止めました。
 彼らの体術なら、矢を捌くくらいは簡単でしょうが。無駄に損害を出す必要も危険を冒すこともありません。
 私が出ましょう。

 と思ったのですが。スラムの一部にしては整然と立てられているテントの集団があるな…と思ったら、そこから騎士らしき人が走ってきました。テントの集団には、ネイルコード国の軍旗が立てられています。

 「レイコ殿! お早いお着きで」

 見たことあります。バトゥーの拠点で副官をしていた人ですね。

 「ローザリンテ殿下達は、すでに王城に入っております。さすがにこの人数で城塞に入るわけにも行かず、ここで野営となっておりました。レイコ殿が来られるまでまだ何日かかかると思っておりましたが、お早いお着きで。そちらはエルセニム国の方々ということでよろしいので?」

 「エルセニム国王太子アトヤック・エルセニム・ハイザートだ。この度の助力、国王に代わり感謝する」

 「王太子自ら御出陣とは。エルセニム国の決断に敬意を表します!」

 王太子ということで、騎士さんも最敬礼します。

 「くそっ! やっぱりネイルコードとエルセニムは、つるんでやがったか!」

 「王宮に連絡しろ!」

 城壁の上で、こちらを観察していた兵が叫んでいます。…なるほど、城塞の兵達は、このネイルコード国の軍勢を監視していたんですね。

 「ネイルコード国とエルセニム国の兵力、合わせて二千というところですか。本来ならとても城攻めが出来るような兵力では無いのですが。…ローザリンテ殿下からの伝言です。適度に心を折ってあげて下さいとのことです」

 わお、結構過激ですねローザリンテ殿下も。さて、なるべくけが人も出したくないところですが。どう料理しましょうか?



 跳ね橋かかるところまで出て、大声で話しかけます。
 左右にはスラムが広がっています。そこからも幾ばくかの人達がこちらの様子をうかがっているようですが、大半は逃げ出しているようで、反応は薄いですね。

 「地球大使ツキシマ・レイコです。ダーコラ国の非道な施政に抗議するために、ネイルコード国とエルセニム国の協力を得て今ここにいます。私に交戦の意思はありません。アルマート陛下に取り次ぎなさい!」

 「ふん。あれが赤竜神の巫女だと? ただの黒髪のガキじゃないか!」

 城壁の上から、わざわざ私に聞こえるように大声で話す人がいますね。…また赤い鎧の人ですよ。
 テンプレなんでしょうか?あのセリフ。お?弓を構えてこちらを狙っていますね。

 ヒュンッ!

 あ、撃った。…狙いはなかなか良いですね。今までの赤い鎧の人とは違って、武人としてはまともなのかも。でもまぁ、

 パシッ!

 手のひらで受け止めてみます。あ、当たった衝撃で竹製らしきシャフトの部分が砕けてしまいました。
 うん、これくらいなら脅威でもなんでもないですね。赤い鎧の人がギョッとしていますが。

 「ダーコラ国軍の交戦の意思は確認しました。残念ですが、押し通ります!」

 赤い鎧の人と副官か侍従らしき人達が慌てていますが。弓矢で攻撃してしまった後ではもう遅いです。
 さてどうしようかな? 城壁の上にも人はいるので、レイコ・バスターで粉砕というわけにもいかないでしょう。
 また適当なところに撃ってデモンストレーションしたら降伏するかな?と思いましたけど。周囲はスラムで試し打ちするところがありません。

 ふと目に止った路傍の石。…これで行きましょう。
 城壁からちと近すぎるので、石を持って少し離れます。

 「いっくよ~っ!」

 野球ボールくらいのサイズの石を、助走を付けて大きく振りかぶって…第一投いきます!

 ドコンッ!

 ただいまの球速、時速600キロメール…ってところかな? 私が何をするのかと見ていた赤い人の立っているすぐ下あたりに石がめり込みます。赤い鎧の人、腰を抜かしたようで、姿が見えなくなりました。うん、ビビってるビビってる。
 我ながらコントロールも申し分ないです。どんどん行きましょうか。
 後方に待機している両軍の人に声をかけて、弓兵の攻撃に気をつけてもらいながら同じようなサイズの石を集めて貰います。どんどん行きますよ~!
 城壁の上から弓兵が撃ってきていますが、私に当たりそうな矢はマーリアちゃんが戦斧で弾いてくれています。ありがとうね。
 打たれ続けるのも邪魔なので、まずはその弓兵の下あたりを狙って石を撃ち込んでいきますか。

 ドコンッ! ドコンッ! ドコンッ! ドコンッ!

 狙いに慣れてからは、球速も上げていきます。うん、弓兵の人が城壁の上からいなくなりましたね。
 さすがにこの程度の速度では城壁を貫通とは行きませんが。確実にダメージは入っていきます。胸壁…城壁の上の凸凹になっているところですね、そこに当たれば砕け飛んでいます。

 マーリアちゃんも真似して始めましたが。まぁプロ野球選手顔負けかな?くらいの球速。こちらを狙おうとしている弓兵の牽制は任せます。

 「…どんな身体強化したら、あんなのが投げられるのよ…」

 マーリアちゃんのぼやきに苦笑しながらも。弓兵がほとんど退避してしまったところで、こんどは跳ね橋を支えている柱部分の下の方に集中して当てていきます。

 「跳ね橋を落しますので。近くに居る人は逃げて下さいね~」

 一応声かけしておきます。
 跳ね橋を釣っている柱は、表面は積んだ石、中は砂利が詰まっている感じでしょうか? 
 十発も当てていると。あ、柱が崩れ始めた。跳ね橋を吊していた部分も壊れて、橋が倒れてきます。

 ガッシャーンと橋が降りれば、中が丸見えですが。もう少し追撃しておきましょう。左右に続く城壁の下の方を、ミシンで縫うように…

 「周囲の城壁も崩しておきますね~っ!」

 「やめろ~っ!馬鹿もん!」

 壁の向こうから何か聞こえてきますけど、当然無視です。

 ドコンッ! ドコンッ! ドコンッ! ドコンッ! ゴゴゴゴゴ…

 見た目のダメージは大したことなかったのですが。上からの重量に耐えられなくなったのか、穿たれたところから城壁が崩れて行き、瓦礫が落ちた掘から盛大に水柱が上がります。…あ、スラムに水かぶっちゃった。…ごめんなさい。
 でもまぁ、左右数十メートルに渡って城壁は崩れて、掘は埋まりました。徒歩で越えるにはちょっと苦労はしそうですが、城壁としての用は成さなくなったと言って良いでしょう。

 では進みますか。

 降りてきた橋を越え、城壁の瓦礫を避けながら進むと、武器を構えた兵隊達が並んでいます。
 周囲を見るに、皆さん崩れる前に逃げていたようですね。ぱっと見たところ、けが人もいないようで。善き善き。

 あ、さっきの赤い鎧の人。

 「き!貴様! こんなことをしてどうなるか分っているのか?」

 このへんもテンプレセリフですね。

 「どうなるんですか? 主にあなたが。先に弓を射かけたのはあなたですので、城壁が今こうなっているのはあなたの責任です。さて、この国の王様はあなたを生かしておくでしょうかね?」

 「ぐ…そんなことは…」

 そんなことは無い…なんてことにはならないという自覚はあるようです。この国なら、絶対誰かに責任を被してきます。

 「私をこのまま行かせてくれるのなら、多分アルマート陛下は失脚します。そうなれば、あなたを罰する人はいなくなるでしょうね。どうします?」

 「ぐぬぬぬ… 皆の者手を出すな! このまま巫女様を行かせろ!」

 黒髪のガキから巫女様に昇格ですか。いまさらですけど。それでも思ったより話は分る馬鹿で良かったです。自己保身ですけどね。

 「後ろのネイルコードとエルセニムの軍の人達もね」

 「…わかったっ! わかったからさっさと行ってくれっ!」

 はい。無血開門なりました。…無血でいいよね?



 城に赴く前に。先に、ネイルコード国の騎士達とエルセニム国軍の人達と打ち合わせです。

 「マーリアちゃん、オルモック将軍から貰った王都の地図お願い」

 ダーコラ国の要人とは言え、味方を増やしておくに越したことはありませんからね。

 「…と、この区画にこの国の要人達の家族が人質として隔離されています。まぁ掴まっているわけでは無いですが、まとめて監視されているってところですね」

 「承知しました。その区画の解放と安全確保がまず必要ということですな。それにしても、身内から人質をとるとは…」

 騎士の人も呆れていますね。

 「こちらの宰相派の区画はいかがしましょうか?」

 「宰相一派の親族なのだろ? エルセニム人がされたことを考えれば、捕らえて奴隷落ちさせたいところだが…」

 アトヤック殿下が私の方をちらっと見ます。

 「レイコ殿はそういうのは嫌われるだろうし。ダーコラ国と同じ事をするのも業腹だな。責任は今城に居る者達だけで取ってもらおう」

 はい、合格です…ってのも偉そうですね。

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