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第4章 エルセニム国のおてんば姫
第4章第018話 エルセニム国へ着きました
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第4章第018話 エルセニム国へ着きました
・Side:ツキシマ・レイコ
さて。ダーコラ国軍の追跡部隊はオルモック将軍が率いて戻りましたので、私達もエルセニム国へ向けて再出発です。
そろそろ夜が明けるくらいかな? 月明かりがあるとはいえ、みな結構な速度で走っています。マラソンに出たら、全員がぶっちぎりで世界記録ですね。
道は、ちょっと前に森の中に入りました。ここはすでにエルセニム国のテリトリーだそうです。
森と言っても、日本のそれというよりは、北米にあったような高いまっすぐな木が沢山生えているって感じですね。木と木の間もそもそも開いていて、そこを曲がりくねった道が続いています。
ネイルコード国の拠点から、気分的には東京から埼玉くらいまで走った感じでしょうか。所々、開けたところには集落が散見します。
夜が明ける頃には、森の中…と言うより、森と一体になっているような街に入りました。森の中で視界が大して開けていないので、いきなり街の中に出たという感じです。
街と行っても開けたところに家が並んでいるという感じではなく。高さ五十メートルはあろう巨木がまばらに生えているその間に、道が通って家が建っているという感じですね。木々の間隔も五十メートルくらいずつはあるので、街の面積としては十分なのでしょうが。道は、根を避けて掘るというよりは、土を盛って道を作っている感じですか。木によりかかるように建てられた結構高い家も散見します。
奥に森が開けたところも見えますが、そういうところには建物は建てずに、全部畑のようです。途中で見た集落と同じく、さすがに作物には日光が必要ですからね。
ぱっと見た目は、ファンタジーに出てくるエルフの街って感じなのですが。自然と共存…というより、こういう所にしか街を作れなかったと見るべきでしょうか? さすがにこの木の根をレイコ・バスターで吹き飛ばすとなると大事になりそうですし、まして人力で掘り返すともなれば…ですね。畑の部分を整地するのは、さぞ大変だったと思います。
あ。でかい切り株が少ないながらもありますね。その上にも建物が乗っています。住居というよりは倉庫かな?
街に入ってからは、走るのを止めて歩きです。私はもう観光気分でキョロキョロしています。レッドさんにも見せてあげたかったな。むしろこういうファンタジー感溢れる場所の方が似合いそうな子ですから。
「…何年ぶりだろ」
マーリアちゃんが懐かしそうに見回しています。
たまに通りかかる人が、セレブロさんをみてびっくりしていますが。兵士の集団といるので害は無いと分ってくれるようです。
しばらく行くと、一本の木を支えにして絡みつくような形の建物が見えてきました。下の方は石造り、上の方は木製で、全部で十階建てくらいはあるのかな? 木を抜いたらバベルの塔?って感じで。ここがエルセニム国の王宮だそうです。
ん? 入り口のところのマナランプが、点滅しています。 どうもここが入り口だという印のためのもののようですが。
点滅? マナランプでそんなこと出来るの?
エルセニム国ではマナ術が発達していると聞いたように思いますが。このマナランプも…ものすごく大事なことに思えます。ただまぁ、そこは後にしましょう。
城門では門番さんに誰何されました。武装した集団にでっかい銀狼ですから当然ですね。そう言えば、この部隊は非正規部隊でしたね。
しかし、アトヤック殿下とマーリアちゃんを知っている門番さんだったみたいで、大慌てで中に知らせに走って行きました。
少し待たされて出てきたのは、執事さん? …ここの人、白髪と銀髪の区別が付かないので年齢がよく分りませんね。白髪って言うなって言われそうですが。
「アトヤック王子、マーリア姫。よくぞ戻られました。バヤルタ陛下とコリーマ王妃がお待ちです」
アトヤック殿下を先頭に、中央に大きな机が置かれている会議室っぽいところに案内されました。石造りの部分の最上階ですので、四階くらいのフロアですか。
奥の席には、髭まで銀髪の、四十歳くらいの男の人が。国王様ですかね?
アトヤック殿下が頭を下げます。
「父上。ただいま戻りました」
「うむ。…出奔したお前が戻ってきたということは、なにか事態に変化でもあったのか? …その後ろにいるのは…マーリアかっ?!」
「お父様、お久しぶりです」
王様が席から飛び出してきて、マーリアちゃんを抱きしめます。
「よくぞ無事でいてくれた!。お前を正教国に渡してしまった無力な父を許しておくれ。あんな処だと知っていれば、例え全滅しようとも抗った物を…」
「マーリア!」
会議室の扉を壊す勢いで入ってきた女性が、マーリアちゃんを見つけて駆け寄ります。
「お母様っ!」
「マーリア! よかった…本当によかった…」
うん。三人で抱き合って、親娘再会タイムです。
セレブロさんとちょっと待ちましょうかね。
・Side:マーリア・エルセニム・ハイザート
お父様とお母様に、エルセニム国を出てからの話をします。
正教国に人質とマナ術の訓練のためだと言われて連れて行かれて、マナ術強化のための実験を受けて。厳しい訓練を受けて、セレブロに出会って。実験と訓練が進んだのは良いけど正教国の騎士達に疎まれ始め、結果お兄様の反抗組織に業を煮やしたダーコラ国に戻され。ダーコラ国の王子によってネイルコード国に向かわされ、レイコに出会って、決闘で負けて。ローザリンテ殿下の協力の元、戻って来れました。
「初めまして、赤竜神の巫女様。エルセニム国国王バヤルタ・エルセニム・ハイザートと申します。こちらは妻のコリーマ・エルセニム・ハイザート。この度は、我が娘マーリアが大変お世話になったようで。無事に連れ帰っていただき感謝のしようもありません」
「あの。私が赤竜神の関係者だって信じてくれるんですか?」
レイコがなんかドキマギしています。小市民モードとか言っていましたたっけ? 偉い人に頭を下げられるのになれていないんだって。赤竜神の巫女様なのにへんよね。
「あなたの尋常では無いマナの密度、存在するとすれば赤竜神の眷属であることは明々白々。疑う余地はございません」
「…お父様、お母様。そういう堅苦しいのはレイコは苦手だそうだから、そこそこにしてあげてね」
「そこそこって…おまえ少し柄悪くなっていないか?」
お兄様に指摘されました。レイコは、お姫様モードとツンデレモードの切替が早いとか言っていたけど、意味はよく分りません。まぁ、正教国ではお姫様では立ち行かなかっただけですけどね。馬鹿な正教国騎士相手には、はったりも必要でした。舐められたら終わり、生きていく上での鉄則です。
セレブロもやっと紹介できました。衛兵達がこの子を見て凄く緊張していましたからね。そんなに恐い?
「あのとき、我が国からマナ術に資質のある子供や、ダーコラ国からも子供が結構な人数連れて行かれたのだが。消息が分っているのはマーリアだけなのだ。おまえがダーコラ国に戻されたという話を聞くまでは、私達もほとんど諦めていたのだが…」
「…多分、マナ強化の実験に耐えられなかったんだと思います…」
他の子らが死んでしまっていること。具体的には聞いていませんでしたが、薄々は気がついていました。 私も、最初の時にはもう駄目だと思ったくらいですから。運が良かったのでしょうか。
…なんかレイコちゃんから冷気が漂ってきます。比喩では無く、マナの力が抜けて体が冷えていくような。レイコちゃんが冷たく怒っているのが分ります。ちょっと恐いです。
「…レイコ」
表情を無くしてなにか考え込んでいるレイコに声をかけます。
「あ…ごめんなさい」
冷気が霧散しします。…意識してやってるんでしょうかね?この子。
ただでさえ無敵の体なのに、周囲の人間のマナ術を解除できるなんて、ズルも良いところですわ。
お父様お母様に、お兄様もびっくりされていましたけど。話を進めましょう。
お父様に、ローザリンテ殿下からの書簡を渡します。
席について一通り目を通すお父様。
「ふむ…同盟と共闘は願ってもないことだが、見ての通りエルセニム国は小国だ。ネイルコード国については、ここからでは話に聞くくらいだが、うちとは比べものにならない大国であろう? 同盟では無く従属しろと言えば済む話ではないのか?」
私が行ったエイゼル市。あそこだけでもエルセニム国をはるかに上回る規模でしたけど。エイゼル市はあくまでネイルコード国の一都市です。ネイルコード国全体と比較したら、エルセニム国の何倍になるのか見当も付きません。
「うーん。まぁ私の推測として聞いていただきたいのですが。すごく失礼な例えですけど、飛び地の貧乏な国が、あなたの所に従属しますからあなたの国と同じくらい豊かにしてくださいね?あなたの国のお金を使って…なんて言われたらどうします? ってところですか。国力に差がありすぎて、安易に取り込めないのではないかと」
「容赦ないのね!、レイコは!」
「オブラートに包んでもしょうが無いと思って」
"おぶらーと"って何よ?
「…貧乏な国と言われるのは、いささか遺憾ではあるのだが。…まぁだいたい話は分った」
「国の開発のための支援はしてもらえると思いますけど。なるだけ自力で…って事になると思いますし。この国のためにもそちらの方が良いと思います。他国の力に頼りっきりで自立と発展をしても、国民のプライドが育ちませんから。自分たちで国を大きくしたという実績と自尊心は、国民のメンタリティーにけっこう影響が出る…というのはお父さんが言ってました」
「国民のプライドか。…なるほどな。ところでレイコ殿の父上というのは、賢者かなにかかね?」
「こちらでは賢者で良いと思います。赤井さん…赤竜神の師匠でもありましたね」
「なんと!赤竜神様の師匠か。なるほどその娘ともなれば賢者に劣らないと言うことだな…」
…なんかレイコの父上が赤竜神様の師匠って…なんか赤竜神様がみょうに身近に思えてくるわね。
「ネイルコード国とダーコラ国は現在、戦争一歩手前って状態です。ダーコラ国にはネイルコード国に勝てる戦力はありませんが、正教国の後ろ盾をいいことに今まで好き勝手やりすぎました。今のこの状況に乗っていただく形でエルセニム国にも蜂起して欲しい…ということなんだと思います。たしかにネイルコード国だけで事は成せるでしょうが。エルセニム国の将来を考えると、ここで何もしないという選択肢は無いと思いますが」
「ふむ了解した。書簡には、できうる限りの戦力で南下しダーコラ国に圧力をかけて欲しいとある。マーリアから聞いた話と合わせると、港町バトゥーに駐留しているネイルコード国艦隊と上陸している兵力。東の国境に詰めているネイルコード国軍。これらにダーコラ国の戦力が分断されるのなら、我らの戦力でも国境から押し返すことくらいは出来よう。すぐに準備に取りかかろう。やってもらうぞ?アトヤック」
「はい、父上」
国境にいるオルモック将軍と言う人はほぼ調略に乗っているので、多分そこでの戦闘は起きないでしょうけど。なるほど、国民のプライドのために出陣が必要なのね。
お父様が、宰相さんに指示して小箱を2つ持って来させました。
一つをお兄様に。もう一つを私に。
兄上がそれを開けると、金で出来ているだろう土台に宝石で装飾された立派なゴルゲット。
「こ…これは…」
「それは、王太子を示すゴルゲットだ。立太子の式典をやっている暇は無いが、今なら渡しても良かろう。…私は、ダーコラ国に連れて行かれた同胞を見捨てられなかった。アトヤック、お前は現状を放置することによるエルセニム国の今後の被害を看過できなかった。私は、私が間違っていたとは思わないが、お前の考えも間違っているとも思っていない。しかし、行動する決断が出なかったこと、王として恥じ入るばかりだ」
「いえ、父上。…実際に奴隷にされたエルセニム人の部隊と戦闘になったとき、父上のお気持ちがよく理解できました」
「うむ。お前はまだ若い。故に今すぐ王にという訳にはいかぬが。次期国王としてエルセニム国の未来をつかみ取ってきてくれ」
「はいっ」
私が受け取ったのは、私がエルセニム国を出るときにおいてきた王族のゴルゲットです。
正教国のゴルゲットはアイズン伯爵に預けてしまいましたので、今付けているのは実はエイゼル領の護衛騎士見習いの量産品ゴルゲットだったりします。ネイルコード国軍と共に行動するのに身分証が無いわけには行かなかったので。
護衛騎士見習いのゴルゲットをポシェットに大切にしまって。お母様にその王族のゴルゲットを付けてもらいました。
・Side:ツキシマ・レイコ
さて。ダーコラ国軍の追跡部隊はオルモック将軍が率いて戻りましたので、私達もエルセニム国へ向けて再出発です。
そろそろ夜が明けるくらいかな? 月明かりがあるとはいえ、みな結構な速度で走っています。マラソンに出たら、全員がぶっちぎりで世界記録ですね。
道は、ちょっと前に森の中に入りました。ここはすでにエルセニム国のテリトリーだそうです。
森と言っても、日本のそれというよりは、北米にあったような高いまっすぐな木が沢山生えているって感じですね。木と木の間もそもそも開いていて、そこを曲がりくねった道が続いています。
ネイルコード国の拠点から、気分的には東京から埼玉くらいまで走った感じでしょうか。所々、開けたところには集落が散見します。
夜が明ける頃には、森の中…と言うより、森と一体になっているような街に入りました。森の中で視界が大して開けていないので、いきなり街の中に出たという感じです。
街と行っても開けたところに家が並んでいるという感じではなく。高さ五十メートルはあろう巨木がまばらに生えているその間に、道が通って家が建っているという感じですね。木々の間隔も五十メートルくらいずつはあるので、街の面積としては十分なのでしょうが。道は、根を避けて掘るというよりは、土を盛って道を作っている感じですか。木によりかかるように建てられた結構高い家も散見します。
奥に森が開けたところも見えますが、そういうところには建物は建てずに、全部畑のようです。途中で見た集落と同じく、さすがに作物には日光が必要ですからね。
ぱっと見た目は、ファンタジーに出てくるエルフの街って感じなのですが。自然と共存…というより、こういう所にしか街を作れなかったと見るべきでしょうか? さすがにこの木の根をレイコ・バスターで吹き飛ばすとなると大事になりそうですし、まして人力で掘り返すともなれば…ですね。畑の部分を整地するのは、さぞ大変だったと思います。
あ。でかい切り株が少ないながらもありますね。その上にも建物が乗っています。住居というよりは倉庫かな?
街に入ってからは、走るのを止めて歩きです。私はもう観光気分でキョロキョロしています。レッドさんにも見せてあげたかったな。むしろこういうファンタジー感溢れる場所の方が似合いそうな子ですから。
「…何年ぶりだろ」
マーリアちゃんが懐かしそうに見回しています。
たまに通りかかる人が、セレブロさんをみてびっくりしていますが。兵士の集団といるので害は無いと分ってくれるようです。
しばらく行くと、一本の木を支えにして絡みつくような形の建物が見えてきました。下の方は石造り、上の方は木製で、全部で十階建てくらいはあるのかな? 木を抜いたらバベルの塔?って感じで。ここがエルセニム国の王宮だそうです。
ん? 入り口のところのマナランプが、点滅しています。 どうもここが入り口だという印のためのもののようですが。
点滅? マナランプでそんなこと出来るの?
エルセニム国ではマナ術が発達していると聞いたように思いますが。このマナランプも…ものすごく大事なことに思えます。ただまぁ、そこは後にしましょう。
城門では門番さんに誰何されました。武装した集団にでっかい銀狼ですから当然ですね。そう言えば、この部隊は非正規部隊でしたね。
しかし、アトヤック殿下とマーリアちゃんを知っている門番さんだったみたいで、大慌てで中に知らせに走って行きました。
少し待たされて出てきたのは、執事さん? …ここの人、白髪と銀髪の区別が付かないので年齢がよく分りませんね。白髪って言うなって言われそうですが。
「アトヤック王子、マーリア姫。よくぞ戻られました。バヤルタ陛下とコリーマ王妃がお待ちです」
アトヤック殿下を先頭に、中央に大きな机が置かれている会議室っぽいところに案内されました。石造りの部分の最上階ですので、四階くらいのフロアですか。
奥の席には、髭まで銀髪の、四十歳くらいの男の人が。国王様ですかね?
アトヤック殿下が頭を下げます。
「父上。ただいま戻りました」
「うむ。…出奔したお前が戻ってきたということは、なにか事態に変化でもあったのか? …その後ろにいるのは…マーリアかっ?!」
「お父様、お久しぶりです」
王様が席から飛び出してきて、マーリアちゃんを抱きしめます。
「よくぞ無事でいてくれた!。お前を正教国に渡してしまった無力な父を許しておくれ。あんな処だと知っていれば、例え全滅しようとも抗った物を…」
「マーリア!」
会議室の扉を壊す勢いで入ってきた女性が、マーリアちゃんを見つけて駆け寄ります。
「お母様っ!」
「マーリア! よかった…本当によかった…」
うん。三人で抱き合って、親娘再会タイムです。
セレブロさんとちょっと待ちましょうかね。
・Side:マーリア・エルセニム・ハイザート
お父様とお母様に、エルセニム国を出てからの話をします。
正教国に人質とマナ術の訓練のためだと言われて連れて行かれて、マナ術強化のための実験を受けて。厳しい訓練を受けて、セレブロに出会って。実験と訓練が進んだのは良いけど正教国の騎士達に疎まれ始め、結果お兄様の反抗組織に業を煮やしたダーコラ国に戻され。ダーコラ国の王子によってネイルコード国に向かわされ、レイコに出会って、決闘で負けて。ローザリンテ殿下の協力の元、戻って来れました。
「初めまして、赤竜神の巫女様。エルセニム国国王バヤルタ・エルセニム・ハイザートと申します。こちらは妻のコリーマ・エルセニム・ハイザート。この度は、我が娘マーリアが大変お世話になったようで。無事に連れ帰っていただき感謝のしようもありません」
「あの。私が赤竜神の関係者だって信じてくれるんですか?」
レイコがなんかドキマギしています。小市民モードとか言っていましたたっけ? 偉い人に頭を下げられるのになれていないんだって。赤竜神の巫女様なのにへんよね。
「あなたの尋常では無いマナの密度、存在するとすれば赤竜神の眷属であることは明々白々。疑う余地はございません」
「…お父様、お母様。そういう堅苦しいのはレイコは苦手だそうだから、そこそこにしてあげてね」
「そこそこって…おまえ少し柄悪くなっていないか?」
お兄様に指摘されました。レイコは、お姫様モードとツンデレモードの切替が早いとか言っていたけど、意味はよく分りません。まぁ、正教国ではお姫様では立ち行かなかっただけですけどね。馬鹿な正教国騎士相手には、はったりも必要でした。舐められたら終わり、生きていく上での鉄則です。
セレブロもやっと紹介できました。衛兵達がこの子を見て凄く緊張していましたからね。そんなに恐い?
「あのとき、我が国からマナ術に資質のある子供や、ダーコラ国からも子供が結構な人数連れて行かれたのだが。消息が分っているのはマーリアだけなのだ。おまえがダーコラ国に戻されたという話を聞くまでは、私達もほとんど諦めていたのだが…」
「…多分、マナ強化の実験に耐えられなかったんだと思います…」
他の子らが死んでしまっていること。具体的には聞いていませんでしたが、薄々は気がついていました。 私も、最初の時にはもう駄目だと思ったくらいですから。運が良かったのでしょうか。
…なんかレイコちゃんから冷気が漂ってきます。比喩では無く、マナの力が抜けて体が冷えていくような。レイコちゃんが冷たく怒っているのが分ります。ちょっと恐いです。
「…レイコ」
表情を無くしてなにか考え込んでいるレイコに声をかけます。
「あ…ごめんなさい」
冷気が霧散しします。…意識してやってるんでしょうかね?この子。
ただでさえ無敵の体なのに、周囲の人間のマナ術を解除できるなんて、ズルも良いところですわ。
お父様お母様に、お兄様もびっくりされていましたけど。話を進めましょう。
お父様に、ローザリンテ殿下からの書簡を渡します。
席について一通り目を通すお父様。
「ふむ…同盟と共闘は願ってもないことだが、見ての通りエルセニム国は小国だ。ネイルコード国については、ここからでは話に聞くくらいだが、うちとは比べものにならない大国であろう? 同盟では無く従属しろと言えば済む話ではないのか?」
私が行ったエイゼル市。あそこだけでもエルセニム国をはるかに上回る規模でしたけど。エイゼル市はあくまでネイルコード国の一都市です。ネイルコード国全体と比較したら、エルセニム国の何倍になるのか見当も付きません。
「うーん。まぁ私の推測として聞いていただきたいのですが。すごく失礼な例えですけど、飛び地の貧乏な国が、あなたの所に従属しますからあなたの国と同じくらい豊かにしてくださいね?あなたの国のお金を使って…なんて言われたらどうします? ってところですか。国力に差がありすぎて、安易に取り込めないのではないかと」
「容赦ないのね!、レイコは!」
「オブラートに包んでもしょうが無いと思って」
"おぶらーと"って何よ?
「…貧乏な国と言われるのは、いささか遺憾ではあるのだが。…まぁだいたい話は分った」
「国の開発のための支援はしてもらえると思いますけど。なるだけ自力で…って事になると思いますし。この国のためにもそちらの方が良いと思います。他国の力に頼りっきりで自立と発展をしても、国民のプライドが育ちませんから。自分たちで国を大きくしたという実績と自尊心は、国民のメンタリティーにけっこう影響が出る…というのはお父さんが言ってました」
「国民のプライドか。…なるほどな。ところでレイコ殿の父上というのは、賢者かなにかかね?」
「こちらでは賢者で良いと思います。赤井さん…赤竜神の師匠でもありましたね」
「なんと!赤竜神様の師匠か。なるほどその娘ともなれば賢者に劣らないと言うことだな…」
…なんかレイコの父上が赤竜神様の師匠って…なんか赤竜神様がみょうに身近に思えてくるわね。
「ネイルコード国とダーコラ国は現在、戦争一歩手前って状態です。ダーコラ国にはネイルコード国に勝てる戦力はありませんが、正教国の後ろ盾をいいことに今まで好き勝手やりすぎました。今のこの状況に乗っていただく形でエルセニム国にも蜂起して欲しい…ということなんだと思います。たしかにネイルコード国だけで事は成せるでしょうが。エルセニム国の将来を考えると、ここで何もしないという選択肢は無いと思いますが」
「ふむ了解した。書簡には、できうる限りの戦力で南下しダーコラ国に圧力をかけて欲しいとある。マーリアから聞いた話と合わせると、港町バトゥーに駐留しているネイルコード国艦隊と上陸している兵力。東の国境に詰めているネイルコード国軍。これらにダーコラ国の戦力が分断されるのなら、我らの戦力でも国境から押し返すことくらいは出来よう。すぐに準備に取りかかろう。やってもらうぞ?アトヤック」
「はい、父上」
国境にいるオルモック将軍と言う人はほぼ調略に乗っているので、多分そこでの戦闘は起きないでしょうけど。なるほど、国民のプライドのために出陣が必要なのね。
お父様が、宰相さんに指示して小箱を2つ持って来させました。
一つをお兄様に。もう一つを私に。
兄上がそれを開けると、金で出来ているだろう土台に宝石で装飾された立派なゴルゲット。
「こ…これは…」
「それは、王太子を示すゴルゲットだ。立太子の式典をやっている暇は無いが、今なら渡しても良かろう。…私は、ダーコラ国に連れて行かれた同胞を見捨てられなかった。アトヤック、お前は現状を放置することによるエルセニム国の今後の被害を看過できなかった。私は、私が間違っていたとは思わないが、お前の考えも間違っているとも思っていない。しかし、行動する決断が出なかったこと、王として恥じ入るばかりだ」
「いえ、父上。…実際に奴隷にされたエルセニム人の部隊と戦闘になったとき、父上のお気持ちがよく理解できました」
「うむ。お前はまだ若い。故に今すぐ王にという訳にはいかぬが。次期国王としてエルセニム国の未来をつかみ取ってきてくれ」
「はいっ」
私が受け取ったのは、私がエルセニム国を出るときにおいてきた王族のゴルゲットです。
正教国のゴルゲットはアイズン伯爵に預けてしまいましたので、今付けているのは実はエイゼル領の護衛騎士見習いの量産品ゴルゲットだったりします。ネイルコード国軍と共に行動するのに身分証が無いわけには行かなかったので。
護衛騎士見習いのゴルゲットをポシェットに大切にしまって。お母様にその王族のゴルゲットを付けてもらいました。
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