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第4章 エルセニム国のおてんば姫
第4章第016話 襲撃者を追跡
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第4章第016話 襲撃者を追跡
・Side:ツキシマ・レイコ
ローザリンテ殿下がエルセニム国への文を書き終わり、封がされたそれをマーリアちゃんに渡します。
先ほどの地球大使としての宣言書も三通作成してそれぞれに私が署名し。ひとつはローザリンテ殿下、一つはマーリアちゃんに持たせます。最後の一つはダーコラ国に突きつけるそうです。
「それをエルセニム国王に渡してください。ただし、正教国が軍を興す前に全てを終わらせる必要があります。正教国と正面から戦って負けるとは思っていませんが。そのような状態になってからでは、ネイルコード国がダーコラ国内で動くメリットは無くなります。脅かすわけではありませんが、その場合はネイルコード国は撤退、エルセニム国は報復を受けることになるでしょう。今の機会を逃したら、次にいつネイルコード国が干渉できる日が来るか分りません」
「はい、ローザリンテ殿下」
「しかし。レイコ殿がここにいないとなれば、ダーコラ国軍がこの拠点を攻めるのではないですか?」
ラコール隊長が心配してますが。
「逆に。レイコ殿がエルセニム国に渡ったとなれば。あなたならどうしますか?」
「っ! …エルセニム国との国境沿いの兵力は動かせなくなりますな。ダーコラ国東側諸侯のネイルコード国境への移動は始まっているようで、この拠点を攻略しようとするのならば王都周辺の兵力をもって当てるしか無いでしょうが、すでにダーコラ国の戦力は空洞化しているというのが幕僚達の読みです。この拠点を無視は出来ないでしょうが、積極的に攻めるとなるとレイコ殿がいなくても難しいでしょうな。…やはりレイコ殿の情報は故意に流されるので?」
「もちろんです。レイコ様にもその辺を承知で動いていただきたいのですが。あのオルモック将軍は、エルセニム国国境の砦に配置されているそうです。先日、この拠点に外相とともに来られていますが。王都に戻られてからかすぐさま砦に戻ったとかで、おそらく先ほどの反抗組織の動きに関係があると思いますが。レイコ様がエルセニム国に行ったと知ったら、もうオルモック将軍を動かせなくなるでしょうね」
ネイルコード国の動きに、エルセニムの反抗組織だけでなくダーコラ国軍も反応していますが。オルモック将軍はエルセニム国に張り付きになるということですね。
「レイコ様には、まずはエルセニムの兵と共にこの砦に向かって欲しいのです。出来ればオルモック将軍に協力を取り付けて、最低でも静観をお願いして。その後は王都へ向かって下さい。今なら、ダーコラ国軍を避けながら王都までたどり着けるでしょうし。王宮を迅速に抑えることが出来れば、オルモック将軍らの人質の安全も確保できます」
オルモック将軍なら味方してくれそうですが。ハルバニ外相もですが、味方からすら人質を取っていますからね。やはり王様の首根っこ抑えるしかないというのがローザリンテ殿下の見立てですが。
「私もダーコラの王宮に赴きます。そこで、ネイルコード国とエルセニム国の連名で、王城でダーコラ国に降伏を勧告することになります」
「ローザリンテ殿下がいきなり乗り込むんですか? いくらなんでも危険でしょう?」
「危険はそれなりにありますが。ここにいる騎士達は我が国の精鋭ですし、これだけの兵力を遊ばせておくのも勿体ないでしょう。これが一番犠牲が少なくて済む方法だと思っています」
一応私は、ローザリンテ殿下の護衛としてここにいます。殿下から離れるのは、職務放棄な感じがして悩み所ですが。
ちょっと考えて、レッドさんにお願いすることにしました。
「レッドさんをローザリンテ殿下の護衛として置いていきます。お願いできるかな?レッドさん」
「クーッ!」
まかせとけだそうです。
「こう見えて人の言葉はきちんと理解できていますし。警戒能力も私より優れていると思いますので」
索敵に関しては、私の先生ですしね。毒味も出来ますし、対人戦闘もこなせます。護衛には打って付けでしょう。
「…いいのですか? あなたたちはいつも一緒にいたのでしょう?」
「いざとなったら、空飛んですぐに来れると思いますし。レッドさんがここにいてくれた方が、私も心配がなくて済みます」
「…そういうことなら、お預かりしましょう。おいでませ、小竜様」
ローザリンテ殿下にレッドさんを手渡しします。ローザリンテ殿下の膝上で胸を張るレッドさん。任せましたよ?
さて、行きますか。
…ほんと、はやくエイゼルに戻ってのんびり過ごしたいところです。料理とか物作りとか、やりたいことは一杯あるのですから。
拠点を出て、マーリアちゃんと一緒にエルセニム人の反抗組織の人達を追いかけます。
マーリアちゃんがどれくらいの速度で走れるのかな?…と思ったら、セレブロさんの背中に乗っているじゃないですか? 自分で走るんじゃなかったんですか?
「ん? レイコも乗る?」
子供とはいえ二人乗りではセレブロさんがキツそうですので遠慮します。ふん、速度上げますよ!
予め、レッドさんが偵察したときの周辺地形とかは教えて貰っていますので、最短距離よりは走りやすいところを選んでなるだけ速度を出していきますが。ただ、月明かりがあるとは言え、夜道にレッドさんのナビゲーションがないと、この速度だとちょっと恐いですね。
三十分ほどで、走っている黒づくめの男達の側面に出ました。向こうもこちらを見咎めて臨戦態勢を取りますが。セレブロさんに乗っているのがマーリアちゃんだと気がついたようです。
「マーリア!逃げてきたのか! …とすると、そっちのは追っ手か?このガキが?」
むかっ! はいはい、どうせガキですよ。
…斬りかかってこないでくださいね。マーリアちゃんのお兄さんとは言え、子供に躊躇なく切りかかる人に容赦はしませんよ。
「まってお兄様!。この子は赤竜神の巫女様です」
マーリアちゃんに様付けされた…
あ…レッドさんがいないと身分証明が。まぁたしかにレッドさんがいないと単なる黒髪のガキですね、私って。
「私はネイルコード国に捕われていたのではありません。保護されていたのです。お兄様はダーコラ国の偽情報に踊らされていたのです」
「な…ではどうして今ここにいる? 巫女様ってのはなんだ?」
ローザリンテ殿下からの話をマーリアちゃんが説明します。ただ、例の手紙は、蝋封を見せるだけです。開けて良いのは、王か王太子だけ。今はまだ駄目ですよ。
あっと。お兄さんを紹介されました。アトヤック・エルセニム・ハイザートと仰るそうです。
「出奔中の身だが。エルセニム国国王バヤルタ・エルセニム・ハイザートの長子アトヤック・エルセニム・ハイザートと申します」
膝をつきそうになっているところを慌てて止めます。
「今回は地球大使として赴きましたツキシマ・レイコです! 大げさな礼は必要ないのでよろしくお願いします!」
「地球…というのは?」
「赤竜神や私の故郷ですね」
と、夜空を指します。方向は適当ですけど、とりあえず宇宙のどこかってことで。
「おおっ、神の国は実在するのですかっ!」
…なんか変な誤解与えたけど。その辺を特のはまたの機会にしましょう。ともかく先を急ぎますので。
「ネイルコード国からの申し出、もし本当なら願ってもないことだが」
「ローザリンテ殿下とはいろいろお話ししましたけど、私は信じてもいいと思ってます」
「私がエルセニム国軍の再興か。…分った、一度王都に戻ろう」
「…その前に。この先でダーコラ国が網を張っていますので、まずはその対処ですね」
「なんだと?」
私の解像度の低い探知でも、十時の方向から大勢の人が移動しているのが分ります。…探知の訓練しておいて良かったです。
ただ、右側は河で塞がっています。普通の人が船もなく渡るにはちょっとキツいかな?
相手の規模と大体の距離をアトヤック殿下に知らせます。
「…まだ距離には余裕があるな。接敵する前に突っ切ろう」
皆さん、先ほどより速度を上げてます。マーリアちゃんも、セレブロさんから降りて自分で走っています。探知で見るに一番マナがまぶしいんですよね、この子。
負傷者を庇いつつ、なんとかダーコラ国軍の前を通り抜けられる…と思っていたところ。ダーコラ国軍の前方から一団が別れて加速してきました。これは速い!
「アトヤック殿下! ダーコラ国軍の先頭から十人ほどが飛び出してきました。このままじゃ抜けられません!」
「なに?」
今は林を抜けて開けたところを走っています。夜ですが、月と神の玉座も出ていて、視界は通っています。
…流石に見つかりましたね、こちらめがけて速度をあげてきます。アトヤック殿下は迎え撃つことにしたようです。
ただ…走ってくる兵士は銀髪? 互いにショートソードで切り結びます!。
「お前ら! エルセニム人だろ? どうして?」
「…すまない。殺したくはないから捕まってくれ!」
「お前たち…人質を取られているのか?」
こうなると、アトヤック殿下たちも本気が出せません。何合か切り結びますが、互いに身体強化が得意なのか膠着状態ですね。
その間にもダーコラ国軍の本隊が迫ってきています。
「あそこにいるのが、おそらく姫と赤竜神の巫女だ! 二人を確保できれば十分だ!」
お。ダーコラ側のエルセニム人が数人こちらに向かってきます。子供なら簡単かもと思われたようですね。…どうしましょう?
マーリアちゃんは、確保しようと襲ってくる兵をひょいひょいと避けています。
私は、掴んでこようとする人の手を掴みました。…でも人質を取られている人の腕を砕くわけにもいかないでしょう。痛い程度で強く握ってみます。
「ぐわーっ なんて怪力だ!」
手を離そうとしていますが、振り解かせませんよ。でも悲しいかな十歳程度の体重。私の方が振り回されてぶらんぶらんと。
「事情を話してくれませんか? 協力できると思いますよ」
腕に掴まり振り回されながらも説得してみます。
そもそもエルセニム国に向かうのは、ダーコラ国の奴隷解放も目標の一つですからね。
「く…妻と子供を人質にされている。奴ら、俺たちを前線で戦わせるために、家族を檻に入れてまで輜重部隊に下働きとして同行させているんだ」
他のエルセニム人達も、攻撃を止めてこちらの様子を見ています。
「…おれも子供を取られている」
「おれは…村を襲われて集落毎連れてこられた。ここでは両親が人質になっている」
なんで前線に人質を?と思ったけど。知らないところで殺すよりは、見えるところで見せしめを…という趣向だそうです。
…胸くそ悪いですね。
ダーコラ国の軍勢は、すぐそこです。先にそっちをかたづけましょうか。
・Side:ツキシマ・レイコ
ローザリンテ殿下がエルセニム国への文を書き終わり、封がされたそれをマーリアちゃんに渡します。
先ほどの地球大使としての宣言書も三通作成してそれぞれに私が署名し。ひとつはローザリンテ殿下、一つはマーリアちゃんに持たせます。最後の一つはダーコラ国に突きつけるそうです。
「それをエルセニム国王に渡してください。ただし、正教国が軍を興す前に全てを終わらせる必要があります。正教国と正面から戦って負けるとは思っていませんが。そのような状態になってからでは、ネイルコード国がダーコラ国内で動くメリットは無くなります。脅かすわけではありませんが、その場合はネイルコード国は撤退、エルセニム国は報復を受けることになるでしょう。今の機会を逃したら、次にいつネイルコード国が干渉できる日が来るか分りません」
「はい、ローザリンテ殿下」
「しかし。レイコ殿がここにいないとなれば、ダーコラ国軍がこの拠点を攻めるのではないですか?」
ラコール隊長が心配してますが。
「逆に。レイコ殿がエルセニム国に渡ったとなれば。あなたならどうしますか?」
「っ! …エルセニム国との国境沿いの兵力は動かせなくなりますな。ダーコラ国東側諸侯のネイルコード国境への移動は始まっているようで、この拠点を攻略しようとするのならば王都周辺の兵力をもって当てるしか無いでしょうが、すでにダーコラ国の戦力は空洞化しているというのが幕僚達の読みです。この拠点を無視は出来ないでしょうが、積極的に攻めるとなるとレイコ殿がいなくても難しいでしょうな。…やはりレイコ殿の情報は故意に流されるので?」
「もちろんです。レイコ様にもその辺を承知で動いていただきたいのですが。あのオルモック将軍は、エルセニム国国境の砦に配置されているそうです。先日、この拠点に外相とともに来られていますが。王都に戻られてからかすぐさま砦に戻ったとかで、おそらく先ほどの反抗組織の動きに関係があると思いますが。レイコ様がエルセニム国に行ったと知ったら、もうオルモック将軍を動かせなくなるでしょうね」
ネイルコード国の動きに、エルセニムの反抗組織だけでなくダーコラ国軍も反応していますが。オルモック将軍はエルセニム国に張り付きになるということですね。
「レイコ様には、まずはエルセニムの兵と共にこの砦に向かって欲しいのです。出来ればオルモック将軍に協力を取り付けて、最低でも静観をお願いして。その後は王都へ向かって下さい。今なら、ダーコラ国軍を避けながら王都までたどり着けるでしょうし。王宮を迅速に抑えることが出来れば、オルモック将軍らの人質の安全も確保できます」
オルモック将軍なら味方してくれそうですが。ハルバニ外相もですが、味方からすら人質を取っていますからね。やはり王様の首根っこ抑えるしかないというのがローザリンテ殿下の見立てですが。
「私もダーコラの王宮に赴きます。そこで、ネイルコード国とエルセニム国の連名で、王城でダーコラ国に降伏を勧告することになります」
「ローザリンテ殿下がいきなり乗り込むんですか? いくらなんでも危険でしょう?」
「危険はそれなりにありますが。ここにいる騎士達は我が国の精鋭ですし、これだけの兵力を遊ばせておくのも勿体ないでしょう。これが一番犠牲が少なくて済む方法だと思っています」
一応私は、ローザリンテ殿下の護衛としてここにいます。殿下から離れるのは、職務放棄な感じがして悩み所ですが。
ちょっと考えて、レッドさんにお願いすることにしました。
「レッドさんをローザリンテ殿下の護衛として置いていきます。お願いできるかな?レッドさん」
「クーッ!」
まかせとけだそうです。
「こう見えて人の言葉はきちんと理解できていますし。警戒能力も私より優れていると思いますので」
索敵に関しては、私の先生ですしね。毒味も出来ますし、対人戦闘もこなせます。護衛には打って付けでしょう。
「…いいのですか? あなたたちはいつも一緒にいたのでしょう?」
「いざとなったら、空飛んですぐに来れると思いますし。レッドさんがここにいてくれた方が、私も心配がなくて済みます」
「…そういうことなら、お預かりしましょう。おいでませ、小竜様」
ローザリンテ殿下にレッドさんを手渡しします。ローザリンテ殿下の膝上で胸を張るレッドさん。任せましたよ?
さて、行きますか。
…ほんと、はやくエイゼルに戻ってのんびり過ごしたいところです。料理とか物作りとか、やりたいことは一杯あるのですから。
拠点を出て、マーリアちゃんと一緒にエルセニム人の反抗組織の人達を追いかけます。
マーリアちゃんがどれくらいの速度で走れるのかな?…と思ったら、セレブロさんの背中に乗っているじゃないですか? 自分で走るんじゃなかったんですか?
「ん? レイコも乗る?」
子供とはいえ二人乗りではセレブロさんがキツそうですので遠慮します。ふん、速度上げますよ!
予め、レッドさんが偵察したときの周辺地形とかは教えて貰っていますので、最短距離よりは走りやすいところを選んでなるだけ速度を出していきますが。ただ、月明かりがあるとは言え、夜道にレッドさんのナビゲーションがないと、この速度だとちょっと恐いですね。
三十分ほどで、走っている黒づくめの男達の側面に出ました。向こうもこちらを見咎めて臨戦態勢を取りますが。セレブロさんに乗っているのがマーリアちゃんだと気がついたようです。
「マーリア!逃げてきたのか! …とすると、そっちのは追っ手か?このガキが?」
むかっ! はいはい、どうせガキですよ。
…斬りかかってこないでくださいね。マーリアちゃんのお兄さんとは言え、子供に躊躇なく切りかかる人に容赦はしませんよ。
「まってお兄様!。この子は赤竜神の巫女様です」
マーリアちゃんに様付けされた…
あ…レッドさんがいないと身分証明が。まぁたしかにレッドさんがいないと単なる黒髪のガキですね、私って。
「私はネイルコード国に捕われていたのではありません。保護されていたのです。お兄様はダーコラ国の偽情報に踊らされていたのです」
「な…ではどうして今ここにいる? 巫女様ってのはなんだ?」
ローザリンテ殿下からの話をマーリアちゃんが説明します。ただ、例の手紙は、蝋封を見せるだけです。開けて良いのは、王か王太子だけ。今はまだ駄目ですよ。
あっと。お兄さんを紹介されました。アトヤック・エルセニム・ハイザートと仰るそうです。
「出奔中の身だが。エルセニム国国王バヤルタ・エルセニム・ハイザートの長子アトヤック・エルセニム・ハイザートと申します」
膝をつきそうになっているところを慌てて止めます。
「今回は地球大使として赴きましたツキシマ・レイコです! 大げさな礼は必要ないのでよろしくお願いします!」
「地球…というのは?」
「赤竜神や私の故郷ですね」
と、夜空を指します。方向は適当ですけど、とりあえず宇宙のどこかってことで。
「おおっ、神の国は実在するのですかっ!」
…なんか変な誤解与えたけど。その辺を特のはまたの機会にしましょう。ともかく先を急ぎますので。
「ネイルコード国からの申し出、もし本当なら願ってもないことだが」
「ローザリンテ殿下とはいろいろお話ししましたけど、私は信じてもいいと思ってます」
「私がエルセニム国軍の再興か。…分った、一度王都に戻ろう」
「…その前に。この先でダーコラ国が網を張っていますので、まずはその対処ですね」
「なんだと?」
私の解像度の低い探知でも、十時の方向から大勢の人が移動しているのが分ります。…探知の訓練しておいて良かったです。
ただ、右側は河で塞がっています。普通の人が船もなく渡るにはちょっとキツいかな?
相手の規模と大体の距離をアトヤック殿下に知らせます。
「…まだ距離には余裕があるな。接敵する前に突っ切ろう」
皆さん、先ほどより速度を上げてます。マーリアちゃんも、セレブロさんから降りて自分で走っています。探知で見るに一番マナがまぶしいんですよね、この子。
負傷者を庇いつつ、なんとかダーコラ国軍の前を通り抜けられる…と思っていたところ。ダーコラ国軍の前方から一団が別れて加速してきました。これは速い!
「アトヤック殿下! ダーコラ国軍の先頭から十人ほどが飛び出してきました。このままじゃ抜けられません!」
「なに?」
今は林を抜けて開けたところを走っています。夜ですが、月と神の玉座も出ていて、視界は通っています。
…流石に見つかりましたね、こちらめがけて速度をあげてきます。アトヤック殿下は迎え撃つことにしたようです。
ただ…走ってくる兵士は銀髪? 互いにショートソードで切り結びます!。
「お前ら! エルセニム人だろ? どうして?」
「…すまない。殺したくはないから捕まってくれ!」
「お前たち…人質を取られているのか?」
こうなると、アトヤック殿下たちも本気が出せません。何合か切り結びますが、互いに身体強化が得意なのか膠着状態ですね。
その間にもダーコラ国軍の本隊が迫ってきています。
「あそこにいるのが、おそらく姫と赤竜神の巫女だ! 二人を確保できれば十分だ!」
お。ダーコラ側のエルセニム人が数人こちらに向かってきます。子供なら簡単かもと思われたようですね。…どうしましょう?
マーリアちゃんは、確保しようと襲ってくる兵をひょいひょいと避けています。
私は、掴んでこようとする人の手を掴みました。…でも人質を取られている人の腕を砕くわけにもいかないでしょう。痛い程度で強く握ってみます。
「ぐわーっ なんて怪力だ!」
手を離そうとしていますが、振り解かせませんよ。でも悲しいかな十歳程度の体重。私の方が振り回されてぶらんぶらんと。
「事情を話してくれませんか? 協力できると思いますよ」
腕に掴まり振り回されながらも説得してみます。
そもそもエルセニム国に向かうのは、ダーコラ国の奴隷解放も目標の一つですからね。
「く…妻と子供を人質にされている。奴ら、俺たちを前線で戦わせるために、家族を檻に入れてまで輜重部隊に下働きとして同行させているんだ」
他のエルセニム人達も、攻撃を止めてこちらの様子を見ています。
「…おれも子供を取られている」
「おれは…村を襲われて集落毎連れてこられた。ここでは両親が人質になっている」
なんで前線に人質を?と思ったけど。知らないところで殺すよりは、見えるところで見せしめを…という趣向だそうです。
…胸くそ悪いですね。
ダーコラ国の軍勢は、すぐそこです。先にそっちをかたづけましょうか。
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