玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第4章 エルセニム国のおてんば姫

第4章第013話 尋問…というより事情聴取

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第4章第013話 尋問…というより事情聴取

・Side:ツキシマ・レイコ

 ネイルコード国の拠点を襲撃し、撤収時に怪我で置いて行かれたエルセニム人の反抗組織の人達は、一応捕虜扱いです。
 マーリアちゃんが、そんな人達から簡単に話を聞ききます。さすがにエルセニム国の姫であるマーリアちゃん相手だと素直に話してくれますね。
 ことはネイルコード国王妃の陣への襲撃です、拷問なんて事になっても私には意見できませんでした…って、本当にやったら止めてたかもしれませんけど。

 当然護衛が周囲を固めている状態ですが。捕まった人のうちで一番地位が高いという人が、ローザリンテ殿下の前で語ります。
 あくまでこの人達が認識している話ではありますが。エルセニム国のゲリラ活動に業を煮やしたダーコラ国が正教国に泣きついて、一時的にでも融和の材料にとマーリアちゃんをダーコラ国に派遣してもらったらしいのですが。人質の再お披露目といった悪趣味な両国の会談が準備されていたところ、そのマーリアちゃんがネイルコード国に拉致された…という連絡がダーコラ国から来たそうで。慈悲深くもダーコラ国が抗議をしたところ、ネイルコード国の王妃がマーリアちゃんを連れて謝罪に来た…なんて説明がされたそうです。

 ここで横からマーリアちゃんを奪回できれば、エルセニム国に穿たれた棘が一つ抜けます…というのが今回の襲撃の目的なわけですが。 うーん。なんかもうどこから突っ込んで良いのやらな話ですね。

 「慈悲深いダーコラ国って…そんなのあなたたち信じたの?」

 マーリアちゃんもちょっと呆れています。

 先ほどマーリアちゃんの名前を呼んだのは、どうもマーリアちゃんのお兄さんのようです。建前上はエルセニム国を出奔して、反抗組織を率いているんだそうです。…完全に誤解したまま去って行ってしまいましたね。
 慈悲深いの下りはともかくとしても、マーリアちゃんが正教国から戻されたという情報は別に入手していたそうで。経緯はともかくとしても、マーリアちゃんがネイルコード国に奪われたというところは、信じてしまったようですね。

 「エルセニム人奴隷の扱いを改善してやるから赤竜神の巫女をネイルコード国から連れてこいって命令されて。向こうでその巫女当人と決闘したらいいようにあしらわれて。なんかダーコラ国から聞いているのと話が違うからネイルコード国に協力して、証人として同行しているのよ。ネイルコード国の王妃様はエルセニム国人奴隷の解放を掛け合ってくれるっていうから了承したの」

 マーリアちゃんが簡潔に説明してくれました。三行でOK。
 捕虜の人、唖然とした顔でマーリアちゃんの話を聞いています。

 「と…ということは、我らはエルセニム国を支援しに来てくれた方々に弓を引いてしまったという訳か…」

 他の捕虜さん達も項垂れています。文字通りの骨折り損ですからね。だれがうまいこと言えと。

 「そもそも、マーリアちゃんが今ここにいるという話をあなたたちは誰から聞いたんですか?」

 護衛として同席していたエカテリンさんがエルセニム人の人に聞きます。

 「ダーコラ国軍の奴隷にされている同胞が密かに協力してくれて、そこから情報をもらったのだが…」

 「…その情報が反抗組織を誘導するものとして。ダーコラ国の目的は、エルセニム国にネイルコード国を襲撃させて、二国が将来的にも協力しなくなるようにすることと。あわよくばエルセニム国の反抗組織をネイルコード国に始末してもらうこと…ってところかな?」

 「なっ…」

 「親切でそんな情報流すわけ無いでしょ? 先ほどのそちらが聞かされていたっていう話が全くのデタラメだからね。その奴隷がいいように利用されているのは確実だと思うぞ」

 エカテリンさん、脳筋に見えるけど。けっこう頭良いよね。

 「レイコちゃん、レッドさんに周囲の索敵を頼めないかな? ダンテ隊長、いいですよね?」

 ダンテ隊長が、拠点の指揮官と目配せをしますが、二人とも頷きました。

 「エカテリンさん、どうしたんです?」

 「ダーコラ国側に立って考えれば。ネイルコード国とエルセニム国がぶつかっているところにダーコラ国の軍を横からぶつけて。エルセニム国の反抗組織を倒せれば御の字で、ネイルコード国に恩も売れる。または、このままネイルコード国に襲いかかってローザリンテ殿下を拉致か弑殺できても、エルセニム国のせいに出来るという、結構美味しい状況なのよね。これで偵察だけして結果を待っているだけというのはちょっと考えられないし。もしダーコラ国の軍が近くに来ているのなら、確定だね」

 …エカテリンさん、冴えていますね。

 さっそくレッドさんに飛んでもらいます。夜でも平気レッドさん。



 西の方向から、約五百ほどのおそらく軍でしょう、やってきていますね。撤退したエルセニム国の反抗組織の人達は、既に安全圏の森の中を北上しています。

 「ダーコラ国の王都の方でしたっけ? あちらから、五百人ほどの部隊がやってきていますね。多分ダーコラ国の軍…なのでしょうね?」

 拠点指揮官のラコール護衛騎士隊長に偵察結果を知らせます。
 西の林の向こうでダーコラ国の軍勢は横陣を組みつつあります。ネイルコード国とエルセニム国のゲリラがぶつかった頃合いを見計らって突入するつもり…だったのでしょうが。
 多分、向こうも斥候を出しているでしょうから、故知での戦闘がとっくに終わっているという様子はそろそろ伝わるころでしょう。

 「…あのままあそこに布陣させておく訳にもいきませんし。こちらがダーコラ国側の企みは看破していると知らしめた方が、後々得かなと思いますが。いかがです? ラコール卿。」

 ローザリンテ殿下が提案されます。

 「手順として軍使を送っての誰何が先かと思いますが。下手すると、ばれたからと暴走する危険性があるかと。もっとも、既に奇襲はあり得ませんので、この陣の戦力でも十分対応は可能ですが。用心するに越したことはないでしょう」

 会議室の外では、すでに臨戦態勢です。柵の向こうからも多少はこちらの動向が見えてはいると思いますが。

 「私が行ってきましょうか?」

 と言ってみます。先の国境での状況と同じですね。もし混戦にでもなったら、単身の私に出来ることには限りがあります。私の理想は戦闘になる前に解散させることです。

 「えっ? いやしかし、巫女様を一人出すわけには…」

 びっくりしたラコール隊長が、いいのか?とローザリンテ殿下を見ます。

 「レイコちゃんお願いできますか? 私も無駄な戦闘は臨むところではありません」

 「エルセニム国の捕虜の人達はどうされます? エルセニム国の襲撃にかこつけてあそこに来たのなら、引き渡しくらいは求められると思いますが」

 推測ですが、目的の半分は反抗組織の討伐ですからね。
 ローザリンテ殿下がニコッと笑います。いや、ニヤっですか。

 「渡すわけありません。彼らはマーリア姫の無事を確認しに来ただけで、ネイルコード国とはなんら問題は起きていませんし。彼女の今後の扱いについては、ネイルコード国とエルセニム国の間の問題であって、ダーコラ国には無関係です」

 そっちに持っていきますか。了解です。

 「え? エルセニムの人達のことはありがたいのですが。相手の兵は五百もいるんでしょ? レイコだけで大丈夫なの?」

 「ああマーリアちゃんは知らないか。レイコちゃんはその気になれば五百どころか万の軍勢も殲滅できるくらいのマナ術が使えるからね」

 エカテリンさんがなぜがドヤ顔ですが。
 嘘っ!て感じでこちらを見るマーリアちゃん。…そんなの人に向けて撃たないですよ?
 それでも、私も行く!とごねるマーリアちゃんですが。気持ちはありがたいですけど、あなたの確保もダーコラ国の目的の一つなんですよ。向こうにエルセニム人の奴隷がいたら、抵抗できないでしょ?あなたは。ここは大人しく待っていてください。

 「う~。気をつけてね?レイコ」

 うーん。デレモードの美少女のお見送りを受けて。レイコ、行ってきますね。

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