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第3章 ダーコラ国国境紛争
第3章第029話 王宮での新年の宴
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第3章第029話 王宮での新年の宴
・Side:ツキシマ・レイコ
はい。王都の迎賓館に連れてこられています。伯爵と同じ馬車での王都訪問です。
ひゃー。また迎賓館で洗われました。さらに今度は、前のよりちょっと派手なドレスです。…新しく作ったんですか?私なんかに勿体ないですよ?
一通り準備が出来たところで、そのまま馬車で王宮へ連行されました。
王室主催の新年の祝賀の宴の会場…の控え室です。前回は入れなかった礼拝堂っぽいところがパーティー会場です。こういうことにも使うんですね。うーん、控え室まで絢爛豪華です。
控え室には、王族の方々と大臣さんたちとその妻子のかたがたが、すでにくつろいでおられました。
私が伯爵に連れられて入ると、気がついた陛下が立って礼を取ろうと…というところで、私は泣きそうな顔をします。…大げさにしないでくださいね、お願いですから。
苦笑しながら陛下が側に来られます。
「良い年を願って。…ダーコラ国のことについては、心労をかけたな。ただ同時に、大勢の者が傷つくことが無く戻れたのも事実だ。国王として礼を言う」
軽く頭を下げてくれました。うん、これくらいが私には丁度良いのですよ。
「良い年を願って、陛下。…赤竜神の関係者として何か言ったら良い言祝ぎとか、ありますか? こういう儀礼には詳しくないもので」
「あっはっは。巫女様直々に新年の挨拶をいただけたのですから、十分僥倖ですとも」
他の王族の方々や大臣さんご一家とも挨拶を交わします。
クリステーナ様は、さっそくレッドさんを抱っこして、挨拶回りです。
生き仏?生き本尊? レッドさんを直に拝んで、これは御利益があるだろうと、みな喜んでます。
さて。宴の時間です。大広間の方に皆さんで移動です。
私は何故か、第一王子の嫡男カルタスト様と、同ご息女クリステーナ様の間に挟まれておりますが。…余り目立ちたくないので、なるべく一歩下がっています。これで、ちと着飾った取り巻き程度に見えますよね?
レッドさんは、ちょっとかわいそうですけど、控え室にいてもらいます。さすがに目立ちますから。ローザリンテ様付きの侍女さんにお預けしました。…なんか凄くうれしそうですね、侍女さん。
おおう。想像通り、いや想像以上ですね。
天井からはきらびやかなシャンデリア。柱にまで緻密な飾り彫り。天井には…建国の一場面でしょうか、絵が描かれています。
ヨーロッパの寺院やお城だと言われてもあまり違和感が無い大広間です。
これだけ豪華な空間に、周囲には王族やら上級貴族のご一行。これなら私も目立たすに済みますよね?
…などと思っていたら。
「…レイコ殿をここで皆に紹介したいのだが…」
クライスファー陛下、なんてことを言うんですか!?
…やはりそれが私を呼んだ目的だったんですね。
着いた所は、会場でも王族が控えている場所なので、周囲より一段高いところです。普通の謁見時なら玉座が置かれているところですね。
想像してみて下さい。居並ぶ着飾った貴族の紳士淑女。目の前で一斉に膝をつかれてごらんなさい。ジャンピング土下座する自信があります!
…泣きそうな目で、クライスファー陛下を見上げます。
謁見の時の私の行動を知ってますよね?と。
「…了解した」
大きくため息をつくクライスファー陛下。ご理解いただけたようです。
まぁ、この方はどなた?と聞かれたなら名乗らないのは失礼でしょうが。こちらからおおっぴら喧伝と言うのは勘弁して下さい。
小市民根性発動中。こっそり目立たず…クリステーナ様と美味しいものを食べつつ会場の見物でも出来れば…
「もしかしてそちらの黒髪の御令嬢は、赤竜神の巫女ツキシマ・レイコ様ではありませんか?! 陛下!、是非皆さんにご紹介すべきではないでしょうか?! おや、今日は小竜様はご一緒では無いのですか?!」
ばーがーがーでーたー 馬鹿が出た~。馬鹿馬鹿馬鹿!
うん。まぁ、いかにも自己顕示欲の塊といった感じの、チャラいという言葉がぴったりの青年が、大声でアピールしやがります。
「おお、あの方が…」
「王家の方々と一緒におられるから、もしやと思っておりましたが」
ザワザワザワ… うわー、みんながこっっち見ているよ~ 恐いよ~
アイズン伯爵助けて~と思ったけど、なんか離れたところで大臣勢と歓談中ですか?
「さぁ陛下! 皆さんにツキシマ・レイコ様のご紹介を!」
「なんて酷いことを言うんですか?あなたは!」
何を言われたのか理解できずにきょとんとするチャラ貴。
追い打ちをかけてくるチャラ貴に、思わず怒鳴ってしまいました。
お前なんか、チャラ貴で十分です!
「誰もがあなたのように目立ちたいなんて思わないで下さい! 雰囲気が楽しめれば満足だったのに。私がここにひっそり立っていたの、知ってるんでしょ? それをなんでわざわざ大声で広めるんですか!」
涙目になって訴える私に、チャラい青年が狼狽えています。…ホントに良かれと思ってやったようですけどね。すっごい迷惑です。
「あ…その…王家の方々が巫女様を独占していると伺いまして。ならばここで皆に広めてしまえばお助けできるのでは無いかと…」
「独占しているのなら、こんなところに連れてこないでしょう?」
…まともそうな貴族達が、もっともだと頷いています。
「お歴々集。まぁ此奴がばらしてしまっては仕方が無い。このお方が、去年ネイルコード国に御降臨された赤竜神の巫女、ツキシマ・レイコ殿である。…そこの方々、膝をつこうとするでない。今のやり取りで分ったであろうが、レイコ殿は大変な内気でな。わしが初めてお会いしたときには膝をついてご挨拶申し上げたのだが…そのときにどうなったかは想像してくれ」
はい陛下。そのときにも土下座していますよね。
「レイコ殿を王家で独占しているようなことは無いぞ。事実、エイゼル市ではご自由に過ごされておるからな。ただ、このような事情があるのでな。既に通達は行っていると思うが、レイコ殿への過剰な接触は、皆にも控えてもらいたい。正当な理由があるのなら、まずはアイズン伯爵に繋ぎを取る事じゃな。貴族の善かれがレイコ殿の不興を買うこともあるというのは、今皆が見たとおりじゃ」
本来、ファルリード亭に貴族が押しかけても不思議じゃないようなのですが。裏で結構王都の人が釘刺してくれたようですね。
「彼女のもたらした奉納について知っている者も多いだろう。現状、他の者の虚偽の奉納による独占を防ぐために奉納されているが、彼女の知識はほっといても大陸中に広く滲みていく類いの物だ。国や個人で独占できる物でもしていいものではないという認識をネイルコード王国で持っていることは、ここに宣言しておこう」
「し…しかし。いくつかの知識について箝口令を引かれていると伺っていますが…」
チャラ貴が食いつきますね。
「ふむ。国防に関する、つまり他国に渡った場合に我が国に害があるように知識については、まず国の方で管理することをレイコ殿にも承認していただいておる」
製鉄に関しては、軍需より民需優先でお願いしています。他国に渡って武具の大量量産という事態は防ぎたいですし。少なくとも、ネイルコード国での鉄の生産量が他国を圧倒するまで公開は待った方がいいでしょうね。
…鉄というと、まず剣や鎧ですから。軍需以外の使い道も、どんどん広めたいところです。
「そ…それは我が国による独占ではないのですか?」
「そなたの言うことにも一理ある。しかし、それら知識が他国に漏れてそれが我が国への侵攻に使われたとしたらいかがする? レイコ殿は、そういった場合には我が国の防衛に協力してくるとの言質を得ている。が、逆に! もしレイコ殿の知識を使って我が国が他国に侵攻する、そのような場合はレイコ殿は相手国側に立つじゃろうな」
レイコ・バスターの噂くらいは広がっているのだろう、もしそうなった場合は国滅ものだ。
「もっとも。レイコ殿とネイルコード国との友誼は既に成立しておるので、そのような事態になることはレイコ殿にも不本意であろう。よって、知識の取り扱いに関してはレイコ殿は我が国にまずそれらを託し、その扱いについては我が国を信用してくだされることで話がついておる。その信頼関係について、何か意見はあるかね?」
ギンっと、クライスファー陛下がチャラ貴を睨みます。
まぁ些かネイルコード国に都合のよう話ではあるが。ネイルコード国の国王や貴族が自国の安全を第一に考えることも当たり前なので、非難できることではないはずです。非難するとすれば、それは他国の人間でしょう。
「いえ…あ…はい…納得いたしました。御前を騒がしくしてしまったこと、お詫びいたします…」
「カマン・エバッハ・アーウィー…子爵子息…でしたわね?」
チャラ貴に、ローザリンテ様がお声がけしました。
「ローザリンテ王妃殿下に我が名を覚えていただいているとは、光栄です。アマランカ領アーウィー子爵の長男カマン・エバッハ・アーウィーと申します」
なんか感激している雰囲気ですけど。…ローザリンテ殿下に名前を覚えられているって意味に気がついていないようですね。
「カマン殿。先ほど、王家が巫女様を独占していると"伺った"、箝口令を引かれていると"伺った"、そう仰いましたね。いったい、どなたから"伺った"のかしら?」
「え? いや…その…」
どうも正義感からか、赤竜神の巫女が国王より上位と思い込んでの行動のようですが。この期に及んで、伝聞で王室非難をしたことに、チャラ貴やっと気がついたようです。今更青くなってもちと遅い。
「まぁこの場で言うには憚られるような事情もあるでしょう。どうぞ奥でお話を伺いますわ。お連れして」
騎士に左右を抑えられて、連行されていきます、チャラ貴ザマ。
…キャラ貴は、誰から誑かされている可能性は高いのでしょうが。まぁ、もし私に対する嫌がらせなら、大成功だよこんちくしょう!
まぁ、独占に見える状態も箝口令も事実ですし、あながち全くの見当違いの話でも無いのですが。ここはこの国を信用することにしています。…全く誰も信用しないのなら、それこそ私が王様になって取り仕切るしか無くなりますからね。
「レイコ殿。まぁ先ほどの話はともかくとしても、レイコ殿が望めばこの王宮に住むことも出来るのだぞ。毎日…とは言わないが、こういう宴にも参加できるだろう。そういう生活に興味は無いのかね?」
クライスファー陛下が問いかけてきます。…本気で聞いているというよりは、周囲に聞かせるためのようですが。
今日はパーティーモードの礼拝堂。柱のレリーフから、飾られた絵や彫刻の類い。照明などには金で細工が施されていて、まさに絢爛豪華ではあるのですが…
「大変素晴らしいお城だと思いますし。是非見学して見たいとは思ってましたけど。流石に住むとなると…掃除が大変そうで」
「わっはっはっはっ! 掃除が大変か! うむ、管理の者達には、いつも苦労をかけているな。皆聞いたか? つまりレイコ殿とはこういう御仁じゃ!。金や物では釣れんぞ!」
はい、小市民なんです。
事ここに至っては、レッドさんを引っ込めておく意味も無くなりましたので、控え室から連れてきてもらいます。
…その威厳ある姿に皆が嘆息…ではなく。そのかわいらしい姿に子女勢から黄色い悲鳴が上がっています。ええ、うちの子かわいいでしょ? つぶらな瞳で首をかしげて「クー?」とでも言えば、大抵の子女は落ちます。
…レッドさん、侍女さんからけっこうな接待を受けていたようですね。え?まだ食べられる? …侍女さんがなんか名残惜しそうです。
クリステーナ様が再度レッドさんを抱っこして、宴に参加している令息令嬢の間を廻ってます。私も連れて行かれました。
まぁ、見た目同年代の子供が語らっているところに大人が割り込むとは、流石に憚られるのか。大人の方々が遠慮してくれたのはありがたかったです。
参加している貴族子女の中には、リバーシをしている子が結構多くて。勝つための極意とかの話で盛り上がりました。
ん?休憩場所にリバーシが置いてある? ではいっちょやりますか?
レッドさんもリバーシのお相手をします。レッドさんもリバーシ出来るんですよ。
丸い机で真ん中にクッション置かれてそこにレッドさんが座ってます。その机は四席となっていますので、レッドさん中心にリバーシが四盤おかれて、四人同時対戦です。一試合十五分くらいですか。子供相手だと、どんどん入れ替わりますね。
報酬に、対戦相手が持ってきたお菓子をもらっています。それを摘まむ姿にも、皆さんほっこりしているようで。
大人の貴族も参加しましたが、だれもレッドさんに勝てませんでした。けど、新年の宴で小竜様と盤遊戯、これは新年から縁起が良いと皆さんホクホクでした。
参加しなかった人は、すなわちリバーシをまだやったことがない人のようで。プレイした人から、盤の購入先とか聞いています。マルタリクの職人さん、また忙しくなりそうです。ルールは、今見ていたのだけで覚えられますしね。
…私も勝ちましたよ。ただ、子供の私が年上の人に勝ちすぎると不興を買いそうなので、そこはほどほどに。
・Side:ツキシマ・レイコ
はい。王都の迎賓館に連れてこられています。伯爵と同じ馬車での王都訪問です。
ひゃー。また迎賓館で洗われました。さらに今度は、前のよりちょっと派手なドレスです。…新しく作ったんですか?私なんかに勿体ないですよ?
一通り準備が出来たところで、そのまま馬車で王宮へ連行されました。
王室主催の新年の祝賀の宴の会場…の控え室です。前回は入れなかった礼拝堂っぽいところがパーティー会場です。こういうことにも使うんですね。うーん、控え室まで絢爛豪華です。
控え室には、王族の方々と大臣さんたちとその妻子のかたがたが、すでにくつろいでおられました。
私が伯爵に連れられて入ると、気がついた陛下が立って礼を取ろうと…というところで、私は泣きそうな顔をします。…大げさにしないでくださいね、お願いですから。
苦笑しながら陛下が側に来られます。
「良い年を願って。…ダーコラ国のことについては、心労をかけたな。ただ同時に、大勢の者が傷つくことが無く戻れたのも事実だ。国王として礼を言う」
軽く頭を下げてくれました。うん、これくらいが私には丁度良いのですよ。
「良い年を願って、陛下。…赤竜神の関係者として何か言ったら良い言祝ぎとか、ありますか? こういう儀礼には詳しくないもので」
「あっはっは。巫女様直々に新年の挨拶をいただけたのですから、十分僥倖ですとも」
他の王族の方々や大臣さんご一家とも挨拶を交わします。
クリステーナ様は、さっそくレッドさんを抱っこして、挨拶回りです。
生き仏?生き本尊? レッドさんを直に拝んで、これは御利益があるだろうと、みな喜んでます。
さて。宴の時間です。大広間の方に皆さんで移動です。
私は何故か、第一王子の嫡男カルタスト様と、同ご息女クリステーナ様の間に挟まれておりますが。…余り目立ちたくないので、なるべく一歩下がっています。これで、ちと着飾った取り巻き程度に見えますよね?
レッドさんは、ちょっとかわいそうですけど、控え室にいてもらいます。さすがに目立ちますから。ローザリンテ様付きの侍女さんにお預けしました。…なんか凄くうれしそうですね、侍女さん。
おおう。想像通り、いや想像以上ですね。
天井からはきらびやかなシャンデリア。柱にまで緻密な飾り彫り。天井には…建国の一場面でしょうか、絵が描かれています。
ヨーロッパの寺院やお城だと言われてもあまり違和感が無い大広間です。
これだけ豪華な空間に、周囲には王族やら上級貴族のご一行。これなら私も目立たすに済みますよね?
…などと思っていたら。
「…レイコ殿をここで皆に紹介したいのだが…」
クライスファー陛下、なんてことを言うんですか!?
…やはりそれが私を呼んだ目的だったんですね。
着いた所は、会場でも王族が控えている場所なので、周囲より一段高いところです。普通の謁見時なら玉座が置かれているところですね。
想像してみて下さい。居並ぶ着飾った貴族の紳士淑女。目の前で一斉に膝をつかれてごらんなさい。ジャンピング土下座する自信があります!
…泣きそうな目で、クライスファー陛下を見上げます。
謁見の時の私の行動を知ってますよね?と。
「…了解した」
大きくため息をつくクライスファー陛下。ご理解いただけたようです。
まぁ、この方はどなた?と聞かれたなら名乗らないのは失礼でしょうが。こちらからおおっぴら喧伝と言うのは勘弁して下さい。
小市民根性発動中。こっそり目立たず…クリステーナ様と美味しいものを食べつつ会場の見物でも出来れば…
「もしかしてそちらの黒髪の御令嬢は、赤竜神の巫女ツキシマ・レイコ様ではありませんか?! 陛下!、是非皆さんにご紹介すべきではないでしょうか?! おや、今日は小竜様はご一緒では無いのですか?!」
ばーがーがーでーたー 馬鹿が出た~。馬鹿馬鹿馬鹿!
うん。まぁ、いかにも自己顕示欲の塊といった感じの、チャラいという言葉がぴったりの青年が、大声でアピールしやがります。
「おお、あの方が…」
「王家の方々と一緒におられるから、もしやと思っておりましたが」
ザワザワザワ… うわー、みんながこっっち見ているよ~ 恐いよ~
アイズン伯爵助けて~と思ったけど、なんか離れたところで大臣勢と歓談中ですか?
「さぁ陛下! 皆さんにツキシマ・レイコ様のご紹介を!」
「なんて酷いことを言うんですか?あなたは!」
何を言われたのか理解できずにきょとんとするチャラ貴。
追い打ちをかけてくるチャラ貴に、思わず怒鳴ってしまいました。
お前なんか、チャラ貴で十分です!
「誰もがあなたのように目立ちたいなんて思わないで下さい! 雰囲気が楽しめれば満足だったのに。私がここにひっそり立っていたの、知ってるんでしょ? それをなんでわざわざ大声で広めるんですか!」
涙目になって訴える私に、チャラい青年が狼狽えています。…ホントに良かれと思ってやったようですけどね。すっごい迷惑です。
「あ…その…王家の方々が巫女様を独占していると伺いまして。ならばここで皆に広めてしまえばお助けできるのでは無いかと…」
「独占しているのなら、こんなところに連れてこないでしょう?」
…まともそうな貴族達が、もっともだと頷いています。
「お歴々集。まぁ此奴がばらしてしまっては仕方が無い。このお方が、去年ネイルコード国に御降臨された赤竜神の巫女、ツキシマ・レイコ殿である。…そこの方々、膝をつこうとするでない。今のやり取りで分ったであろうが、レイコ殿は大変な内気でな。わしが初めてお会いしたときには膝をついてご挨拶申し上げたのだが…そのときにどうなったかは想像してくれ」
はい陛下。そのときにも土下座していますよね。
「レイコ殿を王家で独占しているようなことは無いぞ。事実、エイゼル市ではご自由に過ごされておるからな。ただ、このような事情があるのでな。既に通達は行っていると思うが、レイコ殿への過剰な接触は、皆にも控えてもらいたい。正当な理由があるのなら、まずはアイズン伯爵に繋ぎを取る事じゃな。貴族の善かれがレイコ殿の不興を買うこともあるというのは、今皆が見たとおりじゃ」
本来、ファルリード亭に貴族が押しかけても不思議じゃないようなのですが。裏で結構王都の人が釘刺してくれたようですね。
「彼女のもたらした奉納について知っている者も多いだろう。現状、他の者の虚偽の奉納による独占を防ぐために奉納されているが、彼女の知識はほっといても大陸中に広く滲みていく類いの物だ。国や個人で独占できる物でもしていいものではないという認識をネイルコード王国で持っていることは、ここに宣言しておこう」
「し…しかし。いくつかの知識について箝口令を引かれていると伺っていますが…」
チャラ貴が食いつきますね。
「ふむ。国防に関する、つまり他国に渡った場合に我が国に害があるように知識については、まず国の方で管理することをレイコ殿にも承認していただいておる」
製鉄に関しては、軍需より民需優先でお願いしています。他国に渡って武具の大量量産という事態は防ぎたいですし。少なくとも、ネイルコード国での鉄の生産量が他国を圧倒するまで公開は待った方がいいでしょうね。
…鉄というと、まず剣や鎧ですから。軍需以外の使い道も、どんどん広めたいところです。
「そ…それは我が国による独占ではないのですか?」
「そなたの言うことにも一理ある。しかし、それら知識が他国に漏れてそれが我が国への侵攻に使われたとしたらいかがする? レイコ殿は、そういった場合には我が国の防衛に協力してくるとの言質を得ている。が、逆に! もしレイコ殿の知識を使って我が国が他国に侵攻する、そのような場合はレイコ殿は相手国側に立つじゃろうな」
レイコ・バスターの噂くらいは広がっているのだろう、もしそうなった場合は国滅ものだ。
「もっとも。レイコ殿とネイルコード国との友誼は既に成立しておるので、そのような事態になることはレイコ殿にも不本意であろう。よって、知識の取り扱いに関してはレイコ殿は我が国にまずそれらを託し、その扱いについては我が国を信用してくだされることで話がついておる。その信頼関係について、何か意見はあるかね?」
ギンっと、クライスファー陛下がチャラ貴を睨みます。
まぁ些かネイルコード国に都合のよう話ではあるが。ネイルコード国の国王や貴族が自国の安全を第一に考えることも当たり前なので、非難できることではないはずです。非難するとすれば、それは他国の人間でしょう。
「いえ…あ…はい…納得いたしました。御前を騒がしくしてしまったこと、お詫びいたします…」
「カマン・エバッハ・アーウィー…子爵子息…でしたわね?」
チャラ貴に、ローザリンテ様がお声がけしました。
「ローザリンテ王妃殿下に我が名を覚えていただいているとは、光栄です。アマランカ領アーウィー子爵の長男カマン・エバッハ・アーウィーと申します」
なんか感激している雰囲気ですけど。…ローザリンテ殿下に名前を覚えられているって意味に気がついていないようですね。
「カマン殿。先ほど、王家が巫女様を独占していると"伺った"、箝口令を引かれていると"伺った"、そう仰いましたね。いったい、どなたから"伺った"のかしら?」
「え? いや…その…」
どうも正義感からか、赤竜神の巫女が国王より上位と思い込んでの行動のようですが。この期に及んで、伝聞で王室非難をしたことに、チャラ貴やっと気がついたようです。今更青くなってもちと遅い。
「まぁこの場で言うには憚られるような事情もあるでしょう。どうぞ奥でお話を伺いますわ。お連れして」
騎士に左右を抑えられて、連行されていきます、チャラ貴ザマ。
…キャラ貴は、誰から誑かされている可能性は高いのでしょうが。まぁ、もし私に対する嫌がらせなら、大成功だよこんちくしょう!
まぁ、独占に見える状態も箝口令も事実ですし、あながち全くの見当違いの話でも無いのですが。ここはこの国を信用することにしています。…全く誰も信用しないのなら、それこそ私が王様になって取り仕切るしか無くなりますからね。
「レイコ殿。まぁ先ほどの話はともかくとしても、レイコ殿が望めばこの王宮に住むことも出来るのだぞ。毎日…とは言わないが、こういう宴にも参加できるだろう。そういう生活に興味は無いのかね?」
クライスファー陛下が問いかけてきます。…本気で聞いているというよりは、周囲に聞かせるためのようですが。
今日はパーティーモードの礼拝堂。柱のレリーフから、飾られた絵や彫刻の類い。照明などには金で細工が施されていて、まさに絢爛豪華ではあるのですが…
「大変素晴らしいお城だと思いますし。是非見学して見たいとは思ってましたけど。流石に住むとなると…掃除が大変そうで」
「わっはっはっはっ! 掃除が大変か! うむ、管理の者達には、いつも苦労をかけているな。皆聞いたか? つまりレイコ殿とはこういう御仁じゃ!。金や物では釣れんぞ!」
はい、小市民なんです。
事ここに至っては、レッドさんを引っ込めておく意味も無くなりましたので、控え室から連れてきてもらいます。
…その威厳ある姿に皆が嘆息…ではなく。そのかわいらしい姿に子女勢から黄色い悲鳴が上がっています。ええ、うちの子かわいいでしょ? つぶらな瞳で首をかしげて「クー?」とでも言えば、大抵の子女は落ちます。
…レッドさん、侍女さんからけっこうな接待を受けていたようですね。え?まだ食べられる? …侍女さんがなんか名残惜しそうです。
クリステーナ様が再度レッドさんを抱っこして、宴に参加している令息令嬢の間を廻ってます。私も連れて行かれました。
まぁ、見た目同年代の子供が語らっているところに大人が割り込むとは、流石に憚られるのか。大人の方々が遠慮してくれたのはありがたかったです。
参加している貴族子女の中には、リバーシをしている子が結構多くて。勝つための極意とかの話で盛り上がりました。
ん?休憩場所にリバーシが置いてある? ではいっちょやりますか?
レッドさんもリバーシのお相手をします。レッドさんもリバーシ出来るんですよ。
丸い机で真ん中にクッション置かれてそこにレッドさんが座ってます。その机は四席となっていますので、レッドさん中心にリバーシが四盤おかれて、四人同時対戦です。一試合十五分くらいですか。子供相手だと、どんどん入れ替わりますね。
報酬に、対戦相手が持ってきたお菓子をもらっています。それを摘まむ姿にも、皆さんほっこりしているようで。
大人の貴族も参加しましたが、だれもレッドさんに勝てませんでした。けど、新年の宴で小竜様と盤遊戯、これは新年から縁起が良いと皆さんホクホクでした。
参加しなかった人は、すなわちリバーシをまだやったことがない人のようで。プレイした人から、盤の購入先とか聞いています。マルタリクの職人さん、また忙しくなりそうです。ルールは、今見ていたのだけで覚えられますしね。
…私も勝ちましたよ。ただ、子供の私が年上の人に勝ちすぎると不興を買いそうなので、そこはほどほどに。
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生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
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