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第3章 ダーコラ国国境紛争
第3章第026話 醤油焼きテロ
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第3章第026話 醤油焼きテロ
・Side:バッセンベル領の街の住人
街の近くで、ネイルコード国とダーコラ国との戦争だそうだ。
しばらく前に、街と周辺の農地への水を担う河が上流でほとんど堰き止められた。ダーコラ国の仕業だ。秋の収穫はすでに終わっているので、水路を調節すれば街の分の水は賄えるが。当然それも来年の春までの話だ。
ダーコラ国の要求は、この街周辺の領地とか、エイゼル領に滞在されている赤竜神の巫女様と小竜様を引き渡せだとか。いろいろ噂は流れてきている。
まぁバッセンベル領の税はけっこう厳しいので、ダーコラ国に所属することになっても悪くないかもな…などと皆と話をしていたが。
なんと。ネイルコード国の軍が川上に布陣して、その日のうちに両軍とも退くことになった。
何があったのかは知らないが。河の方に水も戻ってきたし、これで安心して年が越せるというものだが。戦争?が終わって一週間くらい後、もう一つ大事件が起きた。
この街が、バッセンベル領からエイゼル領に移籍だと? バッセンベル領との領境は、バッセンベルよりとはいえ、別の領主だろ? いきなりここがエイゼル領の飛び地になるのか?
エイゼル領のアイズン伯爵。税率八割を取る金儲けにしか興味の無い悪魔のような伯爵…という噂は、前から流れていた。
本当に八割なら、とてもじゃないが暮らしていけない。
エイゼル領から街に、代官が赴任してきた。街の主立った者を集めて、税率や街の運営についての説明がと、呼び出された。
…うちで取れた麦は、八割を持っていくそうだ。やはりか…皆でダーコラ国にでも逃げるしかないのか…
ん?。エイゼル領では麦の八割が国の専売扱いで、領で一旦買い上げる?
麦以外の産物の振興? 街道と水路の整備事業? 貧民街の再開発? 衛兵の常駐? 学校の開設?
なんだそりゃ。なんかの冗談か?
…エイゼル領の農民は、もろもろの収入を含めて最終的な税率は三割くらいだと? うちの今までの半分じゃないか。
この辺は台地ということもあり、麦に適さないところでは芋や果物の木などの栽培もしている。食べて行くには麦が第一なので、人手で水汲みをするなり無理して麦畑も作っているが。いっそ作物は全部を芋と果物にしても良いと言われた。なんでも、エイゼル市の方で大量に消費する宛てが出来たとかで。将来的には街の人々の収入もぐんと増えるだろうとのことだ。
アイズン伯爵は悪魔じゃなかったのか? 来年の収穫まで備蓄の麦の放出の放出もしてくれるそうだ。
…ともあれ、新年祭前に逃げ出さなくても良さそうだ。
・Side:六六の子供達
もうすぐ新年祭だ。
この日を六六の大人がどう過ごすかは、だいたい二種類に分かれる。一晩中飲み食いして明かすか、飲み食いして明かす人相手に酒や食べ物を売って商売するかだ。
数日前、ファルリード亭で働いている子に声をかけられた。俺を含めて数人、店の前で屋台を出してみないか?だそうだ。
普通、食い物屋の前で屋台なんか出したら、商売の邪魔するなと怒られそうなもんだけど。わざわざ俺たちに声をかけてまで屋台を出すのか?
…まぁ、母ちゃんが、年の瀬に稼ぎと蓄えがちょっと心許ないとぼやいていたからな。俺達に出来る仕事があるのならやるぜ!
屋台自体は、六六にも何台か置いてある。これは共有財産みたいな物で、お金を払って借りるタイプだ。調理器具とか、当然食材も自前で用意しないといけないけどな。ただ、ファルリード亭には屋台だけ引っ張って来てくれと言われた。
預かったお金で屋台を借りてファルリード亭に着くと、ファルリード亭の大人達がマナコンロとかを設置していく。
新年祭の夕方から、店の前で焼き物を焼いて売って欲しいんだと。
前々日の夕方、練習を兼ねて実際に店を出してみることになった。料理なんて手伝い程度しかやったことないけど、簡単だから心配するなと言われた。
素材の下ごしらえから手伝いだが… なんだこれ? イカ? こんな気持ち悪いもん売るのかよ!
でもまぁ仕事だ。言われたとおりに処理していく。う~、ぐにょぐにょじゃね~か。気持ち悪い~。
手先が器用な奴は、竹を割って串を作っている。それも大量に。
イカ以外にも、鳥肉とか切って串に刺しタレに漬けていく。嗅いだことない匂いのタレだな。悪い匂いじゃ無いけど。
あとは芋だな。皮剥いて細く切った芋は、油で揚げるそうだ。油って高いんだろ? 大丈夫なのか?ん?ピーラー? おお、これなら簡単に芋が剥けるなっ! こんな道具あったんだ!
練習で、先に一通り作ってみることになった。
なんと、売る前に食べさせてくれるそうだ。味を知らないものを売るわけにはいかないということだけど…しかし俺もこのイカってやつを食べないといけないのか?
串に刺した切ったイカに、用意されたタレを塗りながら、コンロであぶっていく。タレに漬けた鳥肉を串に刺した物も並べていく。
…ん?、なんか凄く良い匂いがしてきた。
ファルリード亭の子が、うちわを持ってきた。この匂いを通りに流せってさ。
パタパタパタ。軽く焦げ目が付くように、それでいて必要以上に焦げないよう、鳥とイカの串を回して様子見ながら、うちわで扇ぐ。
良い感じに焼けてきたな?ってところで、食べてみろと言われた。いやな顔をしていると、仕事だから食えと言われた。わかったよ…
恐る恐るイカをかじるが…ん?これけっこう上手いぞ。
魚と比べるとかなり堅いが、この歯ごたえは面白い。噛めば噛むほど味が出てくるし、タレの味もあっている。
鳥肉の方は期待通りの美味さだった。甘塩っぱいこの味付け。何本でも食べられそうだ。…もちろん売りもんだから我慢するけどな。
うお! ファルリード亭の子が、なんか赤い生き物を連れて…ってドラゴンか? …って事は、このファルリード亭の子は、噂の赤竜神の巫女様? なんでこんなところで屋台の指導なんかしているんだ?
…おお、ドラゴン…いや小竜様だったか。…イカを旨そうに食べて…いや食べおられていやがりますね。
え? 敬語要らない? 今更? …わかりました、いやわかったよ。
試しの販売が始まった。寒さ対策の服も貸してくれたけど。焼いているコンロのすぐ側だからな、そんなに寒くないぞ。
通りすがりのおっさん達が、匂いに釣られて早速寄ってきた。新発売イカ焼きっ!お代は二本で1ダカムだよ!酒はファルリード亭で買っておくれ!
芋の方もできあがったようだ。"揚げる"というそうだ。このときの色を良く覚えておけと言われた。
金網で油から引き上げて、皿に盛って塩を振るだけ。…芋にこんな食べ方があったのか、こちらも凄く美味いぞ。
焼き鳥の方は単品では売らない。焼き鳥が3本、イカが胴体部分2本と足の部分が1本に、マヨネーズとかいう白いソース、さらに揚げた芋も付ける。これらを皿盛りセットで買うと4ダカム。ちょっとお得だな。…まぁこうでもしないとイカが売れないと言っていた。たしかにあの見た目じゃな。ファルリード亭の子は"抱き合わせ"とか言っていた。
心配する客がいたなら、目の前でイカの足を食って見せろと言われた。うん、もうこれが美味しいのは知っているから、かまわないけど。…早く心配する客来ないかな?
ファルリード亭の店内からも注文が入り始めた。匂いが結構漂っているからな。屋台で買った物を持ってそのままファルリード亭に入る大人もいる。
だんだん賑わってきたぞ。
今日は試しなので、店が閉まるのと同時に上がりだ。
うん、凄く沢山売れたな。必要経費? 材料代とか屋台の借り賃だな。それらを差し引いた物から税処理分三割を引いて、残りを全部くれるって言っている。いいのかな?もらいすぎでは?
…こんなに稼げるとは思わなかった。明日は本番、さらに頑張るぞ!
・Side:ツキシマ・レイコ
新年祭の後は、三日ほど休みになる。大晦日に当たる日も休みなので。四連休だ。
ただ、アイリさんから聞いたのだが、四日も仕事が無いことで困窮する家庭が六六にいくつかあるそうで。何か良い仕事は無いか?と相談された。まぁ飢えるほどの話ではないが、新年くらい美味しいもの食べさせたいとかそういう話なので、深刻にならないでとは言われたけど。私に話を持ってくるって事は、食べ物関係を期待されているんだろうな…
いつぞやの試食会以来、ファルリード亭にもイカが卸されているのだが、いまいち売り上げが悪い。
むしろ、飲みの場での罰ゲームに使われるくらいだ。…まぁ罰ゲームで食べた人は、食べることに抵抗がなくなるので、それはそれでいいんだけど。イカ焼きは安めに設定してあるし、マヨネーズも付いてお得だから、一度食べた人のリピーター率は結構高いですが。いかんせん分母が…
美味しそうに食べている人がいたら、俺も俺も…となることを期待していたんだけど。見た目が見た目なので、気持ち悪い物を見せびらかして食べている気持ち悪い人達…という不名誉な評判が勇者達に付いてしまいました。
醤油とイカにシナジーはあるのだ!。あとは売り方か。
というわけで。焼き物の屋台で件の六六の家庭の子供達を雇うことにしました。
イカは、串に刺しやすいサイズに切って、さらにかみ切りやすいように隠し包丁。げそも似たような処理をしておきます。
見た目からしてイカだけではどうにもイカんということになって、ならば焼き鳥とフライドポテトの抱き合わせだ! お値段良心的だからゆるしてね。焼き鳥だけでは売らんぞ! イカも食べろ! 残したら泣くぞ!
調理の練習も兼ねて、焼き上がったイカを子供達に食べさせてみました。最初は抵抗があったようだけど…いいから仕事だと思って食べてみろ。食え!
…ほら。食べてみれば美味しさが分ったのだろう、ゲソもちゃんと食べてます。
レッドさんも匂いに釣られてやってきました。イカ食べたいですか? 串持って器用に食べていますね。
屋台は店の前に設置です。露店には営業許可が必要なそうで、アイリさんが取ってきてくれました。ただ、お酒を露店で売るのは法律でNGだそうです。まぁ、飲みたい人は店で飲んでもらえば済むので無問題。むしろ呑兵衛トラップを期待しております。
…醤油の焦げた香りは良いんだけど、厨房であれをやると匂いが大変なのです。厨房が醤油の匂いしかしなくなってしまう。そのうち、排気設備の開発も考えないと。
マナコンロだから扇ぐ必要は無いけど、屋台ではうちわで扇いで通りに香りを逃してもらいます。…ほらほら、仕事納めであとは家に帰るだけのオジサンたちが、ふらふらと引き寄せられて来たぞ!
ふふふ。あれらを食べたら、今度は酒が欲しかろう? お酒も出しているファルリード亭は目の前ですよお客さん。
ファルリード亭にはいったら、他の料理も食べたくなるでしょう。周りのみんなが食べていますからね。
うん、屋台の吸引力はなかなかですね。匂いもですが、見えているところで美味しそうに焼かれていれば、食べたくなるものです。ファルリード亭の方の売れ上げもけっこう上がったとモーラちゃんが申しております。
明日が大晦日で本番です。頑張りましょう。あと、イカの旬の季節限定で屋台は継続させても良いかもしれない。あとで相談ですね。そもそもこちらでのイカの旬がわからない。いままでほとんど誰も食べていないし。
後で調べておきましょぅ。
・Side:バッセンベル領の街の住人
街の近くで、ネイルコード国とダーコラ国との戦争だそうだ。
しばらく前に、街と周辺の農地への水を担う河が上流でほとんど堰き止められた。ダーコラ国の仕業だ。秋の収穫はすでに終わっているので、水路を調節すれば街の分の水は賄えるが。当然それも来年の春までの話だ。
ダーコラ国の要求は、この街周辺の領地とか、エイゼル領に滞在されている赤竜神の巫女様と小竜様を引き渡せだとか。いろいろ噂は流れてきている。
まぁバッセンベル領の税はけっこう厳しいので、ダーコラ国に所属することになっても悪くないかもな…などと皆と話をしていたが。
なんと。ネイルコード国の軍が川上に布陣して、その日のうちに両軍とも退くことになった。
何があったのかは知らないが。河の方に水も戻ってきたし、これで安心して年が越せるというものだが。戦争?が終わって一週間くらい後、もう一つ大事件が起きた。
この街が、バッセンベル領からエイゼル領に移籍だと? バッセンベル領との領境は、バッセンベルよりとはいえ、別の領主だろ? いきなりここがエイゼル領の飛び地になるのか?
エイゼル領のアイズン伯爵。税率八割を取る金儲けにしか興味の無い悪魔のような伯爵…という噂は、前から流れていた。
本当に八割なら、とてもじゃないが暮らしていけない。
エイゼル領から街に、代官が赴任してきた。街の主立った者を集めて、税率や街の運営についての説明がと、呼び出された。
…うちで取れた麦は、八割を持っていくそうだ。やはりか…皆でダーコラ国にでも逃げるしかないのか…
ん?。エイゼル領では麦の八割が国の専売扱いで、領で一旦買い上げる?
麦以外の産物の振興? 街道と水路の整備事業? 貧民街の再開発? 衛兵の常駐? 学校の開設?
なんだそりゃ。なんかの冗談か?
…エイゼル領の農民は、もろもろの収入を含めて最終的な税率は三割くらいだと? うちの今までの半分じゃないか。
この辺は台地ということもあり、麦に適さないところでは芋や果物の木などの栽培もしている。食べて行くには麦が第一なので、人手で水汲みをするなり無理して麦畑も作っているが。いっそ作物は全部を芋と果物にしても良いと言われた。なんでも、エイゼル市の方で大量に消費する宛てが出来たとかで。将来的には街の人々の収入もぐんと増えるだろうとのことだ。
アイズン伯爵は悪魔じゃなかったのか? 来年の収穫まで備蓄の麦の放出の放出もしてくれるそうだ。
…ともあれ、新年祭前に逃げ出さなくても良さそうだ。
・Side:六六の子供達
もうすぐ新年祭だ。
この日を六六の大人がどう過ごすかは、だいたい二種類に分かれる。一晩中飲み食いして明かすか、飲み食いして明かす人相手に酒や食べ物を売って商売するかだ。
数日前、ファルリード亭で働いている子に声をかけられた。俺を含めて数人、店の前で屋台を出してみないか?だそうだ。
普通、食い物屋の前で屋台なんか出したら、商売の邪魔するなと怒られそうなもんだけど。わざわざ俺たちに声をかけてまで屋台を出すのか?
…まぁ、母ちゃんが、年の瀬に稼ぎと蓄えがちょっと心許ないとぼやいていたからな。俺達に出来る仕事があるのならやるぜ!
屋台自体は、六六にも何台か置いてある。これは共有財産みたいな物で、お金を払って借りるタイプだ。調理器具とか、当然食材も自前で用意しないといけないけどな。ただ、ファルリード亭には屋台だけ引っ張って来てくれと言われた。
預かったお金で屋台を借りてファルリード亭に着くと、ファルリード亭の大人達がマナコンロとかを設置していく。
新年祭の夕方から、店の前で焼き物を焼いて売って欲しいんだと。
前々日の夕方、練習を兼ねて実際に店を出してみることになった。料理なんて手伝い程度しかやったことないけど、簡単だから心配するなと言われた。
素材の下ごしらえから手伝いだが… なんだこれ? イカ? こんな気持ち悪いもん売るのかよ!
でもまぁ仕事だ。言われたとおりに処理していく。う~、ぐにょぐにょじゃね~か。気持ち悪い~。
手先が器用な奴は、竹を割って串を作っている。それも大量に。
イカ以外にも、鳥肉とか切って串に刺しタレに漬けていく。嗅いだことない匂いのタレだな。悪い匂いじゃ無いけど。
あとは芋だな。皮剥いて細く切った芋は、油で揚げるそうだ。油って高いんだろ? 大丈夫なのか?ん?ピーラー? おお、これなら簡単に芋が剥けるなっ! こんな道具あったんだ!
練習で、先に一通り作ってみることになった。
なんと、売る前に食べさせてくれるそうだ。味を知らないものを売るわけにはいかないということだけど…しかし俺もこのイカってやつを食べないといけないのか?
串に刺した切ったイカに、用意されたタレを塗りながら、コンロであぶっていく。タレに漬けた鳥肉を串に刺した物も並べていく。
…ん?、なんか凄く良い匂いがしてきた。
ファルリード亭の子が、うちわを持ってきた。この匂いを通りに流せってさ。
パタパタパタ。軽く焦げ目が付くように、それでいて必要以上に焦げないよう、鳥とイカの串を回して様子見ながら、うちわで扇ぐ。
良い感じに焼けてきたな?ってところで、食べてみろと言われた。いやな顔をしていると、仕事だから食えと言われた。わかったよ…
恐る恐るイカをかじるが…ん?これけっこう上手いぞ。
魚と比べるとかなり堅いが、この歯ごたえは面白い。噛めば噛むほど味が出てくるし、タレの味もあっている。
鳥肉の方は期待通りの美味さだった。甘塩っぱいこの味付け。何本でも食べられそうだ。…もちろん売りもんだから我慢するけどな。
うお! ファルリード亭の子が、なんか赤い生き物を連れて…ってドラゴンか? …って事は、このファルリード亭の子は、噂の赤竜神の巫女様? なんでこんなところで屋台の指導なんかしているんだ?
…おお、ドラゴン…いや小竜様だったか。…イカを旨そうに食べて…いや食べおられていやがりますね。
え? 敬語要らない? 今更? …わかりました、いやわかったよ。
試しの販売が始まった。寒さ対策の服も貸してくれたけど。焼いているコンロのすぐ側だからな、そんなに寒くないぞ。
通りすがりのおっさん達が、匂いに釣られて早速寄ってきた。新発売イカ焼きっ!お代は二本で1ダカムだよ!酒はファルリード亭で買っておくれ!
芋の方もできあがったようだ。"揚げる"というそうだ。このときの色を良く覚えておけと言われた。
金網で油から引き上げて、皿に盛って塩を振るだけ。…芋にこんな食べ方があったのか、こちらも凄く美味いぞ。
焼き鳥の方は単品では売らない。焼き鳥が3本、イカが胴体部分2本と足の部分が1本に、マヨネーズとかいう白いソース、さらに揚げた芋も付ける。これらを皿盛りセットで買うと4ダカム。ちょっとお得だな。…まぁこうでもしないとイカが売れないと言っていた。たしかにあの見た目じゃな。ファルリード亭の子は"抱き合わせ"とか言っていた。
心配する客がいたなら、目の前でイカの足を食って見せろと言われた。うん、もうこれが美味しいのは知っているから、かまわないけど。…早く心配する客来ないかな?
ファルリード亭の店内からも注文が入り始めた。匂いが結構漂っているからな。屋台で買った物を持ってそのままファルリード亭に入る大人もいる。
だんだん賑わってきたぞ。
今日は試しなので、店が閉まるのと同時に上がりだ。
うん、凄く沢山売れたな。必要経費? 材料代とか屋台の借り賃だな。それらを差し引いた物から税処理分三割を引いて、残りを全部くれるって言っている。いいのかな?もらいすぎでは?
…こんなに稼げるとは思わなかった。明日は本番、さらに頑張るぞ!
・Side:ツキシマ・レイコ
新年祭の後は、三日ほど休みになる。大晦日に当たる日も休みなので。四連休だ。
ただ、アイリさんから聞いたのだが、四日も仕事が無いことで困窮する家庭が六六にいくつかあるそうで。何か良い仕事は無いか?と相談された。まぁ飢えるほどの話ではないが、新年くらい美味しいもの食べさせたいとかそういう話なので、深刻にならないでとは言われたけど。私に話を持ってくるって事は、食べ物関係を期待されているんだろうな…
いつぞやの試食会以来、ファルリード亭にもイカが卸されているのだが、いまいち売り上げが悪い。
むしろ、飲みの場での罰ゲームに使われるくらいだ。…まぁ罰ゲームで食べた人は、食べることに抵抗がなくなるので、それはそれでいいんだけど。イカ焼きは安めに設定してあるし、マヨネーズも付いてお得だから、一度食べた人のリピーター率は結構高いですが。いかんせん分母が…
美味しそうに食べている人がいたら、俺も俺も…となることを期待していたんだけど。見た目が見た目なので、気持ち悪い物を見せびらかして食べている気持ち悪い人達…という不名誉な評判が勇者達に付いてしまいました。
醤油とイカにシナジーはあるのだ!。あとは売り方か。
というわけで。焼き物の屋台で件の六六の家庭の子供達を雇うことにしました。
イカは、串に刺しやすいサイズに切って、さらにかみ切りやすいように隠し包丁。げそも似たような処理をしておきます。
見た目からしてイカだけではどうにもイカんということになって、ならば焼き鳥とフライドポテトの抱き合わせだ! お値段良心的だからゆるしてね。焼き鳥だけでは売らんぞ! イカも食べろ! 残したら泣くぞ!
調理の練習も兼ねて、焼き上がったイカを子供達に食べさせてみました。最初は抵抗があったようだけど…いいから仕事だと思って食べてみろ。食え!
…ほら。食べてみれば美味しさが分ったのだろう、ゲソもちゃんと食べてます。
レッドさんも匂いに釣られてやってきました。イカ食べたいですか? 串持って器用に食べていますね。
屋台は店の前に設置です。露店には営業許可が必要なそうで、アイリさんが取ってきてくれました。ただ、お酒を露店で売るのは法律でNGだそうです。まぁ、飲みたい人は店で飲んでもらえば済むので無問題。むしろ呑兵衛トラップを期待しております。
…醤油の焦げた香りは良いんだけど、厨房であれをやると匂いが大変なのです。厨房が醤油の匂いしかしなくなってしまう。そのうち、排気設備の開発も考えないと。
マナコンロだから扇ぐ必要は無いけど、屋台ではうちわで扇いで通りに香りを逃してもらいます。…ほらほら、仕事納めであとは家に帰るだけのオジサンたちが、ふらふらと引き寄せられて来たぞ!
ふふふ。あれらを食べたら、今度は酒が欲しかろう? お酒も出しているファルリード亭は目の前ですよお客さん。
ファルリード亭にはいったら、他の料理も食べたくなるでしょう。周りのみんなが食べていますからね。
うん、屋台の吸引力はなかなかですね。匂いもですが、見えているところで美味しそうに焼かれていれば、食べたくなるものです。ファルリード亭の方の売れ上げもけっこう上がったとモーラちゃんが申しております。
明日が大晦日で本番です。頑張りましょう。あと、イカの旬の季節限定で屋台は継続させても良いかもしれない。あとで相談ですね。そもそもこちらでのイカの旬がわからない。いままでほとんど誰も食べていないし。
後で調べておきましょぅ。
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