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第3章 ダーコラ国国境紛争
第3章第010話 レイコの周囲の情勢とか その2
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第3章第010話 レイコの周囲の情勢とか その2
・Side:ガロウ・カルマ
私はガロウ・カルマ。国の専売である麦と塩以外の、食品全般をネイルコード国で扱っているカルマ商会の会頭だ。農場等の経営も行なっている。さらには、エイゼル運輸協会の理事の一人でもある。
エイゼルの街で最も栄えて、流行り物の発信地でもある中央通り。貴族街から伸びる大通りに、大きな商店が並ぶ街の商業の中心地でもある。うちの商会の本部もここに拠を構えているが。
プリンなる菓子が、ここ最近急に広まっている。ただ、材料は高いし流通が少ないしで、高価かつ品薄な状態が続いている。いつも、おそらく貴族の侍従らだろう者たちが、開店前の甘味屋の前で並んでいるのを見かける。
申し訳ないがうちの従業員に並んでもらって、家族の分を買ってきてもらった。妻と娘達がとろけそうな顔で食べていたな。評判は聞いていたけど入手難だったとかで、あんなに感謝されたのは久しぶりなような気がする。
当然、レシピの購入もせがまれた。…これは仕方あるまい。
他にも、卵と油と酢を使った調味料、マヨネーズとか言ったか、これも広く流行る兆しを見せている。
マヨネーズのレシピには、酢の量について注意があり、これを減らすととたんに日持ちしなくなるとかで。新鮮な材料で作り、その日のうちに食べきることを推奨とある。マヨネーズ自体を売るには、売り方を考えた方が良いだろう。
古い卵が危険なのは周知だからな。うちの商会で扱っている卵は、産卵日を卵に記し、その日のうちに市場で売っているが。マヨネーズを自邸で作るところが多いのだろう、プリン用も合わせて、これら材料の売り上げがかなり伸びていてる。いつもは冬に備えて絞めている雌鳥も、今年はそのまま残させているので、去年よりはかなりの卵の増産が出来ているが、それでも不足気味だ。
牛乳と卵のさらなる増産をしたいと考えていたところ、先日領庁から牛乳や卵の生産のための牧場の拡大を打診された。現在は麦畑となっている土地の提供と、飼料として備蓄用穀物の放出までしてくれるとなれれば、二つ返事で引き受けるほかあるまい。
牛乳と卵となると鮮度が命だ。遠方に改めて土地を確保しても商売にならないので、近隣の土地が使えるようになるのは大きい。
油の増産も急務だな。休ませる麦畑で豆を作るのが畑に良いという話が、王都の内相庁下の農相庁から流れてきている。どの程度の効果があるのかはこれから検証との事だが、それについても協力して欲しいとのことだ。
豆は油の材料として有望だし、豆の絞り滓はそのまま鳥や牛の飼料になる。また、家畜の排泄物も畑の肥料になる。麦わらや枯れ葉等と混ぜて地面に掘った穴に入れ、土を被せて一年ほど寝かせると良質の肥料になるそうだ。
うん、麦、豆、家畜、無駄が無くて効率的だ。どこから来た知識だ?
ただまぁ。食品専門の我が商会の外で、こういう食べ物の流行が作られるのは、ちょっと不愉快だ。
プリンとマヨネーズ、これの奉納登録をしたのは、ジャック会頭の所のランドゥーク商会か。お前、そもそも衣類系の商会だろ?
さらに調べると、大本に居るのは噂の赤竜神の巫女様。家の商会の者からも、市場などで目撃したという話が出回っている。黒髪の娘だが、着ている物などは特別ということもなく。肩なり背中に赤い生き物を連れているらしいのは、本来目立つのだろうが。その生き物は大人しい上に人なつこく、とてもドラゴンという印象がないそうで。まぁこの街にはそこらに猫もいるから…って猫とドラゴンを一緒にしているのか?この街の連中は。え?猫の方がまだ凶暴?
赤竜神の巫女、ツキシマ・レイコ様か。ランドゥーク商会では、彼女関係の奉納の利権を管理する専門の部署を作ったそうだ。
私には、製鉄やらは門外漢だ。料理に使う道具、芋の皮む器とかパスタなる小麦料理や肉を細かくする押し出し機。これも食品に関係あるとは言え、うちの商会の範疇外と言えよう。だが、食品そのものの利権には食い込みたいし、せめて流行になりそうな物の把握はしておきたい。
部下に調べさせると、レイコ様は町の北、ギルドの側の宿を定宿としていると分った。
てっきり、伯爵邸で過ごされていると思ったが。どうにもこの宿を気に入られているとのことで、動く気は無いらしい。
さらに、流行のレシピの発信地は、この宿の食堂となっている。この宿に併設の食堂のカヤン・キックなる調理師が、彼女の提案したレシピをエイゼル市で使える材料で再現している…とのことだ。…この料理人もうちに欲しいな。
なんとかレイコ様に接触して、うちの商会と協力を…と思い。付き人と共に、ファルリード亭なる宿の食堂に行ってみた。
昼時と言うこともあって、けっこう混んでいるな。
メニューから好きな物が選べるのは夕食時からのようで。昼は数種から選択か。港サンド、フライサンド、しょうが焼きサンド?
フライも、中央通りで流行り始めているレシピだ。私も食べたが、なかなかに美味しかった。それがこんなところで食べられるとはな。しょうが焼きサンドは、薄切りした肉を甘辛いタレに漬けて焼いた物…とある。おお、今日はマヨネーズがサービスか、奮発しているな。
港サンド二つに飲み物で10ダカム。ここからフライかしょうが焼きのサンドに一つ変更する毎に5ダカム追加。両方変更で20ダカム。一般的な昼食とすれば高めだが、まぁ材料を考えれば悪くはない値段だ。
せっかくだから、フライとしょうが焼きとやらのサンドのセットにしよう。ここまで付き合ってくれている付き人にも食べさせてやろう。
注文を出そうと給仕を探す。ふむ、家のと同じくらいの年頃の娘が二人、切り盛りしているのか。
手を上げて呼ぶと、小さい方がやってきた。耳を見るに、山の民とのハーフだろうか。なかなかかわいらしい給仕だ。
「ご注文お伺いします!」
うむ、よく躾られている。フライとしょうが焼きのセットで注文すると。厨房に注文を知らせに行ったと思ったら、すぐに戻ってきた。
カップに入った水と、割った竹に置かれた…これは茹で上がった巻いた手ぬぐい?
「これはサービスですので。これで手を拭いてくださいね。」
飲み水が有料な国もあるそうだが。水が豊富で上水道も整備されているこの街では、だいたい無料だ。
手を拭く手ぬぐい…持つとちょっと熱いくらいだ。麻色で上等な布とは言えないが、なるほど、サンドは基本手づかみだ。食事前にこれで手を拭くのは気分が良いな。
しばらくすると、もう一人の給仕が注文したものを持ってきた。
「フライサンドとしょうが焼きサンドのセットが御二つ。以上になりますがよろしいでしょうか?」
おそらく他国の少女か。黒髪とは珍しいが、船の出入りも多いこの街では皆無でもない。この子も給仕としての教育は行き届いているようだ。そのまま中央通りの店でも働けるぞ。
「串を抜いてお召し上がり下さい。ごゆっくりどうぞ!」
使った手ぬぐいを回収して戻っていった。手ぬぐいは…近くの六六の子供達だろう、まとめたところを回収していった。多分彼らに洗わせているのだろう。
これは良いサービスだな。うちが出資している中央通りの店でもやらせてみるか。
下ろした白身の魚をフライにして。細く刻んだ野菜と、港ソース、それに白っぽいのはマヨネーズか、これらをパンで挟んである。なるほど、タルタルソースではコストで足が出るからな。
パンが面白いな。港サンドの長めのパンではなく、丸いパンを上下に切って具を挟んである。確かに"挟む"のなら、こちらの方が合理的かもしれん。型崩れを防ぐためだろう、串が一本刺さっている。
しょうが焼きの方は、薄切りにしたボアあたりの肉をタレに漬けて炒めたものか。こちらにもマヨネーズがかかっている。ただ、タレの方は、色も香りも港ソースとはちょっと違うようだな。こちらも同じく丸いパンに挟んである。
では。冷める前にいただこうか。
ザクっ。
軽くあぶったパン、それに揚げたてのフライの衣が、小気味良い音を立てる。柔らかい魚の身のさっぱりした旨みと、ソースとマヨネーズのコクが合わさって。なるほどこれは美味い。付き人も夢中でかぶりついているな。
ソースとマヨネーズがパンの反対側から手に垂れてきたが、それも思わず舐めてしまう。なるほど、手を拭いていないと抵抗あるなこれは。
ふむ… あっという間に一つを食べきってしまった。これはもうフライサンドを二つにしても良かったもしれないなと思いつつ、次のしょうが焼きサンドに取りかかる。
ふむふむなるほど。甘辛いとはこういう味か。肉が薄いのはケチくさいなとかちょっと思っていたが。薄いが故にタレがよく絡み、なおかつ噛み切りやすい。けっこうよく考えられている。
このタレは何から出来ているんだ?港ソースとはまた違う風味だが。さらに、このタレにマヨネーズがよく合うな。こちらも絶品だ。
…さて。
これらサンドのレシピにも赤竜神の巫女様が関わっているのは間違いないだろう。なんとしても接触したいところだが。
「話では、黒髪の小柄な女性…レイコ様とおっしゃるそうですが」
調べてきた付き人が、容姿について語るが。…黒髪? まさかな。
「レイコちゃん!そろそろお客さん空いてきたから、お父さんが先にお昼食べて良いって!」
「はーい」
レイコ! レイコ様か! あの給仕の少女が?! なんで巫女様が給仕を?!
思わず声をかけそうになるが…
「カルマ商会のガロウ殿ですな」
隣の席に着いていた男が、両手で持ったフライサンドを食べるのを中断して低い声で話しかけてきた。
「レイコ様は現在、アイズン伯爵の客人格であり。王国からも伯爵と同等の大使として認められているお方です。全く接触するなとは言いませんが、その辺はきちんとご配慮いただいたほうがお互いのためかと思いますよ」
男は特にこちらも見ず、フライサンドを食べる事を再開する。…ザックザックと、実に美味そうに味わいながら食べている。
うん。見た目はともかく、あの給仕の少女が赤竜神様の関係者というのは確かなようで。しかも、アイズン伯爵やネイルコード王室も動いているということか。…巫女様ということを考えてみれば、当たり前だな。
私自身もエイゼル市ではそれなりの地位にあるわけだが。彼女に下手な接触をすると、もっと上の権力から圧力がかかることになる、そういうことか。
ここは素直に引き下がった方が良さそうだ。まかないの食事を中断して会計の対応してくれたレイコ様にサンドのお代を払って、ファルリード亭を後にした。
「ありがとうございました~」
…見た目は全く普通の少女なのだがな。
とはいえ。あのレシピの宝庫たるレイコ様は諦めきれないな。となると、交渉すべきはランドゥーク商会の方か。
…と思っていたら、次の日にランドゥーク商会のジャック会頭が訪ねてきた。一本の瓶を携えて。
醤油。先ほど奉納した新しい調味料。これの量産と販売をカルマ商会でして欲しいとの誘いだった。
すでに醤油を使ったいろいろなレシピが開発されているようで。先日食べたしょうが焼きなるものも、これが使われているそうだ。奉納するのは醤油のみで。それを使った料理はご自由にだと。
近くのうちの商会の系列レストランに場所を移して、そのジャック会頭と醤油の味見をすることになった。
…ただ焼いただけの魚にかけるだけでこれだけ美味くなるとは。魚と野菜を炒めた物を具とする港サンドも、ちょっと醤油を垂らすだけでひと味違ってくる。炒めたり焼いたりすることで、これまた香ばしい香りが昇る。
砂を吐かせてからコンロにかけて口を開けた二枚貝、これに醤油を人たらして、ユルガルムから入ってきたバターなる牛の乳の脂をひとかけら。うーん、これはたまらん、昼間からでは酒が飲めないのが残念だ。
確かに、醤油だけを抑えておけばあとはいくらでも使い道が出てくるのだろうから、いくらでも売れるだろうな。醤油を使ったレシピなんて物を奉納したとしても、醤油がなければどうしようもない。上流を抑えておけば良いのだ。あとは皆が勝手に使ってくれる。
ただ、ランドゥーク商会には食品流通のルートがない。そこをうちに任せたいとのことだ。
ランドゥーク商会の利益は?と思ったが。奉納の権利料が入ってくるし、あとは同じエイゼル市の商人仲間の誼だと言われた。さすがアイズン伯爵の同輩というところか。話が分る。
黒塩草なら知っている。海岸に生えている黒い実を付ける草だ。腐るときに酷く臭くなるので嫌われているが。塩分を吸うという特性から、高潮などで塩の被害を受けた畑の復興に使われている。うちでもたまにお世話になる。
これを黒くなる前に摘み取って搾った汁を濾したものに熱を加えると、醤油になるそうだ。そんなに簡単なのか?
甘いならともかく塩っぱい実。しかも腐ると臭い。近くに塩水はいくらでもあるのだから、これをわざわざ食べようなんてことを考える者はいなかった。
畑に塩水を撒くなんてちと罰当たりな気もするが、栽培は簡単だろう。私は、この話を引き受けることにした。
今海岸で生えている実の収集と、春からの畑の確保などを考えていたら。次が本題だと言われた。
これは、王都のネタリア外相が主導で行なわれていることで。これから話すことは極秘だと言われた。
なんで外相が?とは思ったが。私も運輸協会の理事だ。機密保持は信じていただこう。
船乗り病というものがある。
長期間航海に出ていると、歯茎から血が出るなどの症状が出てだんだん動けなくなり、最悪死に至ることもある。陸に上がってしばらくすれば回復することが殆どなので。海の神様の祟りだとか、海の水は実は毒なのではとか、いろいろ言われているが。
これの対処法の手がかりが見つかったそうだ。
果物や野菜に含まれる成分が人には必須で。それを長期間取れなくなるとそういう症状が出るのだとか。しかも面倒なことに、その成分は乾燥や加熱に弱いんだそうだ。"ばいたみんしー"、聞き慣れない言葉だな。
船長などの高級船員に症状が出にくいことは言われていたが。あいつら、普通の船員では口に出来ない果物や果実酒なんかを食事時にはとっていたな。そういうことか。
熱を加えたり乾燥させることなく作れる長期間保存できる果物や野菜。そういう保存食の開発と実験に協力して欲しい…と、なんと王都からの打診だ。
上手くいけばネイルコード国の海運に革命が起きるし。その知識を他国に供与するにしても、大きな外交カードになるのだろう。ネタリア外相が食べ物のことで出張っているのは、こういうことか。
芋や漬物が有力候補だそうだが、どういう芋や漬物が効果があるのかを調べなければいけない。
開発に成功すれば、それは世界中の船乗りに必須の食べ物となる。もちろん、こちらも引き受けることにした。
…なんと、これもレイコ様案件だそうだ。王国がレイコ様に神経質になるのも当然だな。
・Side:ガロウ・カルマ
私はガロウ・カルマ。国の専売である麦と塩以外の、食品全般をネイルコード国で扱っているカルマ商会の会頭だ。農場等の経営も行なっている。さらには、エイゼル運輸協会の理事の一人でもある。
エイゼルの街で最も栄えて、流行り物の発信地でもある中央通り。貴族街から伸びる大通りに、大きな商店が並ぶ街の商業の中心地でもある。うちの商会の本部もここに拠を構えているが。
プリンなる菓子が、ここ最近急に広まっている。ただ、材料は高いし流通が少ないしで、高価かつ品薄な状態が続いている。いつも、おそらく貴族の侍従らだろう者たちが、開店前の甘味屋の前で並んでいるのを見かける。
申し訳ないがうちの従業員に並んでもらって、家族の分を買ってきてもらった。妻と娘達がとろけそうな顔で食べていたな。評判は聞いていたけど入手難だったとかで、あんなに感謝されたのは久しぶりなような気がする。
当然、レシピの購入もせがまれた。…これは仕方あるまい。
他にも、卵と油と酢を使った調味料、マヨネーズとか言ったか、これも広く流行る兆しを見せている。
マヨネーズのレシピには、酢の量について注意があり、これを減らすととたんに日持ちしなくなるとかで。新鮮な材料で作り、その日のうちに食べきることを推奨とある。マヨネーズ自体を売るには、売り方を考えた方が良いだろう。
古い卵が危険なのは周知だからな。うちの商会で扱っている卵は、産卵日を卵に記し、その日のうちに市場で売っているが。マヨネーズを自邸で作るところが多いのだろう、プリン用も合わせて、これら材料の売り上げがかなり伸びていてる。いつもは冬に備えて絞めている雌鳥も、今年はそのまま残させているので、去年よりはかなりの卵の増産が出来ているが、それでも不足気味だ。
牛乳と卵のさらなる増産をしたいと考えていたところ、先日領庁から牛乳や卵の生産のための牧場の拡大を打診された。現在は麦畑となっている土地の提供と、飼料として備蓄用穀物の放出までしてくれるとなれれば、二つ返事で引き受けるほかあるまい。
牛乳と卵となると鮮度が命だ。遠方に改めて土地を確保しても商売にならないので、近隣の土地が使えるようになるのは大きい。
油の増産も急務だな。休ませる麦畑で豆を作るのが畑に良いという話が、王都の内相庁下の農相庁から流れてきている。どの程度の効果があるのかはこれから検証との事だが、それについても協力して欲しいとのことだ。
豆は油の材料として有望だし、豆の絞り滓はそのまま鳥や牛の飼料になる。また、家畜の排泄物も畑の肥料になる。麦わらや枯れ葉等と混ぜて地面に掘った穴に入れ、土を被せて一年ほど寝かせると良質の肥料になるそうだ。
うん、麦、豆、家畜、無駄が無くて効率的だ。どこから来た知識だ?
ただまぁ。食品専門の我が商会の外で、こういう食べ物の流行が作られるのは、ちょっと不愉快だ。
プリンとマヨネーズ、これの奉納登録をしたのは、ジャック会頭の所のランドゥーク商会か。お前、そもそも衣類系の商会だろ?
さらに調べると、大本に居るのは噂の赤竜神の巫女様。家の商会の者からも、市場などで目撃したという話が出回っている。黒髪の娘だが、着ている物などは特別ということもなく。肩なり背中に赤い生き物を連れているらしいのは、本来目立つのだろうが。その生き物は大人しい上に人なつこく、とてもドラゴンという印象がないそうで。まぁこの街にはそこらに猫もいるから…って猫とドラゴンを一緒にしているのか?この街の連中は。え?猫の方がまだ凶暴?
赤竜神の巫女、ツキシマ・レイコ様か。ランドゥーク商会では、彼女関係の奉納の利権を管理する専門の部署を作ったそうだ。
私には、製鉄やらは門外漢だ。料理に使う道具、芋の皮む器とかパスタなる小麦料理や肉を細かくする押し出し機。これも食品に関係あるとは言え、うちの商会の範疇外と言えよう。だが、食品そのものの利権には食い込みたいし、せめて流行になりそうな物の把握はしておきたい。
部下に調べさせると、レイコ様は町の北、ギルドの側の宿を定宿としていると分った。
てっきり、伯爵邸で過ごされていると思ったが。どうにもこの宿を気に入られているとのことで、動く気は無いらしい。
さらに、流行のレシピの発信地は、この宿の食堂となっている。この宿に併設の食堂のカヤン・キックなる調理師が、彼女の提案したレシピをエイゼル市で使える材料で再現している…とのことだ。…この料理人もうちに欲しいな。
なんとかレイコ様に接触して、うちの商会と協力を…と思い。付き人と共に、ファルリード亭なる宿の食堂に行ってみた。
昼時と言うこともあって、けっこう混んでいるな。
メニューから好きな物が選べるのは夕食時からのようで。昼は数種から選択か。港サンド、フライサンド、しょうが焼きサンド?
フライも、中央通りで流行り始めているレシピだ。私も食べたが、なかなかに美味しかった。それがこんなところで食べられるとはな。しょうが焼きサンドは、薄切りした肉を甘辛いタレに漬けて焼いた物…とある。おお、今日はマヨネーズがサービスか、奮発しているな。
港サンド二つに飲み物で10ダカム。ここからフライかしょうが焼きのサンドに一つ変更する毎に5ダカム追加。両方変更で20ダカム。一般的な昼食とすれば高めだが、まぁ材料を考えれば悪くはない値段だ。
せっかくだから、フライとしょうが焼きとやらのサンドのセットにしよう。ここまで付き合ってくれている付き人にも食べさせてやろう。
注文を出そうと給仕を探す。ふむ、家のと同じくらいの年頃の娘が二人、切り盛りしているのか。
手を上げて呼ぶと、小さい方がやってきた。耳を見るに、山の民とのハーフだろうか。なかなかかわいらしい給仕だ。
「ご注文お伺いします!」
うむ、よく躾られている。フライとしょうが焼きのセットで注文すると。厨房に注文を知らせに行ったと思ったら、すぐに戻ってきた。
カップに入った水と、割った竹に置かれた…これは茹で上がった巻いた手ぬぐい?
「これはサービスですので。これで手を拭いてくださいね。」
飲み水が有料な国もあるそうだが。水が豊富で上水道も整備されているこの街では、だいたい無料だ。
手を拭く手ぬぐい…持つとちょっと熱いくらいだ。麻色で上等な布とは言えないが、なるほど、サンドは基本手づかみだ。食事前にこれで手を拭くのは気分が良いな。
しばらくすると、もう一人の給仕が注文したものを持ってきた。
「フライサンドとしょうが焼きサンドのセットが御二つ。以上になりますがよろしいでしょうか?」
おそらく他国の少女か。黒髪とは珍しいが、船の出入りも多いこの街では皆無でもない。この子も給仕としての教育は行き届いているようだ。そのまま中央通りの店でも働けるぞ。
「串を抜いてお召し上がり下さい。ごゆっくりどうぞ!」
使った手ぬぐいを回収して戻っていった。手ぬぐいは…近くの六六の子供達だろう、まとめたところを回収していった。多分彼らに洗わせているのだろう。
これは良いサービスだな。うちが出資している中央通りの店でもやらせてみるか。
下ろした白身の魚をフライにして。細く刻んだ野菜と、港ソース、それに白っぽいのはマヨネーズか、これらをパンで挟んである。なるほど、タルタルソースではコストで足が出るからな。
パンが面白いな。港サンドの長めのパンではなく、丸いパンを上下に切って具を挟んである。確かに"挟む"のなら、こちらの方が合理的かもしれん。型崩れを防ぐためだろう、串が一本刺さっている。
しょうが焼きの方は、薄切りにしたボアあたりの肉をタレに漬けて炒めたものか。こちらにもマヨネーズがかかっている。ただ、タレの方は、色も香りも港ソースとはちょっと違うようだな。こちらも同じく丸いパンに挟んである。
では。冷める前にいただこうか。
ザクっ。
軽くあぶったパン、それに揚げたてのフライの衣が、小気味良い音を立てる。柔らかい魚の身のさっぱりした旨みと、ソースとマヨネーズのコクが合わさって。なるほどこれは美味い。付き人も夢中でかぶりついているな。
ソースとマヨネーズがパンの反対側から手に垂れてきたが、それも思わず舐めてしまう。なるほど、手を拭いていないと抵抗あるなこれは。
ふむ… あっという間に一つを食べきってしまった。これはもうフライサンドを二つにしても良かったもしれないなと思いつつ、次のしょうが焼きサンドに取りかかる。
ふむふむなるほど。甘辛いとはこういう味か。肉が薄いのはケチくさいなとかちょっと思っていたが。薄いが故にタレがよく絡み、なおかつ噛み切りやすい。けっこうよく考えられている。
このタレは何から出来ているんだ?港ソースとはまた違う風味だが。さらに、このタレにマヨネーズがよく合うな。こちらも絶品だ。
…さて。
これらサンドのレシピにも赤竜神の巫女様が関わっているのは間違いないだろう。なんとしても接触したいところだが。
「話では、黒髪の小柄な女性…レイコ様とおっしゃるそうですが」
調べてきた付き人が、容姿について語るが。…黒髪? まさかな。
「レイコちゃん!そろそろお客さん空いてきたから、お父さんが先にお昼食べて良いって!」
「はーい」
レイコ! レイコ様か! あの給仕の少女が?! なんで巫女様が給仕を?!
思わず声をかけそうになるが…
「カルマ商会のガロウ殿ですな」
隣の席に着いていた男が、両手で持ったフライサンドを食べるのを中断して低い声で話しかけてきた。
「レイコ様は現在、アイズン伯爵の客人格であり。王国からも伯爵と同等の大使として認められているお方です。全く接触するなとは言いませんが、その辺はきちんとご配慮いただいたほうがお互いのためかと思いますよ」
男は特にこちらも見ず、フライサンドを食べる事を再開する。…ザックザックと、実に美味そうに味わいながら食べている。
うん。見た目はともかく、あの給仕の少女が赤竜神様の関係者というのは確かなようで。しかも、アイズン伯爵やネイルコード王室も動いているということか。…巫女様ということを考えてみれば、当たり前だな。
私自身もエイゼル市ではそれなりの地位にあるわけだが。彼女に下手な接触をすると、もっと上の権力から圧力がかかることになる、そういうことか。
ここは素直に引き下がった方が良さそうだ。まかないの食事を中断して会計の対応してくれたレイコ様にサンドのお代を払って、ファルリード亭を後にした。
「ありがとうございました~」
…見た目は全く普通の少女なのだがな。
とはいえ。あのレシピの宝庫たるレイコ様は諦めきれないな。となると、交渉すべきはランドゥーク商会の方か。
…と思っていたら、次の日にランドゥーク商会のジャック会頭が訪ねてきた。一本の瓶を携えて。
醤油。先ほど奉納した新しい調味料。これの量産と販売をカルマ商会でして欲しいとの誘いだった。
すでに醤油を使ったいろいろなレシピが開発されているようで。先日食べたしょうが焼きなるものも、これが使われているそうだ。奉納するのは醤油のみで。それを使った料理はご自由にだと。
近くのうちの商会の系列レストランに場所を移して、そのジャック会頭と醤油の味見をすることになった。
…ただ焼いただけの魚にかけるだけでこれだけ美味くなるとは。魚と野菜を炒めた物を具とする港サンドも、ちょっと醤油を垂らすだけでひと味違ってくる。炒めたり焼いたりすることで、これまた香ばしい香りが昇る。
砂を吐かせてからコンロにかけて口を開けた二枚貝、これに醤油を人たらして、ユルガルムから入ってきたバターなる牛の乳の脂をひとかけら。うーん、これはたまらん、昼間からでは酒が飲めないのが残念だ。
確かに、醤油だけを抑えておけばあとはいくらでも使い道が出てくるのだろうから、いくらでも売れるだろうな。醤油を使ったレシピなんて物を奉納したとしても、醤油がなければどうしようもない。上流を抑えておけば良いのだ。あとは皆が勝手に使ってくれる。
ただ、ランドゥーク商会には食品流通のルートがない。そこをうちに任せたいとのことだ。
ランドゥーク商会の利益は?と思ったが。奉納の権利料が入ってくるし、あとは同じエイゼル市の商人仲間の誼だと言われた。さすがアイズン伯爵の同輩というところか。話が分る。
黒塩草なら知っている。海岸に生えている黒い実を付ける草だ。腐るときに酷く臭くなるので嫌われているが。塩分を吸うという特性から、高潮などで塩の被害を受けた畑の復興に使われている。うちでもたまにお世話になる。
これを黒くなる前に摘み取って搾った汁を濾したものに熱を加えると、醤油になるそうだ。そんなに簡単なのか?
甘いならともかく塩っぱい実。しかも腐ると臭い。近くに塩水はいくらでもあるのだから、これをわざわざ食べようなんてことを考える者はいなかった。
畑に塩水を撒くなんてちと罰当たりな気もするが、栽培は簡単だろう。私は、この話を引き受けることにした。
今海岸で生えている実の収集と、春からの畑の確保などを考えていたら。次が本題だと言われた。
これは、王都のネタリア外相が主導で行なわれていることで。これから話すことは極秘だと言われた。
なんで外相が?とは思ったが。私も運輸協会の理事だ。機密保持は信じていただこう。
船乗り病というものがある。
長期間航海に出ていると、歯茎から血が出るなどの症状が出てだんだん動けなくなり、最悪死に至ることもある。陸に上がってしばらくすれば回復することが殆どなので。海の神様の祟りだとか、海の水は実は毒なのではとか、いろいろ言われているが。
これの対処法の手がかりが見つかったそうだ。
果物や野菜に含まれる成分が人には必須で。それを長期間取れなくなるとそういう症状が出るのだとか。しかも面倒なことに、その成分は乾燥や加熱に弱いんだそうだ。"ばいたみんしー"、聞き慣れない言葉だな。
船長などの高級船員に症状が出にくいことは言われていたが。あいつら、普通の船員では口に出来ない果物や果実酒なんかを食事時にはとっていたな。そういうことか。
熱を加えたり乾燥させることなく作れる長期間保存できる果物や野菜。そういう保存食の開発と実験に協力して欲しい…と、なんと王都からの打診だ。
上手くいけばネイルコード国の海運に革命が起きるし。その知識を他国に供与するにしても、大きな外交カードになるのだろう。ネタリア外相が食べ物のことで出張っているのは、こういうことか。
芋や漬物が有力候補だそうだが、どういう芋や漬物が効果があるのかを調べなければいけない。
開発に成功すれば、それは世界中の船乗りに必須の食べ物となる。もちろん、こちらも引き受けることにした。
…なんと、これもレイコ様案件だそうだ。王国がレイコ様に神経質になるのも当然だな。
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ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
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いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
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捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
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辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
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※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
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異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
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スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
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