玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第2章 ユルガルム領へ

第2章第009話 巨大白蛇

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第2章第009話 巨大白蛇

・Side:ツキシマ・レイコ

 タシニを出てから二泊目終了。予定では、次の野営が最後です。皆早めに先に進みたいのか、準備はテキパキ進み、出発です。

 道中、レッドさんが探知の反応を見つけます。街道右側、東から数は六。今回は多いですね。
 タルタス隊長に知らせると、皆に警戒を促します。結構な速度でこらちに…こちらに向かってくるわけでは無いようですね。前方を通過するようです。

 「前方を通過します!」

 私が皆さんに告知します。
 それでも、護衛と騎士達が臨戦態勢を取っていると…前方の街道を、あの仔狼が走って横切って行きます。何事?と思ったら、それを追っかけて脇の林から出てきたのは…白蛇?

 鎌首持ち上げたら人の背丈くらいあるような、胴の太さも大人の男の胴より太いくらいの巨大な白蛇が、仔狼を追いかけています!。
 仔狼が捕まるか?と思ったとき、親狼が駆けつけて来ました。一方の親狼が蛇を牽制しているところの後ろから、もう一方が蛇の首…というか頭の根元に噛み付きます。もう一匹の仔狼も出てきました。家族総出で蛇に噛み付きます。
 首あたりか肋骨か、骨がベキベキと折れる音がして、蛇が大人しくなりました。

 この光景にキャラバンの人たちは固まっています。

 「…キャラバンにけしかけようとして失敗したのか。単に狼たちの狩りの場面に出くわしたのか。判断に迷うな」

 タルタス隊長が分析しますが。これはちょっと分りませんね。
 ここで思い出します。反応は六だったことに。今いるのは、狼が四に蛇が一。一つ足りません。

 「タルタス隊長、反応は六です! もう一匹います! 東からもう一匹!」

 私でもすぐに分る大きい反応が一つ。こちらに向かっています。

 「っ! 全員警戒を解くな!」

 ズズズズ

 引きずるような不気味な音を出して、最後の一匹が林から進み出ていきます。キャラバンと狼たちを認めると、鎌首を持ち上げて、蛇独特のシャーという威嚇をしてきます。

 「ちょ! こんなのがこの世界にはいるんですか?!」

 「俺も見たことねーよ、こんなのっ!」

 タルタス隊長、素が出ています。

 でかい!
 先ほどの白蛇より一回り二回りでかいという程度では済みません。頭だけ見ればティラノサウルスか?というくらいのサイズです。
 白狼たちも再度臨戦態勢を取りますが、攻め倦ねています。が、その蛇は場所的に一番近い親狼に向かっていきます!
 逃げるか避けるしかない白狼たち。

 戦場がキャラバンの前を塞いでいるのと、引き返そうにも馬が暴れるのを苦労して抑えている状態なので、私たちも退避も出来ません。
 しかし、馬車を諦めて伯爵家勢を徒歩で逃すにしても、これではタシニまで逃げ切れる保証もありません。
 そうしているうちに蛇は、見える範囲で一番でかく、捕らえるのも容易そうな獲物として、キャラバン先頭の馬車の馬に目を付けたようです。
 仕方ありません、レイコ出動します!。



 レッドさんが飛翔し、巨大白蛇の回りを飛んで注意を引きます。蛇の頭が下がったところを跳び蹴りしてみましたが。毎度勢いを付けきれないのと体の軽さで、大してダメージが通りませんね。
 我に返った護衛隊の人達が、槍を投げて攻撃を試みますが。かなり堅いのか、皮に傷を付けるのが精一杯のようで、刺さりもしません。
 これは、レイコ・バスター初使用か?と考えてましたが。あれはいろいろ輻射がキツいので、ここでは使いたくありません。白狼たちを巻き込んでしまいまう恐れがあります。

 あ、仔狼が蛇の尾あたりに噛み付きましたが。殆ど効かず、逆に跳ね飛ばされました。

 「キャイン!」

 犬っぽい悲鳴を上げて、地面にたたき付けられています。
 蛇が転がった仔犬に食いつこうとしたその横っ面に、レイコ・ガンを放ちます!
 ガンとは言いつつも、実情は単なる熱線と言っていいものです。この蛇相手では、貫通力は皆無ですが。

 !!!!

 それでも、うまいこと片目にダメージが入ったようです。
 片目を瞬膜で閉じた白蛇が、声にならない悲鳴を上げ。ものすごい速度で茂みの向こうに退散しました。



 「…さすがにあれをキャラバンにけしかけは出来ないだろ。どう見ても命がけだ」

 レッドさんは警報を解除してます。見える範囲には脅威はありません。あくまで視界が通る範囲ですが。
 しかしあの蛇は逃げただけ。依然、脅威は健在です。

 タロウさんの指示で、横モヒカンさん達が小さい方の白蛇の皮を剥いでいます。ここに長居したくないので時間勝負です。
 タルタス隊長、ダンテ隊長、覇王様に私とで、臨時対応会議です。タロウさんも来て下さいよ。

 「どうする? 進むか戻るか?」

 ここに留まるという選択はもちろんないのですが。どちらに進むのがより安全なのか計りかねています。
 一番近くの街や村ということなら、このまま進むべきですが。あのサイズの蛇では、村程度に逃げ込んでもどうでもならないでしょう。退治に軍が必要なレベルですね。

 「タルタス隊長、とりあえずレッドさんに偵察して貰いましょう」

 「小竜様に?危ないことはさせられないぞ?」

 皆はもう大げさにはしませんが、赤竜神の子供だとか使いだと見なされているレッドさんです。護衛する必要があるかはともかくとして、ある意味伯爵家以上のVIPな存在のレッドさんですので。偵察に使うのに躊躇されています。

 「そこは大丈夫です。いいよね?レッドさん」

 「クー」

 とレッドさんが了解してくれました。

 ちょっと皆から離れて。レッドさんに右手に載って貰います。私の手ではちょっと窮屈ですが。
 そのまま砲丸投げの要領で…レイコ・カタパルト!

 「レイコちゃん何を?!」

 後ろでびっくりしている人がいますが、心配ご無用。

 放物線を描いて飛んでいくレッドさん。その頂点で翼をばっと広げます。その翼がボウと光って、かるく羽ばたきながらそのままパワーズームしていきました。
 おお、全力で飛ぶレッドさん、私も初めて見ます。


 数分でレッドさんが戻ってきました。

 タルタス隊長に地図を出して貰います。…雑な地図ですね。街道と河、山のだいたいの位置くらいです。でも、町や村との相対位置でだいたいの場所は示せます。レッドさんから、上空から見た詳しいイメージが送られてきます。

 街道はほぼ北向き。例の蛇は、ここから東北東の方向約二キロメートル。今は、街道から結構離れた浅い洞窟に潜んでいるようで。離れたところからの横面からの探査に引っかかったようです。
 次の野営地の場所らしき処も見つかりました。

 「丸太小屋があるところが次の野営地で合っていますか?」

 「ああ。そこが予定地だ」

 となると。蛇のいる洞窟を横目にやり過ごして、そこまで行ってしまった方が安全だろうという話になりました。役に立つかどうかはともかく、小屋があるというのもポイントが高いです。どのみち夜に移動するのは無謀ですからね。

 ともかく今は先を急ごう!と言うところで。問題が一つ残ってました。

 白蛇に飛ばされた仔狼。どうも足を痛めたらしいです。完全に折れてはいないが、ひびくらいは入っていそうで。足を引きずってでも歩こうとしていのすが、痛みで上手く立てないようです。これでは、親狼について行くことは出来ないでしょう。
 親狼が、怪我をした仔狼に心配そうに付き添っています。これは、ちょっとやそっとでは離れそうも無いですね。

 もしこのままここに置いてっても、無事かどうかはちょっと妖しいです。あの巨大白蛇はともかく、小さい…とは言い難いサイズでしたが、小型の白蛇がもういないとは断言できないですし、野生動物は他にもいるでしょう。

 いつのまにか馬車を降りているクラウヤート様が、心配そうに仔狼を見てます。

 「タルタス隊長、なんとか助けてあげられないかな?」

 「うーん…連れて行けないこともないのですが。大人しく馬車に乗ってくれますかね?」

 タルタス隊長もなんとなく情が移っているらしい。助けられるものなら助けたいようです。
 クラウヤート様が、何か期待するようなまなざしで私を見てました。今のところ、狼と直接接触したのは私だけ。
 …はい分りました。私もあの仔を見捨てたくは無いですからね。

 仔狼には親狼が付き添っている。そこに驚かさないように近づいていく。
 親狼は私をじっと見ている。

 「この仔を助けたいの。馬車に乗せるね」

 言葉が通じるわけでは無いでしょうが。私を襲うことも無いようです。
 ゴールデンレトリバーくらいのその仔を、お腹と胸のあたりを抱えて持ち上げる。仔狼がちょっと抵抗するが、親狼が

 ガウっ!

 と軽く吠えると大人しくなった。私が助けようとしていることは理解しているようです。ほんと、頭良いですね、この狼たち。

 最後尾の荷馬車の空いているところに仔狼を乗せたところで、キャラバンが進み出しました。先は急ぎます。
 他の狼達も、少し離れて付いて来ています。

 とりあえず、仔狼の足を添え木で固定しようかと思っていたところ、エカテリンさんがカバンを持って来ました。中は騎士隊の救急用品だそうです。添え木に使う竹板とか、固定や包帯代わりのサラシとか、いろいろ入ってます。
 私がやろうかと思ったけど、エカテリンさんの方が慣れている感じなので、任せてみました。仔狼も、痛みを我慢しつつ大人しくしています。

 「完全に折れてはいないけど。ひびは入っているね。全治一ヶ月ってところかな? 一応、痛み止めと熱止めの薬もあるけど、多分飲まないよな。後で餌に混ぜられないか考えてみよう」

 足に竹板を当てて、サラシで巻いて固定します。この辺は地球と同じような物ですね。

 「にしても、見事な毛並みだねぇ」

 エカテリンさんは、もう警戒をしていない仔狼の毛並みを撫でている。仔狼もされるがままだ。
 エカテリンさん、ニコニコしてます。足折れて痛いはずだから、お手柔らかにね。

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