玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
55 / 339
第2章 ユルガルム領へ

第2章第003話 職人の街マルタリク

しおりを挟む
第2章第003話 職人の街マルタリク

・Side:ツキシマ・レイコ

 ファルリード亭では、カヤンさんがメニューの検討を続けてます。
 ランドゥーク商会が利権をとりまとめる事になったことと引き換えに、油、卵、砂糖、牛乳を割引価格で卸して貰えることになりました。ただ、それでもまだ宿屋の食堂で出す値段ではないですね。特に砂糖は商会でも限界があります。
 カヤンさんは、フライをメインに何とかしようと試行錯誤してます。
 モーラちゃんも、カーラさんに手伝って貰って原価計算に忙しいです。この子なりの算数の勉強ですね。えらく実践的ですが。

 「私は、そういう計算は苦手なので」

 は、ミオンさんの言。うん、モーラちゃんの才覚は、ご両親の良いところ取りです。



 というわけで。私はアイリさんとマルタリクという街に来ています。

 街と言っても、エイゼル市からカラスウ河を渡って少し行ったところなので。エイゼル市の拡張と共に、街並みも繋がりつつあります。エイゼル市周辺の町や村は、大体こんな感じです。
 効率的に職人を働かせる…という名目で、スラムを撤去した後に職人らを集めて作られた街だそうです。
 鍛冶、木工、美術という区分はもちろん、細工、建築、土木道具、馬車、何でもありで。職人の数も千人を超えて、エイゼル領のインフラを支える街になってます
 ちなみに、紡績等のアパレル系は、もうちょっと北の方にある街が中心だそうで、六六の人が大勢働いているとか。裁縫や紡績の道具自体は、この街で作られてます。

 マヨネーズを作るのに食堂で皆がヒーヒー言っていましたので。その辺も含めていくつか料理道具を作って貰えないか?という相談をしに来ました。アイリさんの持っているランドゥーク商会の紋章をしけたゴルゲットは、ここでも有効で。有力な職人を紹介されました。

 目の前で腕を組んでいる職人は、ハンマ・ダイビルさん。
 髭もじゃで筋肉がっしり。これで背が低かったら、まんまドワーフだね。
 横で一緒に話を聞いているのが、カンナ・ダイビルさん。ハンマさんの娘で、事務方のようです。

 とりあえず、泡立て器とピーラーを説明します。
 泡立て器は簡単だね。真鍮みたいな金属か、曲げた竹串で作ることになりそうです。
 ピーラーはちょっと説明が難しかったけど。早速、四角く切り出した真鍮片に加工して貰って、その場で試作品を作ってくれました。刃の形が分れば、後は簡単でしょう。
 フレームは竹から切り出して、なんと三十分くらいで試作品が出来ました。腕の良い職人さんですね。
 試しに、カンナさんが持ってきた根菜の皮を剥いてみます。刃はヤスリで削った程度しか付いていませんが、野菜の皮くらいならなんとか剥けます。
 本番は、鋼とは行かなくても鉄とかで作れれば、耐久性も切れ味も問題はないでしょう。

 「おい。タルタスを呼んでこい」

 ハンマ親方が、お弟子さんだという人を呼びに行かせました。

 「アイリさんとやら。これは奉納に回した方が良いと思うぞ。泡立て器は簡単すぎて、真似するなってほうが無理だろうが。このピーラー?ってやつは、シャレにならん。売れるぞ」

 はい来ました奉納です。
 としているうちに、タルタスさんという方が来ました。彼に、野菜と試作品を渡して試して貰います。

 「なるほど…これは売れますね」

 「だろ?。ということで、量産の試作をまず五個ほど。その後に教会向けの装飾した物を…そうだな、十セットほど作ってくれ」

 「承知しました親方」

 細かい指摘として、歯は傾くけどクルクル回らないようにとか、あとイモの芽を取る所ね、これ重要。この辺の改良をタルタスさんと話します。

 「うーん。まずジャック会頭に話を持ってって、奉納について打ち合わせ。レイコちゃんとの契約と、あとはハンマ親方のところと量産の契約ですかね?」

 アイリさんが事務的な話をします。

 「これ、量産となると千とかじゃきかねーぞ。皆が欲しがるだろ?」

 とハンマ親方は横のカンナさんを見ます。

 「うん。これはすぐに欲しい。今日の夕食の支度から使いたい。イモの皮剥き大変だもん」

 ほらな?とアイリさんを見ます。

 「うちだけじゃ生産が追いつかないぞこれ。こんなの独占したら職人が疲労で死ぬわ。うちは開発分と量産の治具の生産で咬ませてくれれば十分だから、本生産はランドゥーク商会とマルタリクの街の職人協会の方でつけてくれねーか」

 「それでいいのなら、たぶんうちは異存ないと思うけど」

 とりあえず持ち帰り案件だそうです。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。 もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。  ◆ 十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。 彼女が向かったのは神社。 その鳥居をくぐると――?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...