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第1章 エイゼル領の伯爵
第1章第046話 逆恨み
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第1章第046話 逆恨み
・Side:サッコ・ジムール
まずいまずいまずい!。
この街では、私はバッセンベル侯爵の寄子貴族なんて名乗っていたが。実際には侯爵の寄子の伯爵のそのまた寄子である男爵家の三男だ。バッセンベル侯爵のアイズン嫌いは有名だが、表だっての衝突は望まないだろうし。わしのことでそうなりそうなら、簡単に切り捨てられる。
もともと男爵である父の領地で、一つの村を任される文官をしていたが。天候不順で税が減るからと増税したら、村民が大量に逃げ出しおって。税収は増税する前の半分にもならんと、父や兄には殴られた。
このままでは男爵家の身代が持たないと、打開策としてエイゼル領と商売をすることを考えた。本来、金稼ぎなど貴族のすることではないが、なければ困るのが金だ。
男爵家から出来るだけの資金を融通して貰い、一週間ほどでたどり着いたエイゼル領は想像以上に栄えていた。バッセンベル領から見ればさらに東の山向こうの田舎のくせに生意気な。
ともあれ。少量でも高価な物をバッセンベルに持ち帰り、領都でさらに高価で捌けば、差額が儲けになる。宝石などよりは消費財のほうがよかろうと、東方諸島からの香辛料に目を付けたはいいが。
香辛料は他国との交易品だ。私には直接手が出せない。そこでまずは、アイズン伯爵に面会を求めたが。出てきたのはその息子の方だった。バッセンベルの名を出したのに、なぜ伯爵本人が出てこない!
用件を話したところ、けんもほろろに断られた。実績のないところといきなりそんな商売を仲介することは出来ないそうだ。バッセンベル貴族の私を愚弄するか。
次に、東方諸島との交易で有名なリラック商会に出向いた。レンガ造りの倉庫をそのまま商店にしている。無骨な店構えだが、扱っている商材が高価な物が多いだけに厳重にしてあると聞かされ、舌なめずりする。
しかし!あの無礼者ども。今まで取引の実績がないのなら、紹介状を持ってこいと店前で追い返された。バッセンベル貴族のわしをだぞ!。
護衛の剣士を嗾けようとしたが、商店の護衛が大勢こちらを見ている。わしが見ても手練れだと分る連中だ。しかたない、ここは引き下がろう。
中央市場か。庶民向けの市場などと思っていたが、ここも混雑しているな。貴族のわしが通るのだぞ道を空けろ。
何かないかと物色していると、香辛料を扱っている店があった。店構えからして大量というわけでもないが、ここの店で扱う分だけでも持って帰られれば、税収の損失を補うくらいになるだろう。せいぜい高く売りさばいてやる。
店主は、提示した価格では安すぎるとごねている。お前らの利益なぞ知ったことか。お、この娘はダーコラ国へ売ればそこそこの値にはなりそうだ。補填の足しにはなるだろう。
ごねる店主を持っていた杖で殴る。ざまぁみろ、わしに逆らうからだ。
娘までわしに逆らうか? こいつも体に分らせてやろうと杖を振ると、それを受け止めたガキがいた。
バッセンベルの貴族を馬鹿にするか! 護衛に切るように命じた。なに、わしは貴族でこのガキは見た目はどう見ても平民。あとでどうとでも言いつくろえるわ。
…確実にその体で剣を受けたはずのガキは、血も吹き出さずに起き上がってきた。護衛が手加減したのかと思ったが、護衛は再度ガキに斬りかかっていった。
なんと、剣を素手で受け止めただと? そんななまくらの剣でわしを護衛していたのか?
ガキが、護衛の手首を掴んだ。と言うより、手袋の方をくしゃっと握っただけのように見えた。
ただ、同時にゴキンとなにかが砕けるように音がする。
「グギャァァァー」
護衛が悲鳴を上げる。おのれ何をした!
騒ぎを聞いて来たのが、アイゼンの小倅だ。乱暴狼藉?そんなの貴族の特権の範疇だろ! と騒ぐが。アイゼンの騎士に引きずられるように連れて行かれ、貴族街にあるバッセンベル領の領館に放り込まれた。
領館の文官が、騎士から話を聞いて青くなっている。
くそ!領館長を呼べ!。領館長も私と同じバッセンベル領の貴族だ、話が通じるはず!
くそ!くそ!クソ! 皆でわしを馬鹿にしよって!
不平等取引の強要、人身売買、殺人教唆。わしをエイゼル市で収監するか、バッセンベル領側で賠償金を払えと言われたそうな。
このままではバッセンベル領のの恥だということで、領館が金を払ってくれたが。請求はそのまま実家に回される。このままでは勘当されるだろう。
手元には、辛うじて滞在費が多少残っている程度で、もう後がない。
噂で聞いた。あのガキがアイズン伯爵の客人だ?あの黒髪のガキが? そんな子に切りつけて賠償金で済んだのだから運が良いだと?
聞けば、貴族でも何でもないという。なんであんな奴が?
あいつのせいだ。
なんとかあいつに謝罪させてアイズンらに責任を取らせて、賠償としてエイゼル領から交易の権利が得られれば、実家も私を見直すはず。
あの護衛は、右手首を半分砕かれていた。治っても、辛うじて日常生活は送れる程度で二度と剣は握れないらしい。ガキ一人斬れない役立たずめ。
手持ちの金で雇えるのは、チンピラくらいだ。バッセンベル領から流れてきたやつらが、街の外れてくすぶっていると聞いたな。あいつらに声をかけるとするか。
あのガキの定宿は、既に突き止めてある。ふん。客とか言いつつ、貴族街にも入れて貰えていないのか。
・Side:ブライン・エイゼル・アイズン
ユルガルムから戻られた父上から話を聞いたときは、半信半疑だった。ただ、ツキシマ・レイコ嬢が巫女かどうかはともかくとしても、小竜の存在は、見たことの無い生き物という時点でごまかしようがない。
一度接触しておきたいと思っていたところ、レイコ嬢一向が中央市場に来ているという。たまたま市場近くの役所に来ていたので、様子を見に足を伸ばした。
サッコの奴め。数日前にいきなり押しかけてきて、バッセンベルとの交易をするためにこの街の商会を紹介しろなど騒いでいたが。交易とは、単に品物を右から左に動かせばいいという物ではない。どうせ、安く仕入れて高く売れば儲かる程度の考えだろうが、安く仕入れるのにも高く売るのにも才覚が必要だ。とてもじゃないが、彼奴にそんな能力があるようには思えない。
商会へも直接押しかけたそうだが、追い返されたようだ。その後どうしていると思ったら、市場で小売りの商人を脅しているとは。
あの馬鹿、店主を殴ったぞ。娘が店主を庇っている。さらに杖で殴ろうとしていたので、流石に止めに入ろうとしたところ、黒髪の少女が飛び出していた。
「その行動のどこに為政者たる貴族の資質があると?」
啖呵を切る少女。正論ではあるが、馬鹿を煽ると危険だぞ!。馬鹿の護衛が剣を抜いた。騎士に指示して止めようとしたが、間に合わない!
ザン!
切られた少女が飛ばされた!。なんということだ!
と思ったが。少女はむくっと起き上がる。服は切れているようだが、血が出ている雰囲気はない。
剣士がさらに剣を振り下ろすが。驚くことに少女はその剣を素手で受け止めた。そして、空いている手でその剣士を手首を握ると、
ゴキン!
「グギャァァァー」
そう言えば、ダンテ騎士が言っていた。ツキシマ・レイコ嬢の身体強化は達人を越えていると。
手首を握りつぶされたらしい剣士は悶絶している。
「バッゼンベルの貴族に対するこの狼藉、どなるかわかっているのか?」
馬鹿がまだ何か喚いている。さすがにもう収拾してしまおう。
馬鹿は、貴族街にあるバッゼンベル領邸に連行させた。当然、口頭でも領館に抗議は入れておく。
そろそろ昼だ。本当なら、偶然を装って食事にでも誘って、いろいろ話を聞いて見たかったのだが。先にこちらの始末をしないといけないか。
父は、ユルガルムからの帰り道に毒殺されかけている。
あの後の調査で、タシニのパン屋は、単に行商の商人から砂糖を買っただけだというのが分っている。伯爵様がこの街に来られているのなら、これでお菓子でも作って召し上がっていただいては? と言われたそうだ。
残っていた砂糖を回収して調べさせたところ、確かに毒入りだったそうだ。この行商人とやらがバッゼンベル領の関係者という証拠は皆無だが。用心するに越したことはない。
件のパン屋の婦人は、他に特に不審な点もないので。エイゼル市に菓子の研修の名目で、しばらくこちらに避難して貰う手はずになっている。行商人に接触した唯一の人間だからな。
サッコ・ジムールなるバッゼンベル領の馬鹿が、この毒殺未遂の関係者とは思えない。頭が悪すぎる。
ただ、こいつがここに来たのが、エイゼル市に対する嫌がらせの一環である可能性はそこそこあるだろう。油断せずに、監視して、泳がせるか。
こいつがまだ何かやらかすのなら、それはそれでバッゼンベルに対する手札になる。
・Side:サッコ・ジムール
まずいまずいまずい!。
この街では、私はバッセンベル侯爵の寄子貴族なんて名乗っていたが。実際には侯爵の寄子の伯爵のそのまた寄子である男爵家の三男だ。バッセンベル侯爵のアイズン嫌いは有名だが、表だっての衝突は望まないだろうし。わしのことでそうなりそうなら、簡単に切り捨てられる。
もともと男爵である父の領地で、一つの村を任される文官をしていたが。天候不順で税が減るからと増税したら、村民が大量に逃げ出しおって。税収は増税する前の半分にもならんと、父や兄には殴られた。
このままでは男爵家の身代が持たないと、打開策としてエイゼル領と商売をすることを考えた。本来、金稼ぎなど貴族のすることではないが、なければ困るのが金だ。
男爵家から出来るだけの資金を融通して貰い、一週間ほどでたどり着いたエイゼル領は想像以上に栄えていた。バッセンベル領から見ればさらに東の山向こうの田舎のくせに生意気な。
ともあれ。少量でも高価な物をバッセンベルに持ち帰り、領都でさらに高価で捌けば、差額が儲けになる。宝石などよりは消費財のほうがよかろうと、東方諸島からの香辛料に目を付けたはいいが。
香辛料は他国との交易品だ。私には直接手が出せない。そこでまずは、アイズン伯爵に面会を求めたが。出てきたのはその息子の方だった。バッセンベルの名を出したのに、なぜ伯爵本人が出てこない!
用件を話したところ、けんもほろろに断られた。実績のないところといきなりそんな商売を仲介することは出来ないそうだ。バッセンベル貴族の私を愚弄するか。
次に、東方諸島との交易で有名なリラック商会に出向いた。レンガ造りの倉庫をそのまま商店にしている。無骨な店構えだが、扱っている商材が高価な物が多いだけに厳重にしてあると聞かされ、舌なめずりする。
しかし!あの無礼者ども。今まで取引の実績がないのなら、紹介状を持ってこいと店前で追い返された。バッセンベル貴族のわしをだぞ!。
護衛の剣士を嗾けようとしたが、商店の護衛が大勢こちらを見ている。わしが見ても手練れだと分る連中だ。しかたない、ここは引き下がろう。
中央市場か。庶民向けの市場などと思っていたが、ここも混雑しているな。貴族のわしが通るのだぞ道を空けろ。
何かないかと物色していると、香辛料を扱っている店があった。店構えからして大量というわけでもないが、ここの店で扱う分だけでも持って帰られれば、税収の損失を補うくらいになるだろう。せいぜい高く売りさばいてやる。
店主は、提示した価格では安すぎるとごねている。お前らの利益なぞ知ったことか。お、この娘はダーコラ国へ売ればそこそこの値にはなりそうだ。補填の足しにはなるだろう。
ごねる店主を持っていた杖で殴る。ざまぁみろ、わしに逆らうからだ。
娘までわしに逆らうか? こいつも体に分らせてやろうと杖を振ると、それを受け止めたガキがいた。
バッセンベルの貴族を馬鹿にするか! 護衛に切るように命じた。なに、わしは貴族でこのガキは見た目はどう見ても平民。あとでどうとでも言いつくろえるわ。
…確実にその体で剣を受けたはずのガキは、血も吹き出さずに起き上がってきた。護衛が手加減したのかと思ったが、護衛は再度ガキに斬りかかっていった。
なんと、剣を素手で受け止めただと? そんななまくらの剣でわしを護衛していたのか?
ガキが、護衛の手首を掴んだ。と言うより、手袋の方をくしゃっと握っただけのように見えた。
ただ、同時にゴキンとなにかが砕けるように音がする。
「グギャァァァー」
護衛が悲鳴を上げる。おのれ何をした!
騒ぎを聞いて来たのが、アイゼンの小倅だ。乱暴狼藉?そんなの貴族の特権の範疇だろ! と騒ぐが。アイゼンの騎士に引きずられるように連れて行かれ、貴族街にあるバッセンベル領の領館に放り込まれた。
領館の文官が、騎士から話を聞いて青くなっている。
くそ!領館長を呼べ!。領館長も私と同じバッセンベル領の貴族だ、話が通じるはず!
くそ!くそ!クソ! 皆でわしを馬鹿にしよって!
不平等取引の強要、人身売買、殺人教唆。わしをエイゼル市で収監するか、バッセンベル領側で賠償金を払えと言われたそうな。
このままではバッセンベル領のの恥だということで、領館が金を払ってくれたが。請求はそのまま実家に回される。このままでは勘当されるだろう。
手元には、辛うじて滞在費が多少残っている程度で、もう後がない。
噂で聞いた。あのガキがアイズン伯爵の客人だ?あの黒髪のガキが? そんな子に切りつけて賠償金で済んだのだから運が良いだと?
聞けば、貴族でも何でもないという。なんであんな奴が?
あいつのせいだ。
なんとかあいつに謝罪させてアイズンらに責任を取らせて、賠償としてエイゼル領から交易の権利が得られれば、実家も私を見直すはず。
あの護衛は、右手首を半分砕かれていた。治っても、辛うじて日常生活は送れる程度で二度と剣は握れないらしい。ガキ一人斬れない役立たずめ。
手持ちの金で雇えるのは、チンピラくらいだ。バッセンベル領から流れてきたやつらが、街の外れてくすぶっていると聞いたな。あいつらに声をかけるとするか。
あのガキの定宿は、既に突き止めてある。ふん。客とか言いつつ、貴族街にも入れて貰えていないのか。
・Side:ブライン・エイゼル・アイズン
ユルガルムから戻られた父上から話を聞いたときは、半信半疑だった。ただ、ツキシマ・レイコ嬢が巫女かどうかはともかくとしても、小竜の存在は、見たことの無い生き物という時点でごまかしようがない。
一度接触しておきたいと思っていたところ、レイコ嬢一向が中央市場に来ているという。たまたま市場近くの役所に来ていたので、様子を見に足を伸ばした。
サッコの奴め。数日前にいきなり押しかけてきて、バッセンベルとの交易をするためにこの街の商会を紹介しろなど騒いでいたが。交易とは、単に品物を右から左に動かせばいいという物ではない。どうせ、安く仕入れて高く売れば儲かる程度の考えだろうが、安く仕入れるのにも高く売るのにも才覚が必要だ。とてもじゃないが、彼奴にそんな能力があるようには思えない。
商会へも直接押しかけたそうだが、追い返されたようだ。その後どうしていると思ったら、市場で小売りの商人を脅しているとは。
あの馬鹿、店主を殴ったぞ。娘が店主を庇っている。さらに杖で殴ろうとしていたので、流石に止めに入ろうとしたところ、黒髪の少女が飛び出していた。
「その行動のどこに為政者たる貴族の資質があると?」
啖呵を切る少女。正論ではあるが、馬鹿を煽ると危険だぞ!。馬鹿の護衛が剣を抜いた。騎士に指示して止めようとしたが、間に合わない!
ザン!
切られた少女が飛ばされた!。なんということだ!
と思ったが。少女はむくっと起き上がる。服は切れているようだが、血が出ている雰囲気はない。
剣士がさらに剣を振り下ろすが。驚くことに少女はその剣を素手で受け止めた。そして、空いている手でその剣士を手首を握ると、
ゴキン!
「グギャァァァー」
そう言えば、ダンテ騎士が言っていた。ツキシマ・レイコ嬢の身体強化は達人を越えていると。
手首を握りつぶされたらしい剣士は悶絶している。
「バッゼンベルの貴族に対するこの狼藉、どなるかわかっているのか?」
馬鹿がまだ何か喚いている。さすがにもう収拾してしまおう。
馬鹿は、貴族街にあるバッゼンベル領邸に連行させた。当然、口頭でも領館に抗議は入れておく。
そろそろ昼だ。本当なら、偶然を装って食事にでも誘って、いろいろ話を聞いて見たかったのだが。先にこちらの始末をしないといけないか。
父は、ユルガルムからの帰り道に毒殺されかけている。
あの後の調査で、タシニのパン屋は、単に行商の商人から砂糖を買っただけだというのが分っている。伯爵様がこの街に来られているのなら、これでお菓子でも作って召し上がっていただいては? と言われたそうだ。
残っていた砂糖を回収して調べさせたところ、確かに毒入りだったそうだ。この行商人とやらがバッゼンベル領の関係者という証拠は皆無だが。用心するに越したことはない。
件のパン屋の婦人は、他に特に不審な点もないので。エイゼル市に菓子の研修の名目で、しばらくこちらに避難して貰う手はずになっている。行商人に接触した唯一の人間だからな。
サッコ・ジムールなるバッゼンベル領の馬鹿が、この毒殺未遂の関係者とは思えない。頭が悪すぎる。
ただ、こいつがここに来たのが、エイゼル市に対する嫌がらせの一環である可能性はそこそこあるだろう。油断せずに、監視して、泳がせるか。
こいつがまだ何かやらかすのなら、それはそれでバッゼンベルに対する手札になる。
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