玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
43 / 339
第1章 エイゼル領の伯爵

第1章第041話 明日からの予定

しおりを挟む
第1章第041話 明日からの予定

・Side:ツキシマ・レイコ

 アイリさん、タロウさん、エカテリンさんにしろしろ質問しながら、市場を一通り回ったころ。遠くから鐘の音が聞こえる。

 カーンコーン、カーンコーン、カーンコーン。

 「あれは、貴族街の教会の鐘。ちょうどお昼の合図ね」

 「さすがに腹減ったな。こんだけ食い物があるところ歩いているのに」

 「城門前の広場に行かないか?あそこの屋台は良いのが揃っているし、景色も良いぞ」

 緩い上り坂の、石畳の道が、河岸から城塞の門まで続く。ここがこの街のメインストリートだそうで。左右には大きな商会とおぼしき数階建ての建物が、壁のように並んでいる。一階部分を店舗としているところも多いらしく、豪華な衣服などが並んでいる店もある。

 城門の前は、馬車のロータリーになっている。もちろん貴族は馬車で中に入れるが。ここで降りて中に入る人も多い。通いの文官のようですね。
 ロータリーの横は、城壁に沿って公園のようになっている。ここは河岸より高いところにあるので、柵が手すりのように張り巡らされてます

 植木やら花壇もあり、市民の憩いの場になっているようで、けっこう人も多く、屋台が結構出てますね。

 「騎士宿舎は中にあるけど。昼休みなんかは、しょっちゅうここまで食べに来るんだ」

 とエカテリンさん。良く見ると、騎士の格好をしている人も何人かいる。

 「アイリたちは、先にちょっと場所取りしといてくれ。食い物はお任せで良いよな?」

 屋台と合わせて、一区画がフードコートのようになっている。机に長椅子が並んでいるので、アイリさんと空いているところで待つとことにした。

 エカテリンさんというと、お気に入りらしい屋台で買い物中。
 トレイを借りて、それに買った物を乗せて持ってきてくれた。

 「わりい。飲み物は別屋台なんて、もうちょっと待ってくれ」

 バケットサンドというやつかな。フランスパンを開いて具を挟んで、一人分ずつに切り分けた感じのサンド。
 野菜と魚を炒めたものに、ソースがかかっている。結構なボリュームだ。
 ただし問題が一つ。

 エカテリンさんが、今度は飲み物を持って戻ってきた。果物のジュースっぽい。
 さて戴きます…の前に。

 「エカテリンさん。レッドさんにこれ一つは無理かな。あと、私にもこれはちょっと多いです」

 エカテリンさんお気に入りってのは、このボリュームもあるのだろう。
 五人分買ってきたのは良いけど。さすがに私に一つ丸ごとは厳しいかな。レッドさんも同じく。

 エカテリンさんは、買ってきた店に行って、一つのサンドを三等分に斬ってもらった。それをわたしが二つ、レッドさんが一ついただくことにします。
 余ったサンド一つ丸ごとはどうなるかと言えば、エカテリンさんが責任持って召し上がるそうです。相変わらず健啖ですね。



 柵の側と言うことで、高台となっている公園からは街が一望できます。南の方には港が見えていて、結構な数の帆船が停泊しています。ガレオン船みたいのやら、すらっとした長い船など、いろいろ泊まっています。
 港は浅い湾のようになってるのですが。その湾に蓋をするような感じで島があるのが見えます。全景が見渡せるわけでは無いが、大阪湾に対する淡路島? そこまででかい島じゃ無いか。島の岸もはっきり見えるので、大きさは半分以下でしょうね。呉に対する江田島あたりの方がぴったりかも。
 その島が天然の防波堤みたいになっている感じかな。船が停泊するにはぴったりな場所でしょう。

 港から川沿いに上流方向までに建物が続いています。川の対岸にも街が拡張し続けているようです。
 人と富が集まり、それがまた人と富を呼ぶ。そういうスパイラルにうまいこと乗っている街です。
 ギルドの銀行機能でも思ったけど。これだけの施政が出来ているアイズン伯爵って、すでにチートなんじゃ無かろうか? 彼一人で全てを成したとまでは言わないですが、人材を集める能力にも優れているように思える。

 うん。この街が気に入りました。ここに住んで、もっといろいろ見て回りたいな。



 宿への帰りは、ギルトの連絡馬車に同乗させて貰うことが出来きました。私自身はいくらでも歩けるんだけど、アイリさんがちょっお疲れ。

 ファルリード亭に付いたら、キャラバンでも一緒だった騎士が二人待ってました。一人は料理騎士の人です。エカテリンさんと私の護衛を交代して、隣の部屋に宿泊するそうです。しかも交代で不寝番。なんか申し訳ないですね。
 まぁこんななりでもレディーですので、男性と同室は論外。部屋の前で歩哨というのも、宿なので遠慮。妥協して隣室で待機だそうです。壁を叩けば、すぐに来てくれるそうです。

 そもそも私もレッドさんも護衛は必要ないけど。トラブル避けはしばらく付けておいた方が良いとはタロウさんの言。
 昼間のおっさん貴族についての報告も、料理騎士さんから伺ったけど。私のことを把握してとかエイゼル領への嫌がらせではなく、ほんとうにただ一人で馬鹿をやっただけのようで、心配する対象では無いのだけど。逆に、あれに関わったことで、こちらに注意が向く可能性もあるとかで。しばらくは注意はして欲しいとのことです。



 とりあえず、今日の一行プラス騎士二人で、夕食を取ることにしました。

 この宿"ファルリード亭"は、美味しい食事も評判で。キャラバンで噂を聞いていた料理騎士の人は、一度ここに来てみたかったそうな。
 流石に今夜は酒は飲まないけど、いろいろ料理を頼んでは、出てきた料理について運んできたモーラちゃんに聞いて
ます。モーラちゃんに聞いてもしょうがないのでは?とは思ったけど、結構詳しく説明出来ていますね、この子。

 明日からの予定については、アイリさんから提案がありました。明日、六六の学校の授業の一環として、ギルドで護衛クランの人による講義があるそうで。この世界についての常識がまだまだ足りない私には丁度良いのでは?ということて、私も参加することにしました。
 内容は、キャラバン護衛業の実際。ギルトの仕組みやキャラバンとの契約、野生の動植物やいざというときの対処方など、多岐にわたるそうです。魔獣とか野生動物の知識は、都市部では余り必要ないけど、農村ともなれば必須。仕事の受け方なども含めて、生活の根本に必要な知識としてまず学んでおいた方が良いというアドバイスです。
 他にも、ギルド登録の護衛を対象とした法律やら、国についての基礎知識等のいろんな講義が連日あるそうで。しばらくはそれらをつまみ食いすることにしました。勉強々々です。

 アイリさんは、今夜は自宅へ戻ります。名残惜しそうでしたけどね。
 それをタロウさんが送っていきます。紳士ですね。

 今夜は、レッドさんと寝ます。一人と一匹で休むのは、ここに来て初めてかも。
 レッドさんの静かな呼吸を聞きつつ、私も眠りに落ちました。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。 もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。  ◆ 十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。 彼女が向かったのは神社。 その鳥居をくぐると――?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...