玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
22 / 339
第1章 エイゼル領の伯爵

第1章第020話 タシニの街

しおりを挟む
第1章第020話 タシニの街

・Side:ツキシマ・レイコ

 朝だ~。
 明るくなってきたかな?という頃には皆さん起き出して、出発の準備に取りかかっているようだ。
 まだもにゅもにゅしているアイリさんから抜け出して、馬車の戸を開ける。
 皆さん、馬や馬鳥の餌と水やり。野営装備の片付け。朝食の準備と、忙しく動いている。
 どうも私に気を使って、起こしに来なかったようです。レッドさん、アイリさん、エカテリンさん、そろそろ起きましょうよ。

 ちなみに、タロウさんは私たちのために、馬車の前で寝ていたらしい。まぁこのキャラバンには不届き者はいないだろうとのことだけど。うん、紳士だね。

 朝食は、パンと、干し肉や野菜にイモのスープで、簡単に済ませる。簡単でも、ちょっと肌寒い朝には、暖かい料理はありがたいですね。前日から仕込んであったスープは特に美味しかったです。
 馬を馬車に繋げて、出発です。

 天気は、少し雲が多いが良い感じに日も差すし、風も気持ちいい。街道は河沿いに延びています。
 平野と森を挟んで、東西に山地が見え。さらに西の彼方には、雪を戴いた山脈も見える。赤井さんに送ってもらうときに越えてきた山脈だ。またあそこに行く日はいつになるのだろう?
 ここまで自然しか無い風景ってのは、日本じゃ見れなかったですね。写真撮ってSNSに投稿したいくらいです。

 今日は、馬車の中ではなく御者席に座らせてもらいました。レッドさんは、馬車の上に陣取って、馬車の揺れに合わせて「クック。クック」とご機嫌です。人より多くの感覚を持っている彼には、今見えている光景は私以上に興味津々のようです。
 街道は、なるだけ凸凹を避け、河に近づいたり遠ざかったりして続く…
 途中、キャラバンは昼休憩をとりますが。ここは宿営地ではないので休憩と保存食で済まします。あとは馬たちに水やりだけですね。

 街道は少し西寄りに向きを変え、進んでいるとだんだん西の山地が近づいて来る。太陽が西に傾き始めたころ、低い丘を迂回したところで前方に街が見えてきました。

 「あの山のくぼんだところあるだろ? あそこに街道が通っていたんだけど。んー、北斜面が崩れたって聞いたけど、その右にあるちょっと高い山な、多分あそこらへんだな、崩れたのは」

 脇を馬に乗っていたエカテリンさんが、西の山地を指して説明してくれる。ちなみにアイリさんは馬車の中だ。

 「ユルガルム領からは、あの山の向こう側を通った方が近道なんだけどな。崩れたところからちょっと離れたところに馬くらいら通れる道はあるんだけど、馬車はこちら側を遠回りさ。まぁそのおかげでレイコちゃんを拾えたわけだけどな。…偶然かな?これ。…赤竜神様、これ知っていたのかね?」

 エカテリンさん鋭いね。…私も、たぶん赤井さんは知っていたと思います。

 街道が少し高台にさしかかったところで、ここからはタシニの様子がよく分る。
 河が中心を流れ、高くても三階建てくらいの建物が街の中心部に並んでいて、周囲に民家らしき家が囲んでいる。
 街の周囲には畑が広がり、それを耕すだろう農家の集落が、ぽつぽつとかなりの範囲に散在している。件との山地と街の間には、傾斜しているだけに耕地には向かないのだろうが、牧場のようなものも見える。
 街と言っても、人口は地球のそれとはだいぶ少ないのだろう、数千人いるかな?という感じではあるが。まさにヨーロッパの農村といった雰囲気だ。

 河の支流に架かった橋が、検問所のようになっている。ジャックさんとダンテ隊長が、検問の兵と話すとすぐに通行許可が出たようです。

 キャラバンの荷馬車は、待機所となっている町外れの広場に移動していくが。私たちが乗っている馬車の方はキャラバンから一旦別れて、街の中心に入ってく。馬に乗ったダンテ隊長とタルタス隊長、彼らの部下数人が周囲についている。
 しばらく行くと、庭付き三階建て、周囲より立派な屋敷のある敷地に入っていきます。

 建物の入り口に馬車が付けられ戸が開く。足場が持ってこられて、ダンテ隊長に手を出された。
 まるでお姫様?と思いつつ、その手を取り降りると。屋敷の入り口のところに一人の紳士が立っていました。



 歳は50台くらいだろうか。デザインの雰囲気は地球とは違うが、かなり品の良い服を着ている。生地は違うけど、ジャック会頭の服とデザインはそっくり。
 右手で杖を持っている当たり、イギリス紳士の異世界版という感じだろうか。白髪交じりの髪の毛はバックに整えられていて。
 容姿で目立つのは、右頬の傷。目の下から顎に至るまで、刃物によるような痕がある。
 肩から胸元までを覆う、銀色のプレートを付けている。顎当とかゴルゲットとか呼ばれる鎧のパーツがでかくなった感じです。紋章とか、うーん多分だけど勲章の略章みたいなものが付けられていて。そう言えば、ダンテ隊長のは他の騎士より立派だった。どうもこれが、この国で身分を示すもののようですね。

 「赤竜神の巫女様。脚を痛めておりまして、この場で傅くことが能わぬことをお許しください。私、ネイルコード王国にて、伯爵位を賜り、エイゼル領を治めておりますバッシュ・エイゼル・アイズンと申します」

 杖で支えつつ、頭を深く下げて来る。
 私も慌てて、頭の後ろにいるレッドさんを前に抱っこしなおして挨拶に応える。

 「ツキシマ・レイコと申します。この子が赤井…赤竜神から預かったレッドさんです。ツキシマがファミリーネームですが、私は貴族とかではないので。えっと、無理をせずに楽な姿勢になってください」

 流石に、脚が悪い人をそのかっこのまま待たせるのは忍びない。
 そっと、顔を上げた紳士が意外そうな顔をする。身長差があるから、私の目をじっと見下ろしてくる。

 「お気遣いありがとうございます。ツキシマ・レイコ様」

 ニコッとする…本人はしたつもりなのだろうが。多分、頬の傷のせいだろう、作った笑顔がすごい悪人顔のニヤっとなる。うーん、怪我している人にそういう印象持ったらいけないんだろうけど。

 「私なんかには、様も要らないです!」

 「…では、レイコ殿では?」

 「はい…それでいいです」

 なんかこのやり取り、前にやったな。
 なにかを見透かそうという感じで、じっと見てくる。ちょっと胡散臭い物を見る目になっている…ような気もする。
 …嫌われたかな?



 「…レイコちゃんでいいんじゃね?」

 後ろで護衛についていたエカテリンさんがつぶやいた。ダンテ隊長に頭を軽く小突かれていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。 もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。  ◆ 十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。 彼女が向かったのは神社。 その鳥居をくぐると――?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

処理中です...