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第1章 エイゼル領の伯爵
第1章第002話 ロボットじゃないよ、アンドロイド
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第1章第002話 ロボットじゃないよ、アンドロイドだよ。
・Side:ツキシマ・レイコ
何十分経ったのか。赤井さんがトレイを持って部屋に入ってきた。
デカいドラゴンが小さいトレイを持っている様は、ちょっと滑稽だ。
「さて。体の機能が正常なら、そろそろ空腹を認識するころだと思うけど。食事はできるかい?」
と、トレイの高さを下げて、載っている物を見せてくれる。
それは、いわゆる和食御前。ご飯、味噌汁、焼き魚、肉じゃが、漬物。
ぐぎゅるる…
私のお腹が鳴った。見た目だけで美味しいのが分かるような完璧な御前。
「食べれるようだね」
「…いただきます」
さすがにもう病人ではないので、ベットから降りて、テーブルについた。
「いただきます」
三千万年はともかくとしても。実感する時間では、一月前まで流動食、そのあとはほぼ点滴だけで過ごしていたので、ひどく久しぶりのまともな食事。
魚は鯖の塩焼き。パリパリになった皮を破って身を取る。大根おろしも付いているので少しのせて頬張った。旨みのつまった脂がを堪能しつつ、ご飯をひとすくい。
素朴ながら奥の深い味をゆっくり噛み締める。…もう二度と普通の食事は食べられないと思っていた。
食べ終わった頃、最初に思いつくべき疑問が湧いてきた。
「赤井さん、私の体はどうなっているの? 当時の計画ではコンピューター内での"再生"でしょ? ここはバーチャル世界?」
再生されるにしても、インターネットの中からカメラで世界を覗くようなイメージをしていただけに、今の状態は予想外だった。
「れっきとしたリアル世界だよ。ただし地球ではないけどね」
「え?」
「地球からかなり離れた別の恒星系の、第三惑星。海はあるけど生命が発生していない惑星をテラフォーミングみたいなことをして、持ってきた遺伝情報からいろんな生命を再現したのがこの星ね」
星間飛行して、海だけの惑星を発見して、大自然の再生。三千万年も経ったのはこのせい?
「生身では星の海は越えられない。お父さんが言ったとおりになったってことね」
他の星に移住する、人類の夢ではあったけど。恒星間の距離はそのまま時間の壁となって、生身での移動を拒否していた。
冷凍睡眠? 冬眠状態で半年程度ならともかく。完全に冷凍して何百年も完璧な状態で保存して、起きるときには解凍して全細胞を再活動させる、そんなこと出来るわけがない。人間は刺身ではないのだ。
コンピューター制御の宇宙船に遺伝子情報だけを載せて送り出し、居住可能な惑星が見つかったらそこで生命を組み立て直すのが最善。と言うのが、現実的な"播種"の方法としては有力視されていた。
または。人間にこだわらず、人類を継ぐコンピューターベースの新しい存在を生み出す必要がある…と。この辺はお父さんがよく自分の仕事の説明といっしょに話していた。
「月島博士の持論だったね。人工知性を一から作るより、人間の意識をデータ化してコンピューター上で再生した方が早いってのも、そのまま実現したよ」
AIと人間の意識の隔たりも、よく議論の対象になっていた。そもそも意識とはなんぞや?というレベルで定義が難しかったのもあるけど。いろいろ作られたAIは、所詮人間を学習して真似して反応を再現しているだけのまがい物だった。
「じゃあ、この私の体は? クローン?」
「レイコくんの体は、生き物ではなく、僕らがマナと呼ぶ物質で作られている。概念としては、バッテリーとコンピューターとモーターを全部一緒にしたようなナノマシンの集合体とでも思ってくれればいいかな。脳細胞を培養してそこに後から情報を書き込むなんて技術は、結局実現しなかったしね」
コンピューターのメモリとは違い、記憶そのものが脳の構造として作られる以上、人格を含めた脳の情報をコピーするには、神経細胞の位置からシナプスの接続までを全て分子レベルで同じように再現する必要があり、メモリカードにデータを書き込むように行かない。CPUにプログラムを走らせるのではなく、CPUの回路そのものをプログラミングするようなものだ。
「…定義としてはロボットってことかな?」
「ロボットじゃないよ、アンドロイドだね」
赤井さんが、どっかで聞いたようなフレーズでクスクス笑う。
「玲子の記憶を持つアンドロイド…」
「そんな悲観しなくてもいいよ。その辺の同一性については、散々議論しただろ。僕だって、この体はマナで出来ているんだし。我思う、故に我あり。これが大原則」
「…どうして子供の体なの?」
自分の子供の頃なんて碌に覚えていないし。あったはずの右腕のほくろも左手の天ぷら油が爆ぜたときの小さな火傷の後もない。
鏡は見ていないけど、雰囲気的に十歳未満にしか思えない。
「ふーむ、消去法だね。まず申し訳ないけど、その体では子供を産むことは出来ない。君の遺伝子情報は残っているので、子供を製造をすることは出来るけど、流石にその辺は抵抗があるだろ?」
「また直接的な表現で…」
「ははは。一応、あの後僕は結婚して、子供も三人いたし。今際の際には孫ひ孫あわせて二十人くらい揃ってたくらいだから。変な性癖の話じゃないよ」
赤井さんは結婚していた。まぁ、別に恋愛関係ではなかったからさほど思うところはないんだけど。…まぁいいや。
「この星の住人の基準からしても、君は結構美人だけど。そういう女性が恋愛沙汰になっても、不毛だし。妙齢の女性だからこそいろいろトラブルの元になることが考えられる。なにせ寿命がないからね、その体は。かといって老婆や幼児や男になったりというのも違うだろ? 暮らし易くを考えて、消去法的にその姿というわけ」
「と言うことは。この星には社会がすでにあって、私にその街とかで生活しろってこと?」
全く別の星でどのような文明や文化が育ったのか、それはそれで面白そうではあるけど。
「まだ中世レベルだけど、先は長いからね。そこで好きなように暮らしてくれれば良いさ。」
「…まるで異世界転生ものの小説みたいね」
「異星で再生だけどね。知識チートも武力チートも、お好きなように」
「武力チート?」
またにやっと笑う赤井さん。
「その辺を明日からでも教習するから、楽しみに。今はチュートリアルだからね」
--------------------------------------------------------------------
…本物の鳥坂先輩を目撃したことがあります。
本物ですか?と聞いたら、指立てられましたww
・Side:ツキシマ・レイコ
何十分経ったのか。赤井さんがトレイを持って部屋に入ってきた。
デカいドラゴンが小さいトレイを持っている様は、ちょっと滑稽だ。
「さて。体の機能が正常なら、そろそろ空腹を認識するころだと思うけど。食事はできるかい?」
と、トレイの高さを下げて、載っている物を見せてくれる。
それは、いわゆる和食御前。ご飯、味噌汁、焼き魚、肉じゃが、漬物。
ぐぎゅるる…
私のお腹が鳴った。見た目だけで美味しいのが分かるような完璧な御前。
「食べれるようだね」
「…いただきます」
さすがにもう病人ではないので、ベットから降りて、テーブルについた。
「いただきます」
三千万年はともかくとしても。実感する時間では、一月前まで流動食、そのあとはほぼ点滴だけで過ごしていたので、ひどく久しぶりのまともな食事。
魚は鯖の塩焼き。パリパリになった皮を破って身を取る。大根おろしも付いているので少しのせて頬張った。旨みのつまった脂がを堪能しつつ、ご飯をひとすくい。
素朴ながら奥の深い味をゆっくり噛み締める。…もう二度と普通の食事は食べられないと思っていた。
食べ終わった頃、最初に思いつくべき疑問が湧いてきた。
「赤井さん、私の体はどうなっているの? 当時の計画ではコンピューター内での"再生"でしょ? ここはバーチャル世界?」
再生されるにしても、インターネットの中からカメラで世界を覗くようなイメージをしていただけに、今の状態は予想外だった。
「れっきとしたリアル世界だよ。ただし地球ではないけどね」
「え?」
「地球からかなり離れた別の恒星系の、第三惑星。海はあるけど生命が発生していない惑星をテラフォーミングみたいなことをして、持ってきた遺伝情報からいろんな生命を再現したのがこの星ね」
星間飛行して、海だけの惑星を発見して、大自然の再生。三千万年も経ったのはこのせい?
「生身では星の海は越えられない。お父さんが言ったとおりになったってことね」
他の星に移住する、人類の夢ではあったけど。恒星間の距離はそのまま時間の壁となって、生身での移動を拒否していた。
冷凍睡眠? 冬眠状態で半年程度ならともかく。完全に冷凍して何百年も完璧な状態で保存して、起きるときには解凍して全細胞を再活動させる、そんなこと出来るわけがない。人間は刺身ではないのだ。
コンピューター制御の宇宙船に遺伝子情報だけを載せて送り出し、居住可能な惑星が見つかったらそこで生命を組み立て直すのが最善。と言うのが、現実的な"播種"の方法としては有力視されていた。
または。人間にこだわらず、人類を継ぐコンピューターベースの新しい存在を生み出す必要がある…と。この辺はお父さんがよく自分の仕事の説明といっしょに話していた。
「月島博士の持論だったね。人工知性を一から作るより、人間の意識をデータ化してコンピューター上で再生した方が早いってのも、そのまま実現したよ」
AIと人間の意識の隔たりも、よく議論の対象になっていた。そもそも意識とはなんぞや?というレベルで定義が難しかったのもあるけど。いろいろ作られたAIは、所詮人間を学習して真似して反応を再現しているだけのまがい物だった。
「じゃあ、この私の体は? クローン?」
「レイコくんの体は、生き物ではなく、僕らがマナと呼ぶ物質で作られている。概念としては、バッテリーとコンピューターとモーターを全部一緒にしたようなナノマシンの集合体とでも思ってくれればいいかな。脳細胞を培養してそこに後から情報を書き込むなんて技術は、結局実現しなかったしね」
コンピューターのメモリとは違い、記憶そのものが脳の構造として作られる以上、人格を含めた脳の情報をコピーするには、神経細胞の位置からシナプスの接続までを全て分子レベルで同じように再現する必要があり、メモリカードにデータを書き込むように行かない。CPUにプログラムを走らせるのではなく、CPUの回路そのものをプログラミングするようなものだ。
「…定義としてはロボットってことかな?」
「ロボットじゃないよ、アンドロイドだね」
赤井さんが、どっかで聞いたようなフレーズでクスクス笑う。
「玲子の記憶を持つアンドロイド…」
「そんな悲観しなくてもいいよ。その辺の同一性については、散々議論しただろ。僕だって、この体はマナで出来ているんだし。我思う、故に我あり。これが大原則」
「…どうして子供の体なの?」
自分の子供の頃なんて碌に覚えていないし。あったはずの右腕のほくろも左手の天ぷら油が爆ぜたときの小さな火傷の後もない。
鏡は見ていないけど、雰囲気的に十歳未満にしか思えない。
「ふーむ、消去法だね。まず申し訳ないけど、その体では子供を産むことは出来ない。君の遺伝子情報は残っているので、子供を製造をすることは出来るけど、流石にその辺は抵抗があるだろ?」
「また直接的な表現で…」
「ははは。一応、あの後僕は結婚して、子供も三人いたし。今際の際には孫ひ孫あわせて二十人くらい揃ってたくらいだから。変な性癖の話じゃないよ」
赤井さんは結婚していた。まぁ、別に恋愛関係ではなかったからさほど思うところはないんだけど。…まぁいいや。
「この星の住人の基準からしても、君は結構美人だけど。そういう女性が恋愛沙汰になっても、不毛だし。妙齢の女性だからこそいろいろトラブルの元になることが考えられる。なにせ寿命がないからね、その体は。かといって老婆や幼児や男になったりというのも違うだろ? 暮らし易くを考えて、消去法的にその姿というわけ」
「と言うことは。この星には社会がすでにあって、私にその街とかで生活しろってこと?」
全く別の星でどのような文明や文化が育ったのか、それはそれで面白そうではあるけど。
「まだ中世レベルだけど、先は長いからね。そこで好きなように暮らしてくれれば良いさ。」
「…まるで異世界転生ものの小説みたいね」
「異星で再生だけどね。知識チートも武力チートも、お好きなように」
「武力チート?」
またにやっと笑う赤井さん。
「その辺を明日からでも教習するから、楽しみに。今はチュートリアルだからね」
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…本物の鳥坂先輩を目撃したことがあります。
本物ですか?と聞いたら、指立てられましたww
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