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第1章 エイゼル領の伯爵
第1章第001話 お決まりの知らない天井
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第1章第001話 お決まりの知らない天井
・Side:ツキシマ・レイコ
目が覚めると、見知らぬ板張りの天井が目に入った。
「…ここはどこ?」
知らない天井…最初に浮かんだのがお決まりのセリフで面はゆい。でも言わないわよ。
病院の天井は白いライトパネル貼りだったはずだけど、今見えているのは木造の天井。私はログハウスっぽい部屋のベットで寝ていた。ただ、一部屋にしてはかなり広く、まるで体育館かという感じで天井が高い。
「私、死に損ねたのかな?」
最後の点滴を思い出して、腕をさする。けど、そのときには感じていたはずの体のだるさは全くなく、何ヶ月ぶりかにむしろ軽快。
差し込む明るさに右を見ると、ガラス張りの広い窓がある。外には先ほど見たような感じで山河の絶景が広がっていた。
「目が覚めたかい?」
びくっとして窓とは反対側を見ると、そこには大きなリクライニングソファーに座ってタブレットで何かを読んでいる赤いドラゴンがいた。
「びっくりさせてすまないね。眼鏡をかけたら雰囲気が和らぐと思ったんだけどな。」
立てば今の私の背の倍はあろうドラゴンが、お腹を上にして足を組んでソファーにもたれかかっている風景は、結構シュールだ。
そのドラゴンは、タブレットを脇のテーブルに置いて起き上がり、ベットの脇にノシノシとやってきた。
ドラゴンの見た目はちょっと恐かったけど。会話が出来る知性あるとなると話は別だし。それにこの声には聞き覚えがある。
「玲子君、気分はどうだい?」
ドラゴンはイタズラっぽく微笑んだ。口に牙が並んでいるのが見える。やっぱりちょっと恐い。
ただ、口は殆ど動かさずに声を出している。
「ん? 玲子君?」
私を君付けで呼ぶ人は、数えるほどしかいないし。この声は…ん?赤いドラゴン?赤井だけに?…まさか。
「…もしかして、赤井さん?」
「はっはっは。ご名答!」
うれしそうに牙を剥き出しにするドラゴン。
「…赤井さんだから赤いんですか?」
「あははは。それはたまたま! まぁこの姿はいろいろ考えが合ってね。けっこういけてるでしょ?」
巨体がその場で一回転する。尻尾危ないです。
「…私がこうしているって事は、スキャナーの結果がうまくいったって事でいいんでしょうか?」
「解析にかなり時間がかかったけどね。うん、相当かかったよ。なにせ最初期のスキャナーだったからね。データがかなり不完全で、そこから再現するのは、かなり苦労したよ」
「不完全?」
ちょっと心配になってきた。
「うん。今の玲子君は、百パーセントがオリジナルと同じとは言えない。何をもって同じとするかにもよるけど、大体八割くらいだと思ってくれていいよ。残りの部分はまぁ、推測やら当時の記録から推測して補完してある。ただ、覚醒している意識として違和感があるような状態ではないと思うけど。どう?」
両手を見つつ、いろいろ思い出そうとしてみる。病院にいた最後の記憶はあるけど、当時と比べて何かが変わったかと聞かれてもちょっと困る。
「そうだ。今は"いつ"なんですか?」
赤井さんは、また困ったような顔をした。ドラゴンなのに、表情は結構豊かなようだ。
自分のこめかみのあたりをドラゴンの爪でカリカリとかきながら答えてくれた、
「…驚かないでくれよ。あの時からは三千万年ほど経っている」
「…はい?」
耳に入った数字を疑った。
「三万日とかではなく、三千万?」
「そう、三千万年」
「一億年の三割の三千万年?」
「その、三千万年」
恐竜が絶滅したのが六千五百万年前。その半分近くの時間が経っている?
「そうだ、お母さんっ! お母さんはどうなったの?」
この質問に、赤井さんは再度困ったような顔になるが、テーブルに置かれていたタブレットを持ってきた。赤井さんが簡単に操作すると、そこに一枚の写真が表示された。
一人の白髪の老女、八十歳くらいだろうか。品の良いスーツを着て椅子に座っている。
その周りには、数十人の老若男女。卒業式の記念写真のようにも見えるけど、周囲の人の年齢は結構バラバラのようだ。
「あのあと君のお母様は、持っていた教師免許で中学校の教師になったんだ。出身地の学校で教鞭を執られて、定年後も非常勤として勤められていた」
写真の背景には、「月島先生、お疲れ様でした」との横断幕。
「引退する最後の授業の日には、教わった生徒達が集まってくれて。これはそのときの記念写真ね。ちなみにこれを撮影したのは僕」
赤井さんも横から、懐かしそうに写真を眺めている。
「お母様は、この写真の八ヶ月後に亡くなった。お葬式にはその写真の教え子らが、たくさん参列してくれたよ」
母が亡くなった。既に遙か昔、当たり前ではあるけど、言葉にされるとショックだった。私の記憶では、ついさっきお別れしたばかりなのに。
写真の中の母。老けたけど、確かに母だ。うれしそうに微笑んでいる。周りの人たちも微笑んでいる。
タブレットの母を撫でると、他の写真に変わった。宴会の最中の写真だろう、母はうれしそうに笑っていた。
私が死んで一人になって…それが心残りだったけど。寂しくはなかったんだと思うったら、ちょっとホッとした。
それでも…
赤井さんは、私の頭をポンポンと叩くと、静かにその部屋を出て。しばらく私を一人にしてくれた。
…悲しいとはちょっと違う。母が天寿を全うしたと分かって、寂しくは無かったんだろうと分って。ホッとした…けど。
ただ、置いていかれた感じがして少し寂しかった。"あの日の私"は、お母さんにも会えたのだろうか? お母さんはお父さんに会えたのだろうか?
------------------------------------------------------------------------
ハビタブルゾーンにある惑星なら、だいたい第三くらいになるよね?ということで。未来の地球ではありません。
・Side:ツキシマ・レイコ
目が覚めると、見知らぬ板張りの天井が目に入った。
「…ここはどこ?」
知らない天井…最初に浮かんだのがお決まりのセリフで面はゆい。でも言わないわよ。
病院の天井は白いライトパネル貼りだったはずだけど、今見えているのは木造の天井。私はログハウスっぽい部屋のベットで寝ていた。ただ、一部屋にしてはかなり広く、まるで体育館かという感じで天井が高い。
「私、死に損ねたのかな?」
最後の点滴を思い出して、腕をさする。けど、そのときには感じていたはずの体のだるさは全くなく、何ヶ月ぶりかにむしろ軽快。
差し込む明るさに右を見ると、ガラス張りの広い窓がある。外には先ほど見たような感じで山河の絶景が広がっていた。
「目が覚めたかい?」
びくっとして窓とは反対側を見ると、そこには大きなリクライニングソファーに座ってタブレットで何かを読んでいる赤いドラゴンがいた。
「びっくりさせてすまないね。眼鏡をかけたら雰囲気が和らぐと思ったんだけどな。」
立てば今の私の背の倍はあろうドラゴンが、お腹を上にして足を組んでソファーにもたれかかっている風景は、結構シュールだ。
そのドラゴンは、タブレットを脇のテーブルに置いて起き上がり、ベットの脇にノシノシとやってきた。
ドラゴンの見た目はちょっと恐かったけど。会話が出来る知性あるとなると話は別だし。それにこの声には聞き覚えがある。
「玲子君、気分はどうだい?」
ドラゴンはイタズラっぽく微笑んだ。口に牙が並んでいるのが見える。やっぱりちょっと恐い。
ただ、口は殆ど動かさずに声を出している。
「ん? 玲子君?」
私を君付けで呼ぶ人は、数えるほどしかいないし。この声は…ん?赤いドラゴン?赤井だけに?…まさか。
「…もしかして、赤井さん?」
「はっはっは。ご名答!」
うれしそうに牙を剥き出しにするドラゴン。
「…赤井さんだから赤いんですか?」
「あははは。それはたまたま! まぁこの姿はいろいろ考えが合ってね。けっこういけてるでしょ?」
巨体がその場で一回転する。尻尾危ないです。
「…私がこうしているって事は、スキャナーの結果がうまくいったって事でいいんでしょうか?」
「解析にかなり時間がかかったけどね。うん、相当かかったよ。なにせ最初期のスキャナーだったからね。データがかなり不完全で、そこから再現するのは、かなり苦労したよ」
「不完全?」
ちょっと心配になってきた。
「うん。今の玲子君は、百パーセントがオリジナルと同じとは言えない。何をもって同じとするかにもよるけど、大体八割くらいだと思ってくれていいよ。残りの部分はまぁ、推測やら当時の記録から推測して補完してある。ただ、覚醒している意識として違和感があるような状態ではないと思うけど。どう?」
両手を見つつ、いろいろ思い出そうとしてみる。病院にいた最後の記憶はあるけど、当時と比べて何かが変わったかと聞かれてもちょっと困る。
「そうだ。今は"いつ"なんですか?」
赤井さんは、また困ったような顔をした。ドラゴンなのに、表情は結構豊かなようだ。
自分のこめかみのあたりをドラゴンの爪でカリカリとかきながら答えてくれた、
「…驚かないでくれよ。あの時からは三千万年ほど経っている」
「…はい?」
耳に入った数字を疑った。
「三万日とかではなく、三千万?」
「そう、三千万年」
「一億年の三割の三千万年?」
「その、三千万年」
恐竜が絶滅したのが六千五百万年前。その半分近くの時間が経っている?
「そうだ、お母さんっ! お母さんはどうなったの?」
この質問に、赤井さんは再度困ったような顔になるが、テーブルに置かれていたタブレットを持ってきた。赤井さんが簡単に操作すると、そこに一枚の写真が表示された。
一人の白髪の老女、八十歳くらいだろうか。品の良いスーツを着て椅子に座っている。
その周りには、数十人の老若男女。卒業式の記念写真のようにも見えるけど、周囲の人の年齢は結構バラバラのようだ。
「あのあと君のお母様は、持っていた教師免許で中学校の教師になったんだ。出身地の学校で教鞭を執られて、定年後も非常勤として勤められていた」
写真の背景には、「月島先生、お疲れ様でした」との横断幕。
「引退する最後の授業の日には、教わった生徒達が集まってくれて。これはそのときの記念写真ね。ちなみにこれを撮影したのは僕」
赤井さんも横から、懐かしそうに写真を眺めている。
「お母様は、この写真の八ヶ月後に亡くなった。お葬式にはその写真の教え子らが、たくさん参列してくれたよ」
母が亡くなった。既に遙か昔、当たり前ではあるけど、言葉にされるとショックだった。私の記憶では、ついさっきお別れしたばかりなのに。
写真の中の母。老けたけど、確かに母だ。うれしそうに微笑んでいる。周りの人たちも微笑んでいる。
タブレットの母を撫でると、他の写真に変わった。宴会の最中の写真だろう、母はうれしそうに笑っていた。
私が死んで一人になって…それが心残りだったけど。寂しくはなかったんだと思うったら、ちょっとホッとした。
それでも…
赤井さんは、私の頭をポンポンと叩くと、静かにその部屋を出て。しばらく私を一人にしてくれた。
…悲しいとはちょっと違う。母が天寿を全うしたと分かって、寂しくは無かったんだろうと分って。ホッとした…けど。
ただ、置いていかれた感じがして少し寂しかった。"あの日の私"は、お母さんにも会えたのだろうか? お母さんはお父さんに会えたのだろうか?
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