13 / 16
『平凡令嬢』、心のメモを開ける
しおりを挟むミランダは先程までひたすらマルクスの今までの行動や気持ちを疑い責めていたのに、いきなり自分の心を聞かれて動揺した。
……私の、気持ち?
学園でマルクスに再会するまでは、確かに彼に好意を持っていた。しかしそれから彼の不実な態度を見てショックを受けて…………私はマルクスの事を、嫌いになった?
ぐるぐるぐる
ミランダの心は大きく揺れる。
……どうしよう。分からない。
そうだ! 昨日ロミルダはなんて言っていた?
ミランダは心のメモ帳を開ける。
『……運命の相手はやる気だけでは見つからないわ。お相手とのタイミングが合わなければ会っていたとしても分からないものなのかも。……きちんとお相手を、そのお心を見て差し上げてね』
マルクスの、心……? そしてタイミング……。
確かに、彼とのタイミングはミランダの学園入学時には全く合わなかった。けれど彼の問題が解決した今、マルクスは真っ直ぐに私を見つめてくれている。
いやいや……。
でもマルクスは彼の知らぬところでとはいえミランダと出会った後婚約者が出来ていた。
そして彼が婚約解消の為に取っていた行動は、私も見ていて『彼のような人とは絶対にない』と思うようなことだったじゃない!
──そう、マルクスとなんて、あり得ないんだから!
そう思ってマルクスを見たミランダはそれでも真っ直ぐに自分を見つめるマルクスに、また思わず目を逸らす。
……えーと。……じゃあさっきお母様は、なんとおっしゃっていた? ミランダはまた心のメモ帳を取り出した。
『……この人はないって思ったのに、何故かお父様がいつも視界に入るの。そしていつの間にか目で追ってしまっていた。そしていつしかお父様と目が合って、お互い少しずつ近付いて……、ふふ。運命って、自然と引き寄せられるものなのかしらね』
引き寄せられる……。
ミランダはまたチラリとマルクスを見た。真っ直ぐな、ミランダを熱く見つめる青い瞳。
……そうだわ。初めて出会ったあのパーティーでも、そして学園でも……。私の視線はいつもマルクスを追っていた。学園での彼の行動を嫌いながらも、それでもいつでも見てしまっていたじゃない。
私の気持ちは……、私はずっと彼の事を……?
急に全てが繋がって、ミランダは自分の気持ちに気が付いた。
……そうなんだわ。私、マルクスのことがずっと好きだったんだ……。
だけど、それを認めるのが怖かった。一度は両思いだと思った彼に冷たくされ更に婚約者もいて……、振り向いてもらえるはずのない彼を想い続けているのが辛かった。そして婚約者がいるのに更に他の女性と仲良くする彼が許せなかった。
……そして今は、彼と婚約してもまた傷付けられるのではないかと恐れているのだわ……。
ミランダは、じっと答えを待ち自分を見つめ続けるマルクスの瞳を見た。
「…………マルクス。私、貴方の事が好きみたい」
ミランダの言葉にマルクスはパッと表情を綻ばせたが、間をおかずミランダは言った。
「……でも! 私は、怖いの……。貴方の心変わりが。私を好きだと言ってくれた貴方が他の女性に微笑みかけるのずっと見て来たわ。私は……この恐怖から逃れられる自信がないの。貴方を……心から信頼できる自信がない」
ミランダは自分がマルクスに対して感じている正直な気持ちを口にした。
「ミランダ……! これからはそんな事はないと誓う。君の不安がなくなるくらい、君だけに微笑むし愛する……いや、私はミランダしか愛せないんだ」
「……『平凡な令嬢』、なのに?」
ミランダは悲しくて、少し潤んだ目でマルクスを見た。
「……ッあれは違うんだ! あの時……ミランダに攻撃的だったマリアンネ嬢の気持ちを抑える為には君を貶める必要があったんだ。だけど、どうしても君の悪いところなんて思い付かなくて、それで苦し紛れに『平凡な令嬢』、などと……。……それにゴニョゴニョ……
(……それにそれでその後ミランダに悪い虫が付かずに済んだし……)」
最後マルクスはボソボソを何かを呟いていたけれど、それはミランダには聞こえなかった。
それよりも、マルクスがミランダを『平凡な令嬢』と呼んだ理由が分かった事で動揺していた。
「え……と……。他に、悪い所を思い付かなかったから、『平凡』?」
そう考えれば、別に『平凡』の何が悪いかと言われれば確かに何も悪くはない。
元々『非凡』な才能があると言われた事も無いしあると思った事も無い。ミランダはすこぶる、普通の令嬢なのだから。
「ミランダの少しソバカスがあって目がクリクリとして私を見つめてくれる薄紫の瞳に胸が高鳴ってしまう。そして周りの話をよく聞いてくれて、笑うと小さくエクボができるのも愛おしい。……自然に、私はミランダに引き寄せられる。君しか、私の心をこんなに揺さぶることは出来ない」
マルクスは、そう言ってミランダの手を取った。
『引き寄せられる』
お母様も言っていた。……そして、今正に自分もマルクスに引き寄せられている。
…………降参、だわ。
『この人だけはない』。……そう思って……いいえ思い込もうと、していたけれど。
「……私も、……マルクス様が……好き。……大好き、なの……」
そう言った瞬間に、ミランダは涙が溢れ出た。
マルクスも一瞬くしゃっと泣きそうな顔をした。それから心からの笑顔になってミランダを引き寄せそっと大切な宝物のように抱き締めた。
ーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます!
ハルツハイム伯爵家の人々は、前日から近くの宿で宿泊しています。
見合いの場で突然会ったのではミランダに受け入れられないかもしれない、と思い詰めたマルクスが時間より先に会いに行きました。
結局はその時もミランダに受け入れられなかった訳ですが……。
本番はもっと気合いを入れて臨んだマルクスでした。
603
お気に入りに追加
741
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました
四折 柊
恋愛
私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる