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『平凡令嬢』、再び向き合う
しおりを挟む家族やハルツハイム伯爵はミランダとマルクスを庭の東屋でじっくり話をさせ、その結果を待つ事にしたようだった。
庭園の中で皆の見守る中2人きりにされたミランダは頭を抱えた。
「その……ミランダ。私は初めて会った時からずっとミランダが好きだ。
さっき父上が話した通り、家で婚約者を定められても君のことがどうしても諦められなかった」
頭を抱えたミランダに構わず、マルクスは熱く語り出した。ついさっき、話しの途中でミランダに逃げられたのでどうしてもきちんと話がしたかったのだ。
「……愛する貴女に冷たくするしかなかった私は毎日が地獄のようだった。少しでもミランダに気のあるそぶりをすれば、彼女が何をするか分からなかった。……実際、私に近づこうとして侯爵令嬢から酷い目にあっていた女生徒も何人かいたんだ。
……そんな時だった。殿下から『あの計画』の話が出たのは」
「……『計画』?」
初めマルクスの話を聞くのが怖く顔を逸らしていたミランダは、『計画』という言葉に思わず反応しマルクスを見た。
マルクスはミランダが自分を向いてくれた事で、更に真剣に話し出す。
「……そう。学園で私は騎士団として身体を鍛えていることから王太子殿下の側近として侯爵令息ブルーノと共に仕えていた。そして幸いな事に私達3人は親友と呼べる程に仲良くなった。
そして毎日落ち込んで過ごす私の、2人は相談に乗ってくれた。……そしてよくよく話を聞けば殿下もブルーノも、婚約者以外に好きな女性がいた。だからといって婚約者が嫌いになった訳ではないし傷付けたい訳でも無い。なんとか円滑に婚約者を傷物にする事なく婚約を解消出来ないか? あの時は3人でそればかりを考えていた。
……そして3年になり私達に近付く新入生がいた。その女生徒は普通の貴族なら立場を考え近付かない殿下や私たちに、それはしつこく付き纏ってきた」
「……それって」
ミランダの頭に、得意げに笑うピンク色の髪の美少女が浮かぶ。
「……そう。セイラ嬢だ。彼女は何度追い払っても悪評を立てられても私たちの婚約者や他の女生徒達に攻撃されても全く動じなかった。
初め呆れて見ていた私たちだったが、ある日殿下は『これはいけるんじゃないか』と言って今回の計画が立てられた」
マルクスはそう言って、チラリとミランダの顔色を窺いながら話を続けた。……これから話す事は決して褒められた事ではないと本人も分かっているのだ。
「『評判の悪いセイラ嬢と仲良くするフリをして自分達の評判を下げ、婚約者達や周囲に呆れられて婚約を解消する』……という計画だ。
勿論、褒められた話でないのは分かっている! しかし私達3人はどうしても婚約者を傷物にせずに婚約解消する術を他には思いつかなかったんだ」
「……確かに、彼女達は世間的には傷物にはならなかったと思う……。だけども、心には深い傷が出来たと思うわ」
ミランダはそう言って涙を浮かばせた目でマルクスを睨んだ。マルクスはズクリと胸が痛む。
「……ッミランダ……。済まない。
けれども、貴族同士の婚約とはいえ、マリアンネ嬢から侯爵家の力で本人の意志関係なしに突然婚約者にされた私の気持ちも分かって欲しい。そしてその後彼女は私の周りの関係のない女生徒達にも非常に攻撃的で、本当に息の詰まる毎日だったんだ。本当はミランダが入学する一年後までに解決したかったのだが」
……まあ確かに。一度会いに行っただけのミランダに対する対応もかなり攻撃的だったけれど。
「けれど、マリアンネ様はセイラ嬢と一緒にいるマルクス様を見て泣いておられました。……本当にお好きだったのだと、そう思います」
ミランダはマルクスを少し責める口調で言ったのだが。
「私も。……私も本当にミランダの事が好きだった。何が違う? 彼女は侯爵家という立場を利用し、伯爵家の私を無理矢理婚約者として私の貴女への愛を打ち砕いた。私のしたことと何が違うのだ?」
ミランダははっとして言葉に詰まった。
「……そして私がミランダに聞きたいのは、貴女が今、私のことをどう思っているのかだ。
ミランダ。……貴女の、今の正直な気持ちを知りたい」
どくん
ミランダの心臓が大きく鳴った。
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