平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん

文字の大きさ
上 下
9 / 16

『平凡令嬢』、縁談のススメ

しおりを挟む
 

 コンコン……


「……入りなさい」


 ミランダはそろりと父の書斎に入り、勧められるままソファに腰を下ろす。
 ここに呼び出される時は、大抵真剣な話だと家族全員が知っている。


 父は何やら書類を持って向かい合わせたソファに腰を下ろした。


「……実はミランダに縁談が来ている」


 ─── やっぱり!!


「お父様……! 私、あと残り一年、もっと必死になって運命の相手を探しますから! お願いですから……お父様とそんなに歳の変わらない方との縁談はお許しください……!」


 ミランダは必死で父にそう願い出た。


「ミランダ、落ち着きなさい。今回の新しい縁談はお前より一つ年上の方だ。……それに以前話した方達は、お前が学園の間にきちんと婚約者探しをする為に話しただけであって、決まりではない」

「えっ! そうなのですか?」


 ミランダは、なんだか力が抜けた。


「ええーと、それでは今新たに縁談が……。ひとつ年上なら今学園を卒業されたばかりですのね。私も存じ上げている方でしょうか?」


 いやでも、学園内でのミランダの評判は芳しくない。何せ『平凡令嬢』なのだから。
 ひとつ年上なら、『平凡令嬢』の噂をいつまでも言っていたあの元クラスメイトではないという事よね? 

 シュミット伯爵は持っていた書類をミランダに渡そうとしていたが、その手を止め少し考える。


「……まあ一度、会ってみるといいよ。おかしな人物でない事は私が保証する。……これは相手の釣書なのだが敢えてまだミランダは見ない方がいいだろう。直接会って、『運命の相手』かどうかを見極めるがいい」


「はぁ……」


 見合い相手に『運命』を求めるのは違う気がする。

 気のない返事をしたミランダだったが、一度会う事は決定していたらしかった。





 ───そしていよいよ明日がお見合いの日!


 ミランダは隣領の友人ロミルダとお茶を飲んでいた。話を聞いて遊びに来てくれたのだ。彼女の領地の屋敷からミランダの屋敷まで馬車で2時間程で来ることが出来る。


「良かったじゃない、ミランダ。私の婚約者にお願いして誰か良い方を紹介してもらおうかと思ってたのよ」

「……ロミルダ。出来ればそのお話も同時進行でお願い。明日会う方が良い方とは限らないでしょう? 残り一年しかないのですもの。良い方をたくさんピックアップしておきたいの!」

「……やる気ね、ミランダ。でも昔から言っているけれど、運命の相手はやる気だけでは見つからないわ。お相手とのタイミングが合わなければ会っていたとしても分からないものなのかも。……きちんとお相手を、そのお心を見て差し上げてね」


 「?」となったミランダだったが、現在相思相愛の婚約者のいるロミルダの言う事だから間違いは無いと心の中でメモを取っておいた。



 そして、お見合い当日──。


 約束の時間まで後2時間以上もあるのに、ミランダはもう完璧に準備が出来ていた。平凡令嬢ミランダでもちょっとは良い感じに変身出来たと本人も満足だった。
 ……しかし時間が近づくにつれミランダは緊張の余りかなりそわそわと落ち着きがなくなり、今はなんだか爆発しそうだった。

 とにかく今まで両親の方針で婚約者選びはせず、ミランダは見合いなど初めてなのだ。


「お……お母様……。私、もうダメだわ。ちょっと庭でも見て落ち着いてくるわ」


「まあミランダ。ドレスを汚してはダメよ?」


 家族皆にドレスや化粧を崩れる心配をされながら、ミランダは庭に出た。


「ふわぁーっ。トム(おじいちゃん庭師)は良い仕事してるわね! うちの庭園はその辺の大貴族の邸宅にも負けてないのよね」


 などと、婚活から少し逃避してしまうミランダ。


 もしや、コレから縁談が入る度にこんなに緊張して会わねばならないのか。いや皆こんな試練を乗り越えて来たというのか。

 婚約が決まるまでコレが繰り返されるという事実に少し気が遠くなるような気持ちに苛まれながら、とにかく花に集中しようとミランダは非常に難しい顔をして美しい花を睨み付けるように見ていた。


「…………そんなに睨み付けて。花が好きだったんじゃなかった?」


「……へ?」


 不意に話しかけられて驚いて横を見ると、そこには先日の卒業パーティーの当事者の1人だったマルクスが立っていた。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

処理中です...