上 下
8 / 16

『平凡令嬢』、婚約解消を目撃する

しおりを挟む




 そんなセイラに背を向け、王太子達3人はそれぞれの婚約者達に向き直った。


 ミランダは勿論、周囲もゴクリと息を呑む。


 そこに、アルペンハイム公爵令嬢が王太子を真っ直ぐに見つめながら前に進み出た。


「王太子殿下。長きに渡り婚約者としてご一緒出来た事。私の誉にございます。
……婚約の解消を、お受けいたします。これからも殿下の未来が輝かしいものであるよう、心からお祈り申し上げます」


 公爵令嬢は、そう言って洗練された美しいカーテシーをした。……憎しみも悲しみも感じさせない、凛としたその姿。

 会場内の人々はその美しさにのまれつつ、この王国の王太子達の婚約解消という事態に静かなどよめきをみせた。


「私も、婚約の解消をお受けいたします。あなた様の未来に幸あることをお祈り申し上げます」

 侯爵令息の婚約者もそう言って美しいカーテシーをした。


 ……そして。

 まだ少し、青い顔をしたマリアンネもマルクスの前に進み出た。


「……私も。……お受け、いたします……。
マル……ハルツハイムさま。今まで、ありがとうございました……」


 マリアンネは涙ながらにそう言って、震えながらもカーテシーをした。
 マリアンネは本当は解消などしたくなかった。……しかし王太子の婚約者である公爵令嬢や侯爵家嫡男の婚約者が婚約解消を受け入れているのに自分だけがゴネる訳にはいかなかった。


 マリアンネのその様子に、ミランダは胸がきゅっと痛む。……その姿は、2年前マルクスに冷たくあしらわれた自分のように思えた。



「……ありがとう。我々も、貴女方のような美しく気高い女性と一時でも婚約者となれていた事を誇りに思う。
貴女達の未来が幸せである事を心から祈り、そしてこれからその助力もしていくつもりだ」


 王太子はそう言って苦しげにしながらも、結果彼らの本願である婚約の解消を叶えたのだった。



 ───そうして、始まりから不穏な卒業パーティーは、かなりの後味の悪さを残しながらも無事に終わったのだった。



 ◇



「……ただいま帰りましたぁ……!」


 終業式も終わり、新学期が始まるまでの長期休みにミランダは王都から遠く離れたシュミット伯爵家の領地に帰って来た。

 卒業パーティーの後味の悪さもあり、今回は妙に疲れていた。


「あら、ミランダちゃんお帰りなさい。待ってたのよ! なんだか学園で大変な事があったらしいわね! そこ詳しく!」


 目を輝かせて聞いてくるのは、兄の妻。兄の運命の相手は噂好きで明るい女性である。
 まあ今回は王太子の婚約者が変わるという、ある意味国の一大事であるので仕方がないか。


「お義姉様がどこまで聞かれたのかは知りませんが、きっとそんなに目新しい情報は無いと思いますよ。
どうやら王太子殿下には他に好きな方がいらして、どうすれば円満に婚約を解消出来るのか悩んだ末の行動だったようでしたから」


 そしてどうやら残る2人の令息も他に好きな人がいたようだ。
 3人が3人とも望まぬ婚約だったが為に、なんとかならないかと話し合い『ならば婚約者に見限られればいい。周りからもコレはダメだと思わせよう』となったらしい。


「……そんな訳で、私はその場には居ましたけれど親しい訳でもありませんので詳しい状況はよく知りません。まあ言わせていただけるなら、3人の元婚約者の方もとりあえず納得されているようですよ。最近の彼らの評判が良くなかった事からお相手の家の方も『婚約解消やむなし』となったようですね」


 ミランダがそう言うと、やはりそれ程目新しい情報が無かったのか義姉は少しがっかりしたようだった。


「……そうだわ! ミランダちゃんの運命の相手はどうなったの? 良さそうな方は見つかった?」


 切り替えの早い義姉は、その後もミランダを質問責めにしたのだった……。




 そしてその日の夕食。
 久々にシュミット伯爵夫妻と兄夫婦、ミランダが揃った食卓では色んな話題に花が咲いた。


 そして食事が終わる頃、

「……ミランダ。後で私の書斎に来なさい」


 父シュミット伯爵が真面目な顔でそう言って席を立った。

 母や兄夫婦、ミランダは顔を見合わす。


 ……もしや、婚約のことなのか? まさかとは思うが残り一年の学園生活ではもう婚約者探しは無理だと諦めて、ミランダの婚約を決められてしまうのか!?


「…………お母様。私……30代半ばの方は、ちょっと……」


 ミランダは以前父に話された婚約者候補を思い出して涙目で言った。


「そうだよ。母上達とそう歳の変わらない方をまだ10代のミランダの相手にというのはどうかと思う」


 兄もミランダに加勢してくれたものの、とりあえずは話を聞いてからと母に父の元へ行くよう促されたのだった。


 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

恋という名の呪いのように

豆狸
恋愛
アンジェラは婚約者のオズワルドに放置されていた。 彼は留学してきた隣国の王女カテーナの初恋相手なのだという。 カテーナには縁談がある。だから、いつかオズワルドは自分のもとへ帰って来てくれるのだと信じて、待っていたアンジェラだったが──

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

処理中です...