5 / 16
『平凡令嬢』、話題の方の婚約者に捕まる
しおりを挟む一瞬現実逃避をしかけたミランダだったが、いやいや自分には全く疾しいことは無いと思い直し答えた。
「……先程、私の座っていた席に王太子殿下方がお見えになりまして。その際、セイラ嬢と話をしていた私に、……マルクス様より『セイラ嬢に近付くな』と……、そう釘をさされておりました」
ミランダがそのままの事実を話すと、マリアンネ侯爵令嬢一行は、『まあ』と苦々しい表情をした。
「あの時私はセイラ嬢から、『あなたのせいで良い席に座れなかった』と責められていたのですが……。その辺りはハルツハイム様はご覧になってはいらっしゃらなかなったようで、余りの事に驚き暫く茫然としていたのです」
ミランダがマルクスやセイラとのやり取りの悔しさをここぞとばかりに主張すると、マリアンネ達の先程までの攻撃的な空気は一変した。
「それは……、本当に申し訳ない事でしたわ。私、マルクス様の婚約者としてお詫び申し上げます」
そう言ってマリアンネは頭を下げた。
……そう、このご令嬢は先程のマルクスの婚約者なのだ。
「シッテンヘルム様……! 頭をお上げください、決してあなた様のせいではないのですから!」
……しまった。彼女の婚約者を悪く言い過ぎたかしら。……でも、嘘は言っていないし。
「……いいえ。私……近頃マルクス様の事が分からなくなってしまいましたの。学園に入学して出逢った彼に、私は一目惚れをしましたわ……。彼のあの麗しいお姿も行動も性格も、将来騎士団長を目指して身体を鍛えてらっしゃるところも全て……。とても素敵で、お父様にどうしても彼が良いと無理をお願いして婚約を整えていただきましたのに……。それなのにまさかこのような……」
マリアンネは今までの自分の懺悔をするように呟いた。その目は涙で潤んでいるように見えた。
……セイラ嬢の取巻きの1人マルクス様の婚約者であるこの方も、彼らの行動に苦しめられていらっしゃるのだわ……。
ミランダはそう感じて胸が痛くなった。
そして、マリアンネが望んだから侯爵家と伯爵家であるハルツハイム家との縁談が決まったのかと納得する。
それなのに、その一目惚れした相手からのこの仕打ち……。
先程マルクスと少し関わっただけのミランダに攻撃的だった事から、まだマリアンネはマルクスを愛しているのだ。けれど、そのマルクスが浮気相手と思しきセイラを庇っていたと聞かされればその想いが揺らぐのは仕方がない。
「シッテンヘルム様……」
まだ恋を知らないミランダは、それ以上の言葉をかけられなかった。
「ミランダさん……。貴女には『以前』にもご迷惑をおかけしたのに……本当に失礼をいたしましたわ」
マリアンネはもう一度ミランダに謝り、友人2人に支えられる様にして去って行った。
ミランダはその後ろ姿を見送りながら、その『以前』の事を思い出していた。
◇
──マリアンネの話していた『以前』。
それは、ミランダが学園に入学した時。
ミランダは領地の近くのパーティーで出逢った、一つ年上のある男子生徒に会いに行った。
『学園で、また会おう』
彼にそう言われ、ミランダはこれは運命の恋だと思ってときめいた。そしてその言葉を信じ学園に入学するのを楽しみにしていた。
──それなのに。
『……貴女。いったい彼になんのご用ですの? 彼は……『マルクス』様は私の婚約者でしてよ!?』
そう言っていきなりマリアンネに責められた。
───そう。あの時ミランダは、マルクスが『運命の人』だと思っていた。それなのに再会を約束した学園に来てみれば、彼には婚約者がいて。
そして、その時2人の前にマルクスは現れた。
ミランダはマルクスが、婚約などしていない。……そう言ってくれると期待した。
『マリアンネ嬢。……そんな、『平凡な令嬢』に君ほどの美しい女性が目くじらを立ててどうするのだ。彼女は私と全く関わりはない』
……しかしマルクスがミランダに向けたのは、冷たい言葉と冷たい視線。
その時、ミランダは初めて『平凡令嬢』と呼ばれたのだ。
◇
……そう、か……。『平凡令嬢』は、きっとここから言われるようになったのね。あの時は彼に突き放されたショックで分からなかったけれど。
彼らから発信されたのならば、あちこちに拡散され定着してしまったのも頷ける。
そんな事を思い出していると、次の授業の鐘が鳴った。
「……は! 教室に戻らなくちゃ!」
ミランダは慌てて教室に戻った。
551
お気に入りに追加
741
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました
四折 柊
恋愛
私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる