平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん

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『平凡令嬢』の災難

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 ……それにしても。


 公爵令嬢を見送った後、ミランダは庭の見える良い席を見つけ食事を取りながら考える。

 先程の男子学生。……『平凡令嬢』の噂がされる時、確かにその多くは彼がいるグループだった気はする。けれど、彼がいない時にも噂されているのをミランダは何度か聞いていた。

 噂が、一人歩きしていたということ? 
 それにしても、あの男子学生がそれほどの発信力を持っているとは思えない。彼はどちらかというと目立たないタイプで交友関係もそう広くはないと思う。


 ミランダが悩みながらもほぼランチを食べ終わる頃、食堂に見たくなかった集団がやってきた。


「この時間になると、随分人が少ないな」

「ええ。次の授業は先生が休みですからここでお茶でも飲みながら自習するのはやはり穴場で良さそうですね」

「何を飲まれますか?」

「ええーとね! セイラはぁ、甘いものも食べたいのぉ……」


 例の、お花畑集団である。

 関わりたくないとばかりに、食堂にいた生徒達は慌てて片付けを始める。

 勿論ミランダも最後の一口を慌てて食べて去ろうとしていたが、最悪なことに彼らはこちらに来てしまった。


「セイラは庭が見渡せるいつものあの席が良いなぁ……、あ。誰かいる」


 ……しまった。
 もう新たな客が来る事はないだろうと、良い席に座ったのが仇になった。


 セイラがこちらまで来ると、後から王太子達もやって来てミランダと目が合う。


「……あ。セイラこの人知ってるー。ほら、噂の『平凡令嬢』よね! セイラはいつも目立っちゃうから、平凡って羨ましいなー」


 ……この人達も、その噂を知ってるのか。

 ていうか、絶対に羨ましいなんて思ってないわよね? あーコレはいわゆるマウントを取るってやつなのかしら。ほぼ初対面の相手にこんな態度取るんだ。……これはさっきの男子学生の方がまだ可愛げがあったかもしれない。


「セイラはその愛らしさでどうしても目立ってしまうのだ」

「そうですね。その可愛さを隠しようがないのです」

「……あちらの方が、庭が綺麗に見えますよ。行きましょう」


 1人の取巻きが、そう言ってこの場から離れようとした。


「ええー。ここがいいのにー」

 そう言ってセイラはムクレたが、

「……マルクスの言う通り、向こうの方が落ち着いて勉強が出来そうだ」


 意外にも王太子がそう言って4人はそちらに向かい出だした。
 ……が。スルリとセイラがこちらに戻って来て彼らに聞こえないくらいの声でミランダに言った。



「もう! アンタのせいでその席に座り損ねたじゃないッ! まったく、『平凡令嬢』は気が利かないわね!」


 しっかりセイラに悪態をつかれてしまったミランダ。関わりたくはないから黙っているけれどそれでもモヤッとする。……その時。


「……セイラ。何をしている? 殿下がお待ちだ」


 突然、取巻きの一人──騎士団長嫡男であるマルクス ハルツハイムが現れた。マルクスは優しくセイラの手を取ると、ミランダを睨みつけた。
 

「『平凡令嬢』は大人しくしてるんだな。……セイラ嬢に近付くな」


 マルクスはそう言うと、セイラに微笑みかけてエスコートして王太子の元へ連れて行った。


 ミランダは、茫然とする。


 ……な、なにー!? 今の、絶対私は悪くないわよね!? セイラ嬢から私に絡んで来たんですけど──!!


 セイラに対する『モヤッ』からマルクスに対する『苛立ち』に変わり、暫く立ち尽くしたミランダだったが、午後の授業の準備をしなければと気を取り直しトレーを持って返却口へと向かう。

 ……すると。


「……ねぇ、あなた。マルクス様といったい何を話していたの?」


 ミランダの前に立ち塞がったのは、侯爵令嬢マリアンネ シッテンヘルム。後ろには2人の友人らしき令嬢を引き連れている。

 ……どうやら、先程ミランダがマルクスと話をし立ち去るのを見続けていたのが気に入らなかったらしい。


 ミランダは目の前がクラリとした。


 ──今日、厄日なのかしら?

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