37 / 40
34
しおりを挟む墓所から居なくなった姪、沙良を探して誠司は鈴木刑事の後を追いかけた。
息を切らし必死に走りながら誠司は考える。……弟夫婦の事件は解決したというのに、どうして沙良がこんな目にあわなければならないのかと。
しかもそのどちらも沙良のせいではない。一つは財産目当て、そしてもう一つは夫の浮気相手の逆恨み。本人には全く落ち度はなく、それなのに何故命まで狙われる事態にならねばならないのか。
「三森さん! 清本はこの公園に入ったようです」
何か目印でも付けてあったのか、鈴木刑事はそう言って公園の中へ入っていく。そしてその奥の海が見える開けた場所には……。
「ッ沙良……!!」
そこには犯人らしき女を捕まえている清本刑事。……その横には、沙良が倒れていた。誠司は慌てて沙良に駆け寄る。
その時、沙良が目を覚ます。
……が、何か様子がおかしい。
「沙良……! 大丈夫か!? 殴られたのか? 頭を打ったのか?」
沙良は視線を不安げに彷徨かせ、やっと誠司に視点が合う。
「おじさま……。……私、私は……!」
沙良はそう言った後、ブワッと涙が溢れ出た。
「おじさま……おじさま……、私……!! お父さんとお母さんに、酷いことを……。思い出したの……。私がこの一年、2人を追い詰めていたの……、私のせいなの!」
そう言ってわっと沙良は泣き出した。
誠司は鳥肌がたった。……もういっそ、思い出さない方がいいと思っていたのに。
「沙良、沙良……! しっかりしなさい。お前のせいじゃない……! この事は決して沙良が悪いんじゃないから……!」
誠司は、おそらく襲われたショックでこの1年間の記憶を思い出し混乱したのだろう沙良を必死で宥めようとした。
しかし沙良は体を震わせ涙を流し続けて混乱するばかり。
とりあえず、連れて帰って綾子や光樹とで沙良を守り話をして心を解していこうと誠司は考えた。
……直人。どうかお前の娘を……その心を守ってやってくれ。
そう弟に願いながら、沙良を抱き抱え連れて行こうとするとそこに犯人を捕まえた清本が犯人を鈴木に託し、駆け寄って来た。
◇
……私は、暗闇の中にいる。
私を愛してくれたお父さん、お母さん。
大切な両親を忘れて恋人に縋って生きていた、この一年の私。何故かそれを疑問に思うことも無く、ただ何もかもから目を逸らし続けていた。
……私が、お父さんとお母さんを死に追いやったんだわ。
何度思い返しても、それはもう間違いようのない事実。
手を下したのは真里子おばさまだったけれど、そんな状況に両親を追い込んだのは間違いなく……私。
私が……、お父さんとお母さんを!
「いやぁっ……!」
私は声を出し泣き続けた。血が滲むほどにに手を握り締めて。
「……沙良さん……っ!」
するとその私の手を取り優しく宥めるように掌を開かれた。
私は涙に濡れた目を前に向ける。
そこには真っ直ぐに私を見る清本さんがいた。
「沙良さん。……この手も、沙良さん自身もとても大切なものだ。……ご両親が必死に守ろうとされた、大切なもの」
私は、涙を流した目でただ清本さんの目を見つめる。
「……大切に、してください。今のあなたの全ては、ご両親や三森さんたちが守ってきた、……愛してきたとても大切な存在だから」
私は凍り付いた心が揺れて……、胸がどくりと鳴った。
……そうだ。私は守られて来たのだ。いつも……守られていた。
「……僭越ながら。鈴木も……僕も。沙良さんが笑顔になってくれたら良いなと、そう心から思ってますから」
清本さんはそう言って笑った。
私は涙は止まらなかったけれど、ほんの少しだけ暗闇の中に光が差して胸が軽くなった気がした。
◇
……あれから。
私は念の為に検査をした後、再び三森家でお世話になることとなった。そしてこの事件が公表され騒がしくなった世間に巻き込まれない為に、今度こそ私は暫くは外出禁止となったのだった。
……私は伯父夫婦にこの失われた一年の事を思い出した事を告げ、これまでの事を深く謝罪した。
誠司おじさまと綾子おばさまそして光樹さんも、あれはあくまで事故で病んでいただけだったのだと言ってくれた。
友人佐原舞もとても心配して、日本にいる間随分と私に付き合ってくれた。
そして数々の私の危機の時に駆け付けて助けてくれた清本さん。彼にはあの時記憶が戻り混乱する私の姿を見られている。それ以来そんな私をとても心配してくれて、三森家にお見舞いにまで来てくれた。
「沙良さん……。あの。俺はいつか鈴木刑事を超えるような刑事になるのが夢なんです。沙良さんはどんな夢がありますか?」
「夢……、ですか」
急に問われた質問に私はポカンとした。夢……。私は何を夢見ていただろう。
「……小さな頃は花屋さんになりたくて……。大学に入った頃は……」
なんだったろう? 夢なんて忘れていた。大学に入ってからは初めての恋に浮かれて彼といる事が私の全てだったから。
少し悩み出した私を清本さんはゆっくりと待って話を聞いてくれた。
そしてまたそれぞれの夢の進捗具合を報告し合おうと連絡先を交換したのだった。
……皆、優しい人ばかり。
私は皆に感謝しつつ、自分のした事を思う。私は自分のした事が許されるとは決して思わない。
……けれど、この優しい人々に私は何かを返していかなければいけない。生きて、いかなければいけない。
そうして私の日常は否応なく少しずつ動き出していったのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ
ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。
【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】
なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。
【登場人物】
エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。
ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。
マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。
アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。
アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。
クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
【R15】アリア・ルージュの妄信
皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。
異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。
失踪した悪役令嬢の奇妙な置き土産
柚木崎 史乃
ミステリー
『探偵侯爵』の二つ名を持つギルフォードは、その優れた推理力で数々の難事件を解決してきた。
そんなギルフォードのもとに、従姉の伯爵令嬢・エルシーが失踪したという知らせが舞い込んでくる。
エルシーは、一度は婚約者に婚約を破棄されたものの、諸事情で呼び戻され復縁・結婚したという特殊な経歴を持つ女性だ。
そして、後日。彼女の夫から失踪事件についての調査依頼を受けたギルフォードは、邸の庭で謎の人形を複数発見する。
怪訝に思いつつも調査を進めた結果、ギルフォードはある『真相』にたどり着くが──。
悪役令嬢の従弟である若き侯爵ギルフォードが謎解きに奮闘する、ゴシックファンタジーミステリー。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
冤罪! 全身拘束刑に処せられた女
ジャン・幸田
ミステリー
刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!
そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。
機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!
サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか?
*追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね!
*他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。
*現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。
【続篇完結】第四皇子のつがい婚―年下皇子は白百合の香に惑う―
熾月あおい
BL
嶌国の第四皇子・朱燎琉(α)は、貴族の令嬢との婚約を前に、とんでもない事故を起こしてしまう。発情して我を失くし、国府に勤める官吏・郭瓔偲(Ω)を無理矢理つがいにしてしまったのだ。
その後、Ωの地位向上政策を掲げる父皇帝から命じられたのは、郭瓔偲との婚姻だった。
納得いかないながらも瓔偲に会いに行った燎琉は、そこで、凛とした空気を纏う、うつくしい官吏に引き合わされる。漂うのは、甘く高貴な白百合の香り――……それが燎琉のつがい、瓔偲だった。
戸惑いながらも瓔偲を殿舎に迎えた燎琉だったが、瓔偲の口から思ってもみなかったことを聞かされることになる。
「私たちがつがってしまったのは、もしかすると、皇太子位に絡んだ陰謀かもしれない。誰かの陰謀だとわかれば、婚約解消を皇帝に願い出ることもできるのではないか」
ふたりは調査を開始するが、ともに過ごすうちに燎琉は次第に瓔偲に惹かれていって――……?
※「*」のついた話はR指定です、ご注意ください。
※第11回BL小説大賞エントリー中。応援いただけると嬉しいです!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる