上 下
27 / 40

24

しおりを挟む


「宮野法律事務所は、真里子さんが来てから落ち目になっていった。しかしそれと反比例するように高木家は裕福になっていった。……それを真里子さんは妬んでいた、って事ですか?」


 清本はその勝手な理屈に内心憤りながら彼女らの叔父に問いかける。


「……そういう事に、なるんでしょうなぁ……。実を言いますとね、沙良ちゃんが事故に遭って婚約者と居るようになってから、姉妹の母親……、私の姉の13回忌法要がありましてね。その時廊下で2人で話しているのを聞いちまったんですよ、私。真里子が奈美子を酷く責めているのを」


「真里子さんが奈美子さんを責める? それはいったいどうしてですか?」


「それがまた、とんでもない理屈で。『昔沙良と自分の息子との婚約を断って自分の家を『出入り禁止』なんて非常識な事をするからこんな事になったんだ』って。……いや、私も数年前から2人の家が何やら揉めている事は分かってましたが、それが子供達を結婚させようと真里子が言い出したからとは思ってもいなかった」


 叔父はそう言って大きく息を吐く。


「……しかも、真里子の話を断ったから沙良が変な男に引っかかったんだって……。そんな風に奈美子を責めるなんてのもなんともお門違いな話だ。……私はその時さも今来たかのように2人のいる所に割って入ったので、その時の話はそれで終わりましたが。
……あんな所でそんな話をするくらいだ。おそらく普段から奈美子は真里子にそんな風に酷く言われてたんでしょうな」

「沙良さんが婚約者の所にいるのは昔の別の婚約話を断ったせい……。本当に真里子さんはそんなめちゃくちゃな理論で当時一人娘が居なくなり落ち込む奈美子さんを責めてたんですか」


 鈴木と清本は余りの非常識さに呆れ果てた。

 ……そして、清本は激しい怒りを覚えていた。


「そんな勝手をされ続けたのに、どうして奈美子さんは真里子さんとの付き合いを続けていたのですか」


 清本は湧き上がる怒りをなんとか抑えつつ叔父に問いかける。


「……それが、幼い頃からの摺り込み、とでもいうんでしょうかねぇ。真里子が激しい言葉を投げ付けると奈美子は反射的にはいと答えてしまう。……そんな人間関係が出来上がってしまっていたんですよ。姉さん夫婦も、本当に罪作りな事をしたものです」

 
 叔父は俯き、苦しげにそう答えた。



 ◇



「おい、キヨ! そんなドシドシ歩くな。足痛めるぞ」


「そんな事言われても! ……許せないじゃないですか、そんな歪で勝手な姉妹関係……!」


「まあ、そうなんだがな。大人になっても真里子はずっと奈美子を従わせてたんだな。……おい、早いって!」


「……真里子は言葉の暴力で妹奈美子を支配していた。自分で家を捨てておきながら裕福になった実家と妹を羨みそれを奪おうとしていた! 妹を恫喝してなんでも言うことを聞かせて……、……え?」


 清本はそこまで言って、急に立ち止まる。

 後ろから追いかけて来ていた鈴木は体格の良い清本の背中にぶつかり尻餅をついた。


「……ぶッ! ……おいキヨ、急に止まんな!」


 それでも清本は立ち止まったまま動かない。


「……? なんだ、どうしたキヨ」


「スーさん……。高木家の財産。もし沙良さんが居なくなったら誰が受け継ぎますか」


「……あ? なんだよ急に。俺の尻餅の心配は無しかよ。……んー、なんだって? お嬢さんが居なくなったら当然遺産は松浦拓人だろ。一応『夫』だからな」


「……でも、もしも拓人氏の高木家に対する犯罪が立証されるかそもそも結婚自体が偽証だと証明出来れば……」


「まあそんな証明はなかなか出来ることではないだろうがな。
……キヨ。お前の考えてる事は分かるぞ。真里子が高木一家を消して、その次に権利がある自分が高木家の財産を、ってんだろ? でもそれはお嬢さんが拓人と結婚している以上は難しい。お嬢さんの後に拓人が死んでも遺産は拓人の実家側にいっちまう。流石に弁護士の妻をやってんだからそれくらいは分かってるだろ」


「それは、そうなんですが……。やっぱり俺は伯母真里子が怪しいと思います。
……けど確かに沙良さんが先に死んだのでは遺産は拓人に行くだけ。という事は、2人を一度に消す必要がある……」


「そうなりゃ、特に先日の階段の事故は説明がつかない。真里子はなんらかの形で今回の事件に関わってるんだろうが、遺産目的と考えると犯人とは考えにくい」


「スーさん……。俺、沙良さんの両親の事故は、どうして起こさせたのか方法だけなら分かった気がします」


「……なんだと? キヨ、話してみろ」


 その理由を清本が話すと、鈴木は一考した後頷いた。


「成る程……。あり得ない話じゃないが、それを証明するとなると難しいぞ」  


「……そうなんですが……。とりあえず、松浦氏の書いた手帳の細々した案件から立証していきますか。沙良さんの父親が気付いたという事は、なんらかの手掛かりはあると思うんです」


「……そうだな。それにそこから何か確かな証拠が出てくるかもしれない」


 ピリリリリリ……


「お、誰だ……、っと、はい鈴木です」


 鈴木が不意にかかって来た電話を取ると、同僚からだった。


「はい、そうですその件で今調べて……は? お嬢さんが?」


 『お嬢さん』と聞き清本は顔を上げ鈴木に近寄る。


「伯母真里子に、連れ去られた!? いや、狙われているから気を付けるようにと話はしてあったんだが……、ついさっき百貨店から!? えらい大胆だな。どこへ行ったのか心当たりは? ……ないのか。分かった、こちらでも当たってみる」


 鈴木が電話を切ると、清本が目の前にいて驚く。


「ぅわッ! キヨ、近いぞ! ビックリすんじゃねーか!」
「スーさん! 沙良さんが連れ去られたんですか? 伯母真里子にですか!」


「おぅ、そうらしい。百貨店から堂々と連れ去って目撃者も沢山いる。だからそのままお嬢さんをどうにかするなんて短慮なマネはしねーとは思うが……」

「それだって真里子がどんな言い訳をするのか分かったもんじゃないじゃないですか! 途中で沙良さんが勝手に逸れたから自分は知らない、とか平気で言いそうじゃないですか!」


 そう言って清本は走り出す。


「ちょっ……、待てってキヨ! どこに行く気だ!」

「分かんないですけど、とりあえずは真里子の自宅です! 居なくても真里子の夫に話を聞きます!」

「お、おう……。とりあえずはそこしかねーか。オイ、置いてくなよキヨ!」



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

舞姫【中編】

友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。 三人の運命を変えた過去の事故と事件。 そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。 剣崎星児 29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。 兵藤保 28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。 津田みちる 20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。 桑名麗子 保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。 亀岡 みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。 津田(郡司)武 星児と保が追う謎多き男。 切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。 大人になった少女の背中には、羽根が生える。 与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。 彼らの行く手に待つものは。

アザー・ハーフ

新菜いに/丹㑚仁戻
ミステリー
『ファンタジー×サスペンス。信頼と裏切り、謎と異能――嘘を吐いているのは誰?』 ある年の冬、北海道沖に浮かぶ小さな離島が一晩で無人島と化した。 この出来事に関する情報は一切伏せられ、半年以上経っても何が起こったのか明かされていない――。 ごく普通の生活を送ってきた女性――小鳥遊蒼《たかなし あお》は、ある時この事件に興味を持つ。 事件を調べているうちに出会った庵朔《いおり さく》と名乗る島の生き残り。 この男、死にかけた蒼の傷をその場で治し、更には壁まで通り抜けてしまい全く得体が知れない。 それなのに命を助けてもらった見返りで、居候として蒼の家に住まわせることが決まってしまう。 蒼と朔、二人は協力して事件の真相を追い始める。 正気を失った男、赤い髪の美女、蒼に近寄る好青年――彼らの前に次々と現れるのは敵か味方か。 調査を進めるうちに二人の間には絆が芽生えるが、周りの嘘に翻弄された蒼は遂には朔にまで疑惑を抱き……。 誰が誰に嘘を吐いているのか――騙されているのが主人公だけとは限らない、ファンタジーサスペンス。 ※ミステリーにしていますがサスペンス色強めです。 ※作中に登場する地名には架空のものも含まれています。 ※痛グロい表現もあるので、苦手な方はお気をつけください。 本作はカクヨム・なろうにも掲載しています。(カクヨムのみ番外編含め全て公開) ©2019 新菜いに

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

【完結】深海の歌声に誘われて

赤木さなぎ
ミステリー
突如流れ着いたおかしな風習の残る海辺の村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観! ちょっと不思議で悲しくも神秘的な雰囲気をお楽しみください。 海からは美しい歌声が聞こえて来る。 男の意志に反して、足は海の方へと一歩、また一歩と進んで行く。 その歌声に誘われて、夜の冷たい海の底へと沈んで行く。 そして、彼女に出会った。 「あなたの願いを、叶えてあげます」 深海で出会った歌姫。 おかしな風習の残る海辺の村。 村に根付く“ヨコシマ様”という神への信仰。 点と点が線で繋がり、線と線が交差し、そして謎が紐解かれて行く。 ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― 短期集中掲載。毎日投稿します。 完結まで執筆済み。約十万文字程度。 人によっては苦手と感じる表現が出て来るかもしれません。ご注意ください。 暗い雰囲気、センシティブ、重い設定など。

憑代の柩

菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」  教会での爆破事件に巻き込まれ。  目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。 「何もかもお前のせいだ」  そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。  周りは怪しい人間と霊ばかり――。  ホラー&ミステリー

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと時分の正体が明らかに。 普通に恋愛して幸せな毎日を送りたい!

隠れた君と殻の僕

カギノカッコ
ミステリー
適正テストの結果、勇と仁は超能力者であると診断された。中学卒業後、二人は国の命令により超能力者養成学校のある島へと移送される。だが入学したその日に、仁は忽然と姿を消してしまう。学校側は「彼は再検査の結果、適性がないことが判明したため島を出た」というが、精神感応能力のある勇は、仁が島内にいると感じていた。仁はなぜ消えたのか。学校はなぜ隠すのか。親友を探すミステリー。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

処理中です...