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「…………という訳で、和臣君には沙良との結婚の意思はないようだった。
それどころか真里子さんの暴走によってまだ高校生だった彼は信頼する叔父夫婦に絶縁を言い渡され、当時は随分と傷付いていたようなんだ」


 和臣と会った日の夜、誠司は家で沙良や家族に彼との会話の内容を話した。


「そうだったの……。確かに和臣君の立場から考えればそうよね。私も今までそんな風に彼のことを考えてあげられなかったわ……」

「僕ももしも直人おじさん達に絶縁だなんて言われたら、結構傷付いたかもしれない……」


 妻綾子と光樹もその事に驚きと罪悪感をもって受け止めたようだった。


「本当ですね……。父が本当に申し訳ない事をしました。それなのに和臣さんは私のお見舞いに来てくれたり親切にしてくれていたんですね……」


 私も和臣さんへの申し訳なさとそれでも親切にしてくれていた事に感謝の思いでいた。


「それで、だ。……沙良に一つ尋ねたいのだが、真里子さんはどうしてそこまで沙良と和臣君との縁を望んだのか、何か心当たりはあるかい?」


 私は伯父の質問に少し考えてから答える。


「初めおじさまからその話を聞いた時は、あの当時和臣さんと仲が良かったから真里子おばさまはそれを恋愛と勘違いしてしまったのかしらと思いましたけど……。
けれど私の両親が亡くなってからも真里子おばさまがそれを望んでいた理由には、全く心当たりはありません」

「……そうか。こんな事を言うのはなんだが、実は和臣君の父親の『宮野法律事務所』は最近余り評判が良くなくて、もう事務所を畳むのではないかとまで言われているらしい」

「! ……そうなんですか? 私には経営の事はよく分かりませんが……」


 真里子おばさまはいつも伯父様が弁護士だと自慢していたのに……。


「どうやら、彼らが高木家に『出入り禁止』となる頃から危なかったらしい。
……そう、真里子さんが沙良との婚約話を出して来た頃という事だ。おそらくそれで高木家に援助を頼もうと思っていたのではないか。
そして、今和臣君はあの家を出て実の母の実家に行き、両親とは距離を置いているようだ。
……だからこその、真里子さんの悪あがきだったんだろう。拓人君とあんな形で結婚した沙良をまだ諦めきれず、出来れば和臣君も取り戻したかった。それで刑事さんが話していたような事を言っていたのかも知れないね」


「そうだったんですか……」


 真里子伯母さんには、昔から派手なイメージがある。派手なブランドを買って伯父に叱られた、と怒って母に話しているのを子供の頃何度か見た事があった。

 それで伯父の弁護士事務所が上手くいかなくなったのなら、たちまち家計は苦しくなった、という事なのかしら? 丁度その時期は和臣さんの大学進学にもお金はかかっただろうし。


「そういう訳で、和臣君には君とどうこうなりたいとか宮野家に帰ろうとかいう意思はなさそうだった。だからこれ以上真里子さんも何かをしようもないだろう。
そして、拓人君のことなのだが……。彼は実はうちにも何度か沙良を探しにやって来ていた。そして和臣君や真里子さんのところにも来ていたらしい」


「拓人が……」


 ……私を探している。

 心臓がドクリと鳴る。私は震えそうになる自分の両手を膝の上でグッと握りしめた。


「それから今日鈴木刑事から連絡があって、どうやら拓人君は警察に沙良の捜索を頼みに行ったらしい。そこでバッタリ会った鈴木さんと揉めて少々暴れたらしく、取り調べる事となったようだ」


「! ……拓人の、取り調べが……」

「あくまでも警察署で署員と揉み合いになった事への取り調べの訳だがね。
しかし鈴木刑事は彼から突っ込んだ話も聞いてくれたようだ。それを元に色々調べを進めてくれるらしい」


「まあ! ではやっと捜査が進みそうですわね。それにしても拓人って子は随分浅慮な行動をするのね。警察署で揉めるなんて」


 綾子伯母はこれまで進まなかった捜査にやっと動きがありそうな事に喜び、そして拓人の浅はかな行動に眉を顰めた。光樹さんも嬉しそうに頷いた。


「全くだ。……それで、沙良。鈴木さんから伝言なのだが、拓人君によるとこの一年沙良の周りでは色々と不審な出来事が起こっていたらしい。……念の為にくれぐれも周囲に気をつける様にと。
まあ拓人君の苦し紛れの言い訳だとは思うがね。まあとりあえずは我が家でゆっくりと身体を休めて外には出ない事だ」


「そんなの拓人が下手な理由付けをしてるだけだと思うけど、沙良ちゃんはまだ退院したばかりだしゆっくりするといいと思うよ」


「そうね。本当は沙良ちゃんとお買い物やお出かけがしたかったけれど暫くは大人しくしていた方がいいかしら。
大丈夫よ、沙良ちゃん。刑事さん達もこんなに動いてくれているのだからすぐに解決して自由に外に出られるようになるわ」




 3人が心から気遣ってくれているのをひしひしと感じながら、私は頷いた。
 
 



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