19 / 40
16
しおりを挟む翌日に幼馴染の舞に連絡を入れると、次の日には彼女は三森家を尋ねて来てくれた。
「沙良……! 心配したのよ。身体は大丈夫なの!?」
そう言って舞は私の身体を気遣いながら優しくハグした。
「舞、ごめんね。体力は少し落ちているけれど身体は大丈夫よ。階段から落ちた時の打ち身も腫れは殆ど引いているの」
舞は一つホッとしてから、今度は泣きそうな顔で私をジッと見ながら言った。
「……一年前の交通事故の事は留学先で聞いたの。けれど年末にこっちに戻った時には沙良に会わせてもらえなかった。あちらに戻って暫くしたら今度はおじさま達が亡くなったって聞いて……。そして今また貴女が転落事故にあったって聞いたのよ。いったい何がどうなっているの?
「舞……。見舞いにも来てくれていたのね。会えなくて御免なさい。私は一年前の事故で記憶を失っていて……。今回の事故で一年前の記憶は戻ったんだけど今度はこの一年の記憶が全く無いの。だから説明したくても出来ないのよ……」
私がそう事情を話すと舞は驚く。
「……そうなの? じゃあ沙良が結婚したっていうのは?」
「……それも全く、覚えていないの。今回病院で目が覚めた時には一年前の交通事故の後だと思ったくらいで。……でも母は居ないし、何故か『彼』が居るし……」
私は今の自分が分かっている事を、幼い頃からの親友である舞に話をしたが……、彼女の目がどんどん吊り上がっていく。
「……ちょっと待って。それってその時点で松浦氏の行動は充分に犯罪行為じゃないの? 病院から沙良を連れ去って自分に縛り付け勝手に結婚までするなんて!」
舞は憤ったが、私は俯いて言った。
「……その時の私が、何故か拓人から離れなかったそうなの。……ねえ、舞。この一年の私は本当に最低だわ。両親を悲しませて、死に追いやったのは……他でもない私なの。
……私……、どうしたらいいのか分からない。お父さんとお母さんは……もう居ない。どうやって2人に償ったらいいのか……分からないの……」
私は、今の自分の中にある渦巻くような苦しい思いを始めて口にした。
私自身こそが、大切な愛する両親を苦しめた張本人なのだと分かっていたから。
伯父様達は何も言わない。……けれど、何より私が一番よく分かっている。全ての元凶は自分なのだと。
私の目にはいつの間にか涙が溢れていた。
「沙良……。貴女が自分を責める気持ちも分かるけれど、その全ての原因は松浦氏でしょう。沙良の話を聞くに、彼は記憶を失った沙良を洗脳し親から隔離した……。
それに……松浦氏の浮気の事、大学の仲間でも結構な噂になってたみたいよ?」
「拓人の浮気が……大学のみんなに知られているの?」
驚き聞き直すと、舞は頷いて話し出した。
「あの2人は相当堂々と浮気していたみたいよね。多分あの未来って子の住んでた街で2人は会っていたんだと思うけど、その周辺には他の彼らの顔見知りもたくさんいたってこと。あっという間に大学の仲間に知れ渡ってその内彼らの会社にも伝わったそうよ。そしてちょうどその頃沙良の事故があった。彼らは会社内でも針の筵になってそのまま辞めてしまったと皆から聞いたわ」
「大学のみんなも、会社の人にも……。そして拓人は会社を辞めていたの……」
大学時代の友人達は皆拓人と沙良が付き合っていると知っていると思う。そして彼らの多くはこの街で働いている。そんな中同じサークルだった未来と恋人のように過ごしている姿を見られたなら話は一気に広がったのだろう。
そして拓人が平日も沙良の病院によく来ていたのは、彼が会社を辞めていたからだったのだ。
「自業自得よ。今は松浦氏は友人が起業した会社にいるらしいけど、あまりパッとしないみたいね。浮気女の方は知らないけど、噂を広めたのは貴女だって誰かに言ってたみたい。沙良は事故後は人と会っていないし何より広められて困るような事をしたのは自分たちなのにって皆呆れて怒ってたわ」
「未来が……。私のせいだと? でも私はつい最近まで記憶がなかったからそんな事……」
「ええ。だから本当にタチの悪い逆恨みなのよ。とんでもないわよね。とにかく沙良は彼らの悪巧みに巻き込まれたの。貴女のせいなんて事は絶対にないからね」
舞は強くそう言い切って私の手を取った。
「ご両親の事はとても残念な事だったけれど……。でも沙良はこれからおじさまやおばさまの為にも強く生きていかなければならないわ。私ももう少し日本に居るからその間はなるべく沙良の側にいるわ」
「舞……。……ありがとう。
そうね、私は両親の分まで強くならないといけないのよね」
まだ元気は出ないながらも弱く微笑み返した私を、舞はそっと抱きしめてくれた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
『信長は「本能寺の変」で死ななかった?バチカンに渡り「ジョルダーノ・ブルーノ」になった?「信長始末記」歴史ミステリー!」
あらお☆ひろ
ミステリー
大阪にある、緒狩斗家の4人兄妹による異世界旅行を専門に行う「株式会社オカやんツアーズ」で巻き起こる、「珍事件」、「珍道中」を、新米JKツアコンのミスティーが兄達と協力し知恵と工夫と超能力で、『お客様の希望を満足させます!』のキャッチコピーを守るため、各自の特技と能力をフルに活かしてサービス提供!
「あの人が生きていたら!」、「なぜ、そうなったの?」と歴史マニアだけで無くても、ちょっと気になる「歴史上の人物と事件の「たら」、「れば」を異世界に出かけて事実を確認!
今回の客は、織田信長を追っかける二人のヤング歴女!「本能寺で信長が死なないハッピーエンドの世界が見たい!」との希望にミスティーたちは答えられるのか?
塗り壁バリヤー、式神使いの長男「好耶」、遠隔投資のできるテレパシストでタイムワープ可能な「物質K」を扱う次男「フリーク」、アスポート、パイロキネス能力を持つウォッカ大好きの3男の「メチャスキー」の3人の兄と現役JKプロレスラーの「ミスティー」が、「夏子」、「陽菜」を連れて、信長の謎を解き明かしていく!信長は、本能寺で死ぬのか?はたまた生き残るのか?そしてその結論は?
ちょっと笑って、ちょっと納得、ちょっとホロっとする、歴史好きが読んでも楽しい歴史的証拠を積み重ねた「歴史ミステリーワールド」へようこそ!

ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
薬師シェンリュと見習い少女メイリンの後宮事件簿
安珠あんこ
キャラ文芸
大国ルーの後宮の中にある診療所を営む宦官の薬師シェンリュと、見習い少女のメイリンは、後宮の内外で起こる様々な事件を、薬師の知識を使って解決していきます。
しかし、シェンリュには裏の顔があって──。
彼が極秘に進めている計画とは?
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
消された過去と消えた宝石
志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。
刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。
後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。
宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。
しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。
しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。
最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。
消えた宝石はどこに?
手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。
他サイトにも掲載しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACの作品を使用しています。

俺は探してあいつは食べる
堅他不願(かたほかふがん)
ミステリー
主人公・矢磯 十吾(やいそ じゅうご)は、小学校の遠足でとある山奥にいった際、友人と隠れんぼをしていて朽ちかけた社(やしろ)を壊してしまう。
社に安置されていた箱を、好奇心から開けてしまった彼は、中に封印されていた悪霊に取りつかれてしまった。
悪霊は、見た目には巫女の姿をした美少女だが、取りついた人間と縁のある人間が死んだとき、その霊魂を食べることで生活していた。
十数年後。大人になった矢磯は、表では個人の運輸業、裏では逃がし屋を生業とする二十代中盤の青年となった。そして、ネコの鳴き声と渚の波音に安らぎを感じる人間でもあった。さらには、あいかわらず『彼女』に取りつかれてもいた。
二○二四年五月の晩。
夜逃げを希望する顧客の指定に応じて、彼は静岡県北東部にある廃倉庫に一人できていた。
しかし、そこには死体が一つあったきりだった。死体は五十代くらいの男性としかわからず、外傷や肌の傷みはなかった。合流するはずの顧客は、ついに現れなかった。
死体を改めてから、矢磯は、スマホに登録した自作アプリを起動した。そこで猫の鳴き声と波音を聞き、心を落ちつけた。彼女はさっそく死体の魂を食べ、それが今回の仕事にかかわっていると矢磯に告げた。
ともかく、面子を潰されたからには、徹底的に元顧客のあとを追って落とし前をつけねばならない。それは死体の真相をつきとめることを意味する。
山と海にまたがるエビス伝説は、現地の人間達によってなんとも生臭い話になっていた。否応なしに、矢磯は欲にまみれた因縁へと巻きこまれていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる