失った記憶が戻り、失ってからの記憶を失った私の話

本見りん

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 一年前の私は真里子おばさま一家とほぼ関わりはなかった。三森のおじさまから聞いた我が家への『出入り禁止』の時期、つまり私が中学3年の時から会っていないのだ。それなのに和臣さんは私の所に何度も……?

 母はたった2人の姉妹だから2人では時々会っていだようだったけれど……。


「……おじさま。真里子おばさまも私の事故があってから両親の相談にのってくれていたのですか?」

 昨日真里子伯母一家の『出入り禁止』の話を聞いたばかりな事もあり、私は戸惑いながら三森伯父に確認した。


「奈美子さんは……沙良の母親は真里子さんに話をしていたのかもしれないが、私は直人からは特には聞いていない。真里子さんのご主人は弁護士だが、うちには別に顧問弁護士もいるしね。相談はうちの弁護士にしていたよ」


 伯父も戸惑った様子で私にそう答えた。


「鈴木さん。真里子さんは他にはなんと話していたのでしょうか。……それに彼女の義息子さんが何度も沙良ちゃんの所へ来てくれたというのは本当でしょうか? 実を申しますとこの数年彼は沙良ちゃんとは会っていなかったようです。それなのに何度も見舞いに来てくれていたというのは……」


 綾子おばさまは真里子おばさまの家に対して怒りに似た何かがあるようだった。
 いつもと違い少し攻撃的な綾子おばさまを驚きの思いで見た後、その返答を聞く為に鈴木さんを見る。


「……数年間、会っていなかったのですか? あの方は本来は沙良さんは彼女の息子と婚約するはずだったのにという話もしていたので……」


 鈴木さんは、そう言いかけて途中でその言葉をとめた。

 伯父夫婦も私も、驚愕の表情をしていたからだと思う。


「真里子さんが、今まだそんなことを?」


 伯父が信じられない、といったように呟くと伯母も驚いた様子からだんだんと呆れと怒りの表情になり言った。


「……信じられないわ! その事で高木家を『出入り禁止』となったのに、まだ彼女は諦めていなかったということ!? しかもその話は奈美子さん達が亡くなってからの事なのですわよね?」


 普段物静かで上品な雰囲気を持った伯母綾子の勢いに、鈴木さんと清本さんは少し面食らったようだった。
 ……いや、私も実のところ驚いている。

 綾子おばさまの怒りと、そして真里子おばさまの話していたという内容に。


「はぁ、まあそうなんですがね。……では、2人を結婚させようとしていたのは沙良さんの母方の伯母である真里子さん側だけだという事ですか。そして『出入り禁止』とは、なかなか穏やかな話ではありませんな」


 鈴木さんの眼光が鋭く光った……気がした。


 三森の伯父と伯母も、その鋭い眼差しに飲まれてその怒りをおさめた。……そして、その後鈴木さん達に真里子おばさまとの間に起こったイザコザを洗いざらい話す事になったのだった。



 そして私達の話を聞いた2人の刑事さんは『また話をお伺いします』と言って神妙な顔で帰っていった。


 ◇


 三森家でお世話になって3日。
 私の体調は随分良くなっていた。勿論階段から落ちた時の腫れや擦り傷はまだ残っているけれど。……そしてこの一年の記憶は、まだ戻っていない。

 その日の夕食時、誠司おじさまが言った。


「……沙良。実は私の所に佐原舞さんという方が尋ねて見えてね。沙良に会いたいと言われたんだが、確か沙良と幼馴染のお嬢さんだったか。その時彼女には知らないと言っておいたが一応連絡先は聞いているんだ」

「舞が……? 彼女はアメリカに留学していたのでは……」


 私は懐かしい友の名を出され驚く。舞とは幼馴染で大学も同じの仲の良い友人。ただサークルは違ったので、大学時代サークルに重きを置いていた私と昔よりは少し距離が空いてはいた。

 そして彼女は大学卒業後はアメリカに留学していたはずなのだが……。




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