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しおりを挟む「それから……、彼と離れる為にスマホを最初の病院に置いて来たのですが、私が階段から落ちたという日付に非通知で着信履歴があったんです。事故と関係あるのかは分かりませんが、それまでの着信はほぼ拓人からだけだったので……」
「非通知の着信履歴……、しかも事故の当日ですか」
階段からの転落事故当日の『着信履歴』という言葉に清本さんが反応した。
「はい。数秒話もしていたようでした。……間違い電話かイタズラの可能性もありますけど」
「しかしその後、貴女は外に出ている。……実は貴女はあのマンションから1人では外に出たことはないようなんです。ご近所の方々も貴女が住まわれている事を誰も知らないようでした」
そう言って清本さんは難しい顔をした。
「やっぱり、そうなんですか……。なんだか少し動くだけで凄く身体が疲れてしまって。全然外に出ていなかったからこんなに体力が落ちてしまっていたんですね」
……やはり、拓人の言っていた通り体力が落ちていたから足元がふらついて階段から落ちたのだろうか?
「……今、貴女のスマホは松浦氏が?」
清本さんが慎重に尋ねる。
「病院に置いて来ましたので、おそらくはそうだと思います。……すみません、着信履歴の事は伯父に電話をかけた時に気付いたんです」
「いえ。そして拓人氏はGPS検索で貴女を探そうとしたはずですから置いてくるのは仕方ないですよ。こちらから別に当たってみます」
その事を責められるかと考えていた私は少しホッとして清本さんを見た。すると笑顔で頷かれた。
しかし、それを聞いていた伯父は怒りを露わにした。
「……そのスマホは、拓人君が勝手に買い替えたものだ。それで直人達は沙良と連絡が取れなくなった。番号は彼しか知らないはずです。……彼が沙良を呼び出したのか……? そして素知らぬふりをしていたという事なのか……!」
「三森さん、まだそうと決まった訳ではありません。今まで松浦氏の事を調べてきましたが、こう立て続けに事件を起こす程の考え無しの人間とは思えません。今コトを起こして真っ先に疑われるのは自分だとはよく分かっているはずですから」
伯父の怒りを宥めるように鈴木さんは言ったが、伯父の怒りはおさまらなかった。
「しかし……! 彼は婚約直後に堂々と浮気をするような愚かな考えナシですよ。それに真っ当な人間ならこんな形で妻を親から引き離すなんて事はしないはずだ」
「誠司さん、落ち着いて。だからそれらをこれからきちんと調べていただくんじゃないの」
……伯父は大切な弟の家族をめちゃくちゃにした拓人を許せないのだ。
私の心はまだどこか一年前で止まっていて、拓人の事を私の友人と浮気をした軽蔑すべき男性という感覚としてしか見ていなかったけれど、その後の事はまだどこか実感がなかった。
だけど、拓人の本当の罪は私の記憶の無いこの一年にあるのだ。
記憶の無い私を騙し連れ去って両親から引き離し、結果私の両親を死に追い込んだ。しかもそれはもしかすると彼が父に薬を飲ませた犯罪だったのかもしれない。
更に私を騙したまま結婚しマンションに閉じ込め……、そして今また事故に見せかけて邪魔な私を殺しその遺産を完全に手に入れようと……?
私はぞくりと身震いした。
……私が愛したと思っていたのは、そんな恐ろしい人だったのか。
「沙良ちゃん? 顔色が悪いわ、大丈夫?」
その時綾子さんが私を気遣い声を掛けてくれた。
「おばさま。……大丈夫です。ちょっと怖くなっただけ……。
それよりも、父が母の花粉症の薬をどうして飲んだか、なんですけど……」
私はなんとか話を別の方に進めようとした。
……拓人の罪は、ある意味私も関わっていたこと。今は記憶がないからなんとも言えないが、私自身が両親の側から離れ彼について行った事には間違いはないのだから。
私の心は軋むように痛んだけれど、私自身の事なのだからそれを口にする事も許されないのだ。
……ただ、今はもしも両親の死に不審な点があるならばそれを解決する為に全力を尽くすだけ。
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