上 下
12 / 40

9

しおりを挟む



「沙良ちゃん、いらっしゃい! 待っていたのよ。体調はどう? 少し私達とお茶をするくらいなら大丈夫かしら」


 都心の一等地から少し外れた場所にある大きめの上品な日本家屋。外には素晴らしく整えられた日本庭園がある。

 伯父のこのお屋敷には昔は祖父母も暮らしていて、小さな頃からここにはよく両親とお邪魔していた。伯父さまと父は兄弟仲が良く、伯母さまも娘が居なかったからか私を随分と可愛がってくれた。

 そんな伯父三森誠司とその妻綾子さんは揃って玄関で退院して来た私を出迎えてくれた。
 

「おばさま。……この度は、大変な不義理をしてしまい申し訳ございませんでした。
両親のお葬式や四十九日などその後のことなどを色々取り仕切っていただいたと聞きました。……本当にありがとうございました」


 私は伯母に会うなり謝罪し頭を下げた。


「沙良ちゃん……。色々あったのだと誠司さんから聞いているわ。けれど私は沙良ちゃんの口からきちんと事情を聞きたいの。勿論貴女がまだ無理が出来ない状態なのは知っているから、少しでも体調が悪く感じたならそう言って?」

 伯母は私を労わるように肩を優しく抱きながら言った。

 血の繋がりはないけれど、この伯母はとても愛情深い人で私も小さな頃から大好きだった。

 私は伯母たちの優しさに全てを話すことにした。

 

 ◇


 応接間には伯父と伯母、そして従弟で大学生の次男光樹さんが私の話を聞く為集まってくれた。ちなみに長男将生さんはアメリカに留学中なのだそうだ。

 私は彼らに簡単に私の交通事故から始まったこの一年の事を説明した。


 「ふーーん……。事件の匂いがプンプンするね。でも、直人叔父さんて会社役員なだけだし叔母さんの家も旧家だけどそんな凄い家でもなかったよね。それなのに、その財産を狙われるなんてな……」


 光樹さんの中では今回の件はうちの財産を狙った犯罪で、拓人が犯人だと確定しているようだった。

 その横では伯父は『失礼な言い方をするな』と光樹さんを窘めている。

 そんな2人を見ながら私は思う。
 ……私は拓人の浮気がなければずっと彼を信じ、もしも今と同じように言われても彼が財産目当てだとは決して信じなかったと思う。
 私達は愛し合ってる。彼は私を愛しているのだと固く信じていたから。

 ……それは愚かな幻想だとは今は痛い程よく分かっているのだけれど。


「けど、拓人君は沙良ちゃんの婚約者だったんだからいずれは財産は入ったんだよね? どうして敢えてそんな危険を犯したのかな」


 光樹はまるで探偵のように考える。


「……実は……直人達夫婦は一年前に拓人君の浮気に気付いていた。問い詰めようとしたところでの沙良の交通事故だったんだ。そしてその場で拓人君にその件と婚約を白紙にすると話をしたそうだ。……それで彼は捨て身の戦法に出たのかもしれない」


 伯父さまが少し言いにくそうに言った。


「ご両親はきちんとした証拠を固めてから沙良ちゃんに話そうと思っていたのよ。貴女もあの時彼の行動を不安に感じていたようだから確実な話をするべきだと考えていたのね」


 伯父と伯母にそう言われた私は、両親が拓人の浮気を知っていた事に驚いていた。

「……お父さん達は、拓人の浮気を知っていたの……」

 私は思わずそう呟いていた。


 両親は、私の事故後に拓人にそれを告げ別れを迫った。
 それで追い詰められた拓人はあんな事を……?


「じゃあ、やっぱり松浦拓人が犯人だ! ある意味金づるだった沙良ちゃんとの婚約破棄を仄めかされたから、記憶を失い不安な状態の沙良ちゃんを連れ去って他の人間は全部悪だと思い込ませたんだ! そして結婚に反対する叔父さん夫婦を事故に見せかけて……!」


「……光樹! これはテレビドラマじゃない。私達の大切な沙良の事なんだぞ。面白おかしく言うんじゃない!」


 伯父に強く注意され、光樹さんは少ししょんぼりした。


「面白がっていた訳じゃ……。ごめん、沙良ちゃん。だけど俺は沙良ちゃんをアイツから解放してやりたいんだ。そしてもしアイツが本当に叔父さん達の事故を引き起こした犯人だったなら、早く捕まえて叔父さん達の仇をとってやりたい」


 そう真面目な顔で光樹さんは言った。


 伯父は困った顔で頷き、伯父が今分かっている事を話し出した。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

消された過去と消えた宝石

志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。 刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。   後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。 宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。 しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。 しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。 最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。  消えた宝石はどこに? 手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。 他サイトにも掲載しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACの作品を使用しています。

憑代の柩

菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」  教会での爆破事件に巻き込まれ。  目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。 「何もかもお前のせいだ」  そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。  周りは怪しい人間と霊ばかり――。  ホラー&ミステリー

処理中です...