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レイラと王妃
しおりを挟む「……私がした事は、王妃殿下にとっては余計な事、だったのですね」
レイラが静かにそう言うと、王妃は嗤った。
「ふふ。……貴女は本当に優秀な『祓い師』なのね。何もかも、お見通しって事なのかしら」
あの『呪い』で痩せ細ったはずの王妃は、しかし今も妖艶な魅力を持った女性だった。
「……あの呪いのかかった『指輪』。あれもそれなりに強いものでしたが、あれはあくまで表向きのお飾り。おそらくは王妃様の所には今までもあのようなものは何度も贈られてきていたのでしょう。
今回ヒース卿の作ったあの『魔除け』の腕輪こそが全ての元凶であり……そしてやはり最後の最後で貴女様の命をお助けする『護り』だったのですね」
およそ礼を言おうだなどという雰囲気の全く無い王妃は、レイラの言葉を聞き憎しみの籠った目で睨みつける。
「……そう、それをあと少しというところで……! お前は、とんでもない事をしでかしたのだ……!」
怨嗟の籠ったその言葉は、まるで『呪い』そのもの。レイラは少し顔を顰めた。
「あの『呪い』は、王妃殿下のお気持ちそのものだったのですね。……初め王妃殿下を呪うという事は、貴女様のお立場を狙う者がいるのかと思いましたし、周りの方々もそうお思いだったと思いますが……」
レイラはため息を吐き、王妃の顔をジッと見詰めた。
「けれど現在息子である王太子殿下達がお年頃でいらっしゃるのに、王太子妃ではなく成人した王子の母である王妃様のお立場を狙って、という事に違和感を感じていたのです。今わざわざ王妃殿下を廃してまで国王陛下に、なんて女性はあまり居ないと思います」
レイラの言葉に王妃は不快そうに顔を歪めた。
「……ふん、しかしお前の母親はそんな男に惚れた女の1人だったがな。あの男は『愛妻家』を装いながら、街に騎士などの格好で出かけてはあちこちの女に手を出していた。それを知った時どれほど私が苦しんだか……!! お前の母親はこの王都に2度と来ないと約束したからこそ見逃してやったというのに! こうしてその娘がこの私の邪魔をするとは……。やはり、あの時始末しておくべきであった!」
王妃はやはり自分という存在に気づいていたのだと、レイラはどこか感心していた。
……昨日、父であるはずの国王は全く気付かなかったというのに。
……レイラは実はこの国の国王の娘。レイラの母が王都で暮らしていた時に国王と知らずに出会い授かった子だった。
……これは母の死後レイラがその母の日記を読んで知った事。
「……既婚者だと後から知り、ショックを受けた母はその後は生涯生まれた街で過ごしました。私も地元の学園に通い、同じように街から出るつもりはありませんでした。……今回、王妃殿下が呪われたという事でほぼ国中の『祓い師』が王都に呼ばれたのです。王家からの使いに逆らえるはずがありません」
「何を生意気な……! お前はあわよくば王家の一員になろうと欲を掻いてここに来たに違いない! フェンディのように、王女に収まろうと……!」
フェンディ。トルドー侯爵家に降嫁されたこの国の王女だ。
「……ああ。やはり王女様は王妃殿下の実のお子様では無かったのですね。……だから今回『呪い』の指輪の運び役としてドルトー侯爵を選んだ。けれど幼い頃から実の親子として過ごしてこられたのではなかったのですか?」
「私があの娘を可愛いと思った事など一度もない! あの男が……私に押し付けたのだ! だから王女の降嫁先としては格下の侯爵に嫁がせてやったのだ!」
王妃は吐き捨てるように言った。
フェンディ王女は王妃が回復して本当に喜んでいるようだったのに……。レイラは少し悲しい気持ちになった。
「……では、ヒース卿は? 彼はどうして危険を顧みずここまで貴女様の願いを叶えようとしたのでしょう」
「彼は……私の幼馴染。ずっと私を支えてくれていたのだ。今回全てが上手くいったならば、仮死した私は息を吹き返し彼と共に旅立つはずであったのに……!」
王妃とヒース卿は恋仲だった、……という事なのか。少なくともヒース卿は王妃を想っているのだろう。……しかし。
「……そうですか。けれど、何故『今』なのかお考えになりましたか? どこから今回のこの計画が持ち上がったのかは知りませんが、おそらくは貴女様が仮の『呪い』で亡くなった後、隣国の王妃様もご失脚される事でしょう。隣国の協力者も何かを企んでの貴女様への協力だったと思いますよ。そしてもしかすると、ヒース卿との逃避行の際に口を封じられた恐れもあります」
「……何を言う! 何と小賢しい娘か! 私はこの国の最高位の貴族である公爵家の娘、魔力も多い。簡単にそこいらの者達にしてやられるはずがない!
……さぁ、小娘。話は終わりだ。『呪いをかけられ弱った王妃を、欲をかいた祓い師が手違いで死に至らしめてしまう』のだ。王妃の死体は火傷が酷く顔も分からない。ふふ、お前はその罪から逃れられない」
そう言って王妃は火の魔法を展開した。
そしてベッドの脇には王妃の寝巻きを着せられた女性が倒れていた。
「……そうだ、お前のその可愛い顔も火傷で見られないようにしてやろう」
王妃はそう嗤いながらレイラに向かって炎を出してきた。
……しかし。
その炎はレイラには当たらない。
防御魔法だった。そしてレイラは寝巻きを着せられた女性にも防御魔法を展開させた。
……良かった、眠らされているだけだわ。
「ッ!! 何故だ、何故私の魔法が通用しない!?」
王妃は顔を歪ませ怒鳴り立てた。
「王妃殿下。……私は『さる高貴なお方』の血を引いているので魔力は相当強いのですよ。……望んだ訳ではないのですけどね」
そう言ってレイラはこの部屋全体に魔法を施し、王妃の魔法を封じその身をベッドに拘束した。
レイラは生まれた家も代々『祓い師』という平民としては魔力の相当に高い一族だった。そしてそのレイラの父親はこの国の国王。王族が魔力を最も多く持つこの国で、レイラは小さな頃から平民としては大き過ぎる魔力の操作にかなり苦労してきた。
そしてレイラが軽く見積もっても自分の力は公爵家出身の王妃よりも格段に上だった。
「王妃殿下の『御礼』はコレで終わりで宜しいですか? ……それでは私は失礼いたします」
ベッドから動けない状態にされ、王妃は悔しげに顔を歪ませた。
そうしてレイラが扉を開けると、そこには固い表情のヴェルナー王子とアルフォンスが立って居た。
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