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番外編
アランについて 〜皇帝ジークフリート
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ヴォール帝国皇帝ジークフリートがレテシィアが妹皇女の娘だと分かり、姪レティシアと交流するようになった7ヶ月の間の話です。
ーーーーー
『ロジェ コベール子爵。ヴォール帝国に面する小さな領地を治める領主。代々領主一家は堅実な領地経営をしており、現在の子爵もその人柄は良く領民からも慕われて……』
皇帝ジークフリートは、姪レティシアの育ての親『コベール子爵家』の報告を受けていた。
どの方面からも、コベール子爵家は評判が良かった。子爵のその実直であろう人柄が窺える。
「この者がこれまでレティシアを守ってくれたのか。……そしてその弟が……ヴァイオレットの……」
ジークフリートはコベール子爵に深く感謝しつつ、たった1人の愛する妹を想う。不幸にも政争に巻き込まれたその妹をこの帝国から連れ出し……、夫となっていたというその男。ジークフリートはその弟を恩人と呼んでいいのかまだ分かりかねていた。
ジークフリートがそう言うと、報告をしている侍従は頷いた。
「……はい。私もコベール子爵を全くもって清廉潔白な素晴らしい人物とお見受けいたしました。
……そして、その弟君の名は『アラン コベール』。この方も非常に優秀な方で……」
「『アラン』……?」
侍従はその弟もいかに優秀で人徳のある人物であったかを話していたが、ジークフリートはその名を聞いて既視感を感じた。
『おにいさまっ! あのね、アランがね……』
不意に、ジークフリートは遠い日のヴァイオレットと過ごした日々を思い出していた。
◇
ジークフリートの母はシュナイダー公爵家出身で、クライスラー公爵家を始めとした令嬢達との婚約者争いに勝利し晴れて皇太子妃となった。
しかし1年経っても子供が出来ず、周囲の貴族達の強い勧めで皇太子はクライスラー公爵家の派閥であった侯爵家から側妃を娶り、その一年後には側妃に第一皇子が生まれた。
その時は側妃側が権力を持ちかけたが女帝マリアンヌが強く牽制した。そしてその2年後皇太子妃に待望の皇子ジークフリートが生まれたのである。
対立する妃2人だったが、皇太子妃に第二子が生まれた事で一気に皇太子妃側が優位になる。……それは、その皇女が『ヴォールのアメジスト』を持って生まれ、女帝マリアンヌから直々に『ヴァイオレット』と名をいただいたからである。
「おにいさま……。『ミーナ』が……」
皇帝の孫であり次代の後継者争いの真っ最中でもある我らの周りは幼い頃から穏やかとは言い難い環境だった。
「お前の大切な猫か……。ヤツら、皇女の猫にまで手を出すなんて……!」
小さな頃の我ら兄妹の周りには第二妃の派閥からの姑息な嫌がらせがあった。
こちらは正妃側なのだが、あちらは第一皇子であり更にヴォール帝国の筆頭公爵クライスラー家が後ろ盾となっていて油断のならない毎日だった。
本来好奇心旺盛だった妹ヴァイオレットが、周りに抑圧されどんどん物静かな子になっていった。
日毎怯え静かなになっていく娘を心配した両親は、陛下の勧めもあり皇妃の療養も兼ねて保養地にヴァイオレットを連れて行く事にした。ジークフリートも誘われたが、皇妃不在の間の側妃達の台頭を許さぬ為に父と残る事にした。
そして一月後、母と妹が帰って来た。
療養の地で側妃達に狙われぬ様、場所も期間も極秘の旅だった。
「おにーさまッ!」
馬車の前まで迎えに行ったジークフリートに、無邪気な笑顔で飛び付いて来たヴァイオレット。
……ああ、良かった。元気になったのだな。
ヴァイオレットを抱き締め安堵し息を吐いたジークフリート。その時肩の上が何やらモゾモゾした。
「……?」
不思議に思ったジークフリートがそこに手をやると……。
「ーーーーッ!!」
そこには大きな角を持った昆虫がいた。
「ふふ。おにーさま! 可愛いでしょう? 男の子はみんな虫が好きだって、アランから聞いたの!」
…………『アラン』とは、誰だ?
満面の笑顔でそう言ったヴァイオレット。ジークフリートは顔が若干ひきつった。
世の中の子供達は知らないが、少なくとも王都で暮らす、しかも貴族の子弟で『虫が好き』な者は余り……いや、結構な確率で居ないのではないか。
しかし、この帝城で小さくなってしまっていたヴァイオレットがこうして元気になったのだ。今はコレに付き合ってあげる方がいいだろう。
「……そうか。ありがとう、ヴァイオレット」
そう言って静かに笑って見せたジークフリートだったが。
その後帝城に住む誰もがヴァイオレットのイタズラに悩まされる事になろうとは、この時誰も考えもしなかったのだ。
そしてそれはもちろん側妃側の人間も例外ではなく。……特に、男の子である第一皇子にもヴァイオレットは容赦無くイタズラを仕掛けたのである。
本来優しい兄はまだ幼い妹皇女を叱るに叱れず、しかも自分の周囲の人間は妹の敵であるとよく分かっていた為に、考えあぐねてジークフリートに相談に来た。
それをきっかけに、兄弟は仲良くなる事が出来たのだ。
その兄と2人で思い切ってヴァイオレットに注意をした事がある。その時にも彼女は言っていたのだ。
「……だって、男の子は虫が好きって、アランが言ってたんだもの! それに、お兄様達も笑顔になったわ!」
そう言うヴァイオレットに、私達は思わず苦笑した。……確かに、この事がきっかけで本来敵対するはずだった私達兄弟は心を通わす事になった。今では母やその実家の者達に何を言われてもこの兄を憎むことなど出来ようはずがない。
それは兄も同じ事を思ったようで、私達3人はなんとも言えず笑い合ったのだ。
「それはそうと……。ヴァイオレット、その『アラン』というのは一体……?」
兄がヴァイオレットに尋ねた。ことある毎に妹の口から飛び出す『アラン』という人物。
兄もずっと気になっていたのだろう。
「アラン? アランは私のお友達よ! 大きくなったら婚約するの!」
無邪気な妹の言葉に兄と私は驚愕した。
「……ヴァイオレット。お友達は分かるが、婚約というものはいずれ『結婚』をする相手なのだよ。ただのお友達とは『婚約』などしないんだよ」
兄はヴァイオレットに諭すように語りかける。もちろん私も。
「その『アラン』とは例の保養地で友達になったという少年だろう? 残念だが、お前がもうあの地に行く事はない。別々に生きるお前達は別々の人生を歩むのだ」
勿論私は妹が保養地から帰って来てすぐに、母にヴァイオレットの変貌の理由を尋ねた。
母からは、その地の子供達と仲良くなり元気になっていったのだと。特に子供達のリーダー格『アラン』という少年とは実の兄妹のように仲が良くなり、帰りも離れるのを泣いて嫌がる程だったという。
その話を聞いた時は実の兄の私を差し置いてと少しヤキモチを妬いたものだったが……。まさか、婚約の約束を?
とにかく2人の兄に『婚約』とは本人同士では決められないのだと説き伏せられた妹は、暫くはムクれて話をしてくれなくなった。
その後少し大人しくなったと思われた妹だったが、完成したばかりの迷路庭園を自慢したいクライスラー公爵家に屋敷に招待され、同年代の嫡男エドモンドと関わった頃からまた妹のお転婆は復活した。
エドモンド クライスラー公爵令息は私と同い年で高位貴族の子弟の集まりで何度か会った事があるが、まるで感情のない少年だった。その彼にもヴァイオレットはイタズラを仕掛けたという。
そして次に高位貴族の集まりで私は久々にエドモンドと会った。彼の、ヴァイオレットを見る瞳にだけ感情がこもっているような気がしたのは、きっと気のせいではない。
そんなエドモンドもやはり妹と会ってから変わり、私とも親友と呼べる程の仲となった。
数年後、私達は帝立学園に入学した。周囲の大人達は次代の皇太子争いを続けていたが、当事者である兄と私の仲はヴァイオレットと共に良好だった。
2年経ちヴァイオレットも学園に入り、私達は学園生活を謳歌していた。
そうして卒業間近になり私は親友エドモンドから相談を受けた。……ヴァイオレットを愛している、と。
正直あのお転婆過ぎる妹を妻に欲しいだなどと、何処か良いのだか私にはサッパリ分からなかったが彼は真剣だった。
卒業間近でヴァイオレットと学園で共にいられる時間もあと僅か、エドモンドは益々思いを募らせたようだった。
「我が公爵家の鉱山でとても良いアメジストが採れたのです。……それをヴァイオレット殿下にお渡ししようと思っています」
ある日エドモンドにそう打ち明けられた。
私は妹と親友の仲を静かに見守る事にした。
「……お兄様。実はエドモンドからこれを渡されてしまったのです。何度もいただけないとお断りしたのですけれど……」
そしてヴァイオレットからも相談を受ける。
「そうか。……どうして受け取れないのだ?」
「……私の心には想う方がいるのです。エドモンドの心を受け取れないのに……。コレを、お兄様から彼に返してはいただけませんか?」
どうやらエドモンドはほぼ無理矢理にこのアメジストのペンダントをヴァイオレットに渡したらしい。
「想う方? それはいったい……」
そう問うと、彼女は静かにその深く美しい紫の瞳を伏せた。……もしや、まだアランとやらの事を想っているのか?
妹は黙っていれば深層の美しき令嬢。彼女の本質を知らぬ者は皆この美しき皇女に惹かれる。……しかしその本質を知って尚エドモンドはヴァイオレットを愛している。
……兄としては、親友エドモンドならこの妹を託せる。しかも身分も申し分ない。私達とは敵対する派閥ではあるが、皇女が相手ならばクライスラー公爵も文句を言わないだろう。
そしてそれ以上何も言わない妹に、
「それはエドモンドの心だから、肌身離さず持っていてやってくれ。……いつかお前の心が彼に向く日が来るかもしれない」
私はそう言ってそのアメジストのペンダントを妹ヴァイオレットに持たせておいたのだ。
……その直後からだ。このヴォール帝国に激震が走ったのは。
まず祖母である女帝マリアンヌ陛下が病魔に倒れた。すぐに皇太子である父が国の安定の為に動く。……が……。
「なんと言ったのだ? ……父上が、どうされたと!?」
父の顔色が悪いのは祖母が倒れた為に心労が溜まっているのかと思って案じてはいた。しかし父は突然倒れ……、そのまま帰らぬ人となった。
突然の事に慌てる貴族達。
そして子である皇太子の死を知り、益々容態の悪くなる女帝マリアンヌ。
そんな中でも、兄と私と妹は『この3人で手を取り争いを起こさない』と誓い合っていた。
そして陛下の枕元に呼ばれた重臣たち。おそらくその場で祖母は新たなる後継者である皇太子を指名するのだろう。
……が、その後その重臣達からはなんの発表もなかった。兄側と自分側の派閥の両方が居たのに、なんの情報も入って来ない事に疑問を抱いたが……。
しかしそんな疑問をも払拭してしまう程、そこからの皇宮は荒れた。裏切りがどこにでも存在し暗殺騒ぎも珍しく無かった。
それは帝位争いの当事者である兄と私の所だけだと私達は思っていた。まさか、その魔の手が皇女ヴァイオレットの所に来ているなどとは全く考えてもいなかったのだ。
そして妹の宮に現れた暗殺者によって妹は宮からの脱出を余儀なくされ、その後安否不明となってしまったのだ。
……そして生涯、私は妹ヴァイオレットと会うことが出来なかった。
◇
久々に、当時の事を思い出していた皇帝ジークフリート。
……あの後。
ヴァイオレットという要を失った兄と私は、いつの間にかお互い不信感を持つようになった。そして祖母マリアンヌ陛下が身罷り、筆頭公爵家という強大な後ろ盾を持った兄が皇帝となった。
そして兄とも、その後深く関わる事はなかった。
「……であるからしまして、ヴァイオレット殿下はアラン コベール氏とコベール家の領地で慎ましくも仲睦まじくお暮らしだったそうでございます。お2人の間にお生まれになったレティシア様を、それは可愛がっておいでだったそうで……」
侍従の報告が続いていた。
皇宮を出ざるを得なくなり護衛も乳母も引き離されいなくなる中、ランゴーニュ王国の領事館に密かに駆け込んだというヴァイオレット。
そこで出会った『アラン コベール』。
私は侍従の話をいったん止め、ヴォール帝国とその周辺の地図を出させた。そしてコベール子爵家の領地を示させる。……近い。
「コベール子爵家の領地は我が帝国と一部繋がっているのだな。……そして、ここは……」
「左様でございますね。……ここにはヴォール帝国の保養地がございます。私も何度か行ったことがございますが、小さいながら自然豊かで美しい湖もあり隣国とも接している事から異文化も感じられる良き土地でございます」
……その保養地は、ヴァイオレットが幼い頃母上と共に行った場所だった。
「……そこは隣国からも人は来るのか」
静かに問いかける皇帝に侍従は頷く。
「はい。少しは見かけますね。少し帝都から離れております故にその異国情緒を味わいたいのか、帝国から訪れる人々が殆どだとは思いますが……。
実は我が息子は昆虫が大好きでして。この地はそういったモノもたくさん見られる場所なのでございます」
『保養地』『コベール子爵家の領地近く』『昆虫』
……そして、『アラン コベール』
ジークフリートは深く息を吐いた。
母上の話を聞いた子供の頃の私は、密かに母の従者に頼みその地でヴァイオレットが会ったという『アラン』という名の少年を探させた。
しかしその少年はたまにやって来るだけでその地の者ではなかったらしく、正体は掴めなかった。
もしも『アラン コベール』が、ヴァイオレットが幼い頃に婚約の約束をしたという少年『アラン』だったのだとしたら。
「ヴァイオレットは、幼い頃からの恋を実らせ幸せになったのか……」
そしてその後ヴァイオレットの娘であるレティシアとの茶会で、ジークフリートはその考えを話した。
レティシアはとても驚き……、「そうだったら凄く素敵です」と瞳を潤ませて言った。
……真実は分からない。
ただジークフリートはヴァイオレットの初恋は叶ったのだと信じたい、……そう強く思った。
ーーーーー
『ロジェ コベール子爵。ヴォール帝国に面する小さな領地を治める領主。代々領主一家は堅実な領地経営をしており、現在の子爵もその人柄は良く領民からも慕われて……』
皇帝ジークフリートは、姪レティシアの育ての親『コベール子爵家』の報告を受けていた。
どの方面からも、コベール子爵家は評判が良かった。子爵のその実直であろう人柄が窺える。
「この者がこれまでレティシアを守ってくれたのか。……そしてその弟が……ヴァイオレットの……」
ジークフリートはコベール子爵に深く感謝しつつ、たった1人の愛する妹を想う。不幸にも政争に巻き込まれたその妹をこの帝国から連れ出し……、夫となっていたというその男。ジークフリートはその弟を恩人と呼んでいいのかまだ分かりかねていた。
ジークフリートがそう言うと、報告をしている侍従は頷いた。
「……はい。私もコベール子爵を全くもって清廉潔白な素晴らしい人物とお見受けいたしました。
……そして、その弟君の名は『アラン コベール』。この方も非常に優秀な方で……」
「『アラン』……?」
侍従はその弟もいかに優秀で人徳のある人物であったかを話していたが、ジークフリートはその名を聞いて既視感を感じた。
『おにいさまっ! あのね、アランがね……』
不意に、ジークフリートは遠い日のヴァイオレットと過ごした日々を思い出していた。
◇
ジークフリートの母はシュナイダー公爵家出身で、クライスラー公爵家を始めとした令嬢達との婚約者争いに勝利し晴れて皇太子妃となった。
しかし1年経っても子供が出来ず、周囲の貴族達の強い勧めで皇太子はクライスラー公爵家の派閥であった侯爵家から側妃を娶り、その一年後には側妃に第一皇子が生まれた。
その時は側妃側が権力を持ちかけたが女帝マリアンヌが強く牽制した。そしてその2年後皇太子妃に待望の皇子ジークフリートが生まれたのである。
対立する妃2人だったが、皇太子妃に第二子が生まれた事で一気に皇太子妃側が優位になる。……それは、その皇女が『ヴォールのアメジスト』を持って生まれ、女帝マリアンヌから直々に『ヴァイオレット』と名をいただいたからである。
「おにいさま……。『ミーナ』が……」
皇帝の孫であり次代の後継者争いの真っ最中でもある我らの周りは幼い頃から穏やかとは言い難い環境だった。
「お前の大切な猫か……。ヤツら、皇女の猫にまで手を出すなんて……!」
小さな頃の我ら兄妹の周りには第二妃の派閥からの姑息な嫌がらせがあった。
こちらは正妃側なのだが、あちらは第一皇子であり更にヴォール帝国の筆頭公爵クライスラー家が後ろ盾となっていて油断のならない毎日だった。
本来好奇心旺盛だった妹ヴァイオレットが、周りに抑圧されどんどん物静かな子になっていった。
日毎怯え静かなになっていく娘を心配した両親は、陛下の勧めもあり皇妃の療養も兼ねて保養地にヴァイオレットを連れて行く事にした。ジークフリートも誘われたが、皇妃不在の間の側妃達の台頭を許さぬ為に父と残る事にした。
そして一月後、母と妹が帰って来た。
療養の地で側妃達に狙われぬ様、場所も期間も極秘の旅だった。
「おにーさまッ!」
馬車の前まで迎えに行ったジークフリートに、無邪気な笑顔で飛び付いて来たヴァイオレット。
……ああ、良かった。元気になったのだな。
ヴァイオレットを抱き締め安堵し息を吐いたジークフリート。その時肩の上が何やらモゾモゾした。
「……?」
不思議に思ったジークフリートがそこに手をやると……。
「ーーーーッ!!」
そこには大きな角を持った昆虫がいた。
「ふふ。おにーさま! 可愛いでしょう? 男の子はみんな虫が好きだって、アランから聞いたの!」
…………『アラン』とは、誰だ?
満面の笑顔でそう言ったヴァイオレット。ジークフリートは顔が若干ひきつった。
世の中の子供達は知らないが、少なくとも王都で暮らす、しかも貴族の子弟で『虫が好き』な者は余り……いや、結構な確率で居ないのではないか。
しかし、この帝城で小さくなってしまっていたヴァイオレットがこうして元気になったのだ。今はコレに付き合ってあげる方がいいだろう。
「……そうか。ありがとう、ヴァイオレット」
そう言って静かに笑って見せたジークフリートだったが。
その後帝城に住む誰もがヴァイオレットのイタズラに悩まされる事になろうとは、この時誰も考えもしなかったのだ。
そしてそれはもちろん側妃側の人間も例外ではなく。……特に、男の子である第一皇子にもヴァイオレットは容赦無くイタズラを仕掛けたのである。
本来優しい兄はまだ幼い妹皇女を叱るに叱れず、しかも自分の周囲の人間は妹の敵であるとよく分かっていた為に、考えあぐねてジークフリートに相談に来た。
それをきっかけに、兄弟は仲良くなる事が出来たのだ。
その兄と2人で思い切ってヴァイオレットに注意をした事がある。その時にも彼女は言っていたのだ。
「……だって、男の子は虫が好きって、アランが言ってたんだもの! それに、お兄様達も笑顔になったわ!」
そう言うヴァイオレットに、私達は思わず苦笑した。……確かに、この事がきっかけで本来敵対するはずだった私達兄弟は心を通わす事になった。今では母やその実家の者達に何を言われてもこの兄を憎むことなど出来ようはずがない。
それは兄も同じ事を思ったようで、私達3人はなんとも言えず笑い合ったのだ。
「それはそうと……。ヴァイオレット、その『アラン』というのは一体……?」
兄がヴァイオレットに尋ねた。ことある毎に妹の口から飛び出す『アラン』という人物。
兄もずっと気になっていたのだろう。
「アラン? アランは私のお友達よ! 大きくなったら婚約するの!」
無邪気な妹の言葉に兄と私は驚愕した。
「……ヴァイオレット。お友達は分かるが、婚約というものはいずれ『結婚』をする相手なのだよ。ただのお友達とは『婚約』などしないんだよ」
兄はヴァイオレットに諭すように語りかける。もちろん私も。
「その『アラン』とは例の保養地で友達になったという少年だろう? 残念だが、お前がもうあの地に行く事はない。別々に生きるお前達は別々の人生を歩むのだ」
勿論私は妹が保養地から帰って来てすぐに、母にヴァイオレットの変貌の理由を尋ねた。
母からは、その地の子供達と仲良くなり元気になっていったのだと。特に子供達のリーダー格『アラン』という少年とは実の兄妹のように仲が良くなり、帰りも離れるのを泣いて嫌がる程だったという。
その話を聞いた時は実の兄の私を差し置いてと少しヤキモチを妬いたものだったが……。まさか、婚約の約束を?
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その後少し大人しくなったと思われた妹だったが、完成したばかりの迷路庭園を自慢したいクライスラー公爵家に屋敷に招待され、同年代の嫡男エドモンドと関わった頃からまた妹のお転婆は復活した。
エドモンド クライスラー公爵令息は私と同い年で高位貴族の子弟の集まりで何度か会った事があるが、まるで感情のない少年だった。その彼にもヴァイオレットはイタズラを仕掛けたという。
そして次に高位貴族の集まりで私は久々にエドモンドと会った。彼の、ヴァイオレットを見る瞳にだけ感情がこもっているような気がしたのは、きっと気のせいではない。
そんなエドモンドもやはり妹と会ってから変わり、私とも親友と呼べる程の仲となった。
数年後、私達は帝立学園に入学した。周囲の大人達は次代の皇太子争いを続けていたが、当事者である兄と私の仲はヴァイオレットと共に良好だった。
2年経ちヴァイオレットも学園に入り、私達は学園生活を謳歌していた。
そうして卒業間近になり私は親友エドモンドから相談を受けた。……ヴァイオレットを愛している、と。
正直あのお転婆過ぎる妹を妻に欲しいだなどと、何処か良いのだか私にはサッパリ分からなかったが彼は真剣だった。
卒業間近でヴァイオレットと学園で共にいられる時間もあと僅か、エドモンドは益々思いを募らせたようだった。
「我が公爵家の鉱山でとても良いアメジストが採れたのです。……それをヴァイオレット殿下にお渡ししようと思っています」
ある日エドモンドにそう打ち明けられた。
私は妹と親友の仲を静かに見守る事にした。
「……お兄様。実はエドモンドからこれを渡されてしまったのです。何度もいただけないとお断りしたのですけれど……」
そしてヴァイオレットからも相談を受ける。
「そうか。……どうして受け取れないのだ?」
「……私の心には想う方がいるのです。エドモンドの心を受け取れないのに……。コレを、お兄様から彼に返してはいただけませんか?」
どうやらエドモンドはほぼ無理矢理にこのアメジストのペンダントをヴァイオレットに渡したらしい。
「想う方? それはいったい……」
そう問うと、彼女は静かにその深く美しい紫の瞳を伏せた。……もしや、まだアランとやらの事を想っているのか?
妹は黙っていれば深層の美しき令嬢。彼女の本質を知らぬ者は皆この美しき皇女に惹かれる。……しかしその本質を知って尚エドモンドはヴァイオレットを愛している。
……兄としては、親友エドモンドならこの妹を託せる。しかも身分も申し分ない。私達とは敵対する派閥ではあるが、皇女が相手ならばクライスラー公爵も文句を言わないだろう。
そしてそれ以上何も言わない妹に、
「それはエドモンドの心だから、肌身離さず持っていてやってくれ。……いつかお前の心が彼に向く日が来るかもしれない」
私はそう言ってそのアメジストのペンダントを妹ヴァイオレットに持たせておいたのだ。
……その直後からだ。このヴォール帝国に激震が走ったのは。
まず祖母である女帝マリアンヌ陛下が病魔に倒れた。すぐに皇太子である父が国の安定の為に動く。……が……。
「なんと言ったのだ? ……父上が、どうされたと!?」
父の顔色が悪いのは祖母が倒れた為に心労が溜まっているのかと思って案じてはいた。しかし父は突然倒れ……、そのまま帰らぬ人となった。
突然の事に慌てる貴族達。
そして子である皇太子の死を知り、益々容態の悪くなる女帝マリアンヌ。
そんな中でも、兄と私と妹は『この3人で手を取り争いを起こさない』と誓い合っていた。
そして陛下の枕元に呼ばれた重臣たち。おそらくその場で祖母は新たなる後継者である皇太子を指名するのだろう。
……が、その後その重臣達からはなんの発表もなかった。兄側と自分側の派閥の両方が居たのに、なんの情報も入って来ない事に疑問を抱いたが……。
しかしそんな疑問をも払拭してしまう程、そこからの皇宮は荒れた。裏切りがどこにでも存在し暗殺騒ぎも珍しく無かった。
それは帝位争いの当事者である兄と私の所だけだと私達は思っていた。まさか、その魔の手が皇女ヴァイオレットの所に来ているなどとは全く考えてもいなかったのだ。
そして妹の宮に現れた暗殺者によって妹は宮からの脱出を余儀なくされ、その後安否不明となってしまったのだ。
……そして生涯、私は妹ヴァイオレットと会うことが出来なかった。
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久々に、当時の事を思い出していた皇帝ジークフリート。
……あの後。
ヴァイオレットという要を失った兄と私は、いつの間にかお互い不信感を持つようになった。そして祖母マリアンヌ陛下が身罷り、筆頭公爵家という強大な後ろ盾を持った兄が皇帝となった。
そして兄とも、その後深く関わる事はなかった。
「……であるからしまして、ヴァイオレット殿下はアラン コベール氏とコベール家の領地で慎ましくも仲睦まじくお暮らしだったそうでございます。お2人の間にお生まれになったレティシア様を、それは可愛がっておいでだったそうで……」
侍従の報告が続いていた。
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そこで出会った『アラン コベール』。
私は侍従の話をいったん止め、ヴォール帝国とその周辺の地図を出させた。そしてコベール子爵家の領地を示させる。……近い。
「コベール子爵家の領地は我が帝国と一部繋がっているのだな。……そして、ここは……」
「左様でございますね。……ここにはヴォール帝国の保養地がございます。私も何度か行ったことがございますが、小さいながら自然豊かで美しい湖もあり隣国とも接している事から異文化も感じられる良き土地でございます」
……その保養地は、ヴァイオレットが幼い頃母上と共に行った場所だった。
「……そこは隣国からも人は来るのか」
静かに問いかける皇帝に侍従は頷く。
「はい。少しは見かけますね。少し帝都から離れております故にその異国情緒を味わいたいのか、帝国から訪れる人々が殆どだとは思いますが……。
実は我が息子は昆虫が大好きでして。この地はそういったモノもたくさん見られる場所なのでございます」
『保養地』『コベール子爵家の領地近く』『昆虫』
……そして、『アラン コベール』
ジークフリートは深く息を吐いた。
母上の話を聞いた子供の頃の私は、密かに母の従者に頼みその地でヴァイオレットが会ったという『アラン』という名の少年を探させた。
しかしその少年はたまにやって来るだけでその地の者ではなかったらしく、正体は掴めなかった。
もしも『アラン コベール』が、ヴァイオレットが幼い頃に婚約の約束をしたという少年『アラン』だったのだとしたら。
「ヴァイオレットは、幼い頃からの恋を実らせ幸せになったのか……」
そしてその後ヴァイオレットの娘であるレティシアとの茶会で、ジークフリートはその考えを話した。
レティシアはとても驚き……、「そうだったら凄く素敵です」と瞳を潤ませて言った。
……真実は分からない。
ただジークフリートはヴァイオレットの初恋は叶ったのだと信じたい、……そう強く思った。
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ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
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