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そして王国へ
リオネルの追及 2
しおりを挟む……お父様が、収賄罪……!?
レティシアは急展開なこの流れに驚き息を呑んだ。
レティシアがばっと父を見ると……、微笑んでいた。
そして軽く一歩前に進み出て王国の貴族達に向かって話し出す。
「勿論、我が帝国でも収賄罪はありますよ。しかし我が公爵家に罪をなすりつけようとは、犯罪者の考える事には恐れ入る。誰かを道連れにしたいのでしょうが、あなた方と共にされる謂れはありません」
父は、そうきっぱり言い切った。
レティシアはホッとする。が、それを証明する事が出来るのだろうか? 妙な疑惑が残るのは嫌だとモヤモヤする。
「ッ! 言い逃れをなさるのか! 王太后様が輿入れされてから、我らはずっとクライスラー公爵家に一定の金額を払い続けていたのだ! 年に一度、その証拠もあるはずだ!」
フランドル公爵派の貴族達はそう叫んだ。
しかし父クライスラー公爵はそれを落ち着いた様子で聞き、ふむと考える素振りをした。
「ああ、あなた方が言っているのは我がクライスラー公爵家令嬢であった王太后様を不当に扱っている事への慰謝料として払っていただいているお金のことですか。我が父公爵の時に取り決めたという……」
王太后がこの王国に嫁いで来たのは現在のクライスラー公爵が生まれるより前。現公爵が関わっていない事は明らかだ。そして、王太后を不当に扱った事の慰謝料? 大広間にいる殆どの者達はどういう事だと公爵と宰相を見比べた。
宰相達はクライスラー公爵がやっとそれを認めたかと、勢いづいた。
「……そうだ! お前の父が我らの先代からむしり取っていた金だ! 知らないとは言わせないぞ!」
「むしり取るなどと……。それはあなた方の先代が我が公爵家の娘であった王太后が王国でお辛い立場に立たされている事の謝罪をされ、せめてもの償いにと渡されているものだと聞いておりますよ。勿論、我が帝国にその届けはしておりますし何よりその慰謝料は……」
そこでクライスラー公爵はチラと従兄弟である国王を見た。
「その慰謝料は全てランゴーニュ王家に、……王太后様への生活費にと充てていただく為お渡ししています」
ザワッ!!
一瞬大広間内はどよめき、次に全ての人々の視線はランゴーニュ王国国王に向いた。
国王は重々しく口を開く。
「……確かに、我が王家はクライスラー公爵から王太后にとその慰謝料を受け取っている。私も父王より、国内の貴族達が辛い立場に置かれている王太后の実家であるクライスラー公爵家に償いの意味で幾らかを渡し、その金額を更に増額して王太后に生活費として支払われていると聞いている」
……父王は王太后が実家から多額の生活費を渡されこれ見よがしに贅沢な暮らしをしている事を苦々しく思っていたようだが。やはり、クライスラー公爵は先代からかなりのやり手だ。後で突かれて困るような事はしない。そう国王はある意味感心した。
「分かっていただけましたか? 国王陛下の仰せの通りですよ。我がクライスラー公爵家は王国の貴族達が申し訳ないと言ってきかないので、それを仮に受け取りその被害者本人である王太后に渡していただけの事」
クライスラー公爵はそう言って周りを見、最後にフランドル公爵派の貴族に視線を向けた。
「……その当時は王太后への仕打ちがこれ程の事とは知らず、父は妹である王太后には『仮にも一国の王妃となったのだから多少の事は耐えるように』と言い聞かせたと聞きます。王太后もプライドの高い方ですから、そのような話を出来なかったのでしょう。……この度私は真実を知り、大変胸を痛めております」
――勿論、父である前公爵が妹である王太后にそのような思いやりを持っていたはずがない。父は元より、『世界の食糧庫』と呼ばれるこのランゴーニュ王国の利権が欲しかった。
公爵家は元より裕福であったし、お金が欲しかった訳ではない。帝国で王国に関する事はクライスラー公爵家を通すなど、公爵家の値打ちや権威を上げる為に王国を思い通りに動かす『力』が必要だっただけ。
兄公爵は妹王太后を、ただ家の為に利用しただけだったのだ。
そんな父の事をよく知っていたクライスラー公爵だったが、今は胸に手を当て辛そうに目を閉じて見せた。美形がそれをすると、まるで一枚の絵画のようだった。
それを見ていたゼーベック侯爵はクライスラー公爵が上手く言い逃れをしたなと思ったが、今はレティシアを守る為の共同戦線を張る仲間であるので『親子揃って油断のならぬお方よな』と内心苦笑した。
そしてそのレティシアも。
……それにしてもお父様、演技派ですわね。事情を全く知らない方が聞いたならお涙頂戴の名演技ですわ。
レティシアは父が何やら大袈裟にしていると感じてそう思った。
……けれどお父様は、普段の口振りからどちらかと言うと叔母である王太后様の事をあまりお好きでないようでしたものね……。
「なッ……、そ……そのような……そのような事ッ!! そうだ、使い道が王太后の生活費だからどうだというのだ! 金を受け取っていた事に違いはないッ!」
宰相達はそう叫んだ。
……しかし、それはクライスラー公爵家には何の瑕疵にも落ち度にもならない事は明らかで、周囲の人々の視線に彼らは非常に居心地の悪い気持ちになった。
「……全く違うであろう。その方らの先代は『慰謝料』を渡し、クライスラー公爵家はそれを受け取り各機関に受け取った旨の届けをし我がランゴーニュ王国の王家へ正式に渡していたのだから。しかも最終的にその被害者である王太后陛下にそれは渡っている。……何の問題がある?」
王国の老ランベール公爵はそう言って断じた。
宰相達は自分達でもその言い分がおかしな事は分かってきたのだろう。彼らはこの王国の長老である公爵のその言葉にそれ以上はぐうの音も出なかった。
そして老ランベール公爵はランゴーニュ王国国王を見、国王は頷く。
「陛下。これは由々しき事態でございます。我が王国の貴族が我が国の利権を狙い様々な罪を犯していた事も大変な問題ではございますが、しかし何より彼らは我らの宗主国とも言うべきヴォール帝国からいただいた王太后、そして今また皇帝陛下の姪であるレティシア様に礼を失した行動をしていた事。……帝国の公爵閣下に冤罪を被せようとした事。全て国際問題ともなる重い罪でございます」
この王国の長老ランベール公爵のその進言に、国王も大きく頷いた。
「宰相以下、前フランドル公爵派閥の貴族達よ。王太后への件はまた後々詳しく調べなければならぬだろうが、前フランドル公爵令嬢の『予言』が出された時から彼らに味方をし世間を騒がせた事、今回のレティシア様への失礼、王国内での利権を狙った様々な企み、そして何より今この場で帝国の公爵閣下にかけた冤罪などは情状酌量の余地もない。
重き罰を与えられると覚悟せよ。……牢の中でじっくりと考えるがよい。衛兵、連れてゆけ」
そして宰相達前フランドル公爵派の貴族達は牢へと連れられて行った。
リオネル王子は彼らの罪がやっと認定されほっとしたが、問題はここからだ。今罪人となったとはいえ、我が国の元貴族が大帝国である公爵に冤罪を被せようとしたとあっては、あのフランドル公爵令嬢の『予言』の時のような国内の問題では済まない。
王国不利の状態で国際問題となれば、こちらに完全に不平等な条約を結ばせられる可能性もある。
そして何より、レティシアとの未来を守れなくなる――!
リオネルは緊張しながらクライスラー公爵を見た。
ーーーーー
ゼーベック侯爵は今回クライスラー公爵とレティシアを守る為とはいえ共同戦線を組んだ為に、彼を憎めなくなってしまいます。これから後帝国でゼーベック侯爵はクライスラー公爵に絡むものの、本気でやりあうつもりは無くなりました。そしてそれはクライスラー公爵も同じだったようです。
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